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<p>709 名前:<strong><font color= "#009900">以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします</font></strong>[sage]投稿日:2005/11/02(水) 23:38:30 ID:bRMQKPS80<br> 冬のきらきらとした光が、僕の顔を照らす。<br> 「んー、んん……」<br>  ふぁあ、朝か。<br>   今日も、時間通りに起きたし快調快調。<br> 窓を開けて、朝日を拝む。道行く学生たちが目に入る。<br> 「朝も早くから、ご苦労さま~」<br> 「ちょ! あんた、いっつもいっつもこのクソ寒い中あたしを待たせるんじゃないって。<br> さっさと降りてきなさいよ! 何時だと思っているの?」<br> (あーー、クソ寒い~~~っ。早くぅ~~~)<br> 「あー、ツンおはよ。今いくー」<br> 「10秒で来なさい! 早く全力で!」<br> (まったく、あたしがこうやって急かさないといっつも遅刻する!)<br> 「ごめーんっ」<br>  僕は急いで着替えて、下に行き、軽く彼女に挨拶する。<br> 「いやあ、冬の朝は弱くって」<br>  笑う僕に、彼女は<br> 「あんた、馬鹿じゃない?」<br>  と、いつものようにクールに笑った。<br> 「あはは」<br> 「いつも、心配してくれてありがと」</p> <p>710 名前:<strong><font color= "#009900">以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします</font></strong>[sage]投稿日:2005/11/02(水) 23:39:22 ID:bRMQKPS80<br>  ツンはなんだかんだいって、いっつも僕のことを心配してくれる。<br> 「あー、はいはい。ったく、隠し事できないってこういうとき不便」<br>  彼女はふいっとそっぽを向いた。<br> 「さて、今日も一日頑張りますか!」<br> 「頑張るのは、私よ。全く。あーの、人ごみの中に行くんだからね」<br>  彼女は、ちょっと特殊な病を持っている。<br>  詳しい理由はわからないけど、テレパシーの逆。<br>  つまり人にひっきりなしに、自分の思っていること考えていることを送信している。<br>  本人の意思とか関係ナシに、それは続いている。<br> 「何かあったら、ぼくが守るから」<br> 「はいはい、頼りにしているわ」<br> (いつも、ありがと)<br>  こうして、僕と彼女の一日が始まる。</p> <p> こっそりと、投下。実は言うと、今日が初めてでドキドキしている。<br> ウケが良かったら続けてみようと思う。</p> <p>746 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/03(木) 22:38:48 ID:LkMjcUwY0<br>  僕と、ツンの通学路は凄く複雑で迷路のような道を通る。<br>  彼女のサトラレ範囲はよく解らないけど、結構な位置に及ぶ。そのせいか、人のいないほうへ居ないほうへと歩いていく。だから、毎日同じ道というわけじゃない。<br>  今日は、思いっきり最長ルートだった。<br> 「ちょっと、ツン。頼むからもう少しのんびりと歩こうよ」<br>  その瞬間、すたすたと先を歩いていた彼女が振り返りざまに<br> 「だったら、あんたもさっさと起きれば良いでしょ!」<br> 「僕は時間通りに起きているケド」<br> 「あたしが来る時間に起きてどーするの、馬鹿でしょ、脳みそ凍結してるでしょ」<br> (馬鹿だ……)<br>  その瞬間、道行くサラリーマンがふっと僕らのほうを振り向いた。<br>  お疲れ様です、そしてごめんなさい。と、心の中で謝っておく。<br> 「いや、それが僕にとっての時間通りだから~。ツンがもう少し早く来れば、早く起きるよ。人を待たせているって思えば、早く起きれるからさ」<br> 「私の気遣いじゃない、感謝なさい。冬の朝ぎりぎりまで、寝かしてあげるこの優しさ」<br> (うー、あたしも結構朝は弱いのよ~。あんたなら解っているでしょっ)<br>  ツンは勝ち誇った顔で、僕のほうを見る。悟られているって解っていながらの、この表情。<br> 「ま、まあ、今日は冬の散歩道が長かったというコトで」<br> 「そ、それもそうね」<br>  冬の空気は、どこか新鮮な感じがする。毎日ツンと歩き回るこの町も新鮮な感じがするし、なんか気分が冴え渡る。そんな感じがする。<br>  横を見れば、ツンも気分が上々のようで、さっきから歌を歌っていた。<br>  その聞こえない歌声は冬の青空に良くあう、とっても澄んでいる声だった。<br>  ツンが横に曲がって、公園の中に入った。<br>  冬の風に揺らされているブランコの先に、僕らの学校があった。</p> <p>815 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 00:16:02 ID:8icdw3U50<br>  僕らは遅刻ギリギリの時間帯で、学校に着いた。<br>  遅刻したって一時間目の出席を取るのはいつも遅いし、全く問題なんかない。<br>  それでも彼女はこの一年間で築き上げてきた地位を守るべく、毎日遅刻せずに学校に通う。<br> 「ふぅ! よしっ、今日も優等生の私で行きますかっ」<br>  毎日の日課のように、彼女はこういって頬をぺしんと叩く。<br>  階段を上って教室の前にきた時には、もう別人のような顔をしている。<br>  皆に親しまれる、美人で清楚で元気なツンがそこにいた。<br>  それは、彼女がサトラレる人間として生き抜く処世術みたいなものだった。<br> 「あ、ツンちゃんおはよ~」<br> 「おはようっ!」<br> (今日も一日良い天気ね)<br> 「おぉっ! ツンちゃん今日もダーリンのお出迎えご苦労様♪」<br> 「からかわないでよ~」<br> (んもぉ~、ダーリンってー)<br> 「あはw 照れてる、照れてるっ。