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<br> 25 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/20(木)23:41:15ID:giOQQM81O<br> 気が付くと、私は見知らぬベッドの上で寝ていた<br> ここはどこなんだろう…体を起こしそれを確認しようとする<br> 「痛っ…」頭に走る鈍い痛み。体も何だか熱っぽかった<br> よく見ると右腕に点滴がついている。ここは病院らしかった<br> 「私…何で病院にいるの?」<br> あたりを見回すと、椅子に見慣れたジャージがかけてあった。胸には「内藤」と書かれていた<br> 「ブ…ブーン??」<br> ふいに昨日のことが脳裏に蘇ってきた<br> 消えてしまったブーン…私は泣いて泣いて泣き叫んで…気付いたらここにいた<br> ここにブーンのジャージがあると言うことは…<br> 昨日の事は夢か何かでブーンは私のお見舞いに来てくれてる、ブーンはいなくなってなんかいなかったんだ!<br> 頭の痛みを無視し、点滴を無理矢理引き抜き、廊下に飛び出す<br> ツンママ「きゃっ」どんっ<br> 部屋に入ろうとするお母さんと衝突する私<br> ツンママ「ツン!何やってるのっ、寝てなきゃ駄目でしょっ!!…点滴抜いたの?!何やってるのこの子は…」<br> 「ブーンは?ブーンはどこ!!お母さん?」母の問いかけに無視し質問を浴びせる私<br> しかし母は黙って首を振る<br> ツマ「いないのよ、どこにも…お母さん、ブーン君の越してきたアパートにも行ってみたの。だけど、ブーン君、いなかった」<br> 「このブーンのジャージ…どうして…ここに?」<br> ツマ「あなた公園に倒れていたのよ?酷い熱で…近所の人が救急車呼んでくれて<br>  あなたをかばうようにブーン君のジャージがかけてあったの…あなたは三日間、ずっと寝ていたわ」<br> 私は涙ながらに母に訴える<br> 「ブーン、私の前で消えちゃったの…交通事故でもう死んじゃうって…ねぇお母さんっ!ブーンの入院してる〇〇県まで連れてってっ!!お願い…」<br> <br> &gt;&gt;24thx<br> <br> 71 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)20:09:40ID:8cffbe6yO<br> 母は黙って首を振る<br> ツマ「気持ちはわかる…でもそんな常識外れな事急に言われてもお母さん納得できないわ<br>  お母さん、明日ブーン君の親戚の方とか調べてブーン君の事聞いておくわ<br>  それまでツンは寝てなきゃ駄目よ、あなたまだ酷い熱あるのよ?」<br> 「待てないわっ!!お母さんが連れてってくれないなら私一人で…」<br> 母は私の言葉を遮り、諭すように私に語りかける<br> ツマ「ツン…あなたが言うブーン君が入院してる病院、〇〇県って以外何もわからないんでしょ?<br>   あなたそんな状態でどうやってブーン君探すの?」<br> 返す言葉に詰まる私…<br> 確かにどうしようもない、どうしてブーン本人に聞かなかったのだろう…<br> 後悔に身が引き千切られる思いだった<br> 「ブーン…会いたい、会いたいよ…私、私あなたなしじゃ生きていけないよぅ…」<br> どうする事も出来なくて泣き崩れる私…<br> 生きているかすら、どこにいるのかもわからないブーン…<br> ツマ「ツン…」母は私を慰めるように優しく抱き締めてくれたけど、あの温もりではなかった<br> ツマ「わかったわ、お母さん頑張って調べてみるから…わかるまでツンしっかり寝てるのよ?」<br> 私は力なくうなずくしかなかった…私はベッドに再び横たわり目を閉じた<br> この悲しい現実から逃れるために…<br> <br> 75 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)20:46:54ID:8cffbe6yO<br> こんこん<br> ドアをのっくする音に目を覚ます。時計を見ると午後七時、あれから二時間ほど眠っていたらしかった<br> 母が戻ってきたのかもしれない、何かわかったのだろうか…<br> ブーンの行方を知りたいと思う一方、最悪の結果を聞かされた時私はどうなるんだろう…怖かった<br> 「どうぞ…」力なくつぶやく私<br> がちゃり。開くドアの音、入ってくる男の人<br> 「おいちゃん…」入ってきたのは酒屋のおいちゃんだった<br> おいちゃん「具合いはどうだ?」私の頭に手をおき優しく尋ねるおいちゃん<br> 「駄目みたい…」目に涙をたくさんためて力なく呟く私、こぼれ落ちるひとしずく…<br> おいちゃん「ブーンの事だな?」<br> そういえばおいちゃんはブーンの携帯の番号を知っていた、何か事情を知っているのではないかと思った<br> 「おいちゃん…ブーンの事、何か知らない?私、私…」<br> おいちゃん「確かにブーンから携帯の番号を聞いていた。あれからあいつに何度も電話をかけたがつながんねぇ…」<br> 私はおいちゃんに事の成り行きを話す<br> <br> おいちゃん「そうか…そりゃ確かにしんじらんねぇ話だな。だけどこれでなんとなく…わかったような気がする」<br> 「え?」<br> おいちゃん「こいつ」私の前にぬいぐるみを差し出す<br> ファービー「イテェヨー↓ツン、○○ソウゴウビョウインツレテッテヨー、ナデナデシテー…ファー…ブルスコ」<br> 「…これファービーでしょ?これがどうかしたの?」<br> おいちゃん「これ、ブーンにバイク修理の礼にもらった奴なんだ」<br> そう言えばブーンはあのときおいちゃんに何か紙袋を渡していた<br> おいちゃん「ってか舐めた口聞きやがるからぶん殴ったら動かなくなったんだよ。<br>  そしたらさっき急にこいつ動きだしてよ、ツンって言うもんだからよ、持ってきたわけだ」<br> <br> 81 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)21:54:20ID:8cffbe6yO<br> おいちゃんの言ってる言葉の意味がいまいちわからなかった<br> 黙っておいちゃんの次の言葉を待つ<br> お「こいつ、新品じゃなくてブーンが飼ってた奴なんだよ…ていうことは、ブーンが喋ってた言葉真似するって事だよな?」<br> 「あ…」と言うことは…<br> お「○○総合病院…もしかしたらここにいるかもしんねぇなあいつ<br> お前の話聞いてるとよ、普通は有り得ないけどファービー使ってあいつがお前に知らせようとしてるのかもなって思ったぜ」<br> 「私…行ってくる!!」<br> 寝てなんていられなかった。一分でも、一秒でも早くブーンに会いたい…私を動かすのはその気持ちだけだった<br> おいちゃん「連れてってやりたいのは山々なんだが…俺のおふくろが危篤って知らせがさっき来てな…このまま田舎に行かなきゃいけねぇんだ…<br>  方向が同じなら乗せていけるんだけど東北の○○県と全く逆の近畿の△△府だから…すまねぇ」<br> 「お母さんがそんな状態なのに…私のことは気にしないで早く行ってあげて、ほんとにありがとう…おいちゃん」<br> おいちゃん「いいって事よ、ツンこいつ持ってきな」<br> ファービーと諭吉二枚を私に渡してくれる<br> 「え?そんな…受け取れないよ…」<br> 優しく私に微笑みかけるおいちゃん<br> お「お前今すぐ行くつもりだろ?倒れて運ばれてきたってのにわざわざ金を病院まで持ってきてるとは思えねぇ。<br> 帰ってきたら返せばいいから気にすんな、持ってけ」<br> おいちゃんの心遣いが嬉しくて、また涙がこぼれる<br> 「ありがと…おいちゃん、必ず返すからね」<br> お「あいつに…よろしく言っておいてくれ、な?必ず…必ず会えるから…気を付けていけ、ツン」<br> 手を差し出すおいちゃん<br> 「うん、うん…おいちゃんも気を付けてね。ほんとに…ほんとにありがとう」<br> 差し出された手を強く握り返す私<br> お「気にすんな。じゃあまたな、行ってくるぜ」<br> 部屋から出ていくおいちゃん<br> <br> 84 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)22:43:27ID:8cffbe6yO<br> 辺りを見渡す、するとビニール製の巾着が壁にかけてあった。中にはいい具合いにTシャツとスエットとジーンズが入っていた。<br> 手早く着替えると椅子にかかっているブーンのジャージを羽織る、外は肌寒そうだがこれなら十分しのげそうだった<br> ファービーを巾着にいれ背負い、病院の外に走り出す。駅までは走ればすぐの距離だったので一気に走り抜けた。頭の痛みも熱っぽさも感じなかった<br> <br> <br> 上野に着く頃にはもう十一時を回っていた<br> 新幹線は終電を迎えていたので、仕方なく夜行列車に乗ることにした<br> 寝台に入り、私はファービーに語りかけていた<br> 「おまえのご主人様は誰なの?」<br> ファ「アノハゲオヤジジャナイコトダケハタシカダゼ、フゥー」<br> 「お口の悪い子ね」私はクスクス笑う<br> ファ「オマエハカオガワルイナプッ」<br> 「…なんですって?」<br> 自然と私の髪の毛が逆立つ<br> ファ「チョwwwマジコワスwwwヌイグルミアイテニマジニナルナヨオトナゲナイ」<br> 「こいつマジムカつくわ…おいちゃんが殴って壊したの分かる気がする…ブーンどういう育て方したのかしら」<br> ファ「アイツイツモツンニアイタイアイタイッテイッテタ」<br> 「ほんとに?」とっさに顔が赤くなる<br> ファ「ウソニキマッテンダロwwwアカクナッテンジャネェヨwww」<br> バチコーン<br> ファ「モルスァッッ」<br> 「…しばらくおとなしくしてろ」スイッチを切る私<br> 明日の朝には、○○県に着く。私は…ブーンは…どうなっているのだろうか<br> 改めて考えてみればブーンの状態は芳しくないのは確かなはずだ、元気なブーンに会える可能性は限りなく低いと思う<br> 集中治療室に入っている弱々しいブーンか、あるいはもう…もしかして死んでしまっているブーンに会うことになる…のだろうか<br> <br> 102 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)11:58:00ID:auHBUL8oO<br> <br> 私は温かい体温に包まれていた<br> 目の前にある愛しい人の顔、優しい微笑み<br> 「ねぇ…なでなでしてぎゅ~ってして?」<br> 私は我慢できなくなっておねだりをする。<br> 頷いて強く強く抱き締めてくれる逞しい腕、私もまけずにぎゅう~って抱き締める<br> そして慈しむように私の髪を撫で、時々喉元を優しくさする指<br> 「ふにゃ~…ごろごろ」その感触がとても心地よくて私は猫のような声を出す<br> そうだ、いたずらしちゃおっかな♪<br> ちゅっ、私は愛しい人の唇を奪う<br> 驚いた顔をしているその人の顔をみてクスクス笑う<br> 「この間のお返しよ、いきなりされてびっくりしたんだから。…今度は、ブーンから…して」<br> 優しく笑ってまた強く抱き締めてくれるブーン<br> 目を閉じる私、いつくるのかと待ち受けているのになかなかこないブーンの唇の感触<br> 私は少し怒って目を開ける<br> 「まだなのっ…ん、あ…」<br> また不意をつかれた、今度は優しく舌をからませてくるブーン、意識がとろけそうな甘い感触が心に広がる…<br> ずっとずっとこうしていたい…<br> 嬉し涙が私の両目からこぼれ落ちる…<br> <br> ガタンガタン…ガタンガタン…<br> <br> 私は目が覚める<br> 「やっぱり…そう…よね」<br> 夢とはわかってはいた、幸せな甘い夢想<br> 私はこれから絶望の答え合わせに行くようなものだから…<br> カーテンを開けると辺り一面暗い灰色の雲に覆われ強い雨が窓ガラスに吹き付けていた<br> 私の心と同じ空模様だった<br> <br> 106 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)13:45:28ID:auHBUL8oO<br> ○○県の県庁所在地と同じ○○駅に着いた頃には9時を回っていた<br> しとしとと降り頻る雨<br> 私は○○総合病院の所在地を聞くために駅前の交番に立ち寄る<br> <br> 「あの…○○総合病院に行きたいんですけど、場所がわからないので教えていただけませんか?」<br> 年輩のお巡りさんが対応してくれた<br> 巡「あんらきんれいなねぇちゃんだっぺ~、東京からきただか?」<br> 早く教えてほしかったけど容姿を褒められ悪い気はしなかった。何よりその東北訛りがあたたかさを感じた<br> 「えぇそっちの方から来ました…大切な人が、そこの病院に入院してるって聞いて…」<br> 巡「そっが、大変だったなや…○○総合病院は二番線の○○行きのバスに乗って……」<br> 詳しく説明してくれるお巡りさん、私はお礼を言って交番を後にする<br> <br> バスにゆられ約三十分、市街地を抜け田園風景が広がるその中に○○総合病院はあった<br> <br> バスを降り、病院の入り口に向かう<br> やっと着いたという安堵感とともに、これから突きつけられるかもしれない厳しい現実に不安感はますばかりだった<br> 入り口に立ち、しばらく立ちつくす私…足が言うことを聞いてくれなかった<br> ほっぺたをぺちぺち叩き自分の体に喝を入れる、ここまで来て何もしないで帰ったらおいちゃんにも申し訳ない<br> 私も真実を知りたい、勇気を出して病院に足を踏み入れる。そして受付に向かう<br> 「あ、あの…ここに内藤ホライゾンていう男の子入院してますか?」<br> 受付「内藤ホライゾンさんですね?少々お待ちください」<br> かたかたとコンピュータで検索する受付のお姉さん<br> 受付「あ…」お姉さんが小さな声をあげる<br> 「え、ど、どうしたんですか?」<br> 慌てて尋ねる私、もしかしたらもう…<br> <br> 120 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)19:01:52ID:auHBUL8oO<br> <br> 受付「失礼ですがご親戚の方ですか?」<br> 「いいえ、友人です…あの、ここの病院にブーン…内藤くんはいるんですか?」<br> 首を降る受付のお姉さん<br> 受付「…以前までは確かに当院に入院されていました…」<br> 「と、言うと…もう…う、嘘…でしょ」<br> 覚悟していたとはいえ、実際に事実を突きつけられるとこれだけの衝撃はなかった…<br> 体と心が千切れてバラバラになってしまうような感覚を覚え泣き崩れる私…<br> <br> 123 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)20:08:19ID:auHBUL8oO<br> 慌てた様子で私に近付き、耳元でささやく受付のおねえさん<br> 受付「あ、あの申し訳ありませんがちょっとこちらに来ていただけますか?