39.「誰だ」

    

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「誰だ!!」
大声を張り上げながら玄関の引き戸を叩きつけるようにして開け放つと、
古い民家のガラス戸が、がしゃんと大きな音をたてた。
黒田は固く拳を握り締めて、朝の町に人の気配を探っていく。
生垣。電柱。物置の影。
一つ一つ確認しながら、ゆっくりと視線を動かした。

― 誰だ? ―



出発地点から程近い家で朝を迎えた黒田の耳に突然飛び込んできた、耳慣れた声。
その声が告げたのは6人の名前。
木村一喜の死は、今でも信じ難いことだがこの目で見た。その他に5人。
この、夜が明けるまでのたったの6時間で、もう5人が死んだ。誰かが殺した。

腕時計から流れる応援歌が鳴り止んで部屋に静寂が戻った時、
黒田は自分の血液が沸騰しそうなほど熱くなっているのを感じた。
衝動的に手首を壁に打ちつけて時計を壊そうとして、寸前のところで止める。
今後の情報を得るための時計を惜しんだのではなく、自分の腕を庇ったのだ。
だがそれはただの本能であり、冷静さを取り戻したが故の行動ではない。
黒田は自分の怒りを抑えようとは全く思っていなかった。

ふつふつと体の奥から止めどなく湧き上がってくる“誰か”への怒り。
一度止めた腕をゆっくりと動かして、コツコツと壁を叩きながら地図の裏に並べられた名前の羅列を思い出す。
当然、知らない名前なんて一つも無い。
そこに書かれていたのは、付き合いの長さ・深さの差こそあれど、一緒に野球をした仲間の名前だ。
どんなに厳しいチーム状況の中でも、同じように勝利だけを目指して戦っていたはずの仲間の名前だ。

だがこの中に、5人を殺した奴がいる。
この胸クソ悪い話に“乗った”奴がいる。
それは誰だ。

― 誰だ……! ―

黒田は無造作にディバッグを掴んで立ち上がると、逡巡もせずその家を出た。
物音は消そうとせず、気配を殺そうともしない。むしろ、無意識に大声で叫んでいた。誰だ。
だが朝は黒田の怒りに怯えるように、いっそう深く静まりえっている。
物音一つしない。人の影も無い。
この近くにはいないのか…それとも息を潜めて様子を窺っているものがいるだろうか。

(ふざけるなよ。誰だか知らないが、お前、自分で何をしてるか分かってるのか?
もしこれで人を殺して生き残ったとしても、永遠に球団の駒でしかないんだぞ。
それくらいのこと、頭冷やして自分で気が付けよ馬鹿野郎)

一時の恐怖に怯えて人を殺し、そして生き残ったとしてその後どうなるのか。
この島の出来事を外部に伏せることが出来たとしても、人を殺したという事実は残る。
球団の人間たちが、そのことを知っている。
その状況の中では、首の爆弾は外されても、直接心に嵌められた首輪からの支配からは逃れられはしない。

それでも野球を続けていくというのか。
そんなところで野球がやれるというのか。

確かにここ数年のカープは優勝はおろか、Aクラスにすら手が届かない。
黒田自身、今の状況がもどかしい。実力不足が不甲斐ない。
だがその責任を全て選手に押し付けて、殺し合いなんてさせる球団がどこにある?
そして、そんな連中の思い通りに殺し合いを始めた馬鹿は、いったい誰だ。

(比嘉、井生、田中、お前らロクに一軍でプレーもしてないじゃないか。永川、なあ嘘だろう?
…どうしてどいつもこいつも、俺に断りもなく勝手にいなくなるんだよ?!)
自分の知らないところで去っていってしまった仲間の姿を思い出す。
世間には無理だと思われていたのは知っている。
でも、黒田はこの仲間たちと、優勝をするのだと本気で信じていた。

そして、一つの映像を思い出して唇を噛み締める。
見ていたのはいつもその人の背中だった。
マウンドで輝いていたエースナンバー。赤い18の文字。
(佐々岡さん、どうして……)

黒田は、自分の気性が穏やかな方だとは思っていない。
でも人を殺したいとまで思ったことは一度もない。
それも…昨日までは。今までは。

(わかったよ、誰だか知らないが、お前は殺し合いがしたいんだろう?
じゃあさっさと出て来い。遠慮なんてするな。相手してやるよ)

荷物を肩に掛け直すと、黒田はゆっくりと歩き出した。
そして、早く来いよと、まだ知らぬ誰かに向かって心の中でもう一度呼びかける。

―  俺がお前を殺してやるよ  ―

【生存者 残り36名】



リレー版 Written by ◆yUPNqG..6A

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