ダーリンに反応しているっ」<br> 「照れてないったらぁ」<br>  ツンが扉をがらっと開けると、数人の女子がツンに話しかけてきた。<br>  その全員に、にこやかに挨拶をして席に着く。<br>  それから、数名の女子と他愛も無い話をしだした。<br>  僕はやることも何もないので、仕方なく席について机に突っ伏す。<br> (なるほどね♪ あの人の歌が好きなんだ、確かにきれいな歌声よね)<br> (うんうん、解るな~。私も好きだもの、かっこいいよね)<br> (そのアルバム、今度探してみるねっ)<br>  ツンの心の声は、教室の喧騒のなかでも、物凄くクリアに聞こえた。<br>  ここからでも、話し方やその内容がわかる。<br>  きっと話をする時は、話に凄く集中しているんだろう。聞くときは聞くときで、しっかりと返事をして、相槌中もちゃんと流さずにしている。</p> <p>816 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 00:20:56 ID:8icdw3U50<br>  教室にいる誰もが、その心の声で、彼女の話し方、その人となりが解った。<br>  とっても相手に好感をえる。そう言う話方を、ツンはしている。柔らかく誰にでもいい人と思われる、そう言う接し方をしている。<br>  それから話は変わって多分テレビの話をして、今日の4時間目の先生がインフルエンザを起こしたとか、そう言う話をしていた。<br> 「よっ! おはよー、さんっ」<br> 「んあ、おはよ」<br>  顔をのっそりとあげると、村上がいた。いつものように、全力疾走で来たんだろう。息が荒かった。<br> 「あのさあ、思うにいっつもそんなに全力で走ってこなくても良いじゃん」<br> 「馬鹿かっ、お前はっ! 朝の行動を把握しておいて、ギリギリ以外に来て何の得がある?」<br>  くわっと思いっきり力説される。ほんと、コイツって。<br> 「はいはい、そうだね。それじゃあ、そろそろ先生が来るんだ」<br> 「んむ、俺の勘だと、今階段を上っているあたりだな」<br> 「しっかし、よく解るねえ……。感心するというか、なんと言うか」<br>  僕がつくづく、呆れながら言うと<br> 「だろ~、かの天才桜木花道も、何度もファールをしてギリギリを知った。俺も何度も遅刻をしてギリギリと、先生の行動を知った」<br>  自信満々に、コイツは言ってのける。<br>  そうこうしている内に先生が来て、所定の連絡を取った。</p> <p> 待っている人がいるかどうか解らないけど、一応続きを書けるところまでです。<br> 話をあげたかぎりは、最後まで頑張って書いてみます。<br> 今回の反応が少し怖いなあ。</p> <p>iQOさん、やっぱり凄いwww<br> 続きwktk</p> <p><br> 847 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:24:08 ID:8icdw3U50<br>  別に、たいしたことは言ってなかったけど、四時間目の授業が入れ替えになったってのが少し気になった。入れ替わる先生は、四時間目に開いている先生というコトだった。<br> 「ツンはただでさえ今日はハードワークだから、負担になるような授業じゃなければいいなあ。もしも――」<br>  一時間目の先生が入ってきたので、独り言をやめる。<br>  ツンの嫌いな、数学Ⅱの授業だった。その後も、物理、英語と嫌いだったり疲れたりする授業が続く。<br>  四時間目は、ツンの好きな国語であって欲しいなあ。なんて思っていたら、先生が黒板に今日の授業で使う公式を書いていた。<br> (えっと、sin(α+β)=っと)<br>  ツンが黙々と授業に励んでいる声と、先生の説明する声だけが教室中に響き渡る。<br>  今日は特に彼女の苦手な図形の話だから、疲れるだろうな。ツン。<br>  そんなことを思いながら、ずっとうとうとしていたら授業は終わった。<br>  授業が終われば、彼女の近くに人が集る。早めにテストの要点を聞いている子や、今の先生の噂話なんかをして、また次の授業になる。<br>  そんな彼女の様子をただなんとなーく眺めていた。ちょっとだけ、心配だったし。<br>  窓際で、冬の光を浴びて微笑む彼女は、本当に別人に見える。僕の知らない誰かが、笑って話に応じて、時々たしなめたりしている。<br>  その別人はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ違和感を感じる。きっと僕だけにしかわからない微妙な違和感。二人が共に共有する違和感だから。<br>  クラスの男子が、ツンを眺める僕の姿を見つけて、何事かはやしたててきた。<br>  それに適当に応じて、また机に突っ伏す。次の授業もあまりマジメに受ける気がしなかった。<br>  僕が授業なんかたいして聞かずに、うとうとしたり、適当にノートを取っている間も、ツンは必死に勉強していた。<br>  そうして、二時間目も終わり三時間目も終わった。</p> <p>とりあえず、今日はこの話の最後まで投下しますっ。<br> iQOさん、そうだね♪ 頑張るっ<br> にしても、クオリティー高いっ</p> <p>848 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:25:00 ID:8icdw3U50<br>  四時間目の授業になったとき、僕の嫌な予感が的中した。<br>  テスト範囲の関係で、数学Ⅱの授業になった。<br>  ツンは大丈夫かな? もう結構疲れているだろうな。<br>  窓際を見ると、ツンが目頭を押さえて頭を振っているのが見えた。<br> (ふぅ~~、よしっ! 頑張ろうっ)<br>  四時間目の間、ずっとツンの様子を見ていた。<br>  普通の人と違って、ツンは授業中に気を抜いたり、眠ったりとか、そういう休憩ができない。<br>  そんなことをすれば、先生に-の印象が筒抜けになるし、彼女のイメージにも傷が付く。<br>  誰にも、パーフェクトな自分である為、授業中も頭をフル稼働している。