詳しいお話はこちらで…」<br> 診察室のひとつに通される私、何をする気力も無かったけど促されるままに椅子に座る<br> 受付「少々お待ちください、今担当だった医師を連れて参ります」<br> こぼれる涙はしばらく止まりそうになかったけど、どういうことがブーンに起こったのか、しっかり知っておこうと思った<br> きゅっと唇を結び腫れたまぶたをハンカチで拭う<br> <br> 医師「お待たせいたしました…」ほどなく白衣を来た若い男の医師が私の前に現れた<br> 私も立ってお辞儀をする<br> 荒巻「私内藤くんの担当医をしておりました、荒巻と申します。<br>  内藤くんのお知り合いと伺いました。短刀直入に言えば内藤くんは転院してこの病院にはいません」<br> 「てんいん…?」どういう症状なんだろうと一瞬考える<br> 荒巻「この病院ではなく、他の病院に入院しているということです」<br> 「え?ということはまだ…ブーンは生きているってこと…ですか?」<br> 荒巻「はい。うちの受付が誤解されるような表現を使ってしまい大変失礼致しました、その通りです。<br>  最近は個人情報の管理云々でいろいろと難しいのです。本来なら、入退院の状況など一般の方にお教えすることは出来ないのですが…<br>  彼にとってあなたはとても大切な方と受付が判断しこのような対応を取らせて頂きました、何分彼の家族は…」<br> 「ほんとうにみんな事故で…?」<br> 医師「ご存じでしたか…ええ…」<br> 顔を曇らせる荒巻医師<br> <br> 129 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)21:32:14ID:auHBUL8oO<br> <br> 荒巻「幹線道路での大規模な玉突き事故に巻き込まれまして…お父様、お母様は即死、モルスァちゃんはここに運び込まれてすぐ亡くなりました…<br> 内藤くんは、もちろん重症ではあったのですが、救急車に乗るまで意識があったそうです。<br>  救急隊員の話ではお父様、お母様、妹の惨状を見て発狂寸前に陥っていたと言っていました<br>  そういったショックがとても強かったこともあったのでしょう…こちらに来てから三日前まで昏々と眠り続けていました。三日前、目覚めた時…」<br> 荒巻医師は話を一度止め、かけていた眼鏡をはずす<br> ポケットから布を取りだし、湿気のため曇ってしまったレンズを拭いていた<br> 「目覚めた時…どうだったんですか?」恐る恐る尋ねる私<br> ふーっと一息つき辛そうに私に告げる<br> 荒巻「今までの記憶が全て…なくなっていました…」<br> 「それは…記憶喪失ということですか?」<br> 荒巻「ええ…あまりにも外的にショックな状態が目の前で起こったため、心を守るために辛い記憶を抹消しようという適応規制が強く働いたためではないかと思われます。」<br> 「命に…命に別状は?」<br> 荒巻「それは大丈夫だと思います、あの激しい事故の中、奇跡的に内蔵や脳、脊髄の損傷がありませんでしたから」<br> 「よかった…」<br> 安心のあまり、地べたにへなへなと座り込んでしまう私<br> 無事と分かれば一刻も早く、ブーンに会いたかった<br> 「ブ…内藤くんはどこの病院に転院したんですか?」<br> 荒巻「彼には頼るべき親戚がほとんどいません…なので私の知り合いが経営するхх村という静かな山奥の集落にある、いもくろ診療所という病院に転院させました。ただ…」<br> 「ただ…なんですか?」<br> <br> 136 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)22:41:38ID:auHBUL8oO<br> 荒巻「精神状態がひどく不安定です…ご家族が亡くなられた今、きっとあなたはこの世で一番内藤くんの事を大切に思っている人だと思います<br> 根気強く、優しく接してあげてください…私からもお願いします、彼を救ってあげて下さい」<br> 私を深い深い暗闇の中から救い出してくれたブーン…<br> 今度は私が、私がブーンを助ける番っ…<br> 「はい、彼は…私にとって生きる支えです。きっと、きっと彼を…救い出して見せますっ」<br> 荒巻「是非お願いします、では院長のいもくろにはこちらから連絡をいれておきます。後これは、○○駅から、××村への行き方です。<br>  それと駅へのタクシーをこちらで手配しておきます、どうぞ乗っていってください」<br> 「そんな悪いです…自分でバスに乗って行けますから」<br> あわてて首を振る私<br> 荒巻「わざわざ遠い神奈川から来て頂いたのですから…<br>  それくらいさせて下さい、ターミナルに待たせてありますので乗っていって下さい」<br> すぐにでもブーンの元に向かいたかったので、荒巻医師の心遣いがありがたかった<br> 「ありがとうございます…ではお言葉に甘えさせて頂きます」<br> 感謝の気持ちを表すため、荒巻医師に深く頭を下げ、診察室から出る<br> 目指すはブーンの待つ××村<br> 生きているって、元気だってわかっただけでこの病院に来る前に比べ、私の心と体は格段に軽くなっていた<br> 記憶喪失なんて私が吹っ飛ばしてみせる<br> 強い決意を胸にタクシーに乗り込んだ<br> <br> 141 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)00:46:41ID:QFJBgNLWO<br> ××村に着くころにはもう日がだいぶ傾きかけていた<br> 朝から降っていた雨は止み、青と白のコントラストが綺麗に空に映えていた<br> 無人の改札から駅を出ると、ここちよい風とたくさんの自然が私を出迎えてくれる<br> 風に揺れるススキ、山々の紅葉<br> 「きれいなところね…」<br> 山々に囲まれた駅の回りには店一つなく、バス停と自動販売機が二つおいてあるだけだった。<br> 私は自販機でお茶を一本買い、バスの運行表を覗いてみる。<br> 次のバスが今日の終バスで、あと十五分後にくるようだ<br> 「危なかった…田舎は夜早いのね」<br> ベンチに腰掛け買ったお茶で喉を潤す<br> ふーっと息をつく。思えば遠くまできたものだった。東北の奥の奥、もちろん今まで一人でこんな遠出したことはなかった<br> 「もう少しでブーンに会えるんだ…」<br> 旅立つ前は絶望しかなかった、しかし今は確実にブーンが生きているってわかった。<br> 記憶喪失ということは私の事、全く覚えていのだろうか?あの二日間の記憶はなくなってしまっているのだろうか…<br> そう、よく考えてみれば、九年前ブーンと別れて、この間再会してから二日しか一緒に過ごしていない<br> それなのに私がこれだけ大切、大好きって思えるってすごい事だって思えた<br> なんだか悔しかった<br> 「私の事、忘れたなんて絶対許さないんだから…あ…」<br> 遠くからエンジン音がかすかに聞こえる、その音は少しずつ近付いてきていた<br> キキー<br> バスに乗り込む私<br> あと…あともう少しでブーンまで辿り着ける<br> 私の旅は終りに近付いていた<br> <br> 150 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)02:46:11ID:QFJBgNLWO<br> バスを降り、しばらく歩くと三十世帯ほどの小さな小さな集落に辿り着いた<br> 辺りはだいぶ日が落ち、山々の紅葉が夕日でさらに赤さを際立たされていた<br> もらった地図はあったけど、小さな集落だし自分で歩いてみつけようって思った<br> 私は歩き出す。昔ながらの暖かい町並み、何となく心が落ち着く風景だった<br> <br> ほどなく目的の建物を発見する、門の前には番をするかのように柴犬がちょこんと座っていてこちらを不思議そうに見ていた<br> 「こんにちは、わんちゃん」<br> 私が喉をなでてやるとうれしそうに尻尾をぶんぶん振り回して甘えるように頬ずりをする<br> 「あまえんぼさんなのね、かわいい…」<br> ガラっ<br> 不意に扉があく<br> ( ´~`)「おや?こんにちはタネ」<br> 「あ、こんにちは…」慌てて頭を下げる<br> ( ´~`)「え~と…もしかしてツンさん?」<br> 「あ、はいそうです」(´~`)「荒巻から連絡もらったタネ、私がタネタネ診療所(すみません変更します)の院長種田タネ、こっちの犬は龍って言うタネ」<br> (´金`)「わんっ!」<br> 「遅い時間に押し掛けて申し訳ありません」<br> (´~`)「いやいや全然構わないタネ、あんまり忙しいわけでもないタネ。じゃ中へどうぞタネ」<br> 「あ、じゃあ失礼します」<br> 診察室まで通される<br> 一秒毎に胸の鼓動が早く高まっていくのを感じる。もうすぐブーンと…<br> ( ´~`)「ま、どうぞおかけ下さいタネ。」<br> 「はい、ありがとうございます」<br> 言葉に甘え椅子に腰かける<br> ( ´~`)「ほんと遠いところから良く来たタネ。<br>  で、彼なんだけど今はここにいないタネ」<br> 「え?!ど、どういうことですか?入院してるって…」<br> (´~`)「まぁ、こんなド田舎の診療所だからね、看護婦も一人しかいないタネ…だから夕方にはタネタネの家に連れていって嫁に世話させてるタネ」<br> <br> 160 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)10:15:00ID:QFJBgNLWO<br> 「あ、なるほど…ということはだいぶもう具合いはいいんですか?」<br> 少し安心して私は尋ねる<br> ( ´~`)「体に関してはだいぶもう治って来てるタネ<br>  右手にまだギプスしているけどそれ以外は若いし回復力が素晴らしいタネ」 <br> 「よかった…」ほっと安堵の息をつく私<br> (´~`)「荒巻から多少聞いているとは思うんだけど、後は心の問題タネ…<br> 事故の惨状、ひとりぼっちになってしまった寂しさ、そういった事を心の奥底に閉じ込めて自分が傷付かないように守ろうとしてるんだと思うタネ」<br> 「あの…どういう状態の記憶喪失なんですか?」<br> (´~`)「基本的に暗くなったり、暴れん坊になったり、怖がりになったりとかの性格の変化とかそういうのはないと思うタネ<br>  今までの記憶がないってだけで。ただ時々…さめざめと涙を流している時があるタネ、どうして泣いているか聞くと『わからないけど勝手に出てくる』って…言ってたタネ」<br> 龍の頭を優しく撫でる種田先生<br> (´金`) 「くぅーん…」<br> 「そうですか…」<br> (´~`)「家族を失ってしまった今、無理に記憶を思い出させるより、のどかな自然でのんびり暮らすことで少しずつ心の傷を癒していければと荒巻は考えたらしいタネ<br> こんな田舎だから今は何でも見てるけど私はもともと精神科の医師タネ、それでここに転院することになったタネ」<br> 「……」<br> 無理に私のことを思い出させようとすると、ブーンは辛い思いをする…<br> 私はどうしたらよいのわからずうつむいていた<br> (´~`)「君は、彼にとって一番大事な人らしいって荒巻から聞いたタネ<br> あまり深く考えず彼に自然に、優しく接してあげて欲しいタネ。それが彼にとって一番いいと思うタネ」<br> <br> 162 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)11:18:59ID:QFJBgNLWO<br> ブーンが私の事、忘れてしまっているのは辛い<br> だけど、今はブーンの心の傷を癒してあげるのが一番大事だと思った<br> 何より、ブーンが生きていてくれたのだから…<br> 生きてさえいればいつか私の事思いだしてくれる日もくると思った<br> 「わかりました。あ…あの、お願いがあるんですが聞いてもらえますか?」<br> 私はひとつの決心をした<br> ( ´~`)「どうしたタネ?」<br> 「しばらく…この集落にとどまって内藤くんの看病をしたいと思います、どこか泊まれる所紹介していただけませんか?」<br> びっくりしたようにこちらをみる種田先生<br> (´~`)「ほんとうはこちらからお願いしたかったタネ、でも学校はいいのかタネ?」お母さんもモナー先生もわかってくれると思った<br> 「はい。学校より、大事なことありますから…」<br> (´~`)「わかったタネ、じゃタネタネの家に泊まって欲しいタネ<br> 妻と二人で住んでるから部屋がたくさん余ってるからお客さんの一人や二人全く問題ないタネ」<br> 「ありがとうございます、お世話になります」<br> 種田先生の厚意がとてもありがたかった、感謝の意を込め深く頭を下げる<br> (´~`)「ただ、おうちと学校に連絡だけいれておいて欲しいタネ。詳しくはタネタネが説明するタネ」<br> 「はい、是非お願いします」<br> <br> 家に電話をかける、そういえば病院を抜け出してずーっと連絡を取っていなかった<br> お母さん、怒ってるかな…<br> ツマ「もしもし?」<br> 「おかあさん、わたし…」<br> 事の成り行きとしばらく学校を休んでこちらに滞在したいと告げる<br> 意外なほどあっさりと了承される<br> ツマ「私は嬉しいのよ?」<br> 「え?」意外な言葉だった、叱られるとばっかり思っていたから<br> ツマ「人との関わりを嫌がっていたあなたが、いろいろな人と出会って、大切な人のために頑張ろうとしてる<br> ブーン君にしっかりついていてあげなさい、体にだけは気を付けて連絡はちゃんとするのよ?」<br> <br> 175 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/23(日)14:59:54ID:QFJBgNLWO <p>「うん、ありがとう…おかあさん…」<br> 理解をしてくれる母の存在がありがたかった<br> ツマ「そっち銀行とかあるのかしら?お金もいるわよね?着替えも持ってってないでしょ?まとめて送ってあげるからお世話になる所の住所教えて」<br> 「お願い、住所は……」そして種田先生に代わってもらう<br> <br> (´~`)「くれぐれもよろしくと言われたタネ、学校にも言っておいてくれるそうタネ。荷物も明日には届くと思うタネ」<br> 「何から何まですいません、ほんとうにありがとうございます」<br> (´~`)「全然構わないタネ。じゃお茶一杯飲んだらうちに帰るタネ」<br> 戸棚から湯飲みを取りだし、急須にお湯を注ぐ種田先生<br> お茶の葉のほのかな香りがあたりを包む<br> ( ´~`)「どうぞつ且~<br>  でも、どうして九年も離れていた彼の事故を知ってこっちに来たのかタネ?<br>  彼は親戚もほとんどいないはずタネ?」<br> 「はい、実は…」<br> 事のあらましを説明する<br> <br> (´~`)「…うそみたいな話タネ…でもほんとだからツンちゃんここまでこれたんダネ<br>  イッツ愛タネ…今度学会の論文に著したいような話タネ」<br> ファ「ウソジャネーコノヤブイシャ」<br> ( ´~`)「…叩いていいかお?」<br> 「首元におもいっきりどうぞ」<br> バチーン<br> ファ「モ、モルスァ!!」<br> <br> 響き渡る絶叫<br> (´~`)「じゃ、そろそろ行くタネ。