37.食えない男

    

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「ふぅー……」
一仕事終えた山本浩二元監督(元背番号8)は、マイクから顔を離してソファーに深く座り込んだ。
座り心地は悪くない。しかし色合いが自分好みでないのが唯一つ不満だった。
腹の辺りで手を組み、しばらく流れている曲を聞きながら前方の画面をじっと見つめていた。
黒い画面に島の全体図が書かれたその中に、36個の赤い○とすぐ側に背番号の数字が点っている。
つい先ほど読み上げた人数の数字は、今はもう画面上に存在しない。
机の上に無造作に置かれていた名簿と赤いペンを手に取ると少し難しそうな表情を浮かべる。
「あと30人かぁ……。……このペースでいくと大体……。……それにしてもあいつは意外じゃったな……。まぁええことよ」
1人で悩んだり納得したりぶつぶつ呟きながら◎、○、△、×と様々な記号や色々なことが細かに書かれている名簿に更に書き加えていく。
それにしばらく熱中し、肩が重いな、と軽く首を回していると背後から湯気が立っている淹れ立てのコーヒーが差し入れされた。
「お疲れ様です」
コーヒーカップを差し出した松本奉文が相変わらず無表情のまま淡々と喋る。
「おお。気が利くのぉ。ありがとう」
トレードマークでもある黄色のサングラスの奥から目を細めると山本元監督は礼を述べ、受け皿ごとテーブルに置いた。
「さすがにこの歳になると徹夜は堪えるわい。昔は試合が終わった後も明け方までやんちゃしてたのにのぉ……」
在りし日の自分を思い出しているのか。何も無い宙を見つめながらしみじみと奉文に話して聞かす。
しかし、「そうですか」という相槌も、まして「さすがミスター赤ヘルですね!」、という賛辞の言葉も掛からない。奉文は黙ったままで立っていた。
それを責める事も無く奉文が立っている理由に気付くと、山本元監督はコーヒーカップに手を伸ばした。
「すまん、すまん。折角淹れてくれたコーヒーが冷めるな」
『気の良いおっさん』の顔を作ってコーヒーカップに口付ける。
一息吐いてゆっくりと奉文を振り返った。山本元監督がソファーに座っていることから立っている奉文を下から見上げる形となる。
「ところでお前は誰が生き残ると思う?」
トントン、と手にしていた赤ペンを叩きながら尋ねる。それでも奉文の口から言葉は出ない。

しかし山本元監督も特に気にせず話を続けた。
「メグ……緒方には元々の身体能力もそうじゃが、それこそ色んなモンを備えとるけぇ大本命として、残り5人はどうじゃろ」
その時ようやく奉文も反応した。ちらっと動かした視線の先には名簿が置かれている。
「横山や新井辺りも面白そうじゃな。あいつ等教室で言うとったもんな。『全員で生きて帰る』って。
それにわしが目を掛けてたんじゃから簡単に死なれたら困るのぉ」
少しずれていた黄色のサングラスを元の位置に戻す。
「お前も、まぁ……期待しとったのに残念じゃったな。それでも今は裏方として活躍してるんじゃから結果としては良かったのかもしれん」
気を遣う素振りを見せつつその実、「諦めも大事」という余計な説教が混じっている言い方にも奉文はただ立っているだけだった。
「若手でもやる気になってる奴もおるもんなぁ。そういう闘志溢れるモンは将来が楽しみじゃ」
ふかふかなソファーにゆったりと背中を預けコーヒーカップに口付ける。今度は味を楽しむかのように何度も口に運ぶ。
至福の表情を浮かべながらカップを両手に包み込むとしばし上を向いた。
次の言葉が出てくるまでに少し間があった。そのわざとらしいまでの間の後ゆっくり口を開ける。
「……あとはトモ、前田かのぅ」
奉文の反応を窺うように山本元監督はちらっと目線を上げる。口元は手の甲で隠れていたが目は笑っていた。
今度こそ、と思っていたのか。結果は山本元監督を落胆させる程、不気味なまでに奉文は無表情だった。
眉も動かさなければ瞬きさえしないのだから、さすがにこれ以上はどうしようもないと苦笑する。苦笑の顔のまま大げさに降参!と両腕を上げるともう一度コーヒーカップに口を付けた。

溜息にも似た呟きを漏らすと再び画面を見始めた。あるポイントを見つめながらしばし考え込む。
「ふぅむ……」
自分の中で閃いた事を消化でもしているのか、うんうん、と首だけを動かして意味ありげに笑うと山本元監督は電話に手を掛けた。
「……今のままではあまりにも大人しく進みすぎて面白くないけぇ。ちぃとばっかしこっちから仕掛けてみるか」
大きな独り言を話す山本元監督のその後ろで、側に置かれているコーヒーカップの中身が奉文の視界に入る。
「……」
もう湯気が立っていないそれは奉文が淹れた時のままコーヒーカップの中を並々と満たしていた。

【生存者残り36人】



リレー版 Written by ◆9LMK673B2E
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