<br>  限界そうだった。何度も、目頭を押さえてはマッサージをしている。<br>  四時間目が終わると、僕は急いで彼女をいつもの場所に連れ出そうとした。あそこなら、僕たちが勝手に鍵をかけちゃったから、誰も入ってこれない。<br>  その時。<br> 「ねえ、ツンちゃんっ。一緒にお昼ご飯食べよ~」<br> 「えっ?」<br> (昼休みくらい、疲れるから一人にして欲しいなあ……)<br>  ぼっとしたツンが、話しかけてきた女子に向かって、ぽろっと本音をもらしてしまった。<br>  瞬間。<br>  ツンに話しかけようとしていた人たちや、クラスの視線が一気に彼女に集中する。<br> 「あ、ああ、ご、ごめん、ごめんね。ツンちゃん」<br>  相手の子が、おろおろとうろたえだした。<br>  ツンの顔から血の気がさーっと引いていった。<br> (あ……)<br> 「ごめんっ! 今日ツン、実は言うと風邪気味なんだ~」<br>  僕は、大声で言った。<br> (あああ……)<br> 「え? ツンちゃん、そうなの?」<br> 「うん! ほら、風邪気味のときって人にうつるのを心配して、なるたけ1人で居たいし、それに結構疲れちゃっているものだよねっ」<br>  とりあえず何でも良かった。早口でまくしたてて、ツンの今の思いの正当性を示せれば。<br> 「あ、ああ、なるほど。そっか、それはそうだよね。風邪を引いてたんだ。早く元気になってね、ツンちゃん♪」</p> <p>849 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:26:03 ID:8icdw3U50<br>  相手も納得をして、笑顔で微笑む。<br>  クラスの彼女に向けられた視線が緩む。<br> 「ほら、ツン。保健室に行こう? お弁当は向こうで食べるよね? ほら、お弁当持って」<br> (うん……、うん……)<br>  僕は、呆然とした彼女の手を引いて教室を出る。遠い目をしていて、心ここにあらずという感じだった。<br> 「それじゃあ、僕はツンを保健室に連れて行くから、皆は心配しないでね。もしも昼休み戻ってこなかったら、早退ってことで! 荷物は僕が取りに来るから!」<br>  最後にくるっと振り向いて、教室の皆に言う。はっきり言って、今彼女の心配をされたら凄く困る。特に保健室に行かれたら、それこそ取り返しが付かなくなる。<br>  だって、嘘だから。彼女を守る嘘だから。そこに、彼女はいない。<br> 「ね? ツン。どうする? 今日は帰る? それとも、いつもの場所に行く?」<br> (……、どうしよう……、どうしようどうしよう……)<br> 「それじゃあ、少し風に当たろう? いつもの場所に行っていて」<br> 「うん、うん……、うん」<br> 「僕は購買で買い物をしてから、すぐに行くから!」<br>  ツンはその言葉を聴いているのか解らないほど、弱弱しい足取りで歩き出した。<br>  あまりのショックで、今のツンは考えることを停止している。<br>  こうなったら、僕の力じゃどうしようもなかった。<br>  人にとっての些細な当たり前が、今の彼女を酷く切り裂く。脅かす。そして奪っていく。<br>  購買に行って、ツンの大好きなイチゴミルクと、僕の昼食を買った。<br>  美術室や音楽室が並ぶ、二号館を走りぬけ、屋上に着いたそのときには、ツンは金網越しに風を受けていた。<br>  冷たい冬の風が、彼女の髪を揺らしていた。そのまま、その風が彼女をどこかに吹き飛ばしてしまうんじゃないか、そう思った。<br>  ツンは空を見ていた。<br> 「ツン……?」<br>  僕が声をかけると、彼女は振り返らずに<br> 「駄目だね、あたしって弱いわね」<br> (本当、あたしってだめね)</p> <p>850 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:26:39 ID:8icdw3U50<br>  僕はなんて言って良いか解らずに、ツンに一歩近づくと<br> 「来ないで!」<br> (お願いだから、今はこっちに来ないで。こんな情けないあたし、あなたに見せられないわ!)<br>  と、言われ、その場で立ち止まる。<br> 「あの程度で、たかが、あれくらいで、あたしはボロを出しちゃった」<br> (私が生きていけるスペースを、あれくらいで消してしまいそうになっちゃった……。もう少しで、ここでは生きていけなくなっちゃった)<br> 「ツン……」<br> 「ね、もしも、あたしと別の誰かが入れ替わったとしたら」<br> (もしも、もしも、そうだとしたら……)<br> 「どうだったろうね?」<br> (そうしたら、あたしは“私”としてではなく、あたしとしていられたかな?)<br> 「どういう風に、いられただろうね?」<br> (普通の、女の子として、何にも怯えずにいられたかな?)<br>  僕は、とつとつと語る彼女を前にして何もいえなかった。<br>  沢山の気持ちがぐるぐると回っているのに、多くの言葉をかけたかったのに、それでも、何も言えずにただただ彼女の話を聞いていた。<br>  悔しかった。<br>  昔からずっとずっと感じてきた悔しさだった。<br>  ツンは全然弱くない! 頑張っている! それに、君は君としていつだっていても良い! 僕が支えるから! <br>  もっともっと沢山の気持ちが胸の中で回るだけで、本当に大切なときに大切な人に何も言えずに、僕はただ立ち尽くしていた。<br>  酷く傷を負った彼女を前にして、僕はあまりにも無力だった。<br>  風に吹かれる彼女の向こう側で、巨大な空がぽっかりと寂しく広がっていた。<br>  とても冷たく。とても蒼く透明で。<br> 「あたし、あたしもっともっと強くなるわ。誰にも、あたしの生きていく場所を脅かされないほどに強く」</p> <p>851 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:27:25 ID:8icdw3U50<br> (もう、もう、あんたに迷惑をかけないくらい強くなるから……。だから、だから……今は)<br>  彼女は小さな肩を震わせていた。