片付けるからちょっと待ってて欲しいタネ」<br> 「あ、私も手伝います、ごちそうさまでした」<br> お礼を言い私も片付けを手伝う</p> <br> <p>198 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)20:04:31ID:QFJBgNLWO</p> <p>( ´~`)「ただいまタネ」<br> タネ妻「おかえりなさい…あらあなた、そちらのかわいい女の子は?」<br> (´~`)「内藤くんの彼女のツンちゃんタネ。わざわざ神奈川から来てくれたタネ。今日からしばらくうちに泊めようと思う。いいかタネ?」<br> 「ちょwwまだ、彼女じゃ…」顔を真っ赤にして否定する私<br> 奥さんはクスクス笑って答える<br> タネ妻「もちろんですわ。ツンさん遠いところこんな田舎までようこそおいでくださいました、何もないところですけどゆっくりしていって下さいね」<br> 「はい…しばらくお世話になります、よろしくお願いします」<br> ぺこりと頭を下げる<br> ( ´金`)「わんっ!!」<br> タネ妻「あら龍はツンちゃんの事とっても気に入ったみたいね、この子とも仲良くしてあげてねツンちゃん」<br> 「はい、私も龍大好きです」龍の頭を撫でながら答える私<br> タネ妻「ありがとう。じゃあ、こんなところでなんですからどうぞ上がってください。」<br> 「はい、お邪魔します」<br> 靴を揃えてあがろうとすると、端にきれいに揃えてあるナイキのエアフォースワンが目に入り私の動きが止まる<br> タネ妻「それ、内藤君の靴よ」<br> ドクン…高鳴る鼓動、上気する頬<br> この屋根の下にブーンはいる<br> そんな私の様子を見て、奥さんが私に優しい声で問いかける<br> タネ妻「…まず内藤くんに…会う?」<br> 隣で種田先生も無言で頷く<br> 「は…はい」<br> ニコリと私に微笑みかける奥さん<br> タネ妻「こっちよ、ついてきて」<br> 玄関から長い廊下を進む、突き当たり右の部屋。どうやらここらしい<br> タネ妻「ここよ」<br> 「はい…」緊張に唇が乾く</p> <p><br></p> 205 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/23(日)21:37:21ID:QFJBgNLWO <dl> <dd><br> 襖からわずかに漏れる明かり、それは中にブーンがいることを物語っていた<br> 軽く襖を叩く奥さん<br> タネ妻「内藤くん、入ってもいいかしら?」<br> ……………<br> 返事がない、流れる沈黙<br> タネ妻「内藤くん?入るわよ?」<br> 襖を開く奥さん、すーっと音もなく開く襖、部屋から漏れる明かり<br> ( ―ω―)「ぐーぐーzzz……」<br> 寝ていた…<br> タネ妻「あらあら、仕方ないわね」くすりと笑う奥さん<br> タネ妻「私居間に戻って晩御飯の準備をしておくわ、ツンちゃんはここにいる?」<br> 「あ、はい…」<br> タネ妻「じゃご飯出来たら呼びに来るわ、少しの間内藤くんのこと見ててあげて」<br> そう言い残し部屋から出ていく奥さん<br> 黙って頷く私…瞳からもう、涙がこぼれそうだった。<br> 「無事で…ほんとに…ほんとに…よかった…」<br> 口から言葉がこぼれおちると同時に、私のまぶたの堤防も決壊してしまった<br> 寸前右手にはまだ痛々しいギプスがはめられていたけれど、顔色もよく三日前に会ったブーンとほとんど変わらなかった<br> 「心配かけさせて…私…私…あなたいなくなったらきっと生きていけなかった、生きていてくれて…あ、ありがとぅ…」<br> 滝のようにこぼれる涙私はずっとブーンの寝顔を眺めていた<br> <br> 210 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/23(日)21:57:44ID:QFJBgNLWO</dd> <dd><br> しばらくブーンの寝顔を見ていた、安らかにすやすやと眠っている<br> そんなブーンを見て、なんだか少し腹が立ってきた<br> 私がこれだけ心配して来たのに、起きた時きっと『君誰?』って言うんだろうなこいつ、う~<br> 「悔しい…よし、ちょっといたずらしちゃうんだから…ぐすっ」<br> 涙と鼻をふいてイタズラを敢行しようとする私<br> 「こちらスネーク、本部応答せよ。今から目標の唇を奪いますどーぞー…」<br> もちろん本部からの応答はなかった…<br> 急いで行動に移す私、そっとブーンの唇に自分の唇を重ねる私<br> ちゅっ<br> きゃっ…しちゃった(//_//)<br> ブーンの反応を伺う…が当然無反応…<br> 「なんかすごく敗北感…」がっくり肩を落とす私<br> 「まぁ今日はこんな所で許しといたげるわ…ぐす」<br> ブーンの掛け布団を直し、しっかり寝かせてやる私<br> 「こんなに私を好きにさせた責任とってもらうんだからね(笑)<br>  時間はたくさんあるから少しずつ私のこと思い出させるもん、覚悟するのよブーン…」<br> くすくすと笑う私、目の前にブーンがいる<br> それだけで幸せだった</dd> <dd><br> 255 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/24(月)22:05:24ID:7f9xOFgnO</dd> <dd><br> 寝ていたけど、ブーンにやっと会えた<br> 改めてまた明日、ブーンが起きた時にゆっくり、話をしよう<br> そう思って席を立つ、襖を開けて部屋から出ようとしたその時<br> ( ^ω^)「…こんばんわだお」<br> びくっとなって振り返る私<br> 「こ…こ、こんばんhdfrtyふじこlp…」<br> 予期していなかったブーンの覚醒に思いっ切り焦る私<br> くすくすと笑うブーン<br> (^ω^)「驚かせて悪かったお、いつ目覚めるかタイミング謀ってたお」<br> 何?…てことは???!!!!!<br> 「いいいい、いつから起きてたのよ??!!」<br> ( ^ω^)「けっこう前からだお(笑)」<br> きゃあああああああ!!!もも、もしかして、ちゅーしたの見られたの?<br> 私は恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤になる<br> ( ^ω^)「顔が真っ赤だお?熱でもあるのかお?」<br> 真顔で聞いてくるブーン<br> さすがに私がキスした時起きてたのとは聞けない…<br> 「な、なんでもないわよブーンのバカっ」<br> (^ω^)「…なんでブーンのあだ名知ってるお?ブーン種田先生に記憶喪失って言われたお<br>  もしかして君はブーンの知り合いなのかお?もしよければ君のお名前、教えて欲しいお」<br> 「あ……」<br> やっぱり記憶…なかったんだ…わかっていたとは言え、少しショックだった。<br> 「そっか記憶喪失なんだ…私ツンていうの。小さいとき、近所に住んでてよく一緒に遊んだのよ<br>  しばらく私も種田先生のおうちでお世話になるの、よろしくね」<br> 平静を装い答える私<br> (^ω^)「ツン…ちゃん…なんだか、懐かしい名前だお…でも、思い出せないお。ごめんだお」<br> 「無理して思い出さなくてもいいわ、あとツンて呼び捨てにしていいわよ、だから私もブーンて呼ぶわよ?いい?」<br> ( ^ω^)「かまわないお、よろしくツン」</dd> <dd>295 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/25(火) 22:17:59ID:AAD5HLZiO</dd> <dd> 「これからしばらく、一つ屋根の下で暮らすんだから仲良くやりましょ?」<br> 控え目にブーンが頷く<br> (^ω^)「ブーン、前の事、何も覚えてないお…だから友達いないお↓<br>  だからツンはブーンの一番最初の友達だお、仲良くしてくれるのすごく嬉しいお。ほんとありがとだお」<br> 記憶がなくなっても言葉からにじみ出る素直な気持ち、変わらない優しさ<br> 性格まで変わってたらどうしようって思っていたけど、杞憂に終わったみたい<br> 今までの記憶なくても、これからブーンとまた、楽しい思い出を積み上げていけばいいんだから<br> すると居間からいい匂いとともに奥さんの元気な声が響く<br> タネ妻「ツンちゃん、ご飯出来たわよ、居間にどうぞ~」<br> ほんとうにいい匂い、嗅覚から食欲中枢が刺激され元気に答える私<br> 「はい、今行きま~す」<br> するとブーンがオロオロしだす<br> ( ^ω^)「…ブーンのご飯は?」<br> 「あんたは夕方から寝てたから晩御飯抜きよ。せいぜい飢え死にしないように気を付けなさい(笑)じゃ、私行くわね」<br> 意地悪な笑いを残し居間に向かおうとする私<br> ( ^ω^)「そんな…ブーン腹減って死んでしまうお…」<br> ほんとうに切なそうな顔をするブーン<br> クスクス笑って優しく語り掛けてあげる<br> 「うそよ、ブーンの分もきっとあるわ。一緒に行きましょ」<br> ( ^ω^)「ほんとにないかと思ったお…意地悪だお」<br> 少し口をとがらせ私をみつめるブーン<br> これくらいしても私が心配して泣いた分は帳消しになんかならないんだから</dd> <dd> にっこり微笑んで、ギプスに包まれていない左手のそでをつかむ<br> 「じゃ、行きましょ」(^ω^)「うん、おなか空いたお~」<br> <br> 298 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/25(火) 23:13:31ID:AAD5HLZiO</dd> <dd>明るい朝日が私の頬を優しくなでる<br> 今日は朝から雲一つない、抜けるような青空<br> 風はほのかに冷たく、秋の深まりを感じさせる朝だった</dd> <dd> 布団の中でうーんと伸びをしてゴロゴロ転がる。私は朝これをしないと一日が始まる気がしない<br> よく考えればしっかりとした布団でゆっくり眠ったのは久しぶりな気がする。<br> 昨日は寝台列車、その前は病院のベッドと落ち着かない所で寝ていたから<br> 夜着を脱ぎ捨て昨日の服にまた着替える<br> 今日の夕方にはお母さんから荷物が届くはず、同じ服を着るのはちょっと嫌だけどわがままは言っていられない</dd> <dd>「おはようございます」<br> 居間に入るとすでに誰もいなかった。かわりに朝御飯とメモがおいてある<br> 内容は私たちは診療所に仕事に行くから、ふたりともゆっくり朝御飯食べて天気がいいからおでかけでもしたらという内容<br> 時計を見るともう十時、かなり堕眠をむさぼってしまったようだった<br> まだ二人分の朝御飯がある、ということはブーンもまだ寝てると言うことらしかった<br> 「しょうがないな…もう」目指すはブーンの部屋<br> 襖を静かに開ける<br> ( ―ω―)「んごごごごご…んごごごげ…」<br> 「こいついつまで寝るつもりなのかしら(笑)」<br> どうやって起こしてやろうか思案に暮れる<br> とりあえずちゅーはばれたら怖いので却下、「う~ん…」<br> とりあえずほっぺたつっついてみよう<br> ぷにぷに…ぷにぷに…<br> 「なんて柔らかくて気持いいのかしら…なんかずるいわこの餅肌」<br> なんとなく敗北感を味わう私、でもその感触が心地よくて何度もつっつく<br> ぷにぷにぷにぷに…</dd> </dl> <p>328 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/26(水) 22:45:48ID:Vc21V94UO</p> <p>( ^ω^)「ふぇ?」<br> まぬけな声を出しガバって起きるブーン<br> 「おはよ、ねぼすけさん」<br> そのしぐさがなんだか可愛くて自然と顔がほころぶ私<br> (^ω^)「おはようだお、ふわぁー」おっきく伸びをするブーン<br> ( ^ω^)「わざわざ起こしに来てくれたのかお?」<br> 「ち、違うわよ、部屋の前通ったらうるさいいびきが聞こえたから…止めようと思ったのよ」<br> なんとなく素直にそうというのが悔しかったのでむきになる<br> ( ^ω^)「うるさくてごめんだお…」<br> シュンとなるブーン<br> 「え…い、いや別に構わないわよ、ほ、ほら朝ご飯食べましょ。行くわよ?」<br> (^ω^)「わざわざブーン起きるまで待っててくれたのかお?感激だお」<br> う゛…私も寝坊したとは何と無くいいにくかった<br> 「そ、そうよ…だからお腹空いたの、早く用意していきましょ」<br> ( ^ω^)「……」<br> なんだかニヤニヤしているブーン<br> 「な、なによ?」<br> (^ω^)「早く行きたいのはやまやまだけど、ツンそこにいたらブーン着替えられないお…ブーンの着替え、みたいのかお?」<br> 「み、見たいわけないでしょ!!早くそう言いなさいよバカっ!!先行ってるわ…もう」<br> すたすた歩き出す私、何だかペースを奪われてしまった、ちくしょぉ、悔しい…<br> でも、本当は朝からなんだか楽しくてしかたなかった<br> 朝から好きな人とこう言う風な他愛のないやりとりできるって<br> ほんとに幸せなことなんだなって改めて思う</p> <br> <p>333 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/26(水) 23:13:42ID:Vc21V94UO</p> <p>ふたりで囲む朝御飯、なんだか夫婦みたいで照れる<br> ブーンの周りは子どものようにご飯がたくさん落ちていた<br> 「もうっボロボロ②こぼしてっ、もっとお箸上手に使いなさいよ…あ」<br> 言った後に気付く、ブーンの利腕の右手には重そうなギプス<br> 箸を持つ左手はいかにもぎこちない<br> (^ω^)「一生懸命左手でお箸持つ練習してるんだけどなかなか上手くならないお…食卓汚してごめんだお」<br> すまなそうに頭を下げるブーン<br> 「ご、ごめんなさい…利腕怪我してるの忘れてた」私も謝る<br> (^ω^)「汚いのは確かだお、だからこぼさないようにスプーン使うお」<br> 台所に戻りスプーンを取ってくるブーン<br> ( ^ω^)「これでいいのだお」<br> 「私が手伝ったげるわ」<br> ( ^ω^)「え?」<br> 近付いてブーンの横に座る私<br> 「手伝ってあげるっていったの、今日だけ。さっき酷いこと言ったおわびよ。何が食べたいか言って?」<br> ( ^ω^)「そ、そんな悪いお…」<br> 「良いから何が食べたいか言いなさいよ、じゃないとブーンの分まで私が食べるわよ?」<br> ( ^ω^)「そ、それは困るお…てか恥ずかしいし…」<br> 「い い か ら 何 食 べ た い の ?」<br> ブーンの言葉を遮りもう一度尋ねる私<br> ( ^ω^)「う…じゃ、ハンバーグ」<br> 小さく食べやすく箸で切り口元に運んであげる私</p> <br> <p>336 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/26(水) 23:35:47ID:Vc21V94UO</p> <p> 身を乗り出すようにハンバーグをぱくっとくわえるブーン<br> 「おいしい?」