40.「虚実」

    
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苦虫を噛み潰したような顔で松本奉文は階段の手すりに手をかけた。
(そう簡単にはいかないか……くそ、いったいどうすれば……)
苛立ちながら階段を数段下った時、下の踊り場に立ちこちらを見ている小林幹英に気づいた。
「あ、幹英さ……」
そう言いかけ、奉文を睨み据えているその目のあまりの冷たさに思わず足が止まる。次の瞬間、視線はゆっくりと上がっていく幹英の右腕に奪われた。その手には銃が握られ、銃口が真っ直ぐにこちらを向いて止まった。
(しまっ……!)
しまった、とはっきり心で言葉にする間もなく様々な思いが、その思いを構成する人々が脳裏をかすめ通り過ぎていく。これが走馬燈ってやつか……と、そんな悠長な事までも同時に頭に浮ぶのに体は根が生えたように動かない。
友人、家族、学生時代のチームメイト。夢だったプロ野球選手に、子供の頃から大好きだったカープの一員になれて、共に過ごした人々。そして誰よりも……

――『奉文、お前はわしが一流のバッターにしちゃるけぇのお』
――『あー、しんどいわ。ベンチまでおぶってくれや』

(……前田さ……)
そんな思いを容赦なく切り裂くように少しくぐもった乾いた音が響いた。
――パンッ!!
「ぐぁっ……!!」
それは一瞬自分の口から出た声かと思った。もしかしたら同じように声をあげていたのかも知れない。
しかし続いて背後から聞こえた重い物が落ちる鈍い音に固く閉じた目を開け振り向くと、上の踊り場で迷彩服を着た若い兵士が機関銃を手に倒れているのが目に映った。
「……え!?」
再び幹英を振り返ると、その目は相変わらず冷たく奉文を見据えていたが銃を持った腕は降ろされていた。
「監督につまらん事を仕掛けたな……いいか、よく聞け。スタッフも人手不足だからな、表向きは見逃されているがお前は要注意人物にリストアップされた」
呆然と立ちつくす奉文の横を擦り抜け階段を上がり、倒れている兵士を見下ろすと軽く足でその体を蹴る。
「つまり、こういう功を立てようとする奴に命を狙われても文句は言えない立場になったって事だ。……武器は常に身につけておけ」
言いながら幹英は兵士を抱え上げ、踊り場の窓まで引きずっていき無造作に外に放り出した。廊下には兵士が倒れた位置から窓まで、鮮やかすぎるほどの血の跡が尾を引いていた。

「こっちは裏庭だからまあすぐには見つからないだろ。血の跡だけ消しといてくれ」
背を向け立ち去ろうとする幹英にやっと状況を理解した奉文が慌てて口を開いた。
「ま、待ってください!」
「……」
「あ、あの、助けて頂いて……」
「そういう訳じゃない。どのみちあいつらは少しづつ始末するつもりでいた」
その言葉に奉文は更に衝撃を受けた。この島に来てからずっと冷徹だった幹英の態度。あれはこの計画に協力する姿勢の表れなのだと思い、心の中で軽蔑と共にしばしば悪態をついていた。だけど、それは間違いだったのかも知れない。この人は……
「あの、すみません俺……誤解してました。幹英さんはてっきりその……計画に乗った側だと……」
「そう思っていればいいよ」
しどろもどろに言葉を探す奉文を振り返りもせず幹英は歩を進める。
「待ってください!何かしようとしてるなら、俺にも何か、できることを協力させてください!」
「……」
「お願いします!俺もう、こんなの耐えられ……」
幹英が足を止め奉文の言葉を遮った。
「やめろ。お前だって家族を盾に脅されてるんだろ?」
その言葉に奉文の体はぎくりと凍り付く。幹英はゆっくりと振り返り再び奉文と視線を交えた。
「言ったばかりだろ。もうこれ以上、下手な動きはしないことだ」
「だ、だけど……」
「犠牲者は少ない方がいい。手を汚すのは俺だけでいいんだよ」
静かでいながら射竦めるような幹英に威圧され、奉文はうまく言葉を継ぐことができずに目を逸らしうつむく。必死で言葉を探すが何をどう言っていいのか分からない。
「お前が俺にできる事は……」
はっと顔を上げる奉文に幹英は優しささえ感じさせる口調で言った。
「今見た事を忘れる事だよ。……分かったな」
また背を向け静かに歩み去る幹英に奉文はやはり何も言葉をかける事ができなかった。
(だけど……だけど俺は……俺だって……)
その背を見送りながら、奉文の心の中には言いようのないやるせなさが渦巻いていた。

【生存者 残り36名】



リレー版 Written by ◆uMqdcrj.oo

この画像はコイバットさんの画像を使用しています。
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