5.プライドの跡に芽生える感情

    

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俺は誰にも負けたくないし、負ける気も勿論無い。

黒田博樹(背番号15)は、悲しみとも怒りともつかない表情をして
ただ黙って目を瞑っていた。

目の前で少なからず世話になった2人の人間の死を見たというのに
頭の中には悲しみや怒りの感情は微塵も浮かんでこなかった。
我ながら薄情だと思う、冷たい人間だと思う
でも、それよりも俺は―――――――――――――――
黒田はある『言葉』を聞いた後から
もやもやとしたものが腹の中で膨れ上がっていくのを感じていた。

「………ざきこうじくん」

ぼんやりと視線を扉のほうに移すと、幾分強張った表情を浮かべた山崎浩司(背番号00)が
重そうなザックを抱えて廊下へと出て行く所だった。

(なんでこんな状況になってるんだっけ?)
どうも自分は山本浩二の変わり果てた姿を見てから後の記憶が曖昧らしい。
「あいつらがまたあれを、山本さんだったモノを運び出した後―――」
今の今まで自分の目の前で繰り広げられていたことを思い返してみた。
今の今まで文字の羅列としてしか捉えられなかった言葉の集合体

『ここ数年広島東洋カープの成績は低迷、Bクラスの常連、挙句今季は最下位だ』
『監督やコーチの挿げ替えはきくが選手の挿げ替えはきかない…不公平じゃないかい?』
『低迷の原因は上だけの責任じゃあない、君たちにも責任はあるんだ』
『公式戦に出場するのは一軍の選手、そうだろ?』
『よって今僕はここに宣言します、ここにいる00番山崎君から98番フェリシアーノ君迄全員に
  バトルロワイアルを行ってもらい、最後まで生き残った3人だけをまた元の日常へと帰してあげまーす』
『生き残った3人は破格の待遇で迎えてあげるよ』
『詳しい説明もその生き残った3人にだけ実施します』
ああ、オーナー様は本当に身勝手だな、そう思ったのを覚えている。
『さて、バトルロワイアルのルールは簡単』
『制限時間の3日以内に生き残り人数を3人にまで減らせばOK』
『6時間毎に定時放送を流すのでよく聞いておくようにね』
『誰が死んだとかどこが禁止エリアになったとか重要な事を流すので
 絶対に聞き逃さないように』
『一応君達がここを出る時には
 最低限の食料と水、地図とコンパス…それとランダムで武器を一つ渡します』
当たり外れはあるけどそこは臨機応変に頑張ってくださーい
『ここは以前は人も住んでいたけれど、今は無人となった島です、この島の中ならどこを歩いてもおーけー』
『ただし、禁止エリア内に足を踏み入れたら
 君達が首につけている首輪がどかーん!…と爆発するので、
 放送はよく聞いておかないと命取りになるよ、まあ聞きたくはないだろうけど』
『制限時間の3日を過ぎた時点で生き残りが3人以上残っていた場合も
 全員の首輪を爆発させるので…そのつもりで頑張ってね』

はたから見て滑稽なほど大げさな身振り手振りをつけて
松田元が説明していたのを覚えている。

そこでふと回想を止め、恐る恐る手を首筋に運んでみると、
ひやりとした感触から何かが巻きついているのがわかった。
これが本当に爆弾なのか―――正直胡散臭いことこの上ないが、多分事実なのだろう。
黒田はそこで一息つくと、また回想に耽った。

『救済措置としてもう1つ条件を出します』
『イスカリオテのユダ、知ってるかい?』
『要は裏切り者ってことさ』
『君達の中に3人、こちら側についた裏切り者がいます』
『その3人は後の2人が誰かという事は知りません』
『その3人にはこちら側の駒として動いてもらう事になっているのだけれど』
『3人がどんな理由にせよ全員死んだ時点でも、このバトルロワイアルは終了します』
『最低死ぬのは3人でも済むんだ、有り難く思ってくれよ』
最低3人、誰が裏切り者か分かっている場合でしか有り得ない可能性。
『…まあ誰が裏切り者か、なんて事は僕側の人間か…もしくは本人にしかわからないわけだけど』
『怪しい奴を片っ端から殺していくかい?それで裏切り者が見つかるといいんだけどねえ』
確かその話が出た後からざわめきの感じが変わったのを覚えている。
まあそうかもしれない、今まで一緒に戦ってきた仲間の中に裏切った奴がいるなんて聞いたら
誰だって疑心暗鬼に陥るのが普通だと思う。
『以上、簡単なルール説明でした』
『同じ穴の狢なんだからチャンスは皆公平平等にね』
『期待してるからみんな頑張ってくれ』

(今年は俺何時にもまして頑張ったつもりやけどな)
完投数は最多11、最多の15勝、
横浜の三浦に次いではいるものの防御率はセリーグ2位。
同じ穴の狢。それを聞いた後、急速に心が冷えていったのを覚えている。

その言葉が黒田の自尊心を大いに傷つけたことは言うに難くなかった。
「……俺もよくよく運のない男だな」

ふと、今年ユニフォームを脱ぐこととなった同期の顔が浮かんだ
同期のドラ1、自分の1番のライバルでもあった男、でももうここにはいない。
それが俺にとって良い事なのか悪い事なのかはわからないが―――――――
黒田はキッと松田元の顔を睨み付けた。

自チームとはいえ元々投手はみんなライバル、突き詰めればみんな『敵』だった。
その「投手」が「ここに存在する全ての者」に変わっただけの事
上等だ、俺は負けない、俺は最後まで生き残ってお前も殺してやるよ。
生きて帰ってまた野球をやるんだ、今以上を目指して、もっともっと。
「次、0番木村拓也君」

悪夢のゲームがちょうど始まりを告げた頃、東京では
山本浩二が残したもの、松田元曰く『少々厄介な事』が今まさに動きだそうとしていた。
「ねえちょっと、これから二人でホテルどう?」 


Written by 301 ◆CChv1OaOeU
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