55.「境界線」

    
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目を覚ましてすぐに自分の身体の違和感に気がついた。
全身が熱っぽく、だるい。そして
「ぐわぁっっっ」
ゆっくりと上体を起こそうとした福地は、右肩に激痛を感じてとっさに手をあてた。
布がぐるぐると何重にも巻かれている。
(肩…ああそうだ、長谷川に撃たれて…)
身体の違和感の原因を思い出し、福地はまた布団の上に身体を倒した。

そこで初めて、自分が屋内にいることに気がついた。
薄い色合いの広間の窓に引かれたカーテン。
角の丸い家具。馬の形をした木の遊具。
(ここは…保育園?俺はどうしてこんなところに?)
そういえば、自分の寝かされている布団も、子供用の小さなものを並べてある。

あの時。
長谷川と取っ組み合う形になって、銃の引き金が引かれた。
右肩の痛みに驚いて腕を放した隙に長谷川が走って逃げていったことを覚えている。
とどめを刺さなかったのはおそらく制限時間が迫っていたから。
そして自分も逃げようとして…立ち上がって…走って…
そこからの記憶が全く無かった。
「福地さん?よかった!福地さん、気がついたんですね!」
突然の声に驚いて顔を向けると、部屋の引き戸を開けて天野浩一(48)が立っていた。

「とにかく急いで逃げようと思ったら、福地さんが倒れているのを見つけたんです。
どこかで手当てをって思って福地さんを背負ったら誰かが来て、ビックリして。
今、思い返せば栗原だと思うんですけど、でもその時は気が回らなかったんです。
怖くなって逃げ出してしまって、飛び込んだのがこの保育園でした」
「そうか、お前が助けてくれたのか」
「傷口を押さえて、その辺りのシーツで縛っただけです。血の量がすごくて…」
そうだろうなと、福地が呟いた。
靭帯や筋肉の怪我のことは知っていても、銃創のことは何も知らない。
それでも、こうして話している途中で目がかすみ、天野の声が遠ざかりそうになるのは…。
よく知らないなりに、“そういうこと”なのだろうと見当はついた。
動かそうとした感じでは、肩の骨は折れているだろう。そして大量の出血。

かろうじて生きている。そういうことだ。

「あれ、でもどうして俺、生きてるんだ?お前が見つけた時、倒れてたんだろう?
三分以内に学校の周りを離れないと首輪が…」
無傷の左手を動かして首に触ると、確かにそこには金属の輪があった。
どうしてこれが爆発しなかったのだろう?
「地図を見てわかったんですけど。立入禁止区域っていうのは、狭いんです」
そう説明をしながらながら、天野が床に置いてあった地図を引き寄せた。
「学校から半径50mか…100mはない感じに見えます」
目の前にかざされた地図の中央よりやや下の部分に、小さな赤い丸があった。
「福地さんが倒れていたのは、そのギリギリのところだったんじゃないかと」
気を失う前に痛みをこらえて走ったことで、ギリギリで禁止エリアを抜けた。
そのほんの数メートルの差で命拾いしたというわけだ。

福地はまた右の肩に手をやった。
この傷もそうだ。数十センチずれていれば、命がなかったかもしれない。
境界線ギリギリのところで、福地の命はこの島に繋ぎとめられていた。

話しているうちにまた視界がかすんで、福地はゆっくりと息を吐き出した。
少しづつ目の焦点を合わせていく。どれくらいの血が流れたのだろう。
人間が失血死する血液の分量は、何かの本で読んだことがあるがもう忘れてしまった。
まさかそんなことを気にしなければいけない日が来るなんて、思いも寄らなかった。

ふいに、天野が広げている地図の裏の書き込み目がとまった。
「おい天野、その地図の裏。名前のリストにつけてある印はなんだ?佐々岡さん、永川…」
しまった、というような顔をして、天野が慌てて地図を畳む。
「いや、これは…」
「何があった!!」
「……死んだ人です」
その言葉は耳ではなく、心臓に聞こえたような気がした。
「死ん…だ…?」
「朝方、放送があったんです。今までに死んだ人の名前が呼ばれました。」
視界が揺れてぐにゃりと世界が歪んだ気がした。

木村一喜の死はこの目で見た。自分もまた、死にそうになった。
そうだ、今、この島では殺し合いが行われているんだ。
自分がギリギリのところで踏みとどまった生と死の境界線。
しかし、何人かのチームメートが、それを越えていってしまった。
もう一度地図を広げさせて、放送の内容を復唱させながら印のついた名前を追った。
「なあ天野、森笠は生きてるんだよな?」
「森笠さん?あ、はい。名前は呼ばれなかったから多分大丈夫だと」
「そうか…」
天野のその答えを聞きながら、福地はまた自分の意識が遠ざかっていくのを感じていた。

ひどく眠たかった。

【生存者 残り34名】



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