13.無垢の暗闇

    

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暗闇。何もかも現実感を伴わず頼りない。
目に映るありきたりな森の風景も自分の存在も。
デイパックをかけた右肩を落とし、 その重みに引きずられるように
おぼつかない足取りで松本高明(45)は暗い森の中を歩いている。
この重みだけが世界と自分を繋ぎ止めているように。

とりとめもなく頭をよぎるのは目覚めてから今までの悪夢のような出来事。

冷たい目でデイバッグを差し出す田村。
――「お前が最年少だな。しっかりやれよ、コマツ」
部屋を出る時に奉文がかけてきた言葉。
しかし以前とは明らかに違う、どこにも感情がこもっていない無機質な響き。
あんなに優しかった人が、どうして。

そして呆然としたまま廊下を抜け建物を出ようとした時に聞こえた銃声と叫び声。
「う、嘘だろ……」
誰かが?誰かを?そんな馬鹿な。そう思いながら反射的に音とは逆方向に走っていた。
慣れない凹凸のある地面はいつもより早く体を疲労させ、すぐに息が上がり目がかすむ。
ゆがんだ視界に、ふと、現実がどこか手の届かない彼方に遠のき、
今いるこの世界が得体の知れない空間になったような違和感に苛まれぞっとして立ち止まった。

これは何だ。ここはどこだ。俺はどうしてこんな所にいるんだ。
分からない。今の状況も、自分がどうするべきかも、どうしたいのかさえも。
目の前で衝撃的な事柄が繰り広げられてゆき、それに翻弄されているだけで
高明には何も考えるような余裕がなかった。
ただ、立ち止まっていたら寒くなったのでふらふらと歩き出し、今に至る。

どれくらい歩いたのか、突き出た木の根に躓き転倒し体をしたたかに打った。
「痛ぇ……」
体に感じる確かな痛みに拡散していた意識が多少引き戻される。

「吉田……お前がいてくれたらな……」
ここにはいない、ドラフトで同期入団した高校時代からの誰より気が置けないチームメイト。
いてくれたら何だというのかは自分にも分からない。
多少は心強かっただろうか。一緒に行動できただろうか。

――「最終的に選ばれる赤ヘル戦士は6人」
それならせめて最初からチーム分けでもしてくれりゃ良かったのに。
前田さんとか、緒方さんとか、そんなチームを背負って立つ憧れの人が一緒にいれば同じ状況の中でもどれだけ心強いだろう。
あの部屋で自分を励ましてくれた比嘉さん。力強い言葉を残していった横山さん、新井さん。
誰でもいい、誰かに会いたい。縋りたい。導いてもらいたい。

先輩達がいてくれたら。
先輩達が言う事なら。
先輩の……言う事なら?

体育会系の上下関係といったら先輩は神様で後輩は奴隷だ。
でも待てよ、先輩どころか監督が殺せって言ってるんだよな。
監督っていったら絶対権力、神様以上だ。
監督がカラスは白いと言ったら白いんだ。その人が命令してる事なら。

「殺して……いいのかな」

半分無意識につぶやいた言葉の恐ろしさにに驚愕し、一気に血の気が引き我に返った。
「何考えてんだよ!いい訳ねえじゃねーか!」
闇に引きずられそうな自分の心を振り払うように
高明はデイパックを乱暴にかかえ暗い森の中を走り出した。
何も考えたくない、考えるのが怖い。
若くうつろいやす過ぎる心はただ空っぽのまま、誰かが示してくれる指標を求めていた。

【生存者残り41人】


リレー版 Written by ◆uMqdcrj.oo
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