43.天才薄命

    

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_ぱらららららら
_ぱん!ぱん!
ブロック塀と玄関のドアを盾にして、25mほど離れた二人は牽制しあっている。
ただ、末永には勝算があった。
緒方の拳銃の弾が尽きた時、弾を詰めなおす間を与えず突撃。
それが無理でも、少しでも距離を詰める。とにかく動かなければ、何も変わらない。
幸いにも武器は自分の方がグレードが高い。動けば、何かが変わる。
──そう考えている間に、緒方の銃撃が止んだ。
_ザッ
一気に押し込むべく突撃する末永。

──何かが放物線を描いて飛んでくる。
楕円形の物体は、つい先程自分の右腕に大きなダメージを与えたものだった。
自分の数メートル先に落下せんとするその物体。
このスピードで走っていれば直撃をくらってしまう。そうなれば──
(これしかねぇ!)

天才打者の片鱗を、そこでも遺憾なく発揮した。
イングラムの側部で、その”ボール”を弾き返した。
強すぎると衝撃で破裂するかもしれない。それもふまえて、絶妙な力加減で。
(よし!)
グレイト。完璧なセンター返し。ボールはピッチャーの頭上へ───
_ガァンッ!
爆発。轟音。
緒方のバッグの中にあった火器が誘爆したのか、玄関で大爆発がおきた。
ピッチャー炎上───いや!
(嘘だろ??今のをかわすか??)
煙が立ち込める中、赤いユニフォームが末永の視界の左隅に写った。
爆発の直前に玄関から飛び出し得意のダイビングを決めた緒方は、その爆発から紙一重の所で逃れたのだ。
(いや──、けど、もらった!)
_ぱららららららららら
まさに立ち上がりかけた瞬間。うっ、という呻き声と共に、緒方の体が揺れた。
(やった!)
ゆっくりと倒れていく緒方。
勝った。勝ったんだ。あの大先輩の緒方を、倒した!

_ぱん!
緒方は倒れた状態から顔と右腕だけを向け、無防備な末永の胸を的確に撃ち抜いた。
_ぱん!ぱん!
更に的確に、末永の体に致命傷を与えていく。
隙を見せたら負ける。
相手バッテリーとの手に汗握る駆け引きを制し盗塁王にも輝いた男の眼は、冷静だった。
(え?)
「ゲホッ…」
吐血し、よどんだ赤色の液体が飛び散った。力が入らない。
(嘘…だろ…)
生暖かい味のする口の中の液体が再び吐き出され、銃を離して思わず口を押さえた左手が真っ赤に染まった。
嫌な暖かさが伝わった。自分の体温。今尽きようとしている命のぬくもりか。
(なんでだ…!)
──隙を見せた自分が、甘かったのか。
(バカだよ俺… ホントに…バカだ……)
鮮やかな逆転劇。末永が倒れ、緒方が立ち上がる。
高すぎる壁だったのか。
緒方孝市という男は、今の末永程度の男にとっては超えられるはずもない存在だったのか。

黒服の男が薄ら笑いを浮かべながら近づいてくる。田中が、栗原が必死に何か叫んでいる。
そうだ、立て。立つ。絶対に。立てない。嘘だ。立てなくない。立たなきゃならない。
力が入らない。立てない。嫌だ。負けたくない。負けない。嫌だ。死ねない。絶対に!!
(諦めるな!!)
「ガハ…ッ…」
しかし、激痛と共に再び吐血。這いつくばったまま、激しく咳き込む。
忘れていた、ともいえる右腕の激痛も戻り、頭がおかしくなりそうだ。

「ぢぐじょおおおおおおお!!」
自分でも初めて聞く、すさまじいダミ声。

緒方は末永がイングラムを手放したのを見てから、ゆっくりと立ち上がり、土埃を掃った。
(そうか、防弾チョッキに助けられたのか…)
イングラムの弾を数発喰らっても無事だったのは、山本浩二から渡された”高性能保障つき”
という防弾チョッキのおかげだった。その存在をすっかり忘れていたが、最終的には助けられた。
(そうだ、最初は『不公平になるからいらない』なんて言ったんだ)
しかし、催眠ガスで眠らされてこの島に運ばれる時に、スタッフにより勝手に着させられたらしい。
(末永…お前は強かったよ。強かった…。けど、……甘いなぁ、本当に…)

しかし──
「…まだ…」
突如聞こえたその声にビクッと体が反応し、振り向くと──
「まだあああぁ…」
末永が、這いつくばりながらなおも立ち上がろうとしている。
(な…!)
相次ぐ怪我をものともせずに猛練習を積んできた自分すらも比較にならないくらいに──何というかもう、
それが人間なのかすら分からない、そんな威圧感があった──末永の気迫は常軌を逸していた。
ぼたぼたと血を滴らせながら、ほぼ白目になりながら、末永はもがいている。
(立つな!立つな立つな!!もう立つな末永!!)
緒方の心の叫びなど聞こえるはずもない。もう、言葉が出てこない。
「あああああああ!!」

何十秒もかけて、ゆっくりと、ゆっくりと末永は立ち上がる。
それはまるで、生まれたての小鹿が自分の力で立ち上がるような、そんな光景。
だがそれは緒方にとっては恐怖以外の何でもなかった。
──へいへい、あんたが鬼なら、このにーちゃんは、妖怪ですぜ──
そして───、
「畜生ぉぉぉ!!帰るんだよ!生きて帰るんだよ!なんでこんなとこで死ななきゃいけねぇんだよぉぉっ!!」
体に空いた穴からは生暖かい血液を、目からは大粒の涙を、口からはありったけのダミ声を出し、
末永は立ち上がった。気持ちだけで立ち上がった、とでも言うべきか。
こんなボロボロの体で立てた事は自分でも信じられなかった。
先輩の新井がいつも言っていた、『気持ち』。
シーズン中に試合に出ているときは、『気持ちで打てたら苦労しませんよ』などと笑っていたものだが、
この死の瀬戸際になって末永は、新井の今シーズンの快進撃の裏に隠れた精神力の強さを知った気がした。
そして、今までどうして自分があと一歩成長しきれなかったのかも分かった気がした。
──心が、弱かったのだ。
口では『諦めない』と言っても、行動にはできなかった。
この腐ったゲームの中に放り出された時、自分の力でこれをなんとかしようとは考えられなかった。
栗原と合流。前田と合流。前田さんならなんとかしてくれる。新井さん達がなんとかしてくれる。
なんて言って。自分は口だけだった。
(ああ、なんて馬鹿だったんだ、俺は──)

ここから、末永真史の急成長が始まる。
どんな球でも打てる気がする。広島一の、いや、日本一のバッターになれる気がする。
────生きて帰ることができさえすれば。
「へへ…なぁみんな…、俺…、来年は、…とんでもないバッターに、なるぞ…。
 俺が、カープを、…引っ張って…、んで、…」
そこで一旦言葉は途切れ、末永は全身の力が一気に抜けていくのを感じた。そして、絞り出すように言った。
「んで…、…ゆう…しょ……」
最後の単語は言葉にならなかった。力尽きた末永は、その場にゆっくりと崩れ落ちた。

 栗原も末永も、もしかすると俺よりも凄い選手になったのかもしれない──
 そんな才能を、二つも俺は潰してしまった。
 俺は、何をやっているんだろうか。
 強いカープを生まれ変わらせる??

 監督───
 これで───良かったんでしょうか───?

言い様の無い脱力感、虚無感に襲われ、緒方は膝をついた。

【末永真史(51)死亡 生存者残り34名】


リレー版 Written by ◇富山
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