50.「優しい男」

    

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「山崎さんが探してましたよ、山内さん」
名前を呼ぶ声にゆっくりと振り向くと、部屋の入口に幹英が立っていた。
「大丈夫ですよ、監督たちにはバレてません。
夜中にどこかの家で電気がついたらヤバかったでしょうけど、
さすがにそんな目立つことをするような馬鹿はいなかったみたいだ」
「お前、俺が何をしたか知って…!?」
「隠し事が下手なんですよ。山内さんは昔から人が良すぎる。気をつけたほうがいい」

電気・水道といったライフラインを停止して、選手たちが一箇所に長期潜伏できないように…
だがその役割を首脳陣から任された山内泰幸は、密かにその命令を無視していた。
朝になってから、そのことが本当にばれていないかと不安になった山内は、
放送が終わり本部の様子が落ち着いた頃合を見計らって学校を抜け出したのだ。
近くの民家の台所で水道の蛇口を捻ると、ステンレスの流し台に水滴が跳ねる。
幹英が現れたのは、それを確認して山内がほっと一つ息をついた後だった。

「焼け石に水ですよ、そんなことしても」
「わかってる。でもせめて…」
「乾きに苦しむ選手が出ないように、ですか。
もっともその恩恵に預かれるのは市街地に潜伏している一握りの奴だけですけどね」
「……だからわかってるんだ、そんなことは!」
思わず声を荒げていた。

家族のことを思ったとき、山内にはこの殺人ゲームの運営者になる他の道は残されていなかった。
計画に荷担することを断れば、間違いなく自分は殺されていただろう。
…一旦そう決めたのだから、そこで自分のため・家族のためと腹をくくってしまえば楽だった。
だが、それができる山内ではなかった。
仲間たちがこんな理不尽な殺し合いに巻き込まれているのを、見ているだけというのは辛すぎた。

「…俺は野球が、カープが好きなんだ」
次々に本部に入ってきた死者の名前を聞いた時の、まるで自分が撃たれたような胸の痛み。
広島以外でプレーをすることはできないとユニフォームを脱いだときに、
自分のできるだけのことを、このチームのためにするのだと誓ったはずなのに、何もできない。
やはりこんな計画、命をはってでも止めるべきだったと涙が流れた。
だが、そうするとすぐに家族の顔が頭に浮かんでしまう。
山内は、そんな己の弱さが情けなかった。
仲間の為に何かをしたくても、こんなことしか出来ない非力さがもどかしかった。

少しの静寂のあとで、幹英がまた声をかける。
「山崎さんが、探してました。例の準備があるんじゃないですか」
「ああ、すぐに行く」
のろのろと歩き出した山内の肩が、幹英と並んだところで声をかける。
「この事は…」
「大丈夫っていったじゃないですか。誰にもいいませんよ」
「なあ、幹英。お前、何を考えている?」
山内には、幹英の心が読めない。
この男は自分と違って腹をくくって運営に荷担しているのか…いや、
「そうですね…色々なことを、です」
いったい何を企んでいるというのだろう。

山内がその家を出て行くのを待って、幹英はそのまま台所に歩み行って流し台に目を落とした。
(俺もですよ、山内さん。俺もこのカープが…野球が好き“でした”)
― カープが好きなんだ ―
銀のステンレスの上に残る水滴は、そう言った山内の儚い優しさの形だった。

【生存者 残り34名】



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