29.カルーセル

    

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「この辺にしておくか…まあ、どこにしろ安全っていうことはないだろうけど」
「それにしても夜の森って不気味ですよね。いかにも何か出そうって感じで」
「実際出るんじゃないか」
「…止めて下さいマジで怖い。駄目なんですよ、そういう話は!」
どれくらい歩いただろう…そういえば時計はあれから一度も見ていなかった。
学校を出たのがついさっきのようにも、何年も昔のことのようにも思えた。
尾根から少し下ったところに大きな岩を見つけ、その影に隠れるように腰を下ろしてようやく息をつく。

森笠は倉と合流すると、すぐに山に入ることを提案した。
表向きの理由は、見通しの良いところは落ち着かないということ。
本当の理由は、長谷川に合流場所を教えてしまっていたこと。
“長谷川は走っていってしまい、声を掛けても気付きませんでした。スミマセン”
嘘をついて、軽く頭を下げた。
しようがないさと笑った倉はそれを信じたのかどうか。
気を緩めるとすぐに涙が出てきそうになる。
あの時背中で聞いた音が、ぐるぐると頭を回って離れない。

「え…ちょっ、何だよこれ…」
改めて懐中電灯の丸い光りに照らされた地図を覗き込んで、森笠は愕然とした。
中央から少し外れたところに打たれたポイントがスタート地点だというのは、すぐにわかった。
しかし、問題はその点の示す範囲だった。それは思い描いていたものよりも遥かに小さかったのだ。
「これが立ち入り禁止エリア?学校から100mもないじゃないか…あれだけ焦って離れたのに!」
「これは、やられたかな」
「どういうことですか?」
「ああやって言われると、取り合えずできるだけ遠ざかりたくなるじゃないか」
「遠ざかる…」
「もし制限時間がなく、出口で後から出てくる選手を待っていられたとしたら…
若い背番号には先輩が多いから、その人たちが俺たちを待っていてくれたとしたら?
そうしたら殺し合いなんてできるわけがない。
未だに信じられない話だけど、とにかく球団は俺たちに『殺し合い』をさせたいんだから」
「集団になられたら困るんだ…」
森笠はもう一度地図を覗き込んだ。

そこに描かれているのは確かに島だ。ぱっと見た感じでは、そんなに大きくはない。
だが、街もあれば山もある。一旦散らばってしまえば再び集まるのは難しいだろう。
現に、自分たちは鉄塔で合流してからここに来るまで誰にも会わなかった。
「まあ、俺の勝手な想像だけど」
「いや、多分それですよ。そうか」
森笠は今更ながら、倉が自分を待っていてくれたことに感謝をした。
(そうだ、俺は一喜が殺されてパニックになりかけてたけど、倉さんと話したら取り合えず落ち着いたものな。
でも、もし一人のままだったら…そのまま、パニックになってる他の奴に出会ってしまったとしたら?
なあ長谷川、お前もそうだろう?ただパニックになってただけだよな。
もしお前があの時会っていたのが俺なんかじゃなくて、例えば前田さんとか緒方さんとかだったら、
銃なんて出さなかっただろう?そうだよ、そうしたら福地さんだって…)

また、耳の奥で一つ銃声が響いた。

「うわ、物騒だなこれは」
「何ですか、それ?」
バッグの中身をチェックしていた倉の驚いたような声で、森笠の聴覚が現実に引き戻される。
見れば、その右手には何か塊のようなものが握られていた。
さっき漁ってみた自分のバックには入っていなかった。つまりそれは倉の武器ということになる。
「手榴弾って書いてあるな。あと、閃光弾…音響弾…」
呟きながら倉が一枚の紙を差し出した。使用説明書。その上に大きな文字が躍っている。

『あらゆるニーズにあわせて大活躍!超★豪華・投擲三点セット!』

「投擲ってことは、投げて使うのか」
「おお!すごく倉さん用って感じの武器ですね」
「どれくらい届くんだろうなあ」
「大きさは野球のボールとそんなに変わらないけど…って何やってるんですかぁ?危ない!」
森笠の目の前で、倉大きく右腕を振って手榴弾を投げる構えをとった。
「大丈夫だよ。信管抜かなきゃ爆発しないって書いてあるし。」
「そういう問題じゃないです!怖ぇぇぇぇ…」
肩が冷えていること、重さと形状がボールと違うこと。両方を加味して、全力で100m届くかどうか?
そう言いながら倉がもう一度スローイングの真似をしたので、のけぞった森笠はバランスを崩して斜面に転がった。
だから、その後の倉の呟きに森笠は気がついていない。
「100m、か…」