<br> ( ^ω^)「おいしいお」にっこり笑って答えるブーン<br> 「私が食べさせてあげてるんだもん、おいしいに決まってるわよね」<br> 舌をぺろって出してブーンに微笑み返す私<br> 「次はなにがい~い?」<br> ( ^ω^)「じゃ、きんぴら欲しいお」<br> 「はいどうぞ」<br> ( ^ω^)「うまいお♪」</p> <br> <p>389 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/27(木) 22:05:50ID:5UtlQEkKO</p> <p>( ^金^)「わんっ!」<br> 龍が嬉しそうに声をあげる<br> 歌い出したいくらいのいい天気、標高が高いこともあり空気も澄んでいた<br> 私たちは川沿いの草むらに大の字になって寝っ転がっていた<br> 「ほんとに気持ちいい日ね…」<br> (^ω^)「抜けるような青空だお、今日なら空飛べそうな気がするお♪」<br> 「んなわけないでしょ」くすくす笑う私<br> ( ^金^)「わんわん」<br> ( ^ω^)「う…龍にも笑われたお…」<br> ずっこけるブーン<br> 「龍もわかるのね(笑)」<br> 再び青い青い空を見上げる<br> ふと頭に浮かぶ歌、それを口ずさんでみる<br> 「君と出会った奇跡がこの胸にあふれてる、きっと今は自由に空も飛べるはず……</p> <p>  誰の歌だか忘れちゃったけど、これだけ空が綺麗だと手伸ばせば届きそうだよね<br>  ブーンの気持ち、ちょっとわかる」<br> う~んと手を大きく横に広げる<br> ( ^ω^)「あっ…」<br> 「えっ…」<br> のばした反動で、不意に重なる私の右手とブーンの左手<br> ( ^ω^)「あった…かいお」<br> 「あったかい…」<br> どちらともなく、握る二人の掌<br> 私を安心させる、ブーンの手の温もり<br> 言葉はいらなかった<br> しばらくの間私たちは、手をつないだまま<br> 頬をなでる心地よいそよ風と、全身を優しく照らす太陽の光を満喫していた</p> <p><br></p> <p>395 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/27(木) 23:16:25ID:5UtlQEkKO</p> <p>うとうとして半分意識が夢の国に飛びかけていた<br> ブーンが体を起こし、ぼそりと呟く<br> (^ω^)「…ツンはどうしてこんなに、ブーンに優しくしてくれるお?」<br> 「好きだからにきまってるじゃない」<br> …と言うのが本心だけど、素直に言えるほど私は可愛くない<br> 「う~ん、幼馴染みだし、一緒の所に住ませてもらってるし、なんとなく…かしら?」<br> 相変わらず可愛くない私<br> ( ^ω^)「ブーン、記憶が欲しいお…」<br> 「え?」<br> (^ω^)「ブーンが今まで生きてきて、知り合った人達との思い出、全てなくなってしまったお…<br> 空虚なその心の中が寂しくて寂しくて、夜寝る前涙が止まらないお<br> 家族もいるはずなのに思い出せない、会いに来てもくれない、とっても孤独でつらくてしかたないお」<br> とっさに何と声をかけていいのかわからず言葉につまる私、私からは言えない…<br> (^ω^)「ブーン気付いたらひとりぼっちだったお…だけどツンが、来て仲良くしてくれて<br>  ほんとにブーンの心少しずつ暖かくなってくるの感じるお、ありがとうだお」<br> 「ブーン…」<br> 私は我慢できなくなって、ブーンの背中に抱きつく<br> 「私、本当はあなたを追ってこの集落まできたの…<br>  記憶を無くす前のあなたが、暗い暗い闇の中にいた私の心を救い出してくれたから<br>  だからあなたのそばで、私あなたの力になりたいって思ってる」</p> <br> <p>426 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/28(金) 19:43:02ID:WVEz7GvsO</p> <p>「 だから…私、ブーンのそばにいても…いい?」<br> 服を掴む手に自然と力がこもる<br> 私の左手を握り返してくれるブーン<br> (^ω^)「ツンの事、覚えていないこんなブーンのそばにいてくれるのかお?」<br> 「記憶がなくてあなたが辛いなら、私助けてあげたい…ほっとけないっ…<br>  記憶がなくてもブーン変わってない…優しくて、ちょっとドジで…<br>  私ブーンと一緒に…いたい…の、だめ?」<br> (^ω^)「嬉しくて…涙出そうだお、ブーンからもお願いするお…ブーンと一緒にいて欲しいお…」<br> ブーンの正面に回り、今度は胸に抱きつく<br> 「うれ…しい」<br> 頬をぎゅってブーンの胸に押し付ける<br> ブーンの鼓動の音が聞こえる、生きている証。私を包む暖かい体温<br> 私の髪を優しく撫でるブーンの手、あまりの心地よさに私は猫のようになってしまう<br> 「にゃぁ…もっと撫でて欲しい…」<br> 自然と出てくる甘える言葉、私という存在をブーンに感じてほしかった<br> そしてブーンの存在をもっと感じたい…じっとブーンの目を見つめる<br> ちょっと潤んだ私の瞳、きっとちゅってしてくれるよね?<br> 優しい瞳で私を見つめてくれるブーン、今度はゆっくりとブーンからしてくれた<br> ( ^ω^)「二回目だお(笑)」<br> 「え…?え?ど、どういうこと?」<br> 慌てる私…もしかしてばれてたの?イタズラのキス<br> ( ^ω^)「昨日はツンからしてくれたお(笑)」<br> 「そ、そ、そんなことし、してないわよ…あわわ…」<br> ばれてたらしい…真っ赤になってブーンの胸の中に隠れる、恥ずかしい(////)</p> <p><br></p> <p>453 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土) 02:13:14ID:NcH6y7RcO</p> <p>にっこり微笑んでいたブーンの顔が急に険しくなる<br> 「どう…したの?」ただならぬその表情に不安を隠し切れず尋ねる<br> 頭を抱えうずくまってしまうブーン<br> ( ^ω^)「…ぃお…」<br> 「え?何て言ったの?」慌てて聞き返す私<br> ( ^ω^)「頭が…割れる、よう、にいたい、お…」<br> 「だ、大丈夫?!」<br> 苦痛に歪むブーンの顔、流れ出る脂汗。ただごとではない<br> 「く、くるしい…痛いお…」<br> 力なく私にもたれかかるブーン、私は必死に声をかける<br> 「し、しっかりして!!」<br> 私の問掛けに少しずつ返事がなくなる<br> 「待ってて、すぐ種田先生の所に連れていくから!頑張ってブーン!!」<br> 必死に背中にブーンを背負おうとするもなかなかうまくいかない<br> 「落ち着いて落ち着くのよツン」<br> 自分に必死に言い聞かせる、ブーンは苦しそうなうめき声をあげていた<br> 「龍、お願いっ…種田先生の所に行って、種田先生連れて来て!!お願い…」<br> ( ´金`)「わんっ!」<br> 了解してくれたのか一目散に走り出す龍<br> 龍に頼ってばかりもいられない、もう一度ブーンを背負う事を試みる<br> 「ブーン、もう少しだけ頑張って…すぐ種田先生のところ連れていくからね?」<br> ( ^ω^)「……」<br> 返事はなかったけど、背中にブーンが力なくうなずく感触が伝わってくる<br> また、ブーンがいなくなってしまうなんて私の心が耐えられない…<br> 出来る限りの力を呼び起こしブーンを背負い診療所へ向かう私<br> 絶対に…絶対に助けてあげるからね</p> <p><br></p> <p>456 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土) 02:49:56ID:NcH6y7RcO</p> <p> 鎮痛剤が効いているらしく、ブーンは診療所のベッドの上ですやすやと眠っていた<br> あのあとしばらくして龍が種田先生を連れてきてくれて種田先生が背負って診療所まで連れてきてくれた<br> 「龍…ほんとうにありがとう、お前は賢いね」<br> 頭をたくさん撫でてやり、ぎゅって抱き締める<br> ( ^金^)「くぅ~ん」<br> 甘えるように私の頬を舐めながら、尻尾をふる龍<br> 「先生…ブーンどうなんですか?」<br> 恐る恐る尋ねる私<br> (´~`)「原因はまだちょっとわからないタネ…ただ脳に出血があったりとか突発的な病気でない事は確かタネ」<br> 「じゃあ、命に別状とかは…」<br> (´~`)「それは大丈夫と思うタネ。多分記憶喪失特有の心の葛藤じゃないかと思うタネ」<br> 「心の葛藤…」<br> (´~`)「記憶を思い出したいと強く思う気持ちと、それを防ごうとする適応規制の戦いが内藤くんの心の中で起こってるんじゃないかと思うタネ」<br> 「…私が、来たからですか?」<br> 良かれと思ってここまで会いに来たけれど、私の存在でブーンの辛い過去の記憶が呼び戻されるのなら…<br> 来なければよかったのかもしれないと言う不安でいっぱいだった<br> (´~`)「ないとは言えないタネ…けれど、いつか記憶は戻るものタネ。<br>  内藤くん自身がいつかこの問題を解決しなくてはいけないタネ、ツンちゃんのせいではないタネ」</p> <br> <p>458 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土) 03:07:08ID:NcH6y7RcO</p> <p> どうしたら私はブーンに心の平穏、そして安らぎを与えてあげることができるのだろうか…私じゃ、駄目なのかな<br> こぼれ落ちる涙<br> 「あ…すいません…」<br> 必死に涙を拭う私…けれども次から次へと溢れる涙はなかなか言うことを聞いてくれなかった<br> 種田先生が私にハンカチを差し出して優しく語りかけてくれる<br> (´~`)「これだけ、内藤くんの事思ってくれる人がいるって事、家族をなくした彼にとってこれほど心強い事ないと思うタネ<br>  だから彼も君と過ごした過去の記憶を取り戻したいって思ったんじゃないかってタネタネ考えてるタネ<br>  だから気にしないで今まで通り、内藤くんに接してあげて欲しいタネ。彼にとって君の存在が、一番の生きる支えタネ」<br> 「…生きる、支え…」</p> <p><br></p> <p>493 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土) 19:44:37ID:NcH6y7RcO</p> <p> 種田先生は集落の子供が急に高熱を出したと聞き、治療に出かけていた<br> 床にはブーンを守るように龍が座っている<br> 私は椅子に座りブーンの寝顔を見つめていた<br> 規則正しく上下する胸、時折漏れる小さな寝息<br> その姿をみつめ私はふと呟く<br> 「龍、私どうすればいいかな…」<br> ( ´金`)「…くぅん?」<br> 僕に聞かれてもわからないよと言うように子首を傾げる龍<br> ゴーンゴーン…柱の壁時計が六回鳴り午後六時を知らせる<br> 「あ、もうこんな時間…龍、待っててね、ごはん持ってくる<br> 種田先生に龍のごはんを頼まれていた<br> 冷蔵庫の中に龍用という袋があるからそれをあげてと。出てきたものは…<br> 「…バナナ?」<br> 犬ってバナナ食べるんだろうか…でも袋の中に入ってるの全部あげてって言われたし<br> 三本のバナナの皮を剥き、お皿に乗せる<br> 「龍、ごはんよ。今日はブーン助けてくれてありがとうね…」<br> ( ´金`)「わんっ!!わんっ(バナナー)」<br> 「え?バナナ?」驚いて問い返す、龍が喋った気がしたけど…<br> ( ´金`)「ばくばくばく…」<br> 黙々と食べ続ける龍<br> 「まさか…ね」<br> 再び視線をブーンに戻す<br> 相変わらずすやすやと眠り続けるブーン<br> 「ねぇブーン、私あなたのそばにずっといたいよ…今日、あなたもそう言ってくれた<br>  だけど、あなたの中の本当のブーンは、どう思ってるの?私を見ると、寂しいこと悲しいこと思い出して、辛い…の?」<br> 寝ているブーンに問いかける、もちろん聞こえるはずはないけれど<br> 「ブーンの助けになり、たいよ…私じゃ駄目ですか?…神様…」<br> 再び会わせてくれたこととっても感謝してるけど、せっかく会わせてくれたなら…<br> 幸せになりたい</p> <br> <p>500 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土) 20:55:50ID:NcH6y7RcO</p> <p>ここはどこだお…?<br> い、痛いお<br> 目を開けると潰れてグシャグシャになっている車の前の席が見えた<br> 血まみれの細い手と力なく垂れた男の人の頭…<br> 「…ちゃん」<br> 微かに聞こえる人の声<br> 「だ、誰かいるのかお?!大丈夫かお?」しかし、いくら声をだそうとしても声が出ない<br> 「お…おにぃ、ちゃん…い、痛いの…助けて、く、苦しい…」<br> その声はシートに押し潰された間から聞こえてくる<br> 必死に声のするほうに手を伸ばそうとする<br> 痛っ…頭と腕に走る激痛<br> その時、ぼんっと爆発するような音がしてボンネットから火の手が上がる<br> 周りからはサイレンのけたたましい音、そして外から人の声が聞こえてくる<br> 「大丈夫か?無事なら返事をしてくれ!!」<br> 外から聞こえてくる呼び掛けに対し、ドアを叩く<br> 「後部座席に生存者がいるぞ!爆発近いぞ、急げっ!!前は無理だ、後ろの二人を優先して救助しろ!!!」<br> 金属を切るような嫌な音があたりに響きわたる<br> 不愉快な音に顔をしかめながらも、先程声が聞こえた隣の座席に手を伸ばす<br> 頭の位置を動かすと、顔中血まみれの女の子の顔が見えて、目が合う<br> 力なくさまよう二つの瞳<br> 「おにぃ…ちゃん…無事だったんだね…」<br> 必死でうなずく<br> 「モルスァ、死んじゃうのかなぁ…これだけ血が出てるのに痛くないの…眠いの…」<br> 必死に首を横に降る<br> 「おにいちゃん…手、繋いでて欲しいな…手繋いでてくれたら怖くないから…」<br> 震える細い手をゆっくり伸ばす女の子<br> 必死に伸ばしその手を掴もうとする、重なる掌と掌<br> 「あったかい…お兄ちゃん…モルスァの分まで幸せになって…ね…好きだよ…おに…ぃ…ちゃ…ん」</p> <p><br></p> <p>507 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土) 21:40:48ID:NcH6y7RcO</p> <p>急にその手から力ががくんと抜ける<br> 「………??!」<br> 「モルスァーーー!!!」やっと声が出る…<br> …モルスァって誰…だ?お兄ちゃん?ていうか自分は誰なんだ?</p> <p>ガタン<br> 何かが外れる音、体が勝手に動かされる<br> その途端顔に降り頻る雨の感触、灰色の空、回る赤いライト…<br> ドカンっっ!!!!!<br> 立ち上る赤い炎…</p> <p> あまりの音の大きさにそち
