8.それでも××××××

    

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「この島、本当に人なんて住んでたのか?」
「ジャングルと言っても過言じゃ……あー、それは言い過ぎか」
草木を掻き分けて道なき道を進んでいく1つの影があった。
福井敬治(背番号38)はそんな事をぼやきながらも
彼らしからぬ真剣な表情で今後の事について考えていた。
ああ、あれだ、自分は年俸1000円だの何だの言われて
巨人から広島東洋カープに移籍したいわば外様な訳だ。
それでも球団の雰囲気には意外なくらいにすんなり馴染めたし
同い年の新井も嶋も小山田もびっくりする程気さくな奴等で、すぐに意気投合した。
ペナントの順位はあれだったけれども、それでも
広島東洋カープという球団が持つ独特の雰囲気は好きだった。
(なんでこうなっちゃったんだろうな、オーナー様は何をお考えなんだ?)
「誰かいねーかなぁ」
誰かに会いたい、とはいってもそれは誰でもいい訳じゃない、『信頼できる』誰かに会いたい。
例えばあいつらは誰彼構わず声をかけて皆を集めようとするだろう。
すこぶる人の良さそうな笑みを浮かべた3人の顔が容易に想像出来た。
ふ、と福井は苦笑したが、すぐに真顔に戻ると。
それは別にいい、それがあいつらの良い所だと思う。
選手、仲間全員の事を信じられるっていうのは凄い事だ、でも、俺は違う。
広島東洋カープに来てからまだ1年しか経っていない俺が
仲がいい奴ならともかく選手全員の事を信じられるか?答えはノーだ。
「とは言っても……」
それは逆についても言えることであった。
「もしかしなくても俺、誰にも信じてもらえないかもな」
あの3人だって現状自分の事を信じてくれるのか疑わしい。
こんな状況下、何も保証されている事などないのだから。
福井はそこで一瞬歩みを止めた後、やれやれという風に首を振ってまた歩き出した。
「ま、俺もそうだし、例えそうだったとしてもしょうがないか」
その声音はいつもの彼と全く遜色の無いもので
声だけを聞いた者ならば何も疑問には思わなかっただろうし
福井本人すら別段何の感慨も抱かなかったのだが
自身が心なし寂しそうな表情を浮かべているという事に福井は気づいていなかった。

新井、嶋、小山田。
とりあえずでも信頼出来る奴に会える確証が無い以上
下手に人探しをするのは得策じゃない。
「誰かに会いたい、でも会いたくない、か、矛盾しまくってんな俺……」
それでもそう考えた俺は、幸か不幸か今までは誰にも会わなかった、
十数分前に小さな丘を通りかかるまでは。
「怖いなぁ、あれ、本当に誰がやったもんやら」
大きな木が生えた丘の上で、眠るように死んでいた男の顔を思い出し福井は身震いした。
木の幹にもたれ掛かかって、まるで眠っているかの様に彼はそこにいた。
もしもそのユニフォームが血に塗れてさえいなかったら
本当に眠っているだけだと錯覚してしまいそうなくらいに極々普通にそこにいた。
傍らには手のつけられていないザックがあったが
どうにも持っていく気にはなれずにそのままにしておいた。
後々の事を考えるとザックの中身だけでも頂くべきだったか?
さしずめ墓場で屍の腐肉を貪るハイエナの様に。
(……いや、これで良かったんだよな)

「怖いなぁ」
そう呟く福井の顔には、怖がっているというよりも寧ろ、何かを諦めた様な感が漂っていた。
あいつは誰にやられたんだろう、何を思って死んでいったんだろう
馬鹿が死ななきゃ治らないのと同様に、そんなのは
自分も同じ状況に置かれない限りわからないんだろうが、それでもただ気になった。
俺よりも長い年数一緒にやってる球団の仲間に殺された気持ちはどんなもんなんだろう。
例の3人じゃなくとも可能性はある。
オーナー側についていようがいまいが、今は誰だって人殺しに成りうる状況なんだから。
(これの嫌な所は仲間同士で殺しあうっていうとこだ)
福井は草の中に埋もれるようにしてあった石を蹴った。
石は暗い暗い夜空を弧を描くように飛んでいった。
「……物を作るのは大変でも壊すのは簡単」
ほんの少しひびをいれるだけで徐々に崩れていくんだ、まるでガラスの様に。
今まで築いた関係性も信頼関係も全部が全部壊れていく。
むかつくけど、多分『裏切り者』とやらがいなかったとしても遅かれ早かれ、な。
いっそ生存者が残り3人になるまでどこかに隠れているというのもいいかもしれない。
―――ああ、俺は、どうすればいい?

「……お?」
ふいに拓けた場所へと出た。
「やっと落ち着いて休憩出来るな」
眼前には、周りを森でぐるりと囲われたテニスコートが2面、その存在を主張していた。
昔は綺麗に整備されていたんだろうそのコートも、
今は見る影もなく雑草が生え放題となっていた。
福井はコート内の比較的草の生えていない場所にザックを下ろすと
傍らにある石造りの水飲み場へふらりと赴き、その蛇口を捻った。
勢いよく掌を濡らす水はとても冷たかった。
それを両手ですくって夢中で飲んだ、喉を潤す冷えた水は
煮詰まっていた福井の思考回路すら緩和してくれる様だった。
「ふー、生き返った」
濡れた口元をユニフォームの袖で拭うと
重苦しかった気分も少しは良くなったようだった。
「さてと、今まで適当に進んで来たけど……ここどこだ?」
ザックのあるコート上まで戻り、地図を出そうとしゃがみ込んだその時。

「G-7だよ」

ふいに後ろから声が聞こえた時は心臓が喉から飛び出る程に驚いた。
はじかれた様に後ろを振り向くと、そこには近寄りがたい雰囲気と評される事が多い彼が立っていた。

【残り48人】


Written by 301 ◆CChv1OaOeU
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