あまりに、多くを背負いすぎているその肩を。<br>  僕は、彼女の元まで歩いていって、震える肩に手を置いた。<br> 「来ないでって言ったじゃない。今、顔を見せられないって!」<br> 「ツンは弱くたって良いよ。ツンは、ツンは、弱くたって構わないよ! その分、僕が君を補うから、だから、今は泣いても良いよ」<br>  僕はありったけの言葉と、思いをツンに伝えた。振り絞った。僕には、これくらいしか伝えられなかった。<br>  ツンは黙って振り向くと、静かに涙を流した。<br> 「あたし……、あたし」<br> (凄く怖かったよ……。)<br> 「もう、大丈夫だから。もう、大丈夫」<br>  そのままツンは声をあげて泣いた。<br>  僕は昔、強くなろうと誓ったあの日のように、彼女をずっと抱きしめていた。<br>  彼女を傷つける全てから守りたくて、強く強く。<br>  暫くそうしていたら、だんだんと彼女の泣き声が静まっていった。<br> 「もう大丈夫よ」<br> 「うん、良かった。本当に良かった……」<br> 「で、いつまで抱きしめているわけ?」<br>  そう言って見上げた彼女の顔は、僕のよく見知ったツンだった。<br> 「あ、ああ、うんっ」<br>  なんだか、そんな彼女を見たらほっとした。それと同時に、女の子をぎゅっと抱きしめていた事実に急激な恥かしさがっ。<br>  僕が腕を放すと、<br> 「なに、顔を真っ赤にしているのよっ」<br> (ありがと)<br>  彼女はにかっと笑いながら言った。<br> 「だ、だってっ。ツンもいい歳だし、あのその……。ほ、ほら、こ、これっ」<br>  顔を真っ赤にって、ツンのせいだよー! もぉっ。<br>  僕は急いで、袋の中からイチゴミルクを取り出すと彼女に渡した。<br> 「へぇー、あんたにしては気が利くっ」</p> <p>852 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:28:02 ID:8icdw3U50<br> 「してはって、それは余計だよっ」<br> 「まあ、でもパシリするなら、新鮮な内に届けて欲しかったわね。生ぬるいわよ、40点」<br> (本当に本当に、ありがとう)<br>  彼女は金網越しに腰掛け、口にして文句を言った。<br> 「どういたしまして。次からはそうします」<br>  僕も彼女の隣に腰掛けて、遅い昼食をとることにした。<br>  二人、静かにそのままお昼ご飯を食べる。<br>  貯水タンクの向こう側にある空が、ほんの少しだけ柔らかく雲に覆われていた。<br> 「ねえ」<br> 「うん?」<br> 「あんたにとっての、ここはどういう意味がある?」<br> 「僕にとっての、ここ?」<br> 「そ、あんたにとってこの屋上はどういう意味? さっき、あたしに家か、ここかどっちかに行く? って言ったわよね? ねえ、それってどういう意味があったの?」<br> 「小さな居場所。かな? 僕らの」<br> 「うん♪ そっか」<br> (あたしと一緒だ)<br>  ツンは嬉しそうに頷くと、僕のほうにちょこんと頭を乗せてきた。<br> 「ツン?」<br> 「し、暫くはこうさせて。駄目かな?」<br> (お願い)<br> 「ううん、良いよ」<br> 「あ、ありがとっ」<br>  また風が屋上に吹き付けてきたけど、もうそんなに寒くは無かった。<br> 「あたしにとっての、ここはね。治外法権の、オアシスみたいなもの。ここでは、誰もあたしが私であることを求めないし、咎められも、怯えることもない。そんな、唯一の場所。あたしが、本当の意味であたしでいられる数少ない、そんな場所」<br> (そして、何もかも煩わしいことを考えずに生きていける場所)<br> 「うん、僕が鍵壊しちゃったから、誰も来れないもんねっ」<br> 「そうね~。あんたの、馬鹿力も役に立つものよ」<br> (そのおかげで、こうしていられるから)<br> 「人はね、1人じゃ自分が自分だって認められないの。あたしがいて、そのあたしを認めてくれる誰かがいて、初めて、あたしでいられる。私である自分を認めてくれるんじゃなくって、あたしである自分を認めてくれる。そう言う場所があって、初めてあたしはあたしでいられる」<br> (あんたが、あたしをいつまでも認めてくれるから、あたしでいられるの。だから、頑張れるの</p> <p>853 名前: <font color="#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font> []投稿日:2005/11/06(日) 23:34:01 ID:8icdw3U50<br>  ツンは、そっと空を見上げた。<br>  僕が僕でいられる理由か。<br>  それはきっと、ツンと肩を並べてこうしていられる。それが、僕が僕である理由なんだろうなって思う。僕が僕でいられるのは、ツンがいるから。<br> 「うん」<br>  僕も空を見上げてみた。<br>  この果てしなく広く広がる空のした。<br>  僕らはあまりに小さく無力でよわっちい存在。<br>  それでも、こうしてツンが横にいれば僕は頑張れるような気がした。<br>  ツンの為に、どこまでも強くなれるような、そんな気がした。 <br>  僕らは、1/2の存在だから、二人で一緒に頑張れる。<br>  僕らの居場所には、柔らかな光が差していた。</p> <p>                    第一話おしまい。                  <br>  長くなってごめんっ!<br>  これで、一応この話の大まかなストーリーは終わりですっ。<br>  一応、この話1つでも通じるけど、まだサイドストーリーやコネタ。<br>  ツンと主人公の昔話や、委員長や内藤が出てきてみたいなのも考えてます。<br>  設定としては、コイツ等結構あれやこれやとあるんで。<br>  では♪ とりあえず、ここまで付き合ってくれた皆! 本当にありがとう!<br>  vipデビューが、ここで本当に良かったって思う。<br>  すげえ優しいし、GJ言ってくれたりwktkしてくれた皆、凄く感謝してます!</p>
