10.H・ERO≠HERO?

    

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「うわぁ、もうすぐ冬だねぇ」
誰もいない部屋の中に空しく声はこだました。

窓の外を眺めると、街はまだ10月半ばだというのにも関わらず
色とりどりのイルミネーションで優美に飾られていた。
この分だと街角にもうすぐ大きなクリスマスツリーが立つんじゃないだろうか。
サンタクロースの装いをしたクリスマスケーキの販売員ももうすぐ現れるだろう。
まだ10月半ばだというのに。
「……まあいいや、楽しみだなぁDVD」
それでも、街がどうなっていようが今の自分には全く関係がない。
そう思い男は勢いよくカーテンを閉めた。
いそいそとデッキにDVDをセットする。
ブラウン管に映ったのは雪の様に白い脚だった。
画面上に映し出された薄暗い部屋の中に響く粘着質な音が、淫猥な雰囲気を醸し出していた。
男はごくりと喉を鳴らした。
内容の薄いお決まりの台詞が画面上を流れるように表示される。
女の身体同様真白い布の上で繰り広げられる痴態の数々。
だがそれは男の琴線を震わせるには至らなかった。
「……あー、なんだろうなぁ、なんか集中出来ないや」
男は首を振り振り、カーテンをもう一度開け街を眺めた。
夜の明けない都市東京は、他のどことも違う一種独特の存在感を放っている。
自分も誰かにそう思ってもらえる様な、そんな存在になりたかった時があった。
でもそれはそれ過去のこと、今はもう何もかもがどうでも良かった。
一体自分はどこで人生を間違えてしまったのか。
(何急に感傷に浸っちゃってるんだろ、僕は)
秋季キャンプももうすぐ始まるのだから。
「頑張らないと駄目なんだけどね」
正直なところ、来季は勝負の年だ。
今季限りでクビにされるんじゃないかと冷や冷やしていた男にとっては
来季はラストチャンスと言っても過言ではなかった。
あと1本さえ出れば、何かが変わりそうな気がするんだけどな。
男は未だ中途半端な数で止まっている自身の本塁打数の事を思った。
幻の350本目のアーチ、屋内ドーム球場ではなく屋外球場なら350本目は入ってた
どの解説者も異口同音に答えたその言葉。
『身から出た錆だ』暗にそう言われている気がした。
「野球の神様に呪われてるのかな」
それを声に出して呟いてみてから、男ははたと知人の怖い鬼を思い出した。
(みんな元気かな)
何の脈絡もなく、男はふと、そう思った。
野村さんは惜しまれながらも今年に引退してしまったが、来季になれば嫌でも顔を合わせる面々だ。
その為にも原新監督の下で必死に頑張る、か。
あの若手大好き人間が果たして今の自分を使ってくれるのだろうか。

「……頭痛くなってきたよ」

興ざめした男は、これからが本番だというのも関わらずデッキの電源を落とした。
それと同時にブラウン管からは、艶かしく誘うように動く白い身体が消えた。
「あーあ、ナンパは失敗しちゃうし、僕ってなんて不幸なんだろう」
頬は赤く腫れ上がり未だじんじんと痛みを発していた。
丁度一時間ほど前に、街頭で若い女の子に声をかけてみたところ
痴漢と間違われて殴られた時の打撲傷だった、なんだか無性に物悲しかった。
玄関の方から激しい音が聞こえてきたのは
江藤智がぶつくさ文句を言いながらDVDを片付けて、すぐの事だった。

【残り48人】



Written by 301 ◆CChv1OaOeU
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