21.九年目の孤独

    

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―――13。
「オリックス?なんだよそれ?!」
「トレードだってさ。」
「だから、それはどういうことだって聞いてるんだ!」
「チーム事情…って。仕方ないよな、そう言われると。」
「…それでいいのかよ」
「また一からやっていくよ。だから」

―――14。
「……笑えないぞ、その冗談」
「でも確かにもう言えないんだ。あと一年待ってくれ、なんて。」
「限界とか嘘つくなよ。どうして引退なんだよ?他の球団って道だって…」
「俺は広島で終わるよ。それが一番なんだって、そう思うから。」
「本当に決めたのか?」
「決めた。悔いは少し残るけど。だから」

―――15。
「だから?」
「お前は頑張れよ。カープを頼んだぞ」

足音。
近付いて、遠ざかる。
外の気配が完全に消えるのを待ってから、黒田博樹(15)は部屋のカーテンを開けた。
(若手か?バタバタしやがって、無用心な奴だ)
そう呟いて、苦笑する。いつの間にか、自分は若手ではなくなっていた。
ドラフトも入団会見も初登板も全て、昨日のことのように鮮明に覚えているのに。

物音をさせないように気をつけて、ゆっくりと部屋の隅に腰を下ろした。
煌々とした月明かりのせいで、近付いて覗き込まなければ外から家の中は見えない。
部屋の扉は全部開けておいたから、玄関が開けばその音はすぐに聞こえる。
いずれにせよ、もし何かがあったとしても逃げることも隠れることも容易いはずだ。
そこまで準備を整えて、ようやくほうっと一つため息をついた。
(取りあえずここで朝まで様子見だな。錯乱してる奴も多そうだったし、今、外を出歩くのは危険すぎる。
それにしても横山の奴だいぶ頭に血が上ってたけど、キレて奉文に掴みかかったりしてんじゃねえか?
新井も全然余裕無い顔してたし、森笠なんて真っ青だったな。まったく、平気かよあいつら)
出発前の部屋の様子が思い浮かんだ。覚えているということは、自分はだいぶ冷静だったということだ。
動揺もしたし、怒りもした。それでもこうして、予防線を張りながら時間をやり過ごすことが出来ている。
(…ってことは、やっぱりそれなりに歳くったって事かな、俺も)

黒田は一人でその学校を後にした。
投手陣の先陣を切って出て行った小山田は、黒田を待っていなかった。
比嘉と合流したのかもしれなかったし、単にそこまで頭が回らなかっただけかもしれない。
だが、それはどうでも良かった。黒田の方も、16番の森や17番の大竹を待つつもりはなかったから。
会えば、おそらく彼らは自分のことを頼りにしただろう。多分、自分も彼らのことを信じただろう。
だが、それは「おそらく」であり「多分」に過ぎない。
それでは、この不安定な状態のうちは合流はできない。

第一、本当ならば黒田は“待たれていなければいけない”はずだった。
こんな非常時でも…いや、だからこそ。
無条件の信頼で当然のような顔をして、彼を待っていたはずの二人はもういない。

トレード、戦力外通告、引退勧告。
プロ生活も9年にもなれば、そんなことには慣れっこのつもりだった。
「チーム事情」。この球団では、そんな曖昧な言葉も何度も聞いた。
それでも、たった一年のうちに同級生のチームメイトに二人もいなくなられては、流石にこたえた。
同じ歳の奴も、ドラフト同期の連中も、もう来期からは誰もいない。
13、14、15。綺麗に番号順に並べられた三人が、気がつけば一人。
(なにが『仕方がない』だよ。揃いも揃って、勝手にいなくなりやがって)

六畳敷きの和室に両足を投げ出して、バッグから手探りでペットボトルを取り出した。
カーテンを開けているので、懐中電灯は付けられない。軽く渇きを潤す程度に、水を含む。
地図はもう少し目が慣れてから確認することにしよう。焦ることは無い。
焦って命を無駄にするのが、一番馬鹿げている。

それにしてもどうして、命の心配なんてしなければならないのか。殺し合いなんて、正気の沙汰とは思えない。
「チーム事情」だから仕方が無い?阿呆か。そんな理屈がいつもいつも通ってたまるか。
(佐々岡さん、また会えますよね。倉、お前は人が良過ぎだから心配なんだよ。
緒方さんは平気だろうな…前田さん、無茶だけしないで下さい。)
また幾人もの仲間を思い浮かべた。出立を見送った顔。見送られた顔。
(ああ、チクショウ、何でこんなことになってるんだ。何を考えてるんだよ、この球団は!)

視線の先には、窓ガラス越しの夜があった。四角く切り取られた世界は、まるで写真のように動かない。
足音の主はどこに行ったのか。
そしてこれから、自分はいったいどうするのだろう。
ぼんやりと思いを巡らせながら、黒田は壁に掛けられた時計がカチカチと時を刻むのを聞いていた。
(頼むから…もうこれ以上誰もいなくなるなよ。俺を、勝手に置いていかないでくれ…)


【生存者 残り40名】



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