44.最期に見えたもの

    

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末永真史の意識は、今となっては懐かしく感じられる場所にあった。
広島市民球場。
_代打・末永のサヨナラヒットでカープ、サヨナラ勝ち~!!
(あぁ、あの試合か…)
人生で初めて、サヨナラヒットを打った、あの日。
ベンチに戻ってきた末永はチームメイトにもみくちゃにされ、あちこちを叩かれ、蹴られた。
そのチームメイトの出迎えの列の最後尾に、グラウンドでは全く見せない笑顔を浮かべた選手がいた。
『スエ、よう打ったのぉ』
ずっと憧れていた前田に、一人前として認められた気がした。
思い上がりかもしれないが、とても嬉しかった。

場面が変わった。
ここは前田さんの行きつけっていう居酒屋だ。
『他のチームみたいに、若手がもっとでてきてくれんとのぉ…』
『来年は俺が前田さんからポジションを奪いますよ!』
『お前じゃ頼りなさ過ぎるわ!バッティングもまだまだで、守備は危なっかしすぎて見とられんけぇのぉ…』
『だったら俺に教えてくださいよぉ~』
『それはいかんわ。自分で悩んで努力し続ける事に意味があるんじゃ』

『それにのぉ…お前には一つ、決定的に足りんもんがあるんじゃ』
『え~?無いですよ、そんなの~』

俺に足りないもの。
ああ、分かった。前田さんがあの時言いたかった事が。
『優勝した頃のわしはお前より若かった。じゃが…お前よりもいい選手じゃった。それがあったけぇ』
馬鹿だな、俺。死ぬまでそれに気づかないなんて──。

風景がかすみ、意識が遠のいていく。
慣れ親しんだ球場も街も人も、もう俺の眼には映っていない。
眠くなってきた。
あ、そうか、俺、死んだんだ…。末永真史は、死にました。
そうか、…だから何も見えないんだ。何もできないんだ。
もっと野球やりたかったなぁ…。
なぁ、野球の神様ってのがいるなら、あと1シーズンだけでもいいから、俺に野球をやらせてくれないかな?
まだやりたい事がたくさんあるんだ。…いや、でてきたんだ。
栗原に、今よりもっと厳しいウエイトトレーニングを教えてもらいたい。
新井さんに、護摩行に連れていってもらいたい。
前田さんに、ぶっ倒れるまでバッティングを見てもらいたい。
誰よりも居残り練習をして、ノックで一球でも多くの球を捕りたい。緒方さんに教わりたい。
もう二度と、へこたれたりはしないから──!

だけどもう、俺は二度とグラウンドに立つ事はできない。
末永真史という人間としての意識も、24年間生きてきた中での記憶も全て、今消えようとしているんだ。
そしてもう、誰も俺の名前を呼ぶ人はいない──

「スエ!」
前田智徳(1)は、既に動かなくなった末永の体を抱え、一心に名前を呼び続けた。
「馬鹿もん!お前が死んだら…誰がわしの後を継ぐんじゃ!」
入団したての末永のフリーバッティングを初めて見た時に、類稀な才能を感じ取った。
自分の後継者として、広島カープの看板選手として一時代を築いてくれると思っていた。
あえて厳しくあたったのも、全ては末永が一流選手として開花してくれる事を願っていたからこそだった。
『末永は、あとはもっとがむしゃらにやってくれたら…強い心を持ってくれたら必ず化けると思うんじゃが…』
松本奉文や野村謙二郎に、そんな事をぼやいた事もあった。

─ 前田さん、俺、もし来年も野球ができたら── あなたを超えるバッターになれると思いますか? ─

「スエ!!」

末永真史という野球選手は、もうこの世にはいない。

【生存者残り34名】



リレー版 Written by ◇富山
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