4.ある師弟の対峙

    

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「背番号00、山崎浩司」
抑揚の無い声で名前が読み上げられる。
新井は横の同級生をそっと見た。目が合う。

(あいつら二人は球団側の言いなりになってるのかな)
(知らねえよ。でももうすぐ分かるだろ)
新井は横山の意味することが分からず、首を捻った。
(ほら、)
横山の視線の先を辿って、新井はようやく理解した。

「…背番号1、前田智徳」
相変わらず抑揚の無い声で松本が名前を読み上げた。
そして室内の注目が松本と前田に注がれる。

「…奉文」
静寂のなかに前田の声が響く。
「…何スか、前田さん」
松本の表情は変わらない。

田村から武器等が入っているデイパックを受け取って、前田は松本と真正面から対峙した。
行動は突然だった。
前田が松本の頬を殴ったのである。体格差があるとはいえ、松本の体が傾ぐ。
田村が機関銃を前田に向けた。

「撃つな」
体を立て直した松本が田村を制した。

「気が済みましたか、俺を殴って」
「……」
「何ならもう一発殴りますか?……ただし」
松本がゆっくりと銃口を前田に向けた。

「……出来れば、の話ですが」

前田は黙って松本を睨んでいたが、舌打ちすると部屋の出口へと向かった。

新井は目の前の出来事が信じられなかった。恐らくそれは選手全員の思いだったに違いない。

目の前にいるのは、以前のチームメイトではない。血の通わぬ別の「何か」だ。

(まさか奉文が前田さんに…)
(やる気みたいだな、球団も)
新井の目には、部屋を出るときの何となく寂しそうな背番号1が焼き付いていた。

「背番号2、東出輝裕」
名前を呼ばれた本人、東出輝裕(2)はデイパックを受け取ると小走りに部屋を出た。

東出にはある確信があった。
恐らく、前田はあまり遠くには行っていないはずだという確信が。

そしてその確信は的を得ていた。前田智徳は建物のすぐ外に佇んでいたのである。
秋風が木々を揺らす中にただ一人。

「前田さん」
「おう、東出か」

予想外に明るい前田の声に東出は少し、ほっとした。

「あの…」
「撃たんかったな」
「え?」
「奉文、撃たんかったな」

確かにそうだった。いつでも引き金を引ける状況で、松本は引き金を引かなかった。

(でも)
東出は思った。
(前田さん、何ていうか、ロマンチックすぎやしませんか)

前田は引き金を引かなかったことを理由に、松本に希望を見出だしたいのだろう。
しかし東出の考えは違った。

(要するにパフォーマンス、かな)
いつでも殺せるぞ、殺し合いは始まっているんだぞ、という。
(殺さなかったのは前田さんが生存者の有力候補だからだ)
だけど。

(前田さんが信じてるなら、それも、まあ、いいでしょう)

「前田さん、僕そろそろ行きます」
「何?一緒に行かんのか」
「色々確かめたいことがありますし、やらなきゃいけないこともあると思うんです」
「…そうか」

「なあチビ」
立ち去ろうとする東出に前田が声をかけた。
「お前、何を考えとる?」

「……ただもう一度野球がしたい。それだけです」
「その為にお前は人を殺せるのか?」
「……さあ、どうでしょうね」

前田はそれ以上追及しなかった。
はぐらかしの言葉を残して、背番号2が夜の闇に消えるのをただ見ていた。
そしてそれを見届けた背番号1もまた、暗闇へと溶けるようにして消えていった。

【生存者残り41人】


リレー版 Written by リレー開始 ◆WX10dB5Sm2
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