<br> 25 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/20(木)23:41:15ID:giOQQM81O<br> 気が付くと、私は見知らぬベッドの上で寝ていた<br> ここはどこなんだろう…体を起こしそれを確認しようとする<br> 「痛っ…」頭に走る鈍い痛み。体も何だか熱っぽかった<br> よく見ると右腕に点滴がついている。ここは病院らしかった<br> 「私…何で病院にいるの?」<br> あたりを見回すと、椅子に見慣れたジャージがかけてあった。胸には「内藤」と書かれていた<br> 「ブ…ブーン??」<br> ふいに昨日のことが脳裏に蘇ってきた<br> 消えてしまったブーン…私は泣いて泣いて泣き叫んで…気付いたらここにいた<br> ここにブーンのジャージがあると言うことは…<br> 昨日の事は夢か何かでブーンは私のお見舞いに来てくれてる、ブーンはいなくなってなんかいなかったんだ!<br> 頭の痛みを無視し、点滴を無理矢理引き抜き、廊下に飛び出す<br> ツンママ「きゃっ」どんっ<br> 部屋に入ろうとするお母さんと衝突する私<br> ツンママ「ツン!何やってるのっ、寝てなきゃ駄目でしょっ!!…点滴抜いたの?!何やってるのこの子は…」<br> 「ブーンは?ブーンはどこ!!お母さん?」母の問いかけに無視し質問を浴びせる私<br> しかし母は黙って首を振る<br> ツマ「いないのよ、どこにも…お母さん、ブーン君の越してきたアパートにも行ってみたの。だけど、ブーン君、いなかった」<br> 「このブーンのジャージ…どうして…ここに?」<br> ツマ「あなた公園に倒れていたのよ?酷い熱で…近所の人が救急車呼んでくれて<br>  あなたをかばうようにブーン君のジャージがかけてあったの…あなたは三日間、ずっと寝ていたわ」<br> 私は涙ながらに母に訴える<br> 「ブーン、私の前で消えちゃったの…交通事故でもう死んじゃうって…ねぇお母さんっ!ブーンの入院してる〇〇県まで連れてってっ!!お願い…」<br> <br> &gt;&gt;24thx<br> <br> 71 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)20:09:40ID:8cffbe6yO<br> 母は黙って首を振る<br> ツマ「気持ちはわかる…でもそんな常識外れな事急に言われてもお母さん納得できないわ<br>  お母さん、明日ブーン君の親戚の方とか調べてブーン君の事聞いておくわ<br>  それまでツンは寝てなきゃ駄目よ、あなたまだ酷い熱あるのよ?」<br> 「待てないわっ!!お母さんが連れてってくれないなら私一人で…」<br> 母は私の言葉を遮り、諭すように私に語りかける<br> ツマ「ツン…あなたが言うブーン君が入院してる病院、〇〇県って以外何もわからないんでしょ?<br>   あなたそんな状態でどうやってブーン君探すの?」<br> 返す言葉に詰まる私…<br> 確かにどうしようもない、どうしてブーン本人に聞かなかったのだろう…<br> 後悔に身が引き千切られる思いだった<br> 「ブーン…会いたい、会いたいよ…私、私あなたなしじゃ生きていけないよぅ…」<br> どうする事も出来なくて泣き崩れる私…<br> 生きているかすら、どこにいるのかもわからないブーン…<br> ツマ「ツン…」母は私を慰めるように優しく抱き締めてくれたけど、あの温もりではなかった<br> ツマ「わかったわ、お母さん頑張って調べてみるから…わかるまでツンしっかり寝てるのよ?」<br> 私は力なくうなずくしかなかった…私はベッドに再び横たわり目を閉じた<br> この悲しい現実から逃れるために…<br> <br> 75 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)20:46:54ID:8cffbe6yO<br> こんこん<br> ドアをのっくする音に目を覚ます。時計を見ると午後七時、あれから二時間ほど眠っていたらしかった<br> 母が戻ってきたのかもしれない、何かわかったのだろうか…<br> ブーンの行方を知りたいと思う一方、最悪の結果を聞かされた時私はどうなるんだろう…怖かった<br> 「どうぞ…」力なくつぶやく私<br> がちゃり。開くドアの音、入ってくる男の人<br> 「おいちゃん…」入ってきたのは酒屋のおいちゃんだった<br> おいちゃん「具合いはどうだ?」私の頭に手をおき優しく尋ねるおいちゃん<br> 「駄目みたい…」目に涙をたくさんためて力なく呟く私、こぼれ落ちるひとしずく…<br> おいちゃん「ブーンの事だな?」<br> そういえばおいちゃんはブーンの携帯の番号を知っていた、何か事情を知っているのではないかと思った<br> 「おいちゃん…ブーンの事、何か知らない?私、私…」<br> おいちゃん「確かにブーンから携帯の番号を聞いていた。あれからあいつに何度も電話をかけたがつながんねぇ…」<br> 私はおいちゃんに事の成り行きを話す<br> <br> おいちゃん「そうか…そりゃ確かにしんじらんねぇ話だな。だけどこれでなんとなく…わかったような気がする」<br> 「え?」<br> おいちゃん「こいつ」私の前にぬいぐるみを差し出す<br> ファービー「イテェヨー↓ツン、○○ソウゴウビョウインツレテッテヨー、ナデナデシテー…ファー…ブルスコ」<br> 「…これファービーでしょ?これがどうかしたの?」<br> おいちゃん「これ、ブーンにバイク修理の礼にもらった奴なんだ」<br> そう言えばブーンはあのときおいちゃんに何か紙袋を渡していた<br> おいちゃん「ってか舐めた口聞きやがるからぶん殴ったら動かなくなったんだよ。<br>  そしたらさっき急にこいつ動きだしてよ、ツンって言うもんだからよ、持ってきたわけだ」<br> <br> 81 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)21:54:20ID:8cffbe6yO<br> おいちゃんの言ってる言葉の意味がいまいちわからなかった<br> 黙っておいちゃんの次の言葉を待つ<br> お「こいつ、新品じゃなくてブーンが飼ってた奴なんだよ…ていうことは、ブーンが喋ってた言葉真似するって事だよな?」<br> 「あ…」と言うことは…<br> お「○○総合病院…もしかしたらここにいるかもしんねぇなあいつ<br> お前の話聞いてるとよ、普通は有り得ないけどファービー使ってあいつがお前に知らせようとしてるのかもなって思ったぜ」<br> 「私…行ってくる!!」<br> 寝てなんていられなかった。一分でも、一秒でも早くブーンに会いたい…私を動かすのはその気持ちだけだった<br> おいちゃん「連れてってやりたいのは山々なんだが…俺のおふくろが危篤って知らせがさっき来てな…このまま田舎に行かなきゃいけねぇんだ…<br>  方向が同じなら乗せていけるんだけど東北の○○県と全く逆の近畿の△△府だから…すまねぇ」<br> 「お母さんがそんな状態なのに…私のことは気にしないで早く行ってあげて、ほんとにありがとう…おいちゃん」<br> おいちゃん「いいって事よ、ツンこいつ持ってきな」<br> ファービーと諭吉二枚を私に渡してくれる<br> 「え?そんな…受け取れないよ…」<br> 優しく私に微笑みかけるおいちゃん<br> お「お前今すぐ行くつもりだろ?倒れて運ばれてきたってのにわざわざ金を病院まで持ってきてるとは思えねぇ。<br> 帰ってきたら返せばいいから気にすんな、持ってけ」<br> おいちゃんの心遣いが嬉しくて、また涙がこぼれる<br> 「ありがと…おいちゃん、必ず返すからね」<br> お「あいつに…よろしく言っておいてくれ、な?必ず…必ず会えるから…気を付けていけ、ツン」<br> 手を差し出すおいちゃん<br> 「うん、うん…おいちゃんも気を付けてね。ほんとに…ほんとにありがとう」<br> 差し出された手を強く握り返す私<br> お「気にすんな。じゃあまたな、行ってくるぜ」<br> 部屋から出ていくおいちゃん<br> <br> 84 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/21(金)22:43:27ID:8cffbe6yO<br> 辺りを見渡す、するとビニール製の巾着が壁にかけてあった。中にはいい具合いにTシャツとスエットとジーンズが入っていた。<br> 手早く着替えると椅子にかかっているブーンのジャージを羽織る、外は肌寒そうだがこれなら十分しのげそうだった<br> ファービーを巾着にいれ背負い、病院の外に走り出す。駅までは走ればすぐの距離だったので一気に走り抜けた。頭の痛みも熱っぽさも感じなかった<br> <br> <br> 上野に着く頃にはもう十一時を回っていた<br> 新幹線は終電を迎えていたので、仕方なく夜行列車に乗ることにした<br> 寝台に入り、私はファービーに語りかけていた<br> 「おまえのご主人様は誰なの?」<br> ファ「アノハゲオヤジジャナイコトダケハタシカダゼ、フゥー」<br> 「お口の悪い子ね」私はクスクス笑う<br> ファ「オマエハカオガワルイナプッ」<br> 「…なんですって?」<br> 自然と私の髪の毛が逆立つ<br> ファ「チョwwwマジコワスwwwヌイグルミアイテニマジニナルナヨオトナゲナイ」<br> 「こいつマジムカつくわ…おいちゃんが殴って壊したの分かる気がする…ブーンどういう育て方したのかしら」<br> ファ「アイツイツモツンニアイタイアイタイッテイッテタ」<br> 「ほんとに?」とっさに顔が赤くなる<br> ファ「ウソニキマッテンダロwwwアカクナッテンジャネェヨwww」<br> バチコーン<br> ファ「モルスァッッ」<br> 「…しばらくおとなしくしてろ」スイッチを切る私<br> 明日の朝には、○○県に着く。私は…ブーンは…どうなっているのだろうか<br> 改めて考えてみればブーンの状態は芳しくないのは確かなはずだ、元気なブーンに会える可能性は限りなく低いと思う<br> 集中治療室に入っている弱々しいブーンか、あるいはもう…もしかして死んでしまっているブーンに会うことになる…のだろうか<br> <br> 102 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)11:58:00ID:auHBUL8oO<br> <br> 私は温かい体温に包まれていた<br> 目の前にある愛しい人の顔、優しい微笑み<br> 「ねぇ…なでなでしてぎゅ~ってして?」<br> 私は我慢できなくなっておねだりをする。<br> 頷いて強く強く抱き締めてくれる逞しい腕、私もまけずにぎゅう~って抱き締める<br> そして慈しむように私の髪を撫で、時々喉元を優しくさする指<br> 「ふにゃ~…ごろごろ」その感触がとても心地よくて私は猫のような声を出す<br> そうだ、いたずらしちゃおっかな♪<br> ちゅっ、私は愛しい人の唇を奪う<br> 驚いた顔をしているその人の顔をみてクスクス笑う<br> 「この間のお返しよ、いきなりされてびっくりしたんだから。…今度は、ブーンから…して」<br> 優しく笑ってまた強く抱き締めてくれるブーン<br> 目を閉じる私、いつくるのかと待ち受けているのになかなかこないブーンの唇の感触<br> 私は少し怒って目を開ける<br> 「まだなのっ…ん、あ…」<br> また不意をつかれた、今度は優しく舌をからませてくるブーン、意識がとろけそうな甘い感触が心に広がる…<br> ずっとずっとこうしていたい…<br> 嬉し涙が私の両目からこぼれ落ちる…<br> <br> ガタンガタン…ガタンガタン…<br> <br> 私は目が覚める<br> 「やっぱり…そう…よね」<br> 夢とはわかってはいた、幸せな甘い夢想<br> 私はこれから絶望の答え合わせに行くようなものだから…<br> カーテンを開けると辺り一面暗い灰色の雲に覆われ強い雨が窓ガラスに吹き付けていた<br> 私の心と同じ空模様だった<br> <br> 106 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)13:45:28ID:auHBUL8oO<br> ○○県の県庁所在地と同じ○○駅に着いた頃には9時を回っていた<br> しとしとと降り頻る雨<br> 私は○○総合病院の所在地を聞くために駅前の交番に立ち寄る<br> <br> 「あの…○○総合病院に行きたいんですけど、場所がわからないので教えていただけませんか?」<br> 年輩のお巡りさんが対応してくれた<br> 巡「あんらきんれいなねぇちゃんだっぺ~、東京からきただか?」<br> 早く教えてほしかったけど容姿を褒められ悪い気はしなかった。何よりその東北訛りがあたたかさを感じた<br> 「えぇそっちの方から来ました…大切な人が、そこの病院に入院してるって聞いて…」<br> 巡「そっが、大変だったなや…○○総合病院は二番線の○○行きのバスに乗って……」<br> 詳しく説明してくれるお巡りさん、私はお礼を言って交番を後にする<br> <br> バスにゆられ約三十分、市街地を抜け田園風景が広がるその中に○○総合病院はあった<br> <br> バスを降り、病院の入り口に向かう<br> やっと着いたという安堵感とともに、これから突きつけられるかもしれない厳しい現実に不安感はますばかりだった<br> 入り口に立ち、しばらく立ちつくす私…足が言うことを聞いてくれなかった<br> ほっぺたをぺちぺち叩き自分の体に喝を入れる、ここまで来て何もしないで帰ったらおいちゃんにも申し訳ない<br> 私も真実を知りたい、勇気を出して病院に足を踏み入れる。そして受付に向かう<br> 「あ、あの…ここに内藤ホライゾンていう男の子入院してますか?」<br> 受付「内藤ホライゾンさんですね?少々お待ちください」<br> かたかたとコンピュータで検索する受付のお姉さん<br> 受付「あ…」お姉さんが小さな声をあげる<br> 「え、ど、どうしたんですか?」<br> 慌てて尋ねる私、もしかしたらもう…<br> <br> 120 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)19:01:52ID:auHBUL8oO<br> <br> 受付「失礼ですがご親戚の方ですか?」<br> 「いいえ、友人です…あの、ここの病院にブーン…内藤くんはいるんですか?」<br> 首を降る受付のお姉さん<br> 受付「…以前までは確かに当院に入院されていました…」<br> 「と、言うと…もう…う、嘘…でしょ」<br> 覚悟していたとはいえ、実際に事実を突きつけられるとこれだけの衝撃はなかった…<br> 体と心が千切れてバラバラになってしまうような感覚を覚え泣き崩れる私…<br> <br> 123 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)20:08:19ID:auHBUL8oO<br> 慌てた様子で私に近付き、耳元でささやく受付のおねえさん<br> 受付「あ、あの申し訳ありませんがちょっとこちらに来ていただけますか?