60.「カウント0-2」

    

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一球目、わずかにはずれて、ボール。
二球目、これもはずれて、ボール。
カウント0-2。
ストライクが入らない。

ガサガサという葉音に、長谷川は飛び起きて格子の隙間から外の様子を伺った。
狸が一匹、茂みから飛び出してきてまた消える。ほっとため息をついた。
この、神社の社殿というのは絶好の隠れ場所に思えた。
雨露も凌げるし、土の上より体力の消耗も少ない。
島のほぼ中央で市街地にも山にも近く、身を隠す茂みもたくさんあった。
幸い朝方の放送の“禁止エリア”とやらにも含まれていなかったので、しばらくはここを拠点にすることに決めていた。

辺りに静寂が戻ると、またごろりと横になって先ほどのことを思い出す。
(くそ、絶好のチャンスだったのに…)
嶋と一緒にいた大竹はあまりにも無防備だった。
照準を定めて引き金を引いた。だが、当たらなかった。
最後の瞬間に、腕がぶれた。
ストライクゾーンを大きく外れて、ボール。

今になって考えてみれば、あのまま大竹をマークし続けていればよかったのだ。
慌てて逃げ出してしまったが、彼らがあのまま場所を移動しないとは思えない。
また、一からやりなおし。
この島で長谷川が狙う三人の人間を探し出すのに、どれくらい時間がかかるだろう?
そしてそれは、果たして可能なのかどうか。
動き回ればそれだけ、他のものと遭遇する危険も増える。
真っ先に大竹というターゲットを見つけたという千載一遇の機会を逃したことが、返す返すも悔やまれた。
(まあ、大竹はあれだけ隙だらけなら放っておいても生き残ることは無理だろう…)
自分に言い聞かせながら、床に落ちていた地図を引き寄せて参加者リストを見詰め直す。

出発を待つまでの間に長谷川が考えたのは、生き残ることではない。そんなことは当然だ。
重要なのは、生き残ってそのあとどうするのか、だ。
新しいカープとやらが出来る。そこで自分は何をしたいのか。
結論は呆気なかった。
エースになって活躍して認められて、新監督のツテを頼りにメジャーに行く。
そのためには、生き残った時に自分がエースとなるための障害を取り除いておくことだ。

長谷川は過去には二桁勝利をあげた実績もあるし、今年だってソフトバンクの強力打線をほぼ完璧に押さえて見せた。
自分の持っているボールには自信があった。半端な若手やベテランに負ける気はしない。
それでも、三人。
除いておかなくてはならない顔が思い当たった。
いつの間にか自分の代わりに次期エースと呼ばれている大竹寛。
ストッパーとして実績を残し、今季前半戦抜群の投球を見せた小山田保裕。

そして…
リストに記されている文字はすべて同じフォントで書かれているはずなのに、その名前だけが強調されているように見える。
黒田博樹。背番号15。
その絶対的な名前を取り除かなければ、自分が新チームのエースになることはありえない。
最低でもこの三人を殺して生き残る。
だが、長谷川がその計画を成し遂げるためには、もうあまり余裕はなかった。
カウント0-2。遊び球はあと一球しか投げられない。

今になって、福地を撃ったことを後悔していた。
放送で福地の名前は呼ばれなかったので、あの銃弾がただの無駄球になってしまったのは間違いない。
学校を出て拳銃を確認しただけでは分からなかったのだ…長谷川の武器は拳銃“だけ”で、装填されている6発以外の予備の銃弾が入っていないということを。
(あと4発で三人……)
しとめられるだろうか。
10番台の背番号のところに固まった三人の名前を、穴があくほど睨んだ。
去年までだったら、この近くに自分の名前もあったはずだ。今は『42』の番号は若手の中に埋没している。

余剰の弾は一発しかない。
誰かが先にその三人を殺すか、予備の弾丸が手に入る可能性を考えるか…。
格子ごしの光が小さな神社の社殿の中に差し込んできた。
またため息を一つついて、無造作に地図を放り投げる。
まだ初日の朝になったばかり、時間は充分にあるはずだ。
(大丈夫。三球三振で決めてやるさ)

0-2。
それは荒れ球の長谷川にとっては珍しいカウントではない。
まだまだ、勝負はここからだった。

【生存者 残り34名】



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