25.厄介者

    

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―――お願いします。神様。
どうかそっとしておいて下さい。
誰も信用できません。こんな状況では誰も。
頼みます……。頼むからそっとしておいて下さい。
生き残れる6人が決まるまで、そっと……。


この場所はあまりにも無防備だろうか。咄嗟に身を隠す場所も無いに等しい。第一、屋外ではゆっくり休めない。
このゲームが何日間も続いた場合はこの場所では食料確保も出来ない。やっぱり真っ直ぐ走ってきたのは失敗だっただろうか。
学校があるのだから住民がいる。住民がいるのだから当然、市街地がある。
そんな事を考える余裕も無かったのだから仕方が無いのだが、地図を見て後悔した。
市街地なら、身を隠す場所も、ゆっくり休める場所も探せただろうし、食料確保も出来ただろうに。
(ああ、でもそういう場所だと誰かと遭遇する確率も高そうだしな。まだここはその確率が低いだけマシかもしれない。だけど……)
煮えきれない後悔が絶えない中でも、大竹寛(17)はここから動こうとは思わなかった。

ひとしきり後悔した後、大竹はひたすら祈っていた。
森の茂みに身を隠して、胸の前で両手を握り締めていた。
これほど神に祈った事など、自分の人生の中においてあっただろうか?
いや。無い。そもそも神の存在など信じた事がない。
だから神に祈った事もなければ、これほどの恐怖を味わった事もない。
自分の苦手な対戦相手を目の前にしても、これほど弱気になった事もない。
「なんで……こんなことにっ……」
何度目かの呟きを零すと、両目に浮かんだ涙を拭った。
何でかなんて分からない。きっと誰も知らない。
チームメイト同士で殺し合いをするなんて、いくらチームを強くする為とはいえ意味が無さ過ぎる。
(死にたくない……)
切実な思いは声に出せなかった。
このゲームに参加させられた大抵の人間は同じ想いだろう。
だから思うのだ。誰も殺したくない、勿論自分自身も殺されない。
最後の6人になるまで、この場所にいさせてくれ、と。
(神様……)
再び目を瞑り、両手を握り締めたところで誰かが走ってくる音が聞こえた。
(ひっ……)
思わず声に出しそうになり慌てて口元を覆う。
大竹が身を隠している位置を少し過ぎて立ち止まった気配を感じる。
その人物は何度も呼吸を繰り返していて、とても急いでここまで来た事が分かった。
(……誰だ……?)
この場所に来てすぐ、バッグの中身は確認した。
何か防寒になるものでも…と思ったのだが、バッグの中身は、あまり美味そうとはいえないパンとほんのわずかな水。
コンパスと地図、この島にいるであろう選手全員の名簿、ペンを足したそれらはご丁寧に別のビニール製の袋に入っていた。
更に奥を探ると懐中電灯。結局防寒になりそうな物は何一つ入っていなかった。
しかし一瞬ではあったが、別の意味で寒気が走った。
それは今もズボンの後ポケットに差し込んである、武器の短刀。
時代劇等でよく、武士が切腹のシーンで使うようなそれを手に取った時は、思わず咽喉が鳴った。
そっと鞘を抜くと、約20cm程の刃がわずかな月光を反射させた。

―――こんなもの使いたくない。使いたくないから早く行ってくれ。
頼むからここでそっとしといて下さい。お願いします。お願いします。お願いします……。

そんな大竹の思いを覆すかのように、パンッ!と何かが弾ける音が聞こえた。
一瞬身を竦めた後、その音から思いついたモノは―――。
(ピストルだ……!)
恐怖が大半を占める中、あの音だけで、単純に人殺しの武器だと決め付けた。
しかし大竹の場合、妄想はこれだけでは終わらなかった。
歪んだ恐怖は、妄想から勝手な確信へと導いてくれた。

―――今のはきっと試し撃ちだ。今度は誰かに命中させる気なんだ。……誰に?
……俺に?……もしかしたら、ここに俺がいることはばれているのかもしれない。
いや、初めから俺を狙うつもりで追いかけて来たのかもしれない。
だったら……やられる前に、やってやる……!

一通りの妄想を終えると、大竹は決意した様に後ポケットに突っ込んであった短刀を取り出した。
そっと鞘を抜く。鋭い刃先が光った気がした。
とても暑く感じた。それは気温が上がったからではなく、かつてない興奮のせいだとは気付かなかった。
だって初めてプロのマウンドに上がった時も、こんな暑さは感じなかった。
声がする方に、ゆっくり近付いていく。気付かれない様に。絶対に気付かれない様に……。
泥棒の心境もこんな感じなのだろうか。
汗で滑って落とさない為にも、ユニフォームで掌の汗を拭う。
暗い中……背番号が見えた。5……。55。『SHIMA』の文字。
……嶋は笑っていた。何がそんなに可笑しいのか。こんな至近距離にいるのに、本当に気付いていない。こちらとしたら好都合だが。
こっちは短刀。相手は飛び道具。狙うなら今しかない……!
気付かれず、大竹は嶋の真後ろに立つ事に成功した。
その勢いのまま短刀を振り翳した、瞬間―――――。

「!」
大竹は自分でも信じられない失態を犯した。
勢い余った左手が、上下に揺れる嶋の肩に触れたのだ。
思いがけない出来事に、大竹は身を固くする。
左手はまるで普通に呼び止めるみたいに嶋の肩に置かれていた。
スローモーションの如く、眉間を打ち抜かれる自分のイメージが、はっきりと頭に浮かんだ。
―――……もう駄目だ……。


「あ……」
驚愕の表情で振り返った嶋に、言い訳など出来ない格好のまま、大竹は完全に固まってしまっていた。
「……大竹?」
襲われるものだと身構えしたものの、目を開いたままぴくりともしない大竹に、嶋は呼びかけた。
「おいっ、大竹!?」
激しく揺さ振ったり、真っ赤になっている頬を抓っても、何の反応も無い。
「おおた……」
ハリセンで軽く頭を叩くと、大竹の身体は横に倒れた。
「わわっ!」
慌てて大竹の握り締めていた短刀を取り上げる。
「大竹くーん」
もう一度呼びかけてもやはり反応は無い。
「気ぃ失った、か……」
ふぅー…と息を吐いて、ハリセンの先で大竹の頬を突付いた。
これはとても厄介なモノを拾ってしまったかもしれない。
そう思うと、嶋は頭を抱え込んだ。

【生存者残り39名】


リレー版 Written by ◆9LMK673B2E
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