詳しいお話はこちらで…」<br> 診察室のひとつに通される私、何をする気力も無かったけど促されるままに椅子に座る<br> 受付「少々お待ちください、今担当だった医師を連れて参ります」<br> こぼれる涙はしばらく止まりそうになかったけど、どういうことがブーンに起こったのか、しっかり知っておこうと思った<br> きゅっと唇を結び腫れたまぶたをハンカチで拭う<br> <br> 医師「お待たせいたしました…」ほどなく白衣を来た若い男の医師が私の前に現れた<br> 私も立ってお辞儀をする<br> 荒巻「私内藤くんの担当医をしておりました、荒巻と申します。<br>  内藤くんのお知り合いと伺いました。短刀直入に言えば内藤くんは転院してこの病院にはいません」<br> 「てんいん…?」どういう症状なんだろうと一瞬考える<br> 荒巻「この病院ではなく、他の病院に入院しているということです」<br> 「え?ということはまだ…ブーンは生きているってこと…ですか?」<br> 荒巻「はい。うちの受付が誤解されるような表現を使ってしまい大変失礼致しました、その通りです。<br>  最近は個人情報の管理云々でいろいろと難しいのです。本来なら、入退院の状況など一般の方にお教えすることは出来ないのですが…<br>  彼にとってあなたはとても大切な方と受付が判断しこのような対応を取らせて頂きました、何分彼の家族は…」<br> 「ほんとうにみんな事故で…?」<br> 医師「ご存じでしたか…ええ…」<br> 顔を曇らせる荒巻医師<br> <br> 129 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)21:32:14ID:auHBUL8oO<br> <br> 荒巻「幹線道路での大規模な玉突き事故に巻き込まれまして…お父様、お母様は即死、モルスァちゃんはここに運び込まれてすぐ亡くなりました…<br> 内藤くんは、もちろん重症ではあったのですが、救急車に乗るまで意識があったそうです。<br>  救急隊員の話ではお父様、お母様、妹の惨状を見て発狂寸前に陥っていたと言っていました<br>  そういったショックがとても強かったこともあったのでしょう…こちらに来てから三日前まで昏々と眠り続けていました。三日前、目覚めた時…」<br> 荒巻医師は話を一度止め、かけていた眼鏡をはずす<br> ポケットから布を取りだし、湿気のため曇ってしまったレンズを拭いていた<br> 「目覚めた時…どうだったんですか?」恐る恐る尋ねる私<br> ふーっと一息つき辛そうに私に告げる<br> 荒巻「今までの記憶が全て…なくなっていました…」<br> 「それは…記憶喪失ということですか?」<br> 荒巻「ええ…あまりにも外的にショックな状態が目の前で起こったため、心を守るために辛い記憶を抹消しようという適応規制が強く働いたためではないかと思われます。」<br> 「命に…命に別状は?」<br> 荒巻「それは大丈夫だと思います、あの激しい事故の中、奇跡的に内蔵や脳、脊髄の損傷がありませんでしたから」<br> 「よかった…」<br> 安心のあまり、地べたにへなへなと座り込んでしまう私<br> 無事と分かれば一刻も早く、ブーンに会いたかった<br> 「ブ…内藤くんはどこの病院に転院したんですか?」<br> 荒巻「彼には頼るべき親戚がほとんどいません…なので私の知り合いが経営するхх村という静かな山奥の集落にある、いもくろ診療所という病院に転院させました。ただ…」<br> 「ただ…なんですか?」<br> <br> 136 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/22(土)22:41:38ID:auHBUL8oO<br> 荒巻「精神状態がひどく不安定です…ご家族が亡くなられた今、きっとあなたはこの世で一番内藤くんの事を大切に思っている人だと思います<br> 根気強く、優しく接してあげてください…私からもお願いします、彼を救ってあげて下さい」<br> 私を深い深い暗闇の中から救い出してくれたブーン…<br> 今度は私が、私がブーンを助ける番っ…<br> 「はい、彼は…私にとって生きる支えです。きっと、きっと彼を…救い出して見せますっ」<br> 荒巻「是非お願いします、では院長のいもくろにはこちらから連絡をいれておきます。後これは、○○駅から、××村への行き方です。<br>  それと駅へのタクシーをこちらで手配しておきます、どうぞ乗っていってください」<br> 「そんな悪いです…自分でバスに乗って行けますから」<br> あわてて首を振る私<br> 荒巻「わざわざ遠い神奈川から来て頂いたのですから…<br>  それくらいさせて下さい、ターミナルに待たせてありますので乗っていって下さい」<br> すぐにでもブーンの元に向かいたかったので、荒巻医師の心遣いがありがたかった<br> 「ありがとうございます…ではお言葉に甘えさせて頂きます」<br> 感謝の気持ちを表すため、荒巻医師に深く頭を下げ、診察室から出る<br> 目指すはブーンの待つ××村<br> 生きているって、元気だってわかっただけでこの病院に来る前に比べ、私の心と体は格段に軽くなっていた<br> 記憶喪失なんて私が吹っ飛ばしてみせる<br> 強い決意を胸にタクシーに乗り込んだ<br> <br> 141 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)00:46:41ID:QFJBgNLWO<br> ××村に着くころにはもう日がだいぶ傾きかけていた<br> 朝から降っていた雨は止み、青と白のコントラストが綺麗に空に映えていた<br> 無人の改札から駅を出ると、ここちよい風とたくさんの自然が私を出迎えてくれる<br> 風に揺れるススキ、山々の紅葉<br> 「きれいなところね…」<br> 山々に囲まれた駅の回りには店一つなく、バス停と自動販売機が二つおいてあるだけだった。<br> 私は自販機でお茶を一本買い、バスの運行表を覗いてみる。<br> 次のバスが今日の終バスで、あと十五分後にくるようだ<br> 「危なかった…田舎は夜早いのね」<br> ベンチに腰掛け買ったお茶で喉を潤す<br> ふーっと息をつく。思えば遠くまできたものだった。東北の奥の奥、もちろん今まで一人でこんな遠出したことはなかった<br> 「もう少しでブーンに会えるんだ…」<br> 旅立つ前は絶望しかなかった、しかし今は確実にブーンが生きているってわかった。<br> 記憶喪失ということは私の事、全く覚えていのだろうか?あの二日間の記憶はなくなってしまっているのだろうか…<br> そう、よく考えてみれば、九年前ブーンと別れて、この間再会してから二日しか一緒に過ごしていない<br> それなのに私がこれだけ大切、大好きって思えるってすごい事だって思えた<br> なんだか悔しかった<br> 「私の事、忘れたなんて絶対許さないんだから…あ…」<br> 遠くからエンジン音がかすかに聞こえる、その音は少しずつ近付いてきていた<br> キキー<br> バスに乗り込む私<br> あと…あともう少しでブーンまで辿り着ける<br> 私の旅は終りに近付いていた<br> <br> 150 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)02:46:11ID:QFJBgNLWO<br> バスを降り、しばらく歩くと三十世帯ほどの小さな小さな集落に辿り着いた<br> 辺りはだいぶ日が落ち、山々の紅葉が夕日でさらに赤さを際立たされていた<br> もらった地図はあったけど、小さな集落だし自分で歩いてみつけようって思った<br> 私は歩き出す。昔ながらの暖かい町並み、何となく心が落ち着く風景だった<br> <br> ほどなく目的の建物を発見する、門の前には番をするかのように柴犬がちょこんと座っていてこちらを不思議そうに見ていた<br> 「こんにちは、わんちゃん」<br> 私が喉をなでてやるとうれしそうに尻尾をぶんぶん振り回して甘えるように頬ずりをする<br> 「あまえんぼさんなのね、かわいい…」<br> ガラっ<br> 不意に扉があく<br> ( ´~`)「おや?こんにちはタネ」<br> 「あ、こんにちは…」慌てて頭を下げる<br> ( ´~`)「え~と…もしかしてツンさん?」<br> 「あ、はいそうです」(´~`)「荒巻から連絡もらったタネ、私がタネタネ診療所(すみません変更します)の院長種田タネ、こっちの犬は龍って言うタネ」<br> (´金`)「わんっ!」<br> 「遅い時間に押し掛けて申し訳ありません」<br> (´~`)「いやいや全然構わないタネ、あんまり忙しいわけでもないタネ。じゃ中へどうぞタネ」<br> 「あ、じゃあ失礼します」<br> 診察室まで通される<br> 一秒毎に胸の鼓動が早く高まっていくのを感じる。もうすぐブーンと…<br> ( ´~`)「ま、どうぞおかけ下さいタネ。」<br> 「はい、ありがとうございます」<br> 言葉に甘え椅子に腰かける<br> ( ´~`)「ほんと遠いところから良く来たタネ。<br>  で、彼なんだけど今はここにいないタネ」<br> 「え?!ど、どういうことですか?入院してるって…」<br> (´~`)「まぁ、こんなド田舎の診療所だからね、看護婦も一人しかいないタネ…だから夕方にはタネタネの家に連れていって嫁に世話させてるタネ」<br> <br> 160 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)10:15:00ID:QFJBgNLWO<br> 「あ、なるほど…ということはだいぶもう具合いはいいんですか?」<br> 少し安心して私は尋ねる<br> ( ´~`)「体に関してはだいぶもう治って来てるタネ<br>  右手にまだギプスしているけどそれ以外は若いし回復力が素晴らしいタネ」 <br> 「よかった…」ほっと安堵の息をつく私<br> (´~`)「荒巻から多少聞いているとは思うんだけど、後は心の問題タネ…<br> 事故の惨状、ひとりぼっちになってしまった寂しさ、そういった事を心の奥底に閉じ込めて自分が傷付かないように守ろうとしてるんだと思うタネ」<br> 「あの…どういう状態の記憶喪失なんですか?」<br> (´~`)「基本的に暗くなったり、暴れん坊になったり、怖がりになったりとかの性格の変化とかそういうのはないと思うタネ<br>  今までの記憶がないってだけで。ただ時々…さめざめと涙を流している時があるタネ、どうして泣いているか聞くと『わからないけど勝手に出てくる』って…言ってたタネ」<br> 龍の頭を優しく撫でる種田先生<br> (´金`) 「くぅーん…」<br> 「そうですか…」<br> (´~`)「家族を失ってしまった今、無理に記憶を思い出させるより、のどかな自然でのんびり暮らすことで少しずつ心の傷を癒していければと荒巻は考えたらしいタネ<br> こんな田舎だから今は何でも見てるけど私はもともと精神科の医師タネ、それでここに転院することになったタネ」<br> 「……」<br> 無理に私のことを思い出させようとすると、ブーンは辛い思いをする…<br> 私はどうしたらよいのわからずうつむいていた<br> (´~`)「君は、彼にとって一番大事な人らしいって荒巻から聞いたタネ<br> あまり深く考えず彼に自然に、優しく接してあげて欲しいタネ。それが彼にとって一番いいと思うタネ」<br> <br> 162 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)11:18:59ID:QFJBgNLWO<br> ブーンが私の事、忘れてしまっているのは辛い<br> だけど、今はブーンの心の傷を癒してあげるのが一番大事だと思った<br> 何より、ブーンが生きていてくれたのだから…<br> 生きてさえいればいつか私の事思いだしてくれる日もくると思った<br> 「わかりました。あ…あの、お願いがあるんですが聞いてもらえますか?」<br> 私はひとつの決心をした<br> ( ´~`)「どうしたタネ?」<br> 「しばらく…この集落にとどまって内藤くんの看病をしたいと思います、どこか泊まれる所紹介していただけませんか?」<br> びっくりしたようにこちらをみる種田先生<br> (´~`)「ほんとうはこちらからお願いしたかったタネ、でも学校はいいのかタネ?」お母さんもモナー先生もわかってくれると思った<br> 「はい。学校より、大事なことありますから…」<br> (´~`)「わかったタネ、じゃタネタネの家に泊まって欲しいタネ<br> 妻と二人で住んでるから部屋がたくさん余ってるからお客さんの一人や二人全く問題ないタネ」<br> 「ありがとうございます、お世話になります」<br> 種田先生の厚意がとてもありがたかった、感謝の意を込め深く頭を下げる<br> (´~`)「ただ、おうちと学校に連絡だけいれておいて欲しいタネ。詳しくはタネタネが説明するタネ」<br> 「はい、是非お願いします」<br> <br> 家に電話をかける、そういえば病院を抜け出してずーっと連絡を取っていなかった<br> お母さん、怒ってるかな…<br> ツマ「もしもし?」<br> 「おかあさん、わたし…」<br> 事の成り行きとしばらく学校を休んでこちらに滞在したいと告げる<br> 意外なほどあっさりと了承される<br> ツマ「私は嬉しいのよ?」<br> 「え?」意外な言葉だった、叱られるとばっかり思っていたから<br> ツマ「人との関わりを嫌がっていたあなたが、いろいろな人と出会って、大切な人のために頑張ろうとしてる<br> ブーン君にしっかりついていてあげなさい、体にだけは気を付けて連絡はちゃんとするのよ?」<br> <br> 175 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/23(日)14:59:54ID:QFJBgNLWO <p>「うん、ありがとう…おかあさん…」<br> 理解をしてくれる母の存在がありがたかった<br> ツマ「そっち銀行とかあるのかしら?お金もいるわよね?着替えも持ってってないでしょ?まとめて送ってあげるからお世話になる所の住所教えて」<br> 「お願い、住所は……」そして種田先生に代わってもらう<br> <br> (´~`)「くれぐれもよろしくと言われたタネ、学校にも言っておいてくれるそうタネ。荷物も明日には届くと思うタネ」<br> 「何から何まですいません、ほんとうにありがとうございます」<br> (´~`)「全然構わないタネ。じゃお茶一杯飲んだらうちに帰るタネ」<br> 戸棚から湯飲みを取りだし、急須にお湯を注ぐ種田先生<br> お茶の葉のほのかな香りがあたりを包む<br> ( ´~`)「どうぞつ且~<br>  でも、どうして九年も離れていた彼の事故を知ってこっちに来たのかタネ?<br>  彼は親戚もほとんどいないはずタネ?」<br> 「はい、実は…」<br> 事のあらましを説明する<br> <br> (´~`)「…うそみたいな話タネ…でもほんとだからツンちゃんここまでこれたんダネ<br>  イッツ愛タネ…今度学会の論文に著したいような話タネ」<br> ファ「ウソジャネーコノヤブイシャ」<br> ( ´~`)「…叩いていいかお?」<br> 「首元におもいっきりどうぞ」<br> バチーン<br> ファ「モ、モルスァ!!」<br> <br> 響き渡る絶叫<br> (´~`)「じゃ、そろそろ行くタネ。