58.心の歪み

    

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─ 俺と…殺り合うか? ─

─ お前もこのゲームに乗ったんだろ? だったら、…お前も殺す ─

強者が弱者を脅す。

─ や、やめ… ─

弱者が強者に怯える。

自然界の摂理であり、どんな生物でもその関係は存在する。

そういえば、さっきは自分もそんな事に巻き込まれたっけ。

──俺は、どっちだったっけ。

弱者?強者?

肝心な部分の記憶が、抜け落ちている。
いや、それだけでない。その後の事も思い出せない。
そもそも誰とのやり取りだったか?それすらも。
一体、俺はどうしてしまったんだ──?

「おはよう」
誰かに呼ばれて、意識がはっきりとした。視界が開け、一人の人物が目に入った。
「玉山…か」
「お前、その体勢で寝てたの?すごいな」
玉山健太(52)は白い歯を見せて笑った。
そう、小島紳二郎(58)はあぐらをかいたまま眠っていたのだ。
玉山の方を向いたまま目を瞑っていた小島がいきなり目を開けたので、玉山も少し驚いたように見えた。
「…あ…あれ?俺、なんでこんなとこに?」
「さぁな。俺が来た時にはもうそこにいたぞ」
玉山は時計に目をやった。
「5時半頃かな。色んな人を探してたんだけど、結局誰も見つからなくてさ。ここで休もうと思って」
「じゃあ、俺はその前からここにいたのか…」
「あ、6時に放送があってな。禁止エリアってのと…、あと、…死んだ人の名前が」
「死んだ人??」
「あぁ…。もう、6人も死んだらしい。一喜さん、佐々岡さん、永川さん、比嘉さん、井生さん」
実感がわかない。突然死んだなんて聞かされても、学校を出る前までは(木村一喜を除いては)
元気な姿で教室に座っていた人達だから。
「あ、あと田中さんか」
その名前を聞いた瞬間、小島の頭に何かが蘇った。

─ や、やめ… ─

─ お前も殺す ─

──そうだ。あのやりとりの相手は、田中敬人その人だ。
「田中さん、死んだって…?」
「あぁ。…どうした?田中さんと会ったのか?」
「…いや、なんでもない」

──じゃあ、どっちが強者で、どっちが弱者だった?
「死んだ…」

考えてみろ。田中敬人は死んだんだ。俺と争った人が。
じゃあ、俺が殺した───?そう考えるのが普通じゃないか?

「おい、小島。どうした?」

じゃあ、俺が、強者───?

「ふ…」

言われてみれば、俺が脅したような気がする。
言われてみれば、田中さんは怯えていたような気がする。
言われてみれば、俺が田中さんを殺したような気がする。


─ 殺す ─

─ やめ…て… ─

「ふ…ふふ…。ああ、そうだ、そうだったな…」
自然に、笑みがこぼれていた。
そうだ、俺が殺したんだ。俺は、強い。強者なんだ。
体育会系ってやつじゃ、普通は、いや絶対に先輩は偉いんだ。
一年早く生まれただけでも、その人には逆らえない。
けど俺は、年上の人を、先輩を、余裕たっぷりに殺した。

「…ど、どうした?」
「いや、なんでもないよ…ふふ…」

そう、俺に怖いものなどない。
恐怖に引きつった弱者の顔。余裕たっぷりにそれを見下す強者の強さ。
命乞いをする弱者。容赦なく命を奪う強者。

ああ、なんて気持ちがいいのだろう。
野球の試合なんかじゃ味わえない、禁断の快楽とでも言おうか。

(こいつ…)
小島が狂っていった過程を、玉山は見た。
何か考えこみ、そして出たのが不気味な笑い。
田中が死んだ。そう聞いて出た笑み。
もしかしたら──?

玉山の顔が引きつった。
(いや、田中さんを殺してないとしても、こいつは…危ない)

(ここにいたら── 俺も危ないんじゃ…?)

これは考えすぎというものだろうか。
確証はない。だが、可能性はある。
自分は冷静な判断力を失っているのだろうか?
なにか、言葉に出来ない恐怖にかられ、心臓の鼓動がかなり早まっている事に気づいた。

いや、余計な事は考えなくていい。
一刻も早く、ここから離れなければ。

(いや…でも、素直に逃がしてくれるかどうか…)
そう思い、玉山はちょうど背後にあったディバッグの中にある武器を握り締めた。
こんなもの、使いたくはなかった。しかし、油断すれば、自分の身が危ない。
「小島、悪いけど…」
「ん?」
「俺、もう行くわ」
「…そうか。残念だな。………じゃあ、」
小島はそう言うとポケットに手をつっこみ、何かを握った。(ように見えた)
(銃だ!間違いない!やられる!!)

手にもった武器、それは金属バットほどの長さの棒に刃がついた、丁度使いやすいくらいの大きさの斧だった。
打者転向を薦められた──勿論断固として拒否したが──自分に対する皮肉か、と思ったのは被害妄想だろうか。
せめて手榴弾とか、投手らしい武器にしてほしかったとは何度も思わされた。
その斧を振り上げ、奇声を発して小島に飛びかかろうとしたその時だった。
「うああああああ!!」

_ガチャッ

その玉山の叫び声と全く同時に、二人のすぐ横にあった入り口のドアが開いたのだ。

「…え??」

そのドアを開けた大島崇行(46)はその光景に目を丸くし、呆然と立ち尽くした。
「え、…け、健太…さん??」
「玉山、どうしたの?」
玉山はそこでようやく我に帰り、振り上げた右手を降ろした。

「何してんですか…?」
「ち、違うんだ大島!俺は…お、俺はっ!」
横目でちらりと見たところ、小島は銃など持っていない。
慌てて隠したような、そんな素振りもなかった。

(俺が…錯乱しただけ…なのか?)

とにかく、玉山にとっては、どう説明していいかが分からなかった。
斧を後ろに放り捨て、パニックになった頭を落ち着かせた。
「あーびっくりした。大島、助かったわ」
「…え?あ、はい…」
「まぁ一旦落ち着こうぜ。あ、俺コーヒーでも入れてくるよ」
小島は危うく殺されかけたにも関わらず、何事もなかったかのように立ち上がり、台所に歩いていった。

【生存者残り34人】



リレー版 Written by ◆CSaSPFPJ7o
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