18.選ぶ者、選べない者

    

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時計の針はちょうど午前3時を指していた。
海の見えるやや小高い丘に、地図には載っていない塀に囲まれた大きい家があった。
そこに向かってると思われる一人の男に見つからないように、小島紳二郎(58)はその後をつけていた。
_チクショウ!ふざけんじゃねぇよ!!
小島は怒っていた。
_何が殺し合いだ!すぐ一軍で使うって言うから広島に入ってやったんじゃねーか!
それはこのゲームに対する怒りであったが、次第に広島首脳陣への怒りも加わってきた。
_だいたいあのクソ監督…俺がせっかくいいピッチングしてたのに『いっぱいいっぱいやった』とか言って代えやがって…
 センスねーんだよテメェは!ピーコみたいな顔しやがって!なんでシーズン途中で辞めなかったんだよ!
小島の一軍初登板は先発としてだった。
5回を投げて被安打2。誰もがの6回以降のピッチングに期待した。
だが、…代えられた。
何故か?
答えは一つ、監督が馬鹿だからだろう。小島にはそうとしか思えなかった。
マメが潰れたくらいなんだ。森やら天野やらに比べれば遥かに自分の方が上だ、と思っていた。
_カープが弱いのは、テメェのせいだろーがっ!!
山本浩二(8)への怒りが溢れ出てきて、拳をグッと握り締める。
_絶対…生きて帰ってやる。このゲームが終わったら…アイツを殺…せたらいいんだけどな。
ゲーム終了後、山本浩二を殺したら…おそらくはその周囲の兵士たちにたちまち殺される。
さすがにそれはまずい。まだ死にたくはない。
怒ってはいるもののまだまだ現実的な思考をもって、小島は歩いている。
手には拾った金属バット─かなり錆びてはいるが…─、ポケットの中には怪しげな小瓶。
小島は、生き残るためのある計画を考えていた。それは『自分の武器はこの小瓶ではない』と思わせる事が必要だった。
つい先程、とある民家で見つけた金属バット。武器だと見せるにあたって一応問題はなさそうだ。
本当は包丁が理想だったが、仕方ない。それに、計画に使える物も見事に見つかったので良しとする。
_やるか、やられるか。どっちか選べといわれたら、そんなのやる方に決まってる。
 何もしないでただやられるなんて、馬鹿極まりない。あの監督みたいなもんだ。

決意を胸に秘めた小島は大きな家の前に着くと、玄関のドアをあけ、やや大きめの声で言った。
「田中さん!小島です!窓から田中さんが見えたんで…」
その声につられて玄関からすぐの部屋から顔を出したのは田中敬人(19)だった。
二人とも04年のドラフトで入団。社会人出の田中とは年齢差があったが、同期入団ということで比較的仲良くしていた。
小島は、一人目のターゲットして田中を選んだ。
おそらく田中がゲームに乗る確率は極端に低い。義理人情に厚く、どこか古臭い、典型的な体育会系の人間だったからだ。
もし田中がコーチか監督だったら、このイカれたゲームに猛反発して実施前に殺されていただろう。
そんな人間が、自分を殺そうとするはずがない。自分の身は安全だ。
うまくいけば田中を殺せて、水や武器が手に入る。…武器が銃器なら儲けもんだ。─というか、この計画は使える
銃火器を手に入れる事が目的でもあるのだが…─
「なんだ、小島か…」
「すいません、少し休ませてください…」
「あ、あぁ…」
小島は半ば強引に上がりこみ、田中のいた部屋に入った。
田中は少しとまどったが、とりあえず部屋に戻った。
居間と思われるその部屋の座布団に、二人は座った。ちゃぶ台を挟んで向かい合い、しばし無言のまま時間が流れた。
田中はやけに落ち着いており、バッグの中から出した水を飲んでいる。
何せこの家は、片付ける間もなく住民が退去させられたようだったから、田中がまるでこの家の住人のようにも見えてくる。
「た、田中さん」
いよいよ『計画』を実行に移す時がきた。
…緊張。かつてないほどに緊張してきた。小島の心臓の鼓動が早くなり、舌がうまくまわらなくなる。
一軍初登板の試合ではそれほど緊張はしなかった。
だがこれは、生死をかけた、命のやりとり。それからくる重圧は、半端なものではなかった。
_何どもってんだよ、俺!
「ん?」
小島は焦ったが、田中は特に気にすることもなく聞いている。少し安心して、続けた。
「俺、さっき他の家で、コーンスープの素を見つけたんですよ!よ、良かったら、どうですか?この辺、ガ、ガスも水道も生きてるみたいだしっ…」
「…」
田中はそこで言葉に詰まる。
「ど、どうしたんですか?」
「…お前、なんでそんなに焦ってるんだ?」
そこで初めて田中は小島と目を合わせた。
「焦るって、ど、どういうことですか?だって、田中さんが俺を殺そうとするはずが…。それに、お、俺が田中さんを殺そうと」
「お前のその右手」
小島の言葉を遮って田中が言った。その表情は徐々に険しくなっていく。
ビクッ、と、小島は驚き、…沈黙したまま田中の次の言葉を待った。
「そのバット、なんでずっと持ったままなんだ?」
「…あ!あ、す、すいません!」
慌てて金属バットを離し、作り笑いを浮かべる。まるで自分の計画が全て見透かされているかのようなそのきっとした目つき。
鋭い目つきにやや気圧されながら、必死に胸の奥の殺意を悟られないように笑顔を作る。ひどく崩れた笑顔を。
_クソ、なんなんだよこいつ!なんでこんなに落ち着いてるんだ??
「言っておくが──」
田中は小島の方を真っ直ぐに見つめたまま、一呼吸置いて次の言葉を発した。
「俺はもう人を殺した」
「え……?」
衝撃的な言葉だった。予想だにしていなかった言葉だった。
_あの田中さんが…?人を、殺した……??
その言葉の意味が理解できず、─いや、理解しようとしていない、という感じか─小島は言葉に詰まる。
「俺は、誰も信じない。…なぁ、お前もこのゲームに乗ったんだろ?」
田中はベルトの方に手をやると、ゆっくりとその右手をあげていく。
「だったら──」
田中のなんともいえない威圧感に気圧され、小島は言葉が出てこない。絶句、というやつか。
「お前も殺す」
黒くてゴツい何かが小島に向けられた。
小島は呆然としながらも、自分に向けられているものが何かを認識した。
田中は引き金に手をやり、威圧するようにゆっくりと言う。
「俺と…殺り合うか?」
小島は目を見開くばかりで何も言えない。…何も。ただ無意識のうちに後ずさりして、壁にもたれかかっていた。