「もう止めてくださいよ!せめて俺の方に向かって投げる真似だけは!絶対!」
「悪い悪い。ところでお前の武器はなんだったんだ?」
「え、ああ…」
バツの悪そうな顔をしながら、森笠はユニフォームに付いた土を払った。
少し躊躇ってから、ズボンのポケットに手を回す。
「これです。バタフライナイフって書いてありました」
長谷川の拳銃や倉の手榴弾に比べて、その武器はいかにも貧弱に思えた。
「どこかで聞いたことあるな」
「昔、話題になりましたよね。キレやすい子どもが持ってるとかいう」
「ああ、思い出した。なんだ、それこそお前にぴったりじゃないか」
「やめてくださいよ、俺はキレませんって。横山じゃあないんだから」

からかわれて笑い返した時に、ふいにその同期の名前が出てきた。
「そういえば横山の奴、ちゃんと新井と合流できたのかな」
「いくら横山と新井でも大丈夫だろう……多分」
「なんとかアイツらに会えるといいんですけどね。あと嶋と、小山田と。ああ、福井とも」
「そうか、福井が入って、お前の年代はますますキャラが濃くなったなあ」
「何かアイツ、既に十年くらい一緒にやってるんじゃないかってくらい馴染んでますからね」
「珍しいよな、その歳でそれだけの人数が残ってるのは」
「だいぶ減ったんですけどね。朝山とか田村とか遠藤…。なにせ、もとが多かったから」
「それで減ったっていうのが凄いよ」
指折り数えて幾つもの顔を思い出す。
先輩たちにはからかわれ、後輩たちとは馬鹿をやって騒いだ。
入団年は違っても、やはり同級生というのは特別だった。
「あれ、そういえば倉さんと同い年ってだれでしたっけ?」
「もう福地だけだよ。まあ、もともと少なかったから」

「……!」
一瞬、呼吸が止まった。
森笠の耳に記憶の音が甦る。倉には聞こえない、背中に張り付いた銃声と悲鳴。

「ほとんど一緒に一軍でやれてない情けない同級生だけどな。
でもまあこの間、来年は怪我をしないで二人で一軍にいようって話をしたよ。
何だかんだでここまで一緒にやってきたからなあ」
(そうだ、福地さんは…そうだ、倉さんと福地さんは。謝らなくちゃ。馬鹿、謝ってどうなる?
でも、このまま黙ってるのかよ?このまま…)
「倉さん」
「ん?」
「スミマセン、あの、長谷川…」
「なんだ、もういいよ。合流できなかったのは仕方がないさ。何か考えよう」
(そうじゃないんです。そうじゃなくて。)
言葉が出てこない。
見捨ててきました。そんなことを言えるわけがない。
「……スミマセン」
「だから、もういいって!しつこいぞお前…」
俯いて、唇を噛み締めた。無事で…どうか無事で!

― ガァァァァァ……ン ―

ああ!またあの音だ!あの時背中で聞いた音。
あの音は長谷川の拳銃。あの悲鳴は……
「隠れろ森笠!今の音は、ここから結構近いぞ!」
夜の森の静寂を破って響いた突然の銃声に、倉が慌てて岩の陰に身を寄せた。
だが、森笠にはその音がどこで鳴ったのかがわからない。
記憶の中の銃声と、現実の銃声が混ざり合って頭を巡る。

― ガァァァァァ……ン ―

二度目の銃声。
倉が森笠の腕を無理矢理引いて、岩陰に引き寄せる。
足元の土が崩れて、小石が斜面を転がった。
(やめろ!やめてくれ!)
耳を塞いで蹲る森笠の、その鼓膜の奥で絶え間なく巡り巡る音の回転木馬。
銃声・悲鳴…そしてまた銃声、銃声!
まわるまわるまわるまわるまわるまわるまわるまわるまわるまわる………

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「森笠?!」

【生存者 残り37名】



リレー版 Written by ◆yUPNqG..6A
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