E-737早期警戒管制機(韓国)



性能緒元
重量 77,110kg
全長 33.63m
全幅 34.32m
全高 12.55m
エンジン CFM56-7B24(118kN)×2
最大速度  
巡航速度 700km/h
航続距離 5,200km
上昇限度 12,500m
乗員 8~12名

E-737はB-737-700の機体背部に、米ノースロップ・グラマン社製のMESA(Multi-role Electronically Scanned Array:多機能電子走査アレイ)レーダーを搭載したAEW&C(Airborne Early Warning & Control:空中早期警戒管制)機で、長時間滞空しながら敵性航空機の監視・追跡と味方航空機の指揮・管制を行う事であらゆる航空戦を優位に進める空中支援機。現代の航空戦では極めて重要な役割を果たす機種だ。韓国空軍は15億9,000万ドルでE-737を2012年までに4機整備する予定(2011年に1機、2012年に3機)。E-737はオーストラリア空軍とトルコ空軍も現在取得整備中である。

韓国は2000年から空中警戒管制機を整備するE-X計画を進め、米ボーイング社の推すE-737(B-737AEW&C)とイスラエル・IAIエルタ社の推すG-550AEW&Cが採用を競った[7]。E-X計画はIAIエルタ社のG-550が韓国空軍の要求性能に達せず(レーダーの性能が低かったようだ)、競争入札が行えない事態になり一時事業が中段されるなど混乱したが、2005年に再開された。選定事業が再開された後もIAIエルタ社が期限までに評価用データを提出できなかったり、アメリカ政府がE-737が採用されるよう圧力をかけたりと問題が起きたが、韓国国防省は2006年8月4日にE-737の採用を決定した[8]。決定後に行われた価格協議でボーイング社と揉めたりもしたが(韓国側が要望していた16億ドルを上回る17~19億ドルがボ社から提案されたという)、2006年11月8日に韓国DAPA(Defense Acquisition Program Agency:防衛事業庁)はボーイング社と15億9,000万ドルで契約を結ぶと発表した。この契約には一部技術移転や地上器材、要員の訓練、ミッション・サポート、機体とシステムの改修サポートが含まれるという。1号機の機体改修はボーイング社で行われるが、2~4号機は機体そのものと機材・装備がアメリカから韓国のKAI(Korea Aerospace Industries:韓国航空宇宙産業)に送られ、KAI社が改修を担当する予定。

E-737の母機となるB-737-700は米ボーイング社が開発した近距離用旅客機B-737の近代化型で、翼面積を拡大して翼面荷重を減少させて高高度巡航を可能にし、翼内燃料タンクも増加して航続距離が大幅に延びている。航続距離は約5,200kmで、10時間以上滞空可能。受給能力もあるため、空中給油によりさらに滞空時間を延ばす事ができる。機体規模は航空自衛隊が装備しているE-767のベースになったB-767より一回り小さく、座席数も少ない。B-737-700は1997年11月に形式証明を取得し、同年から航空会社に引き渡しが始まった。

E-737はこのB-737-700の機体背部にMESAと呼ばれる板状のレーダー・IFF(Identification Friend or Feo:敵味方識別装置)のアンテナを装備している。MESAは米ノースロップ・グラマン社(旧ウェスチングハウス社)が開発したLバンドのフェイズド・アレイ・レーダーで、10秒以下で360度を電子的にスキャンする事ができる。通常の捜索距離は約500kmで、3,000の空・海上目標を探知し追跡可能。レーダー・アンテナはIFFのアンテナも兼ねており、細長い板状のため空気抵抗も少なく、速度や航続距離に与える影響はほとんどないという。オーストラリア空軍が採用したE-737には、イスラエルElta社製の電子戦システムとノースロップ・グラマン社製のAN/AAQ-24(v)ネメシス赤外線ミサイル警報システムが搭載されているが、韓国空軍のE-737にこれらが装備されるかは不明。E-737はデータリンク(Link16、Link11、Link4、MIDS)にVHF/UHF通信、衛星通信を含めた大規模通信システムを有する。高解像度の多機能コンソール数は6基。追尾・管制システムはオープン・アーキテクチャで作られており、アップグレードを行う事で機能を拡張する事ができる。また追尾・管制システムはE-767AWACSやアメリカ軍のE-3AWACSのシステムと連接する事が可能で、アメリカ軍と密接な軍事協力関係を築いている韓国軍としては好都合だろう。

【2007.09.16追記】
米ボーイング社は2007年8月末にソウルでE-X(E-737)AEW&Cに関するサプライヤー・カンファレンスを開催した[9]。ボーイング社の発表によるとE-X事業に参加する主な企業はKAI(機体及びシステムの改修、地上クルーの訓練)、NEX1フューチャー社(VHF/UHF無線機)、三星タレス社(ミッションクルーの訓練・評価)、ヒュニド・テクノロジー社(一部システムのインテグレート、プログラムオプション、民生品を使ったデータリンク)、ATA社(フライトクルーの訓練・評価)、ボーイング・オーストラリア社(兵站支援)、BAEシステムズ社(ESM、自衛用電子戦機器、支援施設、ミッション・シミュレーター)など。

【2010年3月1日追記】
ボーイングで組み立てられた韓国向けE-737一号機が2010年2月9日に韓国に到着した[10]。MESAレーダーは未搭載で、搭載作業は韓国航空宇宙産業(KAI)が実施する。空軍への引渡しは2011年の予定[11]。

E-737は、2012年に予定されているアメリカから韓国への戦時作戦統制権の移行に備えた、独立した情報収集・監視・偵察能力の向上を達成するための装備の1つとして導入が行われる[11]。韓国が発注しているE-737四機全ての引渡しが完了するのは2012年の予定。

【参考資料】
[1]月刊航空ファン(文林堂)
[2]別冊航空情報 世界航空機年鑑2005(酣燈社)
[3]Grobal Security
[4]Airforce Technology
[5] Defense-Aerospace
[6]Military Analysis Network(Federation of American Sientists)
[7]Kojii.net今週の軍事関連ニュース (2005-12-16)
[8]Kojii.net今週の軍事関連ニュース (2006-08-11)
[9]Kojii.net今週の軍事関連ニュース (2007-09-14)
[10]The Korean Times「1st Early Warning Aircraft Arrives in S. Korea」(2010年2月9日)
[11] Defense News「Boeing Delivers 1st 737 AEW&C to S. Korea」(2010年2月8日)


2010-03-01 19:13:33 (Mon)

最終更新:2010年03月01日 19:13
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