片付けるからちょっと待ってて欲しいタネ」<br> 「あ、私も手伝います、ごちそうさまでした」<br> お礼を言い私も片付けを手伝う</p> <br> <p>198 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/23(日)20:04:31ID:QFJBgNLWO</p> <p>( ´~`)「ただいまタネ」<br> タネ妻「おかえりなさい…あらあなた、そちらのかわいい女の子は?」<br> (´~`)「内藤くんの彼女のツンちゃんタネ。わざわざ神奈川から来てくれたタネ。今日からしばらくうちに泊めようと思う。いいかタネ?」<br> 「ちょwwまだ、彼女じゃ…」顔を真っ赤にして否定する私<br> 奥さんはクスクス笑って答える<br> タネ妻「もちろんですわ。ツンさん遠いところこんな田舎までようこそおいでくださいました、何もないところですけどゆっくりしていって下さいね」<br> 「はい…しばらくお世話になります、よろしくお願いします」<br> ぺこりと頭を下げる<br> ( ´金`)「わんっ!!」<br> タネ妻「あら龍はツンちゃんの事とっても気に入ったみたいね、この子とも仲良くしてあげてねツンちゃん」<br> 「はい、私も龍大好きです」龍の頭を撫でながら答える私<br> タネ妻「ありがとう。じゃあ、こんなところでなんですからどうぞ上がってください。」<br> 「はい、お邪魔します」<br> 靴を揃えてあがろうとすると、端にきれいに揃えてあるナイキのエアフォースワンが目に入り私の動きが止まる<br> タネ妻「それ、内藤君の靴よ」<br> ドクン…高鳴る鼓動、上気する頬<br> この屋根の下にブーンはいる<br> そんな私の様子を見て、奥さんが私に優しい声で問いかける<br> タネ妻「…まず内藤くんに…会う?」<br> 隣で種田先生も無言で頷く<br> 「は…はい」<br> ニコリと私に微笑みかける奥さん<br> タネ妻「こっちよ、ついてきて」<br> 玄関から長い廊下を進む、突き当たり右の部屋。どうやらここらしい<br> タネ妻「ここよ」<br> 「はい…」緊張に唇が乾く</p> <p><br></p> 205 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/23(日)21:37:21ID:QFJBgNLWO <dl> <dd><br> 襖からわずかに漏れる明かり、それは中にブーンがいることを物語っていた<br> 軽く襖を叩く奥さん<br> タネ妻「内藤くん、入ってもいいかしら?」<br> ……………<br> 返事がない、流れる沈黙<br> タネ妻「内藤くん?入るわよ?」<br> 襖を開く奥さん、すーっと音もなく開く襖、部屋から漏れる明かり<br> ( ―ω―)「ぐーぐーzzz……」<br> 寝ていた…<br> タネ妻「あらあら、仕方ないわね」くすりと笑う奥さん<br> タネ妻「私居間に戻って晩御飯の準備をしておくわ、ツンちゃんはここにいる?」<br> 「あ、はい…」<br> タネ妻「じゃご飯出来たら呼びに来るわ、少しの間内藤くんのこと見ててあげて」<br> そう言い残し部屋から出ていく奥さん<br> 黙って頷く私…瞳からもう、涙がこぼれそうだった。<br> 「無事で…ほんとに…ほんとに…よかった…」<br> 口から言葉がこぼれおちると同時に、私のまぶたの堤防も決壊してしまった<br> 寸前右手にはまだ痛々しいギプスがはめられていたけれど、顔色もよく三日前に会ったブーンとほとんど変わらなかった<br> 「心配かけさせて…私…私…あなたいなくなったらきっと生きていけなかった、生きていてくれて…あ、ありがとぅ…」<br> 滝のようにこぼれる涙私はずっとブーンの寝顔を眺めていた<br> <br> 210 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/23(日)21:57:44ID:QFJBgNLWO</dd> <dd><br> しばらくブーンの寝顔を見ていた、安らかにすやすやと眠っている<br> そんなブーンを見て、なんだか少し腹が立ってきた<br> 私がこれだけ心配して来たのに、起きた時きっと『君誰?』って言うんだろうなこいつ、う~<br> 「悔しい…よし、ちょっといたずらしちゃうんだから…ぐすっ」<br> 涙と鼻をふいてイタズラを敢行しようとする私<br> 「こちらスネーク、本部応答せよ。今から目標の唇を奪いますどーぞー…」<br> もちろん本部からの応答はなかった…<br> 急いで行動に移す私、そっとブーンの唇に自分の唇を重ねる私<br> ちゅっ<br> きゃっ…しちゃった(//_//)<br> ブーンの反応を伺う…が当然無反応…<br> 「なんかすごく敗北感…」がっくり肩を落とす私<br> 「まぁ今日はこんな所で許しといたげるわ…ぐす」<br> ブーンの掛け布団を直し、しっかり寝かせてやる私<br> 「こんなに私を好きにさせた責任とってもらうんだからね(笑)<br>  時間はたくさんあるから少しずつ私のこと思い出させるもん、覚悟するのよブーン…」<br> くすくすと笑う私、目の前にブーンがいる<br> それだけで幸せだった</dd> <dd><br> 255 : <font color= "green">◆iQO/KNrhZ.</font>:2005/10/24(月)22:05:24ID:7f9xOFgnO</dd> <dd><br> 寝ていたけど、ブーンにやっと会えた<br> 改めてまた明日、ブーンが起きた時にゆっくり、話をしよう<br> そう思って席を立つ、襖を開けて部屋から出ようとしたその時<br> ( ^ω^)「…こんばんわだお」<br> びくっとなって振り返る私<br> 「こ…こ、こんばんhdfrtyふじこlp…」<br> 予期していなかったブーンの覚醒に思いっ切り焦る私<br> くすくすと笑うブーン<br> (^ω^)「驚かせて悪かったお、いつ目覚めるかタイミング謀ってたお」<br> 何?…てことは???!!!!!<br> 「いいいい、いつから起きてたのよ??!!」<br> ( ^ω^)「けっこう前からだお(笑)」<br> きゃあああああああ!!!もも、もしかして、ちゅーしたの見られたの?<br> 私は恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤になる<br> ( ^ω^)「顔が真っ赤だお?熱でもあるのかお?」<br> 真顔で聞いてくるブーン<br> さすがに私がキスした時起きてたのとは聞けない…<br> 「な、なんでもないわよブーンのバカっ」<br> (^ω^)「…なんでブーンのあだ名知ってるお?ブーン種田先生に記憶喪失って言われたお<br>  もしかして君はブーンの知り合いなのかお?もしよければ君のお名前、教えて欲しいお」<br> 「あ……」<br> やっぱり記憶…なかったんだ…わかっていたとは言え、少しショックだった。<br> 「そっか記憶喪失なんだ…私ツンていうの。小さいとき、近所に住んでてよく一緒に遊んだのよ<br>  しばらく私も種田先生のおうちでお世話になるの、よろしくね」<br> 平静を装い答える私<br> (^ω^)「ツン…ちゃん…なんだか、懐かしい名前だお…でも、思い出せないお。ごめんだお」<br> 「無理して思い出さなくてもいいわ、あとツンて呼び捨てにしていいわよ、だから私もブーンて呼ぶわよ?いい?」<br> ( ^ω^)「かまわないお、よろしくツン」</dd> <dd>295 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/25(火)22:17:59ID:AAD5HLZiO</dd> <dd> 「これからしばらく、一つ屋根の下で暮らすんだから仲良くやりましょ?」<br> 控え目にブーンが頷く<br> (^ω^)「ブーン、前の事、何も覚えてないお…だから友達いないお↓<br>  だからツンはブーンの一番最初の友達だお、仲良くしてくれるのすごく嬉しいお。ほんとありがとだお」<br> 記憶がなくなっても言葉からにじみ出る素直な気持ち、変わらない優しさ<br> 性格まで変わってたらどうしようって思っていたけど、杞憂に終わったみたい<br> 今までの記憶なくても、これからブーンとまた、楽しい思い出を積み上げていけばいいんだから<br> すると居間からいい匂いとともに奥さんの元気な声が響く<br> タネ妻「ツンちゃん、ご飯出来たわよ、居間にどうぞ~」<br> ほんとうにいい匂い、嗅覚から食欲中枢が刺激され元気に答える私<br> 「はい、今行きま~す」<br> するとブーンがオロオロしだす<br> ( ^ω^)「…ブーンのご飯は?」<br> 「あんたは夕方から寝てたから晩御飯抜きよ。せいぜい飢え死にしないように気を付けなさい(笑)じゃ、私行くわね」<br> 意地悪な笑いを残し居間に向かおうとする私<br> ( ^ω^)「そんな…ブーン腹減って死んでしまうお…」<br> ほんとうに切なそうな顔をするブーン<br> クスクス笑って優しく語り掛けてあげる<br> 「うそよ、ブーンの分もきっとあるわ。一緒に行きましょ」<br> ( ^ω^)「ほんとにないかと思ったお…意地悪だお」<br> 少し口をとがらせ私をみつめるブーン<br> これくらいしても私が心配して泣いた分は帳消しになんかならないんだから</dd> <dd> にっこり微笑んで、ギプスに包まれていない左手のそでをつかむ<br> 「じゃ、行きましょ」(^ω^)「うん、おなか空いたお~」</dd> <dd><br> <br> 298 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/25(火)23:13:31ID:AAD5HLZiO</dd> <dd>明るい朝日が私の頬を優しくなでる<br> 今日は朝から雲一つない、抜けるような青空<br> 風はほのかに冷たく、秋の深まりを感じさせる朝だった</dd> <dd> 布団の中でうーんと伸びをしてゴロゴロ転がる。私は朝これをしないと一日が始まる気がしない<br> よく考えればしっかりとした布団でゆっくり眠ったのは久しぶりな気がする。<br> 昨日は寝台列車、その前は病院のベッドと落ち着かない所で寝ていたから<br> 夜着を脱ぎ捨て昨日の服にまた着替える<br> 今日の夕方にはお母さんから荷物が届くはず、同じ服を着るのはちょっと嫌だけどわがままは言っていられない</dd> <dd>「おはようございます」<br> 居間に入るとすでに誰もいなかった。かわりに朝御飯とメモがおいてある<br> 内容は私たちは診療所に仕事に行くから、ふたりともゆっくり朝御飯食べて天気がいいからおでかけでもしたらという内容<br> 時計を見るともう十時、かなり堕眠をむさぼってしまったようだった<br> まだ二人分の朝御飯がある、ということはブーンもまだ寝てると言うことらしかった<br> 「しょうがないな…もう」目指すはブーンの部屋<br> 襖を静かに開ける<br> ( ―ω―)「んごごごごご…んごごごげ…」<br> 「こいついつまで寝るつもりなのかしら(笑)」<br> どうやって起こしてやろうか思案に暮れる<br> とりあえずちゅーはばれたら怖いので却下、「う~ん…」<br> とりあえずほっぺたつっついてみよう<br> ぷにぷに…ぷにぷに…<br> 「なんて柔らかくて気持いいのかしら…なんかずるいわこの餅肌」<br> なんとなく敗北感を味わう私、でもその感触が心地よくて何度もつっつく<br> ぷにぷにぷにぷに…</dd> </dl> <p>328 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/26(水)22:45:48ID:Vc21V94UO</p> <p>( ^ω^)「ふぇ?」<br> まぬけな声を出しガバって起きるブーン<br> 「おはよ、ねぼすけさん」<br> そのしぐさがなんだか可愛くて自然と顔がほころぶ私<br> (^ω^)「おはようだお、ふわぁー」おっきく伸びをするブーン<br> ( ^ω^)「わざわざ起こしに来てくれたのかお?」<br> 「ち、違うわよ、部屋の前通ったらうるさいいびきが聞こえたから…止めようと思ったのよ」<br> なんとなく素直にそうというのが悔しかったのでむきになる<br> ( ^ω^)「うるさくてごめんだお…」<br> シュンとなるブーン<br> 「え…い、いや別に構わないわよ、ほ、ほら朝ご飯食べましょ。行くわよ?」<br> (^ω^)「わざわざブーン起きるまで待っててくれたのかお?感激だお」<br> う゛…私も寝坊したとは何と無くいいにくかった<br> 「そ、そうよ…だからお腹空いたの、早く用意していきましょ」<br> ( ^ω^)「……」<br> なんだかニヤニヤしているブーン<br> 「な、なによ?」<br> (^ω^)「早く行きたいのはやまやまだけど、ツンそこにいたらブーン着替えられないお…ブーンの着替え、みたいのかお?」<br> 「み、見たいわけないでしょ!!早くそう言いなさいよバカっ!!先行ってるわ…もう」<br> すたすた歩き出す私、何だかペースを奪われてしまった、ちくしょぉ、悔しい…<br> でも、本当は朝からなんだか楽しくてしかたなかった<br> 朝から好きな人とこう言う風な他愛のないやりとりできるって<br> ほんとに幸せなことなんだなって改めて思う</p> <br> <p>333 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/26(水)23:13:42ID:Vc21V94UO</p> <p>ふたりで囲む朝御飯、なんだか夫婦みたいで照れる<br> ブーンの周りは子どものようにご飯がたくさん落ちていた<br> 「もうっボロボロ②こぼしてっ、もっとお箸上手に使いなさいよ…あ」<br> 言った後に気付く、ブーンの利腕の右手には重そうなギプス<br> 箸を持つ左手はいかにもぎこちない<br> (^ω^)「一生懸命左手でお箸持つ練習してるんだけどなかなか上手くならないお…食卓汚してごめんだお」<br> すまなそうに頭を下げるブーン<br> 「ご、ごめんなさい…利腕怪我してるの忘れてた」私も謝る<br> (^ω^)「汚いのは確かだお、だからこぼさないようにスプーン使うお」<br> 台所に戻りスプーンを取ってくるブーン<br> ( ^ω^)「これでいいのだお」<br> 「私が手伝ったげるわ」<br> ( ^ω^)「え?」<br> 近付いてブーンの横に座る私<br> 「手伝ってあげるっていったの、今日だけ。さっき酷いこと言ったおわびよ。何が食べたいか言って?」<br> ( ^ω^)「そ、そんな悪いお…」<br> 「良いから何が食べたいか言いなさいよ、じゃないとブーンの分まで私が食べるわよ?」<br> ( ^ω^)「そ、それは困るお…てか恥ずかしいし…」<br> 「い い か ら 何 食 べ た い の ?」<br> ブーンの言葉を遮りもう一度尋ねる私<br> ( ^ω^)「う…じゃ、ハンバーグ」<br> 小さく食べやすく箸で切り口元に運んであげる私</p> <br> <p>336 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/26(水)23:35:47ID:Vc21V94UO</p> <p> 身を乗り出すようにハンバーグをぱくっとくわえるブーン<br> 「おいしい?」