8.絶望のち、希望

    

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走った。どこまでも。呼吸なんて忘れて、ただ走り続けた。
暗いとか、寒いとか、そんな事はどうでもいいぐらい急かされるまま走った。
「も、限界…っ」
忘れていた呼吸を思い出すと同時に呟きが漏れる。
スピードを緩め完全に立ち止り、膝に手をついて浅い呼吸を繰り返す。
『3分後に禁止区域になる』
自分を急かしていたのはその言葉。
ちらっと腕時計に目をやると3分から十数秒過ぎたところだった。
そっと、本当に触れるか触れないか微妙な程そっと。…指先の感触に息を吐く。
爆発は起きなかった。どこまでが禁止区域だったのかは分からないが、
3分をとうに過ぎても無事なとこを見ると禁止区域は脱したらしい。
―――まあ、爆発が起きていたなら、今現在こんな風に考える事もないだろうが。
とりあえず第一の関門は突破した、というところだろうか。

安堵感からか、嶋重宜(55)はようやく自分の身の回りに気を配り始めた。
真っ直ぐ前だけを見て走っていたものだから、周りの景色なんて目に入らなかった。

もしかしたら誰かとすれ違ったかもしれない。
もしかしたら誰か声をかけたかもしれない。
もしかしたら誰かに攻撃されていたかもしれない……。
今にして思えば何て無防備だったんだろう。

マイナス思考へと移りそうになり、我に戻ってその考えを自ら否定する。
自分の悪い癖だ。出発前、あれ程仲間を信じようと決心したのに。
「絶対に、全員生きて帰る」
絶対に。
自分に言い聞かせるように呟き、頭の中でも何度も連呼させる。
この言葉はこれから先の自分の未来の行方を暗示している。
その確信を得たのは、出発を待っている時だった。

全員が悲愴な表情を浮かべながら出発して行く中、嶋は誰にも声を掛ける事が
出来無かった。そんな余裕など無かった。
これからどうすればいいのか?自分はどうするべきなのか?考えれば考える程、
絶望という暗闇が足の先からちょうど首輪の辺りまで覆い尽くし、声も出せ無かった。
「背番号23、横山竜士」
そんな中、数いる同級生の中でも一番付き合いが古い横山竜士(23)の出発となった。
他の選手の時と同様、ただ歯痒さだけがじんじんする中、
出て行こうとする背中を見守るしか無いと思われた、その時―――
「こんなゲームぶっ壊して、全員で生きて帰ろう!お前ら!待ってるからな!!」
振り返り、ハッキリとそう宣言した横山と視線が合った。
口には出せなかったものの、無意識に頷いていた。
何人が自分の様に頷いたかは分からない。
しかし横山はいつもマウンドで見せる強気の、余裕を感じさせる笑みを浮かべると出て行った。

―――こんなふざけたゲームを
全身が絶望に包まれそうになっていた時、一つの希望ともいえる目標が出来た。
―――ぶっ壊して
その希望はすんなりと、全身へと、それこそ頭のてっぺんを突き破って行った。
―――全員で、生きて帰る?―――

しかし出来るだろうか?そんな事が。現に1人死んでる。
木村一喜(27)だった肉塊をちらっと見て、絶望はゆっくりと、また足元から這い上がって
来ようとしていた。この時まではマイナスの感情の方が遥かに勝っていた。
中々確信を持てずに俯いた瞬間、再び声が聞こえた。
「俺も待ってるけぇ!後で落ち合おう!誰も死ぬな!気持ちを持て!それから…」
「早くしろ!」
顔を上げると、横山と同様残りの者に声を掛ける新井貴浩(25)に、急かす様に田村が声を上げていた。
「わかっとる!それから、絶対に、全員で生きて帰る!絶対の絶対に!!」
二番煎じだったが、新井も力強く宣言し教室を出て行った。

「……全員で、生きて……帰る。全員で生きて帰る。絶対に」
今度は口に出してみた。
まじないの様に呟く。何度も何度も。そのイメージがはっきりと形作るまで。
もう周囲なんて目に入らなかった。無造作に置かれている木村一喜の死体も、
淡々と仕事をこなしているだけの奉文と田村も。
傍からみたら見たら狂ったと思われたかも知れない。
しかしその逆だ。呟くことでどこか非現実的な希望は現実的に理想へ。理想は目標へと変わってくる。
……変わる。いや、掴み取った。
それで絶望は完全に無くなり、わずかな希望に過ぎなかったものは確信へと変化した。
根拠など無い。しかしこんな状況の中でも、こんなに心強い仲間がいるじゃないか。
自分はただぼんやりとしているだけだったのに、あの二人はそこに居た者
―――少なくとも自分には希望を残していってくれた。
だから後は信じるのみだ。こんなふざけたゲームに乗る奴なんか、絶対にいやしない、と。

多少の合う・合わないはあるが、選手全員気の知れた仲間だ。
野球に関しては厳しい面を持つ先輩達も、普段は気さくな人達ばかりで信頼できる。
今まで苦い経験を味わってきた自分に、後輩達は色々と相談してくることもあった。
そして何よりも横山と新井の二人に加え、他の同級生達。
切磋琢磨しながら私事でも、長年一緒に過ごしてきた。
いじられ役の新井にさえいじられるが、今期一段と成長したと思える小山田。
まだ一年経たないというのにすっかりチームのムードメーカーになった福井。
そして今は同じポジションを争う事になった森笠。
誰もが自分にとって欠かせない、大事な仲間だ。
だから、俺が信じなければ誰も俺を信じてくれない。
もう二度と人を疑う事などしない……!
思考は完全にプラスへと移ったようだ。

その目標を実行していく為に頭の中を整理しなければ。とりあえず落ち着ける場所を…と辺りを見渡す。
斜め左に大きい岩があり、デイバッグを置くとそこに腰掛けた。
咽喉が渇いている事に気付きデイバッグを開ける。水…と手を突っ込んだところで手を止めた。
「……なんじゃこりゃ」
その声と共に手にとってみる。
大きなハリセン。どの角度から見てもただのハリセン。
一番右端にはなんの洒落かは知らんが、『広島名物ハリセン』と書かれている。
まさかと思い更に探ってみるがそれらしき物は見当たらない。
「これが、俺の武器……?」
しばらく呆気にとられ、左手を軽く叩いてみる。パンッ!と小気味良い音が辺りに響いた。
ふと、これで頭を叩かれている横山と新井と福井の3人を想像して吹き出した。
「これでコントでもやれってか?」
これじゃあどっちみち人なんて殺せない。うん。俺にはこれでいいんだ。
出発の順番と時間差から、横山と新井は一緒に行動してるかもしれない。
見つけたら、真っ先にあいつらに一発ずつこれをお見舞いしてやろう。

中々収まらない笑い声を上げ、目の端に浮かんだ涙を拭う嶋の背後から人影が忍び寄る。
それに気付かない、嶋の上下に揺れる肩に、ぽんっと手が置かれた。

【生存者残り41人】


リレー版 Written by ◆9LMK673B2E
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