隣の家にツンデレのサトラレが越してきた
短編
最終更新:
匿名ユーザー
272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]投稿日:2005/11/17(木)
01:09:13 ID:w/eX/k6J0
「鳴海君」
「ん?」
秋の夕暮れはどこか儚げで、只僕達はその光を、少しだけでも長く見ていたくて。
「私・・・私ね」
「うん」
冷たくなった風は僕達の間を通り抜けて、知らない間に背を追い越した彼女を横目で見た。
「私・・・」(私、引っ越すんだよ)
「・・・うん」
彼女の気持ちをわかりながら、僕は只、君からの言葉を待つ。
「私・・・私・・・」(私ね君の事が好きなんだよ)
ささやかに秘めた思いが僕の胸をしめつける。
わかってるよ、大丈夫だよ。そういって彼女を抱きしめてやりたい。
「わたし・・・」(何でいえないのかな、これでお別れなのに。どうして言えないんだろ・・・馬鹿・・・私の馬鹿・・・)
太陽はビルの中に消え、空は深い青が朱と交じり合う。
「・・・なんでもない!さ、早く帰ろ!」
成長し始めた僕達は結局何も変わらないままで、只この時間をいつまでも続けたくて甘えた。
「・・・そうだね」
そして彼女の背中を見ながらこの時を感じた。時間が過ぎ去らない事を願いながらゆっくりと歩いた。
(結局いえなかったなぁ・・・馬鹿だなぁ・・・本当)
大丈夫だよ、わかってるから。心配しないで君が居なくても大丈夫。
(何で言えないんだろう・・・最後の最後で・・・絶対後悔するのに)
僕のほうから言おうとも思った、でもそれじゃきっと駄目なんだな。本当後悔するんだろうな。
「鳴海くぅーん!寒いから早く帰ろ!一緒にご飯食べようよ」(これも最後なんだな)
彼女は思いっきり走って僕のほうに振り向いた。二つに分けた髪が彼女の呼吸とともに小さく揺れた。
「うん!」
僕も走った、彼女のそばに居たかったから。
そして、彼女は何も言わず転校していった。
294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]投稿日:2005/11/18(金)
01:00:32 ID:g/pU1VHK0
白く霧がかり、いつもは色のある世界はどこか灰色に満ちていた。君との思い出をどこかの物語と
して遠くから見ている自分が居る。ちょうどあの頃から4年が経っていた。
「雨・・・か」
静かにしみこむ様に雨は降る。ほとんどの音は遮断され、雨音だけが広がり僕だけが取り残された
気持ちになる。
どこかのドラマならあの人同じ夕焼けでも映っているんだろうか。しかし灰色に染まった世界はある
意味ぼくの心の中を現していると思う。
あの時から僕は年が経つたびここに立つ。最初のころは君の声、顔、全てがありままに甦り僕はい
つのまにか涙を流していた。今じゃ君の顔すら思い出せない。卒業アルバムを見ても君の姿が思い
出せなかった。
「結局後悔してるんだな・・・」
口に出してみても雨にかき消される。虚しさばかりが僕の胸をついた。秋の空気は雨によって更に
冷えて、心までかじかんでしまいそうだ。
「馬鹿だなぁ・・・本当」
ごめんね、僕は君が思うほど大丈夫じゃなかったみたいだ。君を想うだけで胸が張り裂けそうだった。
灰色がかった世界は段々と青く染まり、そして闇が広がる。
街灯がぽつぽつと点り始め、一つの街灯が僕を照らした。
まるでスポットライトだな。思わず表舞台に立ったようで苦笑いしてしまう。
『私ね・・・』
思い出そうとしても声は甦らず頭の片隅で字幕のように浮き上がる。
『私ね君の事が好きなんだよ』
僕は君との思い出の感傷に浸っているのだろうか?君との淡い物語を楽しんでいるのか?
