T-50の機体レイアウトはF-16に極めて近く、ひとまわり小型(グリペンとほぼ同規模)にしたような形だ。搭載レーダーの要求が高くないため、機首のデザインは細めになっている。中翼配置で可変キャンバー式の主翼には前縁のみに後退角、翼付け根前方にLEXが付き、空気取り入れ口は胴体両側面に設けられている。練習機として低速時のハンドリングが重要になるため、各舵面はF-16より面積が拡大されており、それぞれの作動レートも大きく設定された。操縦系統は3舵ともフライ・バイ・ワイヤで操作される。T-50にはAPU(Auxiliary Power Unit:補助動力装置)が搭載されているため、地上の支援設備なしに自力でエンジンをスタートさせる事が可能。エンジンはゼネラル・エレクトリック社のF404-GE-102ターボファンで、F/A-18に搭載されているのと同系統のもの。アフターバーナー使用時は最大推力17,700lbを叩き出す。このエンジンはアメリカが他国への輸出を渋った過去がある。T-50に使用されるF404は韓国の三星テックウィン社によりライセンス生産が行われる。コクピットはHUD(Head-Up Display:ヘッドアップ・ディスプレイ)と5×5.1インチのカラーMFD(Multi-Function Display:多機能ディスプレイ)を2基備えており、HOTAS(Hands On Throttle And Stick:手をスロットルレバー及びスティックから離さず各種操作を行える事)やアップフロント・コントロールといった概念が取り入れられている。操縦桿は後席の教官が前席の学生の動作を把握できるよう、それぞれ電気的に同調して作動するアクティブ・スティックになっている。座席はマーチン・ベイカー社製のMk16Lゼロ・ゼロ射出座席。背面はF-22やF-35と同じように17度のリクライニング角となっている。T-50のアビオニクスは技術面での支援を担当したロッキード・マーチン社の担当で、同社はそのほか飛行制御システムや主翼も担当している。最大離陸重量は29,700lbで最大上昇率は毎分39,000ft、機体最大制限荷重は-3/+8。機体の構造寿命は最大10,000飛行時間。
韓国政府は全部で72機(当初は94機の予定だったが削減された)のT-50を調達する計画で、第1期分の22機には予算が付き生産が確定しており、第2期分38機、第3期分12機も生産が決定した。T-50の開発は順調に進み、1番機と2番機が2006年1月4日に韓国空軍に引き渡された。2006年中に8機(1、2号機と合わせ全10機)が引き渡され、2007年からは月産1機の割合で生産される。量産は最低でも2012年まで継続されることになる。2007年4月現在では既に13機が引き渡されており、最初のT-50訓練生が運用を開始している。2008年中にT-50を擁する飛行隊は2個に拡大される予定。T-50は韓国空軍のアクロバット飛行隊であるブラックイーグルスにも10機が配備される予定。KAIは韓国空軍向けを含め、各派生型合計で最大600機の生産を期待しているという(KAIは2030年までにT-50級の航空機3,300機の潜在的需要があると分析している)。生産にあたっては大宇が中央胴体、KAL(Korean Air:大韓航空)が後部胴体と尾部ユニット、ロッキード・マーチン社が主翼、KAIが前部胴体と最終組立を分担する事になっている。ワークシェアのうち55%はアメリカ側の取り分で、44%が韓国、残り1%はその他の第三国。T-50で使用しているソフトウェアは全面的にロッキード・マーチン社が開発・生産しているが、韓国はレーダーとエンジン制御に関する部分以外のソフトウェア全てを2011年までに国産化するとしている。しかしロッキード・マーチン社からFBW(Fly-by-wire:フライ・バイ・ワイヤ)やFCS(Fire Control System:火器管制装置)のソースコードが韓国に公開される見込みは無く、これらも含めて653億ウォンをかけて新規に国産開発する予定だという。T-50の国際マーケティング活動については、ロッキード・マーチン社とKAI社が協同で担当する。T-50の1機辺りの価格は韓国各紙の発表では約350億ウォンとされており、KF-16の価格(300億ウォン)を上回る。
KAIはUEA(アラブ首長国連邦)で行われたドバイ2005エア・ショーにT-50を持ち込み、T-50担当テスト・パイロットのリー・チョンファン中佐の手でデモフライトが行われた。これがT-50の実質的世界デビューとなる。現在T-50はUAE空・防空軍の新型練習機導入計画で伊アレニア・アエルマッキ社のM346(Yak-130をベースに開発)と採用を争っている。ギリシャやイスラエルもT-50に関心を示しているという。MAKO超音速練習機を計画していたEADS(European Aeronautic Defence and Space Company:ヨーロッパ大手の航空宇宙企業)は、これを諦めてT-50のマーケティング参加を狙っており、これが実現すればT-50がヨーロッパ12ヶ国の共通練習機となる可能性もある。またアメリカ空軍は旧式化したT-38タロン練習機の代替としてT-50かボーイング社製のT-45ゴスホークを検討するよう議会から要請されており、T-50が採用されれば韓国初の兵器の対アメリカ輸出となる。2007年1月の報道によれば、韓国DAPA(Defense Acquisition Program Agency:防衛事業庁)長官が訪米した際、アメリカ側はT-50について「大変良い機体であり、両国にとって大きな利益となるだろう」と語ったという。またアメリカ空軍の教官を韓国に招き、T-50の評価試験を行う事も米韓間で協議されているという
今後の量産は、「ブラックイーグルス」向けに生産されるTB-50、レーダーを搭載して兵器システムの訓練が可能となったTA-50の生産に移行する予定。TB-50は10機、TA-50は22機生産される事になっている。
(The Korea Times「T-50 trainer jets in full service」〔2010.5.13〕)
(金融ニュース「空軍T-50戦力化を完了。「空軍のもう一つの戦力が用意された」〔2010.5.13〕)
(朝鮮日報「超音速高等練習機T50の戦力化完了」〔2010.5.14〕)
【2010年10月1日追記】
シンガポール空軍は、選考中だった高等ジェット練習機(AJT)導入計画について、アレニア・アエルマッキ、ボーイング、シンガポールテクノロジーズエアロスペース(STエアロスペース)の3社グループが提案していたM346「マスター」を採用した事を発表した。採用機数は12機。機体の配送は2012年より開始される。
(シンガポール国防省公式サイト「New Generation Advanced Fighter Trainer for the RSAF」〔2010.9.28〕)