36.「宮島さん」

    

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相も変わらず場違いな応援歌は続いていた。すでに数曲流れているのに未だ終わる気配はない。
忌々しさに舌打ちすると、横山は口を開いた。
「なあ、なんでこんなことになってると思う?」
誰もが一度は思った事だろう。思ったところであちら側の本当の思惑なんて分かるはずもないが、横山は新井に質問してみた。
「……なんでじゃろ。山本監督は、『もう一度強い赤ヘル軍団にする為』って言うてたよな」
長年の癖なのか。何の違和感ももたず、ごく当たり前かの様に元監督の名前の下に未だ監督と付けてしまう。
それに気付いていない新井とは逆に、それに何となく気付いた横山は膝に腕を乗せ頬杖を付いた。
「皮肉だよなー」
「何が?」
「いや、ついこないだまで監督だって尊敬してた人間が、こんな事に関ってるなんてなーと思って」
采配に関しては時々疑問に思うこともあったが、それでも自分はよく目を掛けて貰っていた方だったし、目の前の新井には事の外期待していた。
今季で引退したともあって、最終戦には少なからずともぐっとくるものがあったのに。今は。
「殺してやりてえ」
吐き棄てるように呟いたその言葉は半分本心から言ったものだった。
複雑そうに黙っている新井に、随分話が逸れてしまったと横山は仕切り直した。
「さっきの話の続きだけど。確かにチームを強くする為に、って理由付けしてたけどさ。そんならこんな手間隙掛かる事するんだ?」
手を頬から顎に位置を変え横山は続けた。
「考えてみろよ。そもそもうちの球団にこんな資金力あると思うか?」
言われてみれば、とばかりに新井は目を丸くした。
盗聴器も発信機も爆発機能まで付いている便利な首輪といい、武器といい。廃れているとはいえ、こんな島まで用意していることといい。
本拠地の市民球場は対戦チーム(味方からもだが)から苦情が出るほど老朽し、マスコミにも赤貧と馬鹿にされ、毎年のように球団買収・合併等の噂が持ち上がるのに(実際は黒字経営らしいが。しかしいい環境かどうかは疑問である)こんな資金があるとは思えない。
ではその資金はどこから出ているのか?横山の話を要訳すればそういうことだろう。

う~ん……と新井は首を捻った。
耳が肩に付きそうな程傾げながら考えて考えた末、一つ思い当たる節があった。それに思い立った新井の表情が青ざめる。
「まさか……」
ようやく分かったか、と横山も表情を引き締めて頷いた。
「まさか、樽募金で……!」
「アホかっ!」
何故その方向へいくんだ!?とツッコミを入れたが、新井の顔は至って真面目そのものだった。
「え?違うんか?だったらなんじゃ?」
本当に分かってなさそうな新井に横山は大げさな溜息を吐いて見せた。
「つまり、スポンサーがいるんじゃねえかって。これはもうカープだけの問題じゃないってこと。裏で動いている奴らが他にもいるんじゃねえか、って俺は思うんだけど」
横山の答えに新井はもう一度目を丸くした。
「……!ああ、なるほど!」
新井は心底感心した。普段はそのテンションの高さからつい疲れると思うこともあったが、こんな中冷静に物事を考えている同級生が頼もしかった。
「だったらかなり厄介な事になってるよな。それでも」
「それでもやるしかないじゃろ」
言いのけて見せた新井の顔にもう迷いは無い。横山もまたそんな新井を頼もしく思った。

横山と新井は再度荷物の確認を始めた。
無意識に耳に入ってくる曲を口ずさむ。現在流れているのはカープの攻撃時に点が入ると流れる「宮島さん」。
「宮島さんか」
ぽつりと新井が呟き、何か思いついたのか横山を振り返った。
メモ用紙に筆記し、それを横山に見せる。

―――これからこの作戦名を「宮島さん」って呼ぶのでどうじゃ?―――
訳が分からず横山の顔が歪む。
―――なんで?―――
―――なんとなく。 隠語があった方が便利だと思って。それと―――
「縁起がエエから」
単純な思いつきが新井らしくて横山は笑った。そして指でOKと形を作って見せた。
「よし。それじゃあ合言葉は……『宮島さんに行こう!』で」
「宮島さんに行こう!じゃな」
二人はもう一度顔を見合わせて笑った。
心地の良いこの時間を振り切り、そろそろここから出発しなければ。


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小屋を出ると水平線の向こう側、薄く掛かった雲の切れ目に陽の光が見えた。
この海の向こう。ゲーム開始当初から、常に頭の中にある大事な人達に想いを送る。
きっと本物の宮島からこの場所は程遠いだろう。
明日の午後6時にA-2で何が起きるというのか。
出発前、今一度横山は新井に尋ねた。
「なあ、帰ったら何がしたい?」
「何が……。嫁さんと子供に逢いたい。そんでやっぱり、野球がしたい。来年良太と対戦するのも楽しみだし」

「良太……、ああ、弟だっけ?今度中日が獲ることになったんだよな」
「うん。まだまだ半人前のあいつが成長していくのを、野球を通じて見てみたい」
優しい穏やかな顔で未来を語る新井につれられて、横山も自然と緊張が解れていた。
「そっか」
「ヨコは?ヨコは帰ったら何をしたい?」
「俺?俺はそうだな……。やっぱこんぐらいの巨乳をだなー……」
こんぐらい、と両手を広げ横山が悪い顔を見せたので新井は苦笑した。
「……俺も、野球がしたい。つうか今のままで終わりたくねえ」
「だから」息を深く吸い込み、決意新たに。
「絶対、生きて宮島さんに行こうぜ!」

合言葉を掛けると横山と新井は力強く頷き合った。お互いが背を向け合って歩き始める。
振り返る必要は無い。ただ、自分達が信じた前を進んで行くだけ。

【生存者残り36人】



リレー版 Written by ◆9LMK673B2E
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