<br> ( ^ω^)「おいしいお」にっこり笑って答えるブーン<br> 「私が食べさせてあげてるんだもん、おいしいに決まってるわよね」<br> 舌をぺろって出してブーンに微笑み返す私<br> 「次はなにがい~い?」<br> ( ^ω^)「じゃ、きんぴら欲しいお」<br> 「はいどうぞ」<br> ( ^ω^)「うまいお♪」</p> <br> <p>389 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/27(木)22:05:50ID:5UtlQEkKO</p> <p>( ^金^)「わんっ!」<br> 龍が嬉しそうに声をあげる<br> 歌い出したいくらいのいい天気、標高が高いこともあり空気も澄んでいた<br> 私たちは川沿いの草むらに大の字になって寝っ転がっていた<br> 「ほんとに気持ちいい日ね…」<br> (^ω^)「抜けるような青空だお、今日なら空飛べそうな気がするお♪」<br> 「んなわけないでしょ」くすくす笑う私<br> ( ^金^)「わんわん」<br> ( ^ω^)「う…龍にも笑われたお…」<br> ずっこけるブーン<br> 「龍もわかるのね(笑)」<br> 再び青い青い空を見上げる<br> ふと頭に浮かぶ歌、それを口ずさんでみる<br> 「君と出会った奇跡がこの胸にあふれてる、きっと今は自由に空も飛べるはず……</p> <p>  誰の歌だか忘れちゃったけど、これだけ空が綺麗だと手伸ばせば届きそうだよね<br>  ブーンの気持ち、ちょっとわかる」<br> う~んと手を大きく横に広げる<br> ( ^ω^)「あっ…」<br> 「えっ…」<br> のばした反動で、不意に重なる私の右手とブーンの左手<br> ( ^ω^)「あった…かいお」<br> 「あったかい…」<br> どちらともなく、握る二人の掌<br> 私を安心させる、ブーンの手の温もり<br> 言葉はいらなかった<br> しばらくの間私たちは、手をつないだまま<br> 頬をなでる心地よいそよ風と、全身を優しく照らす太陽の光を満喫していた</p> <p><br></p> <p>395 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/27(木)23:16:25ID:5UtlQEkKO</p> <p>うとうとして半分意識が夢の国に飛びかけていた<br> ブーンが体を起こし、ぼそりと呟く<br> (^ω^)「…ツンはどうしてこんなに、ブーンに優しくしてくれるお?」<br> 「好きだからにきまってるじゃない」<br> …と言うのが本心だけど、素直に言えるほど私は可愛くない<br> 「う~ん、幼馴染みだし、一緒の所に住ませてもらってるし、なんとなく…かしら?」<br> 相変わらず可愛くない私<br> ( ^ω^)「ブーン、記憶が欲しいお…」<br> 「え?」<br> (^ω^)「ブーンが今まで生きてきて、知り合った人達との思い出、全てなくなってしまったお…<br> 空虚なその心の中が寂しくて寂しくて、夜寝る前涙が止まらないお<br> 家族もいるはずなのに思い出せない、会いに来てもくれない、とっても孤独でつらくてしかたないお」<br> とっさに何と声をかけていいのかわからず言葉につまる私、私からは言えない…<br> (^ω^)「ブーン気付いたらひとりぼっちだったお…だけどツンが、来て仲良くしてくれて<br>  ほんとにブーンの心少しずつ暖かくなってくるの感じるお、ありがとうだお」<br> 「ブーン…」<br> 私は我慢できなくなって、ブーンの背中に抱きつく<br> 「私、本当はあなたを追ってこの集落まできたの…<br>  記憶を無くす前のあなたが、暗い暗い闇の中にいた私の心を救い出してくれたから<br>  だからあなたのそばで、私あなたの力になりたいって思ってる」</p> <br> <p>426 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/28(金)19:43:02ID:WVEz7GvsO</p> <p>「 だから…私、ブーンのそばにいても…いい?」<br> 服を掴む手に自然と力がこもる<br> 私の左手を握り返してくれるブーン<br> (^ω^)「ツンの事、覚えていないこんなブーンのそばにいてくれるのかお?」<br> 「記憶がなくてあなたが辛いなら、私助けてあげたい…ほっとけないっ…<br>  記憶がなくてもブーン変わってない…優しくて、ちょっとドジで…<br>  私ブーンと一緒に…いたい…の、だめ?」<br> (^ω^)「嬉しくて…涙出そうだお、ブーンからもお願いするお…ブーンと一緒にいて欲しいお…」<br> ブーンの正面に回り、今度は胸に抱きつく<br> 「うれ…しい」<br> 頬をぎゅってブーンの胸に押し付ける<br> ブーンの鼓動の音が聞こえる、生きている証。私を包む暖かい体温<br> 私の髪を優しく撫でるブーンの手、あまりの心地よさに私は猫のようになってしまう<br> 「にゃぁ…もっと撫でて欲しい…」<br> 自然と出てくる甘える言葉、私という存在をブーンに感じてほしかった<br> そしてブーンの存在をもっと感じたい…じっとブーンの目を見つめる<br> ちょっと潤んだ私の瞳、きっとちゅってしてくれるよね?<br> 優しい瞳で私を見つめてくれるブーン、今度はゆっくりとブーンからしてくれた<br> ( ^ω^)「二回目だお(笑)」<br> 「え…?え?ど、どういうこと?」<br> 慌てる私…もしかしてばれてたの?イタズラのキス<br> ( ^ω^)「昨日はツンからしてくれたお(笑)」<br> 「そ、そ、そんなことし、してないわよ…あわわ…」<br> ばれてたらしい…真っ赤になってブーンの胸の中に隠れる、恥ずかしい(////)</p> <p><br></p> <p>453 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土)02:13:14ID:NcH6y7RcO</p> <p>にっこり微笑んでいたブーンの顔が急に険しくなる<br> 「どう…したの?」ただならぬその表情に不安を隠し切れず尋ねる<br> 頭を抱えうずくまってしまうブーン<br> ( ^ω^)「…ぃお…」<br> 「え?何て言ったの?」慌てて聞き返す私<br> ( ^ω^)「頭が…割れる、よう、にいたい、お…」<br> 「だ、大丈夫?!」<br> 苦痛に歪むブーンの顔、流れ出る脂汗。ただごとではない<br> 「く、くるしい…痛いお…」<br> 力なく私にもたれかかるブーン、私は必死に声をかける<br> 「し、しっかりして!!」<br> 私の問掛けに少しずつ返事がなくなる<br> 「待ってて、すぐ種田先生の所に連れていくから!頑張ってブーン!!」<br> 必死に背中にブーンを背負おうとするもなかなかうまくいかない<br> 「落ち着いて落ち着くのよツン」<br> 自分に必死に言い聞かせる、ブーンは苦しそうなうめき声をあげていた<br> 「龍、お願いっ…種田先生の所に行って、種田先生連れて来て!!お願い…」<br> ( ´金`)「わんっ!」<br> 了解してくれたのか一目散に走り出す龍<br> 龍に頼ってばかりもいられない、もう一度ブーンを背負う事を試みる<br> 「ブーン、もう少しだけ頑張って…すぐ種田先生のところ連れていくからね?」<br> ( ^ω^)「……」<br> 返事はなかったけど、背中にブーンが力なくうなずく感触が伝わってくる<br> また、ブーンがいなくなってしまうなんて私の心が耐えられない…<br> 出来る限りの力を呼び起こしブーンを背負い診療所へ向かう私<br> 絶対に…絶対に助けてあげるからね</p> <p><br></p> <p>456 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土)02:49:56ID:NcH6y7RcO</p> <p> 鎮痛剤が効いているらしく、ブーンは診療所のベッドの上ですやすやと眠っていた<br> あのあとしばらくして龍が種田先生を連れてきてくれて種田先生が背負って診療所まで連れてきてくれた<br> 「龍…ほんとうにありがとう、お前は賢いね」<br> 頭をたくさん撫でてやり、ぎゅって抱き締める<br> ( ^金^)「くぅ~ん」<br> 甘えるように私の頬を舐めながら、尻尾をふる龍<br> 「先生…ブーンどうなんですか?」<br> 恐る恐る尋ねる私<br> (´~`)「原因はまだちょっとわからないタネ…ただ脳に出血があったりとか突発的な病気でない事は確かタネ」<br> 「じゃあ、命に別状とかは…」<br> (´~`)「それは大丈夫と思うタネ。多分記憶喪失特有の心の葛藤じゃないかと思うタネ」<br> 「心の葛藤…」<br> (´~`)「記憶を思い出したいと強く思う気持ちと、それを防ごうとする適応規制の戦いが内藤くんの心の中で起こってるんじゃないかと思うタネ」<br> 「…私が、来たからですか?」<br> 良かれと思ってここまで会いに来たけれど、私の存在でブーンの辛い過去の記憶が呼び戻されるのなら…<br> 来なければよかったのかもしれないと言う不安でいっぱいだった<br> (´~`)「ないとは言えないタネ…けれど、いつか記憶は戻るものタネ。<br>  内藤くん自身がいつかこの問題を解決しなくてはいけないタネ、ツンちゃんのせいではないタネ」</p> <br> <p>458 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土)03:07:08ID:NcH6y7RcO</p> <p> どうしたら私はブーンに心の平穏、そして安らぎを与えてあげることができるのだろうか…私じゃ、駄目なのかな<br> こぼれ落ちる涙<br> 「あ…すいません…」<br> 必死に涙を拭う私…けれども次から次へと溢れる涙はなかなか言うことを聞いてくれなかった<br> 種田先生が私にハンカチを差し出して優しく語りかけてくれる<br> (´~`)「これだけ、内藤くんの事思ってくれる人がいるって事、家族をなくした彼にとってこれほど心強い事ないと思うタネ<br>  だから彼も君と過ごした過去の記憶を取り戻したいって思ったんじゃないかってタネタネ考えてるタネ<br>  だから気にしないで今まで通り、内藤くんに接してあげて欲しいタネ。彼にとって君の存在が、一番の生きる支えタネ」<br> 「…生きる、支え…」</p> <p><br></p> <p>493 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土)19:44:37ID:NcH6y7RcO</p> <p> 種田先生は集落の子供が急に高熱を出したと聞き、治療に出かけていた<br> 床にはブーンを守るように龍が座っている<br> 私は椅子に座りブーンの寝顔を見つめていた<br> 規則正しく上下する胸、時折漏れる小さな寝息<br> その姿をみつめ私はふと呟く<br> 「龍、私どうすればいいかな…」<br> ( ´金`)「…くぅん?」<br> 僕に聞かれてもわからないよと言うように子首を傾げる龍<br> ゴーンゴーン…柱の壁時計が六回鳴り午後六時を知らせる<br> 「あ、もうこんな時間…龍、待っててね、ごはん持ってくる<br> 種田先生に龍のごはんを頼まれていた<br> 冷蔵庫の中に龍用という袋があるからそれをあげてと。出てきたものは…<br> 「…バナナ?」<br> 犬ってバナナ食べるんだろうか…でも袋の中に入ってるの全部あげてって言われたし<br> 三本のバナナの皮を剥き、お皿に乗せる<br> 「龍、ごはんよ。今日はブーン助けてくれてありがとうね…」<br> ( ´金`)「わんっ!!わんっ(バナナー)」<br> 「え?バナナ?」驚いて問い返す、龍が喋った気がしたけど…<br> ( ´金`)「ばくばくばく…」<br> 黙々と食べ続ける龍<br> 「まさか…ね」<br> 再び視線をブーンに戻す<br> 相変わらずすやすやと眠り続けるブーン<br> 「ねぇブーン、私あなたのそばにずっといたいよ…今日、あなたもそう言ってくれた<br>  だけど、あなたの中の本当のブーンは、どう思ってるの?私を見ると、寂しいこと悲しいこと思い出して、辛い…の?」<br> 寝ているブーンに問いかける、もちろん聞こえるはずはないけれど<br> 「ブーンの助けになり、たいよ…私じゃ駄目ですか?…神様…」<br> 再び会わせてくれたこととっても感謝してるけど、せっかく会わせてくれたなら…<br> 幸せになりたい</p> <br> <p>500 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土)20:55:50ID:NcH6y7RcO</p> <p>ここはどこだお…?<br> い、痛いお<br> 目を開けると潰れてグシャグシャになっている車の前の席が見えた<br> 血まみれの細い手と力なく垂れた男の人の頭…<br> 「…ちゃん」<br> 微かに聞こえる人の声<br> 「だ、誰かいるのかお?!大丈夫かお?」しかし、いくら声をだそうとしても声が出ない<br> 「お…おにぃ、ちゃん…い、痛いの…助けて、く、苦しい…」<br> その声はシートに押し潰された間から聞こえてくる<br> 必死に声のするほうに手を伸ばそうとする<br> 痛っ…頭と腕に走る激痛<br> その時、ぼんっと爆発するような音がしてボンネットから火の手が上がる<br> 周りからはサイレンのけたたましい音、そして外から人の声が聞こえてくる<br> 「大丈夫か?無事なら返事をしてくれ!!」<br> 外から聞こえてくる呼び掛けに対し、ドアを叩く<br> 「後部座席に生存者がいるぞ!爆発近いぞ、急げっ!!前は無理だ、後ろの二人を優先して救助しろ!!!」<br> 金属を切るような嫌な音があたりに響きわたる<br> 不愉快な音に顔をしかめながらも、先程声が聞こえた隣の座席に手を伸ばす<br> 頭の位置を動かすと、顔中血まみれの女の子の顔が見えて、目が合う<br> 力なくさまよう二つの瞳<br> 「おにぃ…ちゃん…無事だったんだね…」<br> 必死でうなずく<br> 「モルスァ、死んじゃうのかなぁ…これだけ血が出てるのに痛くないの…眠いの…」<br> 必死に首を横に降る<br> 「おにいちゃん…手、繋いでて欲しいな…手繋いでてくれたら怖くないから…」<br> 震える細い手をゆっくり伸ばす女の子<br> 必死に伸ばしその手を掴もうとする、重なる掌と掌<br> 「あったかい…お兄ちゃん…モルスァの分まで幸せになって…ね…好きだよ…おに…ぃ…ちゃ…ん」</p> <p><br></p> <p>507 名前: <font color= "#009900">◆iQO/KNrhZ.</font>[]投稿日:2005/10/29(土)21:40:48ID:NcH6y7RcO</p> <p>急にその手から力ががくんと抜ける<br> 「………??!」<br> 「モルスァーーー!!!」やっと声が出る…<br> …モルスァって誰…だ?お兄ちゃん?ていうか自分は誰なんだ?</p> <p>ガタン<br> 何かが外れる音、体が勝手に動かされる<br> その途端顔に降り頻る雨の感触、灰色の空、回る赤いライト…<br> ドカンっっ!!!!!<br> 立ち上る赤い炎…</p> <p> あまりの音の大きさにそちら

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