チャムスリ型戦闘艇(PKM? > キロギ型)


▼PKM標準型の前期タイプ「311号」。艇前部に30mm機関砲1基、後部に20mmヴァルカン砲2基を装備。

▼PKM標準型の後期タイプ「331号」。艇前部に40mm機関砲1基、後部に20mmヴァルカン砲2基を装備。
▼同じく後期タイプだが、衛星通信アンテナを装備していない。

▼PKM準同型タイプの前期型「215号」。艇前部に30mm機関砲1基、後部に40mm機関砲1基を装備。

▼PKM準同型タイプの後期型「263号」。艇前部に20mmヴァルカン砲1基、後部に40mm機関砲1基を装備。

性能緒元
満載排水量 148t
全長 37.0m
全幅 6.63m
喫水 1.7m
主機 ディーゼル 2軸
  MTU MD16V-538-TB90ディーゼル 2基(10,800馬力)
速力 39kts
航続距離 600nm/20kts
乗員 28名

【兵装】(標準型前期タイプ)
近接防御 KCB 30mm連装機関砲 1基
  シー・ヴァルカン20mm機関砲 2基
  12.7mm重機関銃 2挺

【兵装】(標準型後期タイプ)
近接防御 ボフォース L70 40mm単装機関砲 1基
  シー・ヴァルカン20mm機関砲 2基
  12.7mm重機関銃 2挺

【兵装】(準同型タイプ)
近接防御 ボフォース L60 40mm単装機関砲 1基
  シー・ヴァルカン20mm機関砲 1基
  12.7mm重機関銃 2挺
  7.62mm機関銃 2挺

【電子兵装】
捜索レーダー AN/SPS-64 1基
航海レーダー TYPE-1645 1基

1960~70年代にかけて北朝鮮海軍の高速艇はNLL(Northern Limit Line:北方限界線)を越えて韓国領海に侵入し、頻繁に漁船の拿捕や工作員の侵入などを行っていた。当時の韓国海軍には北朝鮮高速艇に対応できる艦船がほとんど無く、成す術を持たなかった為である。この事態に業を煮やした韓国軍は、1971年にアメリカ海軍から40ノットの高速を発揮するアシュビル型哨戒艇のうち1隻(PG-96 Benicia)を購入してパエク(Pae-Ku:白鴎)51号として配備し、また1976~78年にかけてアシュビル型をもとにパエク型8隻をタコマ造船所で建造した。パエク型は76mm速射砲1基とハープーン対艦ミサイルを4発装備する強力な哨戒艇だったが、兵装やガスタービンが高価だったため大量建造を行う事が出来なかった。そこで韓国はより安価な国産高速哨戒艇の建造を計画し、開発されたのがチャムスリ(Chamusu-ri)型である。チャムスリ型は韓国国内でキロギ型(Kilurki:雁の意)とも呼ばれた。

チャムスリ型は2タイプある。基本となる標準型と若干小さい準同型で、輸出名はそれぞれシー・ドルフィン(Sea Dolphin)及びワイルド・キャット(Wild Cat)と呼ばれている。どちらも船型はアシュビル型を参考に設計されているが上構が小さく、主機はガスタービンではなく独MTU社製のディーゼルである。操舵室と戦闘指揮所は分かれており、意思の疎通は伝声管で行う。操舵室は密閉されているが、指揮所は屋根もない露天式である。チャムスリ型は上記のように北朝鮮高速艇の襲撃に備え、韓国漁船団の護衛や領域哨戒を主任務としているため、小~中口径の自動速射砲を主兵装としている。兵装は幾つかのバリエーションがあり、標準型の前期タイプは艇前部に30mm連装機関砲1基と後部に20mmバルカン砲2基を装備し、後期型は30mm連装機関砲を40mm単装機関砲に換えている。準同型艇は艇前部に20mmバルカン砲1基と後部に40mm単装機関砲を装備しており、一部の艇が20mmバルカン砲を30mm連装機関砲に換装した。これらの機関砲はいずれも砲手が乗り込んで直接操作し射撃するタイプだが、防弾板などの装甲が全く無く砲手は敵の弾に無防備に晒されており、西海海戦では次々と死傷者を出して問題になった。この戦訓を受け要所に防弾鋼板が設置され、緊急排水用のポンプと衛星通信装置が装備する改修が行われた。機関銃や小銃の簡易銃座(防弾版付)も増設されている。またFCS(Fire Control System:火器管制装置)の類は一切無く照準は砲手が目視で行っていたが、近年光学式のFCSの導入が進められているという。キロギ型のチャムスリ271号と272号は艇後部の砲を撤去し、MM38エグゾセ対艦ミサイル連装発射筒2基を装備していたが(艇前部の40mm単装機関砲は残っていた)、無理にミサイルを搭載したためバランスが悪く、2隻とも既に退役となっている。両艇はPKMと区別するためにPKMM:Patorol Killer Medium Missileと呼ばれた。

チャムスリ型は現代重工、大宇造船海洋、韓国タコマ造船などで1973年から1980年代後半の長期に渡って建造され、最終的に90隻以上(準同型型43隻を含む)が建造された。チャムスリ型は海軍だけでなく海洋警察でも使用されているほか、フィリピンやカザフスタンなどに売却された。現在チャムスリ型は83隻が就役しているが老朽化が激しく、新型戦闘艇(PKG)による早期の代替を必要としている(パエク型は全て退役済)。なお、パエク型は韓国海軍ではPGM(Patorol Gunboat Medium:中型哨戒砲艇)に分類されていたが、チャムスリ型はPKM(Patorol Killer Medium:中型哨戒迎撃艇)に分類されている。チャムスリ型は通常3隻で1隊を形成している。艇長は大尉。

チャムスリ型は数度に渡って北朝鮮艦艇と砲火を交えている。1999年6月の延坪海戦ではワタリガニ漁の保護を口実に侵入してきた北朝鮮艦艇を325号と338号が迎撃し、魚雷艇1隻を撃沈、警備艇5隻を大破させて追い払い勝利を収めた(韓国側負傷者7名)。しかし2002年6月の西海交戦では奇襲攻撃を受けて357号が85mm砲弾の直撃で炎上、その後も正確な照準射撃を受けて死者5名、負傷者19名の損害を出している。海戦後、357号は仁川港に曳航される途中で沈没した。同年8月に引き揚げられた357号の船体には85mm砲弾5発、37mm砲弾19発、14.5mm銃弾234発など、計258発の命中痕があったという。2003年と2004年にも北朝鮮警備艇のNLL侵犯があったが、どちらも警告射撃で追い払う事に成功している。

■推定
210番台から220番台が準同型前期タイプ
250番台から260番台が準同型後期タイプ
270番台から310番台前半が同型前期タイプ
310番台後半から370番台が同型後期タイプ

▼操舵室上部にある戦闘指揮所。完全な吹曝しだ。
▼兵員室兼食堂。狭い船だけに居住性は悪い。

▼西海交戦で北朝鮮に撃沈された「357号」。その後引き揚げられ展示された。

【参考資料】
世界の艦船2003年3月号、2006年9月号(海人社)
朝鮮日報
World Military Power
Grobal Security
PowerCorea


2007-12-02 17:54:34 (Sun)

最終更新:2007年12月02日 17:54