<p>709 名前:<strong><font color= "#009900">以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします</font></strong>[sage]投稿日:2005/11/02(水)23:38:30 ID:bRMQKPS80<br> 冬のきらきらとした光が、僕の顔を照らす。<br> 「んー、んん……」<br>  ふぁあ、朝か。<br>   今日も、時間通りに起きたし快調快調。<br> 窓を開けて、朝日を拝む。道行く学生たちが目に入る。<br> 「朝も早くから、ご苦労さま~」<br> 「ちょ! あんた、いっつもいっつもこのクソ寒い中あたしを待たせるんじゃないって。<br> さっさと降りてきなさいよ! 何時だと思っているの?」<br> (あーー、クソ寒い~~~っ。早くぅ~~~)<br> 「あー、ツンおはよ。今いくー」<br> 「10秒で来なさい! 早く全力で!」<br> (まったく、あたしがこうやって急かさないといっつも遅刻する!)<br> 「ごめーんっ」<br>  僕は急いで着替えて、下に行き、軽く彼女に挨拶する。<br> 「いやあ、冬の朝は弱くって」<br>  笑う僕に、彼女は<br> 「あんた、馬鹿じゃない?」<br>  と、いつものようにクールに笑った。<br> 「あはは」<br> 「いつも、心配してくれてありがと」</p> <br> <p>710 名前:<strong><font color= "#009900">以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします</font></strong>[sage]投稿日:2005/11/02(水)23:39:22 ID:bRMQKPS80<br>  ツンはなんだかんだいって、いっつも僕のことを心配してくれる。<br> 「あー、はいはい。ったく、隠し事できないってこういうとき不便」<br>  彼女はふいっとそっぽを向いた。<br> 「さて、今日も一日頑張りますか!」<br> 「頑張るのは、私よ。全く。あーの、人ごみの中に行くんだからね」<br>  彼女は、ちょっと特殊な病を持っている。<br>  詳しい理由はわからないけど、テレパシーの逆。<br>  つまり人にひっきりなしに、自分の思っていること考えていることを送信している。<br>  本人の意思とか関係ナシに、それは続いている。<br> 「何かあったら、ぼくが守るから」<br> 「はいはい、頼りにしているわ」<br> (いつも、ありがと)<br>  こうして、僕と彼女の一日が始まる。</p> <p> こっそりと、投下。実は言うと、今日が初めてでドキドキしている。<br> ウケが良かったら続けてみようと思う。</p> <br> <p>746 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/03(木) 22:38:48 ID:LkMjcUwY0<br>  僕と、ツンの通学路は凄く複雑で迷路のような道を通る。<br>  彼女のサトラレ範囲はよく解らないけど、結構な位置に及ぶ。そのせいか、人のいないほうへ居ないほうへと歩いていく。だから、毎日同じ道というわけじゃない。<br>  今日は、思いっきり最長ルートだった。<br> 「ちょっと、ツン。頼むからもう少しのんびりと歩こうよ」<br>  その瞬間、すたすたと先を歩いていた彼女が振り返りざまに<br> 「だったら、あんたもさっさと起きれば良いでしょ!」<br> 「僕は時間通りに起きているケド」<br> 「あたしが来る時間に起きてどーするの、馬鹿でしょ、脳みそ凍結してるでしょ」<br> (馬鹿だ……)<br>  その瞬間、道行くサラリーマンがふっと僕らのほうを振り向いた。<br>  お疲れ様です、そしてごめんなさい。と、心の中で謝っておく。<br> 「いや、それが僕にとっての時間通りだから~。ツンがもう少し早く来れば、早く起きるよ。人を待たせているって思えば、早く起きれるからさ」<br> 「私の気遣いじゃない、感謝なさい。冬の朝ぎりぎりまで、寝かしてあげるこの優しさ」<br> (うー、あたしも結構朝は弱いのよ~。あんたなら解っているでしょっ)<br>  ツンは勝ち誇った顔で、僕のほうを見る。悟られているって解っていながらの、この表情。<br> 「ま、まあ、今日は冬の散歩道が長かったというコトで」<br> 「そ、それもそうね」<br>  冬の空気は、どこか新鮮な感じがする。毎日ツンと歩き回るこの町も新鮮な感じがするし、なんか気分が冴え渡る。そんな感じがする。<br>  横を見れば、ツンも気分が上々のようで、さっきから歌を歌っていた。<br>  その聞こえない歌声は冬の青空に良くあう、とっても澄んでいる声だった。<br>  ツンが横に曲がって、公園の中に入った。<br>  冬の風に揺らされているブランコの先に、僕らの学校があった。</p> <br> <p>815 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 00:16:02 ID:8icdw3U50<br>  僕らは遅刻ギリギリの時間帯で、学校に着いた。<br>  遅刻したって一時間目の出席を取るのはいつも遅いし、全く問題なんかない。<br>  それでも彼女はこの一年間で築き上げてきた地位を守るべく、毎日遅刻せずに学校に通う。<br> 「ふぅ! よしっ、今日も優等生の私で行きますかっ」<br>  毎日の日課のように、彼女はこういって頬をぺしんと叩く。<br>  階段を上って教室の前にきた時には、もう別人のような顔をしている。<br>  皆に親しまれる、美人で清楚で元気なツンがそこにいた。<br>  それは、彼女がサトラレる人間として生き抜く処世術みたいなものだった。<br> 「あ、ツンちゃんおはよ~」<br> 「おはようっ!」<br> (今日も一日良い天気ね)<br> 「おぉっ! ツンちゃん今日もダーリンのお出迎えご苦労様♪」<br> 「からかわないでよ~」<br> (んもぉ~、ダーリンってー)<br> 「あはw 照れてる、照れてるっ。