韓国原子力潜水艦計画



韓国海軍は日本や中国など周辺国の安全保障上の脅威に対処するため、4,000トン級の原子力推進潜水艦(SSX)数隻を2012年以降に実戦配備する方案を、秘密裏に且つ積極的に推進している事が判明した。政府高官によると2004年1月25日「国防省と海軍が2003年5月から原子力潜水艦の独自建造を積極的に検討している」とし、「これは半島統一以降の周辺国の安保脅威の中、独自的な生存権を確保するための自主国防努力の一環だ」と説明した。

当初、韓国海軍は「ドイツ製214型潜水艦(KSS-II)」「国産3,500トン型通常動力潜水艦(KSS-III)」→「国産4,000トン型原子力潜水艦(SSX)」と段階的に整備していく計画で、KSS-IIIには国産巡航ミサイルを搭載して戦略兵器として運用する予定だったが、このKSS-IIIを建造する過程を省き、すぐにでも原子力潜水艦を建造する方が効果的な戦略兵器の確保につながると軍首脳は判断した。海軍はこのため、2003年6月にADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)と海軍潜水艦担当官からなる30人余りのSSX事業団を設置し、このSSX事業団は潜水艦設計、KAERI(Korea Atomic Energy Research Institude:韓国原子力研究所)は核推進システムの設計を担当した。事業団は2004~2006年に基本設計概念の研究を終え、2007年から建造に着手し、2012年から2~3年間隔で3隻就役させる計画を立案した。なお、原子力潜水艦は原子力発電所のように低濃縮核燃料を使用するため、朝鮮半島非核化宣言には違反しない。

SSXは4,000トン級の原子力推進潜水艦で、潜水艦用原子力関連のシステムはロシアから技術援助を受ける予定。韓国原子力研究所は、蒸気発生器や加圧器など主要装置が1つにまとまった一体型次世代原子炉の技術検証原子炉SMART-P(設計寿命約30年)を2002年から開発しており、2008年6月に完成する。この実験用原子炉は高さ10m、直径5m程度の大きさで、潜水艦用の原子炉として転用する事も可能だという(原子力研究所は潜水艦搭載予定は無いといっている)。船体はフランスからバラクーダ級攻撃原潜(4,000トン)の技術提供を受け、艦中央部にVLS(Vertical Launching System:垂直発射システム)を12基装備し国産巡航ミサイル(射程500km)を搭載するという。

朝鮮日報が原子力潜水艦計画を報道した翌日、韓国国防省は記者会見を開き原子力潜水艦装備計画を否認したが、214型潜水艦以降に整備する予定のKSS-IIIについて「17億ウォンの予算を投入して概念研究作業を行っているが、推進方式については何らの決定も下していない」として、搭載推進装置について曖昧さを残した。

原潜計画の発案者はチョ・ヨンギル前国防相で、チョ氏は2003年から精力的にSSX計画を推進してきた。予算の問題で大規模な外洋艦隊を建設する事が出来ない韓国海軍にとって、原子力潜水艦は効果的な抑止力として魅力だろう。しかし韓国国内にも技術的経済的問題からSSX計画を疑問に思う声も多く、実現するかどうかは不透明だ。また2004年1月の朝鮮日報の報道により秘密裏に活動していたSSX事業団が解散に追い込まれたとも言うが、詳細は不明。

【2006年1月追記】
韓国が原子力潜水艦を開発・保有することになるのかをめぐって、2006年正月から論議が起きている。 原子力潜水艦論議は韓国防衛事業庁が公式サイトで、2010年から2022年まで総額3兆744億ウォンを投じて3隻の潜水艦を導入する次期潜水艦事業(KSS-Ⅲ)をすると明らかにしたことに端を発する。

公式サイトでこの記述を読んだ専門家が、1隻あたり1兆ウォンを上回る潜水艦は4000トン級以上の原子力潜水艦の可能性が高いという推論を提起すると、狼狽した防衛事業庁はサイトから関連文書を一斉に削除した。更に防衛事業庁は1月5日に緊急記者会見を行い「実務者の単純な間違いによって関連文書がサイトに掲載された。原子力潜水艦説は全然根拠ない風説だ」と表明した。

【2006年10月1日追記】
DAPA(Defense Acquisition Program Agency:防衛事業庁)の関係者は2006年9月27日、3,000t級の次期潜水艦事業(KSS-Ⅲ)は原子力機関でなく、通常動力を採用すると発言した。以前からKSS-Ⅲは攻撃原潜として計画されているという噂が流れており、今回韓国海軍が原潜の建造を諦めたのは周辺諸国の反発を考慮した為と推測されている。KSS-Ⅲは2018年頃から建造が始まる予定。ただ元々韓国海軍は攻撃原潜の建造をKSS-Ⅲの次に行う計画だったので、今後もKSS-Ⅲの後に整備する次々期潜水艦として開発を進める可能性も捨て切れない。

【2007.03.18追記】
韓国を訪れている仏ミシェル国防相は会見で、韓国に対し輸出用ヘリコプターと潜水艦の共同開発を提案したと発表した。この発表によれば、まず最初の段階でフランス側が韓国に対し必要な技術を提供し、次に両国が共同でこれを研究・開発し、最後に第三国に対して製品を輸出する計画だという。但し同国防相は輸出を行うには別途協定を結ぶ必要があると断りを付けた。フランス側は潜水艦について、まずレーダーと通信システムの開発を行いたい意向。現在韓国の潜水艦は全てドイツ製だが、今回のフランスの提案を韓国が受け入れた場合、フランスの技術が使われる可能性もある。フランスは原子力潜水艦の建造能力を持つが、上記の共同開発が輸出を前提にしている以上、それらの技術提供が行われる可能性は無いだろう。

【2008.12.27追記】(参考)
仏サルコジ大統領は12月22日に訪問先のブラジルでルラ大統領と会談し、同国が持つ原子力潜水艦建造のための技術をブラジルに供与する事に合意した。

【参考資料】
朝鮮日報
PowerCorea



2008-12-27 14:42:59 (Sat)

最終更新:2008年12月27日 14:42
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