「なぁ、小島。やるか?」
「た…」
ようやく小島の口から言葉が発せられた。
「た…なか…さ… や、…めて…」
完全に田中に呑まれていた。
「…何ビビってんだよ。殺る気がないんだったらさっさと失せろ。…今だけは見逃してやる。」
「たなか…さ…」
小島は金属バットを乱暴にディバックにねじ込み、それを担ぎ上げるや否や走り出した。
廊下で足を滑らせて派手に転んだ。それでも小島はひたすら走った。走って、その家を出た。

「…すまん、小島…」
肩を落として、力なく呟いた。誰もいなくなった部屋に、その声が虚しく響く。
疲れがどっと出た。極限の心理状態での、相手とのやりとり。
声が震えそうになるのを必死にこらえ、一文字一文字を丁寧に言葉にした。
動揺を悟られてはいけない。相手より上の立場にいなければ…、余裕を持っていなければならない。
たった2~3分のやりとりで、田中は気力を使い果たした気がした。
──もう、何も考えられない。
小島が自分を慕っている事は勿論分かっていた。
だが、とにかく…、死にたくない。殺されたくない。
小島が冷静さを失っている事を察し、上の立場から脅せば『勝てる』かもしれないと思った。
その一心で、小島を脅した。小島は、どう思っただろうか。
慕っていた先輩に裏切られて落ち込んでいるだろうか?
それとも『殺し損ねた』と悔やんでいるだけだろうか?
…人の心が読みたい。
小島の気持ちが純粋に知りたかった。
…誰も信用できない。
こんな状況では、何の根拠もなしに小島を信じる事などできはしなかった。
「すまん…」
目にうっすらと涙を浮かべ、田中は手に持った銃を自分の心臓に向け、引き金を引いた。

_パン

…というちゃちな音がしただけで、田中の命が失われる事はなかった。それはただのモデルガンだった。
田中はモデルガンをそこに置き、さらにうつむいた。
「…すまん」
チームメイトを殺すなど絶対に嫌だ。
チームメイトに殺されるのはもっと嫌だ。
…だが、生きて帰りたい。野球がしたい。

人と会うのが怖い。
人と会ったら、必ず選択を迫られる。
そいつを殺すか、そいつに殺されるか。
きっと多くの人が誰も信じられずに、狂っていっているだろう。協力など、できるわけがない。
学校を出発した時まではあった微かな希望が、潰えた気がした。実際に人と会ってしまったことで。
このゲームは、そんなに甘いものじゃない──。
いざ人を前にすると、冷静でいることなどできない。
俺が仲間を殺す?
仲間に俺が殺される?
…嫌だ。どっちも…選べない。
…俺は、

どうしたらいい───?

【生存者残り40人】


リレー版 Written by ◇富山
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