ダーリンに反応しているっ」<br> 「照れてないったらぁ」<br>  ツンが扉をがらっと開けると、数人の女子がツンに話しかけてきた。<br>  その全員に、にこやかに挨拶をして席に着く。<br>  それから、数名の女子と他愛も無い話をしだした。<br>  僕はやることも何もないので、仕方なく席について机に突っ伏す。<br> (なるほどね♪ あの人の歌が好きなんだ、確かにきれいな歌声よね)<br> (うんうん、解るな~。私も好きだもの、かっこいいよね)<br> (そのアルバム、今度探してみるねっ)<br>  ツンの心の声は、教室の喧騒のなかでも、物凄くクリアに聞こえた。<br>  ここからでも、話し方やその内容がわかる。<br>  きっと話をする時は、話に凄く集中しているんだろう。聞くときは聞くときで、しっかりと返事をして、相槌中もちゃんと流さずにしている。</p> <br> <p>816 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 00:20:56 ID:8icdw3U50<br>  教室にいる誰もが、その心の声で、彼女の話し方、その人となりが解った。<br>  とっても相手に好感をえる。そう言う話方を、ツンはしている。柔らかく誰にでもいい人と思われる、そう言う接し方をしている。<br>  それから話は変わって多分テレビの話をして、今日の4時間目の先生がインフルエンザを起こしたとか、そう言う話をしていた。<br> 「よっ! おはよー、さんっ」<br> 「んあ、おはよ」<br>  顔をのっそりとあげると、村上がいた。いつものように、全力疾走で来たんだろう。息が荒かった。<br> 「あのさあ、思うにいっつもそんなに全力で走ってこなくても良いじゃん」<br> 「馬鹿かっ、お前はっ! 朝の行動を把握しておいて、ギリギリ以外に来て何の得がある?」<br>  くわっと思いっきり力説される。ほんと、コイツって。<br> 「はいはい、そうだね。それじゃあ、そろそろ先生が来るんだ」<br> 「んむ、俺の勘だと、今階段を上っているあたりだな」<br> 「しっかし、よく解るねえ……。感心するというか、なんと言うか」<br>  僕がつくづく、呆れながら言うと<br> 「だろ~、かの天才桜木花道も、何度もファールをしてギリギリを知った。俺も何度も遅刻をしてギリギリと、先生の行動を知った」<br>  自信満々に、コイツは言ってのける。<br>  そうこうしている内に先生が来て、所定の連絡を取った。</p> <p> 待っている人がいるかどうか解らないけど、一応続きを書けるところまでです。<br> 話をあげたかぎりは、最後まで頑張って書いてみます。<br> 今回の反応が少し怖いなあ。</p> <p>iQOさん、やっぱり凄いwww<br> 続きwktk</p> <br> <p><br> 847 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:24:08 ID:8icdw3U50<br>  別に、たいしたことは言ってなかったけど、四時間目の授業が入れ替えになったってのが少し気になった。入れ替わる先生は、四時間目に開いている先生というコトだった。<br> 「ツンはただでさえ今日はハードワークだから、負担になるような授業じゃなければいいなあ。もしも――」<br>  一時間目の先生が入ってきたので、独り言をやめる。<br>  ツンの嫌いな、数学Ⅱの授業だった。その後も、物理、英語と嫌いだったり疲れたりする授業が続く。<br>  四時間目は、ツンの好きな国語であって欲しいなあ。なんて思っていたら、先生が黒板に今日の授業で使う公式を書いていた。<br> (えっと、sin(α+β)=っと)<br>  ツンが黙々と授業に励んでいる声と、先生の説明する声だけが教室中に響き渡る。<br>  今日は特に彼女の苦手な図形の話だから、疲れるだろうな。ツン。<br>  そんなことを思いながら、ずっとうとうとしていたら授業は終わった。<br>  授業が終われば、彼女の近くに人が集る。早めにテストの要点を聞いている子や、今の先生の噂話なんかをして、また次の授業になる。<br>  そんな彼女の様子をただなんとなーく眺めていた。ちょっとだけ、心配だったし。<br>  窓際で、冬の光を浴びて微笑む彼女は、本当に別人に見える。僕の知らない誰かが、笑って話に応じて、時々たしなめたりしている。<br>  その別人はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ違和感を感じる。きっと僕だけにしかわからない微妙な違和感。二人が共に共有する違和感だから。<br>  クラスの男子が、ツンを眺める僕の姿を見つけて、何事かはやしたててきた。<br>  それに適当に応じて、また机に突っ伏す。次の授業もあまりマジメに受ける気がしなかった。<br>  僕が授業なんかたいして聞かずに、うとうとしたり、適当にノートを取っている間も、ツンは必死に勉強していた。<br>  そうして、二時間目も終わり三時間目も終わった。</p> <p>とりあえず、今日はこの話の最後まで投下しますっ。<br> iQOさん、そうだね♪ 頑張るっ<br> にしても、クオリティー高いっ</p> <br> <p>848 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:25:00 ID:8icdw3U50<br>  四時間目の授業になったとき、僕の嫌な予感が的中した。<br>  テスト範囲の関係で、数学Ⅱの授業になった。<br>  ツンは大丈夫かな? もう結構疲れているだろうな。<br>  窓際を見ると、ツンが目頭を押さえて頭を振っているのが見えた。<br> (ふぅ~~、よしっ! 頑張ろうっ)<br>  四時間目の間、ずっとツンの様子を見ていた。<br>  普通の人と違って、ツンは授業中に気を抜いたり、眠ったりとか、そういう休憩ができない。<br>  そんなことをすれば、先生に-の印象が筒抜けになるし、彼女のイメージにも傷が付く。<br>  誰にも、パーフェクトな自分である為、授業中も頭をフル稼働している。<br>  限界そうだった。