『わたし・・・』
いずれにしても君の声は甦らず、フィルターの掛かった映像と字幕が思い浮かぶだけだった。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]
投稿日:2005/11/23(水) 01:11:45 ID:ERLBEAOJ0
サー・・・・・・
雨は少しずつ勢いづいてき、ズボンの裾は水を吸い、靴の中は洪水のようになっていた。ゆっくり歩
き始める、まるで川の中に足をつっこむかのように足は重かった。次第に雨音は僕の耳に入ってこなく
なった。浮かぶのは君への想いだけだった。
彼女は、彼女はサトラレだった。確認された中で15人目らしい、彼女の両親は政府からの指示で問
題の少ない田舎へとつれてこられた。今でも覚えている隣の家に越してくる『サトラレ』に不安を露わ
にしている両親の表情を。
『サトラレ』は僕が小学2年の時に進級してからやってきた。まるで怪物でもやってくるかのような
期待感に僕は少なからず胸を震わしていたと思う。しかし、やってきたのは怪物でも妖怪でもなく小さ
な可愛らしい少女だった。彼女の両親はまるで悪い事でもしたかのように遠慮気味に僕達に挨拶してき
た。両親はなんとも無いように振舞っていたが、どこか怯えていた。義務的な挨拶、そして小さな『サ
トラレ』の紹介。僕も緊張していたのだろう、よくは覚えていないだが忘れなかったのは胸の中に響く
彼女の"心の声"だった。
学校での彼女は腫れ物を触るような態度で接せられた。彼女はどうにかクラスに溶け込もうと努力も
していたし、性格が悪いわけじゃなかった。だが、子供達の親は違うのだろうなるべく接さないように
と子供に言い聞かせていたのか彼女はなかなか輪に溶け込めずにいた。そのときの彼女の裏で囁かれた
あだ名は「15番」や「サトラレ」だった。
僕はなるべく彼女に接した。時々聞こえてくる彼女の声はいつも他人を拒否するようなものだ
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]
投稿日:2005/11/23(水) 01:17:58 ID:ERLBEAOJ0
それでも僕は接した、お隣さんとかそういうのは関係無しに、ただ彼女の仲間はずれにされている所を
見ているのは心が痛かったから。同情、だったのかもしれない。
そんな彼女にも女友達が出来た。遠藤由紀というあっけらかんとした女の子と数名の女子だった。由
紀とは元々保育園の友達だった事もあり、僕も気にせずに彼女らと遊んだ。
彼女は明るくなっていった。だが『サトラレ』である彼女には特別なテストも与えられていたり色ん
な所で彼女は僕達とは別にされていた。だから勉強の話が合わず彼女もそれが何となくわかったのかそ
ういう面では口にしなくなった。その声が手に取るようにわかるから逆に辛かった。
家同士の関係も悪くなかったし、むしろ良好と言えただろう。元々悪い人たちではなかった、小さい
僕でもそれはわかった。彼女の両親は『サトラレ』を持つ娘でも優しく接し、厳しくしつけた。しから
れた時の彼女の両親に対する思い、普通は聞こえないものが聞こえる分逆に彼らは辛かったと思う。そ
れでも彼らは懸命に彼女に接していた。両親はいつも話題に出していたと思う、だからこそ彼らに優し
く接した。僕と同じ同情だったかはわからない聴いてみてみるのもいいがそれは何となく嫌だ。
彼女が、何故僕の事を好きになったのかはわからなかった。だが僕はまるでおなかが空いたらご飯を
食べるように花を見て綺麗だと思うように彼女に恋をした。彼女が僕に好意を寄せたのは小学5年生の
頃だったと思う。そのまま僕達は伝えられないまま、二年を過ごした。このまま変わらないと、ずっと
彼女と居られると考えていたのだろう、彼女との少なくとも平和で変化の無い世界で過ごした。だが、
別れは唐突に訪れた。彼女は何度も僕に引越しをすることを伝えようとした。だが伝えられなかった。
彼女は僕の世界から"後悔"だけを残して消えてしまった。
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]
投稿日:2005/11/23(水) 16:31:58 ID:ERLBEAOJ0
気がついたら僕は思いっきり走っていた。呼吸が整わない、心臓は僕の中で暴れている。いつの間に
かに傘は捨て去っていた。雨は段々と僕の身体を濡らし熱を奪っていく
『鳴海くぅーん!寒いから早く帰ろ!』
彼女の心もまた寒かったんだろうか?辛かったんだろうか。濡れた髪は僕の顔を張り付き顔からは涙
が流れるように僕の頬を雨が伝った。身体の中の体温をゆっくりと奪っていく、何かに耐えるようにカ
バンを強く握り締めた。
「寒いから・・・・・・早く帰ろう」
地面に自らを叩きつける激しい雨音をどこか遠くに感じながらゆっくりと、ゆっくりと歩き出した。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]
投稿日:2005/11/23(水) 16:33:26 ID:ERLBEAOJ0
「ただいま」
玄関の戸を開けると小さくつぶやいた。そのままドアにもたれかかる。電気のついていない玄関はど
こか冷たさを感じた。靴を脱ぎそのまま靴下も脱ぐ、部屋に行く前に風呂場に向かった。
何とか脱ごうとするが濡れた服が重く張り付きなかなか脱げない。次第にイラついてきたが何とか脱
ぎ終わる。髪の毛から水が滴り落ちた。風呂場に入りシャワーを出す。噴出す水は最初は冷たかったが
次第に温かさが混じってくる。冷え切った身体は段々と温まってゆく、流れ続けるお湯は排水溝に渦と
なって落ちてゆく。僕はそれをじっと見つめた。
その時洗面所のドアが開いた。
「帰ってるの?」
ガラス越しなので声はあまり届かなかったが、何とか聞き取れた。
「・・・さっき」
「・・・そう、雨に濡れたの?廊下が水浸しになってたから・・・」
「・・・・・・あぁ、誰か傘を持っていっちゃったみたいで、だからそのまま帰ってきた」
「・・・そう、それならいいんだけれど」
母さんは思春期の息子にどう接していいかわからないみたいだった。いい子で育ってきたらしい彼女
は自分が抑えてきた分息子がこうやって反抗してくる事に戸惑いを感じるのだろう。
「父さんは・・・またあの女の所?」