11.月に吠える

    
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枕元の時計に目をやった。
まだ、灯りを消してからそう時間は経っていない。
そのため眠りが浅かったのだろう。彼女はその異変に気がついた。
― …ン…ワンッ… ―
声は窓の外から。
(どうして、こんな時間に?)

広島県が温暖といっても、それは瀬戸内の印象でしかない。
中国山地を背にした北広島町では、この季節は夜はもうだいぶ冷え込みが厳しい。
上着を羽織って外へ出れば、
「どうしたの、ミッキー?」
彼女の家族が、じっと空を見詰めたまま鳴き声をあげていた。

もともとミッキー(111)の性格は大人しい。
喜ぶ・甘えるという感情の表現は豊かだが、怒ったり吠えたりということは珍しかった。
ましてやこんな夜更けに。
「お腹…はすいてないよね。どこか痛いの?」
「クゥ…ン…」
横に座って声をかけると、ようやくミッキーが振り返った。
切ないげな声。そして
「え…」
背を撫でようと伸ばした手を、止めた。
(……泣いてる?)

どうしたのと、もう一度問いかければミッキーは少し俯いて。
そしてまた、すぐに空を見上げる。
その瞳が泣いている。涙を流しているわけではない。
それでも彼女にはわかるのだ。ミッキーが泣いている。
「哀しいことがあったの、ミッキー?」
しかしミッキーはその問いには答えない。
視線の先で星が瞬いていた。
星座はゆっくりと天を巡り、南の空には冬の気配を纏った明るい星々が姿を見せ始めている。
その方角をじっと見詰めたまま、ミッキーは動かない。
「何があるの?あの空の向こうで、何があったの?」
両腕を伸ばした。
その暖かな首に顔を埋れば、微かに震えている。やはり泣いている。

この夜、空の向こうで、一つの悲劇がその幕を開けている。
ミッキーの大切な者たちの激情と慟哭は、空を震わせて彼の耳に届いた。
だが、それを知ったところで、ミッキーに何ができるというのだろう?
その者たちの心の痛みを和らげることも、悲しみを癒すこともできず、
今はただ無力に、こうして空を見て泣くことしか出来ない。

彼女は、この夜更けに急に泣き出したミッキーの悲しみの理由を知らない。
彼を愛した…そして彼が愛した者たちに訪れた悲しみを知らない。
だからただ、空を見詰めて泣く彼のことを強く抱きしめ続けた。

空には、月が出ていた。

【生存者残り41人】


リレー版 Written by ◆yUPNqG..6A
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