何度も、目頭を押さえてはマッサージをしている。<br>  四時間目が終わると、僕は急いで彼女をいつもの場所に連れ出そうとした。あそこなら、僕たちが勝手に鍵をかけちゃったから、誰も入ってこれない。<br>  その時。<br> 「ねえ、ツンちゃんっ。一緒にお昼ご飯食べよ~」<br> 「えっ?」<br> (昼休みくらい、疲れるから一人にして欲しいなあ……)<br>  ぼっとしたツンが、話しかけてきた女子に向かって、ぽろっと本音をもらしてしまった。<br>  瞬間。<br>  ツンに話しかけようとしていた人たちや、クラスの視線が一気に彼女に集中する。<br> 「あ、ああ、ご、ごめん、ごめんね。ツンちゃん」<br>  相手の子が、おろおろとうろたえだした。<br>  ツンの顔から血の気がさーっと引いていった。<br> (あ……)<br> 「ごめんっ! 今日ツン、実は言うと風邪気味なんだ~」<br>  僕は、大声で言った。<br> (あああ……)<br> 「え? ツンちゃん、そうなの?」<br> 「うん! ほら、風邪気味のときって人にうつるのを心配して、なるたけ1人で居たいし、それに結構疲れちゃっているものだよねっ」<br>  とりあえず何でも良かった。早口でまくしたてて、ツンの今の思いの正当性を示せれば。<br> 「あ、ああ、なるほど。そっか、それはそうだよね。風邪を引いてたんだ。早く元気になってね、ツンちゃん♪」</p> <br> <p>849 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:26:03 ID:8icdw3U50<br>  相手も納得をして、笑顔で微笑む。<br>  クラスの彼女に向けられた視線が緩む。<br> 「ほら、ツン。保健室に行こう? お弁当は向こうで食べるよね? ほら、お弁当持って」<br> (うん……、うん……)<br>  僕は、呆然とした彼女の手を引いて教室を出る。遠い目をしていて、心ここにあらずという感じだった。<br> 「それじゃあ、僕はツンを保健室に連れて行くから、皆は心配しないでね。もしも昼休み戻ってこなかったら、早退ってことで! 荷物は僕が取りに来るから!」<br>  最後にくるっと振り向いて、教室の皆に言う。はっきり言って、今彼女の心配をされたら凄く困る。特に保健室に行かれたら、それこそ取り返しが付かなくなる。<br>  だって、嘘だから。彼女を守る嘘だから。そこに、彼女はいない。<br> 「ね? ツン。どうする? 今日は帰る? それとも、いつもの場所に行く?」<br> (……、どうしよう……、どうしようどうしよう……)<br> 「それじゃあ、少し風に当たろう? いつもの場所に行っていて」<br> 「うん、うん……、うん」<br> 「僕は購買で買い物をしてから、すぐに行くから!」<br>  ツンはその言葉を聴いているのか解らないほど、弱弱しい足取りで歩き出した。<br>  あまりのショックで、今のツンは考えることを停止している。<br>  こうなったら、僕の力じゃどうしようもなかった。<br>  人にとっての些細な当たり前が、今の彼女を酷く切り裂く。脅かす。そして奪っていく。<br>  購買に行って、ツンの大好きなイチゴミルクと、僕の昼食を買った。<br>  美術室や音楽室が並ぶ、二号館を走りぬけ、屋上に着いたそのときには、ツンは金網越しに風を受けていた。<br>  冷たい冬の風が、彼女の髪を揺らしていた。そのまま、その風が彼女をどこかに吹き飛ばしてしまうんじゃないか、そう思った。<br>  ツンは空を見ていた。<br> 「ツン……?」<br>  僕が声をかけると、彼女は振り返らずに<br> 「駄目だね、あたしって弱いわね」<br> (本当、あたしってだめね)</p> <br> <p>850 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:26:39 ID:8icdw3U50<br>  僕はなんて言って良いか解らずに、ツンに一歩近づくと<br> 「来ないで!」<br> (お願いだから、今はこっちに来ないで。こんな情けないあたし、あなたに見せられないわ!)<br>  と、言われ、その場で立ち止まる。<br> 「あの程度で、たかが、あれくらいで、あたしはボロを出しちゃった」<br> (私が生きていけるスペースを、あれくらいで消してしまいそうになっちゃった……。もう少しで、ここでは生きていけなくなっちゃった)<br> 「ツン……」<br> 「ね、もしも、あたしと別の誰かが入れ替わったとしたら」<br> (もしも、もしも、そうだとしたら……)<br> 「どうだったろうね?」<br> (そうしたら、あたしは“私”としてではなく、あたしとしていられたかな?)<br> 「どういう風に、いられただろうね?」<br> (普通の、女の子として、何にも怯えずにいられたかな?)<br>  僕は、とつとつと語る彼女を前にして何もいえなかった。<br>  沢山の気持ちがぐるぐると回っているのに、多くの言葉をかけたかったのに、それでも、何も言えずにただただ彼女の話を聞いていた。<br>  悔しかった。<br>  昔からずっとずっと感じてきた悔しさだった。<br>  ツンは全然弱くない! 頑張っている! それに、君は君としていつだっていても良い! 僕が支えるから! <br>  もっともっと沢山の気持ちが胸の中で回るだけで、本当に大切なときに大切な人に何も言えずに、僕はただ立ち尽くしていた。<br>  酷く傷を負った彼女を前にして、僕はあまりにも無力だった。<br>  風に吹かれる彼女の向こう側で、巨大な空がぽっかりと寂しく広がっていた。<br>  とても冷たく。とても蒼く透明で。<br> 「あたし、あたしもっともっと強くなるわ。誰にも、あたしの生きていく場所を脅かされないほどに強く」</p> <br> <p>851 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:27:25 ID:8icdw3U50<br> (もう、もう、あんたに迷惑をかけないくらい強くなるから……。だから、だから……今は)<br>  彼女は小さな肩を震わせていた。あまりに、多くを背負いすぎているその肩を。<br>  僕は、彼女の元まで歩いていって、震える肩に手を置いた。<br> 「来ないでって言ったじゃない。今、顔を見せられないって!」<br> 「ツンは弱くたって良いよ。ツンは、ツンは、弱くたって構わないよ! その分、僕が君を補うから、だから、今は泣いても良いよ」<br>  僕はありったけの言葉と、思いをツンに伝えた。振り絞った。僕には、これくらいしか伝えられなかった。<br>  ツンは黙って振り向くと、静かに涙を流した。<br> 「あたし……、あたし」<br> (凄く怖かったよ……。)<br> 「もう、大丈夫だから。もう、大丈夫」<br>  そのままツンは声をあげて泣いた。<br>  僕は昔、強くなろうと誓ったあの日のように、彼女をずっと抱きしめていた。<br>  彼女を傷つける全てから守りたくて、強く強く。<br>  暫くそうしていたら、だんだんと彼女の泣き声が静まっていった。<br> 「もう大丈夫よ」<br> 「うん、良かった。本当に良かった……」<br> 「で、いつまで抱きしめているわけ?」<br>  そう言って見上げた彼女の顔は、僕のよく見知ったツンだった。<br> 「あ、ああ、うんっ」<br>  なんだか、そんな彼女を見たらほっとした。それと同時に、女の子をぎゅっと抱きしめていた事実に急激な恥かしさがっ。<br>  僕が腕を放すと、<br> 「なに、顔を真っ赤にしているのよっ」<br> (ありがと)<br>  彼女はにかっと笑いながら言った。<br> 「だ、だってっ。ツンもいい歳だし、あのその……。ほ、ほら、こ、これっ」<br>  顔を真っ赤にって、ツンのせいだよー! もぉっ。<br>  僕は急いで、袋の中からイチゴミルクを取り出すと彼女に渡した。<br> 「へぇー、あんたにしては気が利くっ」</p> <br> <p>852 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:28:02 ID:8icdw3U50<br> 「してはって、それは余計だよっ」<br> 「まあ、でもパシリするなら、新鮮な内に届けて欲しかったわね。生ぬるいわよ、40点」<br> (本当に本当に、ありがとう)<br>  彼女は金網越しに腰掛け、口にして文句を言った。<br> 「どういたしまして。次からはそうします」<br>  僕も彼女の隣に腰掛けて、遅い昼食をとることにした。<br>  二人、静かにそのままお昼ご飯を食べる。<br>  貯水タンクの向こう側にある空が、ほんの少しだけ柔らかく雲に覆われていた。<br> 「ねえ」<br> 「うん?」<br> 「あんたにとっての、ここはどういう意味がある?」<br> 「僕にとっての、ここ?」<br> 「そ、あんたにとってこの屋上はどういう意味? さっき、あたしに家か、ここかどっちかに行く? って言ったわよね? ねえ、それってどういう意味があったの?」<br> 「小さな居場所。かな? 僕らの」<br> 「うん♪ そっか」<br> (あたしと一緒だ)<br>  ツンは嬉しそうに頷くと、僕のほうにちょこんと頭を乗せてきた。<br> 「ツン?」<br> 「し、暫くはこうさせて。駄目かな?」<br> (お願い)<br> 「ううん、良いよ」<br> 「あ、ありがとっ」<br>  また風が屋上に吹き付けてきたけど、もうそんなに寒くは無かった。<br> 「あたしにとっての、ここはね。治外法権の、オアシスみたいなもの。ここでは、誰もあたしが私であることを求めないし、咎められも、怯えることもない。そんな、唯一の場所。あたしが、本当の意味であたしでいられる数少ない、そんな場所」<br> (そして、何もかも煩わしいことを考えずに生きていける場所)<br> 「うん、僕が鍵壊しちゃったから、誰も来れないもんねっ」<br> 「そうね~。あんたの、馬鹿力も役に立つものよ」<br> (そのおかげで、こうしていられるから)<br> 「人はね、1人じゃ自分が自分だって認められないの。あたしがいて、そのあたしを認めてくれる誰かがいて、初めて、あたしでいられる。私である自分を認めてくれるんじゃなくって、あたしである自分を認めてくれる。そう言う場所があって、初めてあたしはあたしでいられる」<br> (あんたが、あたしをいつまでも認めてくれるから、あたしでいられるの。だから、頑張れるの</p> <br> <p>853 名前: <font color= "#009900">◆Qvzaeu.IrQ</font>[]投稿日:2005/11/06(日) 23:34:01 ID:8icdw3U50<br>  ツンは、そっと空を見上げた。<br>  僕が僕でいられる理由か。<br>  それはきっと、ツンと肩を並べてこうしていられる。それが、僕が僕である理由なんだろうなって思う。僕が僕でいられるのは、ツンがいるから。<br> 「うん」<br>  僕も空を見上げてみた。<br>  この果てしなく広く広がる空のした。<br>  僕らはあまりに小さく無力でよわっちい存在。<br>  それでも、こうしてツンが横にいれば僕は頑張れるような気がした。<br>  ツンの為に、どこまでも強くなれるような、そんな気がした。 <br>  僕らは、1/2の存在だから、二人で一緒に頑張れる。<br>  僕らの居場所には、柔らかな光が差していた。</p> <p>                    第一話おしまい。                  <br>  長くなってごめんっ!<br>  これで、一応この話の大まかなストーリーは終わりですっ。<br>  一応、この話1つでも通じるけど、まだサイドストーリーやコネタ。<br>  ツンと主人公の昔話や、委員長や内藤が出てきてみたいなのも考えてます。<br>  設定としては、コイツ等結構あれやこれやとあるんで。<br>  では♪ とりあえず、ここまで付き合ってくれた皆! 本当にありがとう!<br>  vipデビューが、ここで本当に良かったって思う。<br>  すげえ優しいし、GJ言ってくれたりwktkしてくれた皆、凄く感謝してます!</p>

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