準中距離弾道ミサイル「木星」(ノドン1)


ノドン性能緒元
全長 16.0m
直径 1.35m
発射重量 16.25t
構造 1段式液体燃料ロケット
推力 26,000kg
誘導方式 慣性誘導
弾頭重量 700~1,000kg
射程距離 1,000~1,300km
半数必中半径(CEP) 3,000~5,000m
発射準備時間 1時間
配備方法 地下サイロ/大型車輌

北朝鮮がロシア(旧ソ連)のスカッド・ミサイルをベースに独自開発した、1段式液体燃料ロケットを持つ準中距離弾道ミサイル。ノドン(No-Dong)とはアメリカ軍が付けたコードネームで、ミサイルが最初に発見された北朝鮮・咸鏡北道の地名「蘆洞」に由来する。日本では一般的にノドン、もしくはスカッド改と呼ばれており、韓国では発音が同じ労働という字を充て「労働1号」と呼んでいる。北朝鮮では「木星」と呼ばれているようだ(スカッドの延長線上で火星7号と呼ばれている場合もある)。

北朝鮮は1980年代に開発したスカッドのコピーを基にして、新たに1,000kmの射程距離を持つ戦略弾道ミサイルの開発を計画した。これは北朝鮮版スカッドB(火星5号)のロケット機関部4つを束ねる事で推進力を増やし射程を延ばしたもので、1990年5月と1992年6月に試作ミサイルの発射テストが行われたがいずれも失敗した。そのため大型のロケット1基に改められ、1993年5月31日に発射テストが行われて成功した(550km飛翔して能登半島沖の日本海に着弾)。この時北朝鮮はノドンの発射仰角を高くし、あえて最大射程の半分である550km地点に着弾させたという。このミサイルはアメリカ軍によってノドンと命名された。その後北朝鮮はノドンをアルミニウム合金で製作して1トン以上軽量化し、射程距離を1,300kmまで延長、弾頭重量も増加した。現在北朝鮮に配備されているのはこの軽量化タイプだと思われる。

当時のアメリカ中央情報局(CIA:Central Intelligence Agency)は北朝鮮が新型の長距離弾道ミサイルを開発している事を察知していたが、開発には大きな技術的困難が伴うため北朝鮮は1996年まで実戦配備できないだろうと予測していた。しかし1993年に行われたノドンの発射テストの成功でこの希望的予測はあっさりと裏切られ、北朝鮮に本格的なミサイル開発能力がある事を認めざるを得なかった。なぜ北朝鮮が射程距離1,000kmにも及ぶ弾道ミサイルを開発できたのか。上記のように北朝鮮はミサイル開発技術を積み重ねてきたが、それはあくまでスカッド級の戦術ミサイルである。1992年10月、モスクワで北朝鮮に発つ準備をしていたミサイル開発技術者60人以上が逮捕された。この技術者達はマケイエフ国家ロケットセンター(Makayev State Rocket Center)の人員で、北朝鮮軍少将の手引きで訪朝しミサイル開発に参加する予定だったという。また1991年のソ連崩壊直前、職を失っていたロシア人ミサイル開発技術者達は北朝鮮と積極的に交流を図っていた。ノドンにはロシア製の潜水艦発射弾道ミサイルR-13(SSN-4サーク)及びR-21(SSN-5サーブ)と同じ技術的特長が幾つか見られる。R-13、R-21はともにスカッドの技術を利用した液体燃料ロケットで推進する弾道ミサイルだ。この事から北朝鮮はロシア人から受けた技術支援を基にノドンを完成させたと推測されている。

ノドンは1994年頃から部隊配備が進められ、現在は200基以上が実戦配備されていると思われる。ノドンは海外に輸出されており、イランではシャハブIII(Shahab-3)、パキスタンではガウリII(Ghauri-2)と呼ばれて配備されている。イランとパキスタンはそれぞれシャハブIII及びガウリIIを自国内で生産しており、それぞれ独自の改良を施していると思われる。

ノドンの先端は再突入を行う弾頭部分になっており、約1トンの高性能炸薬弾頭、核弾頭、生物・化学兵器弾頭などが搭載される。弾頭の後部は3基のジャイロコンパスから成る慣性航法装置を搭載する誘導部分になっている。その後ろは燃料の非対称ジメチルヒドラジン(UDMH:Unsymmctrical Dimethyl Hydrazine)と酸化剤の抑制赤煙硝酸(IRFNA:Inhibited Red Fuming Nitric Acid)を収めるタンク、燃料と酸化剤を燃焼室に送るポンプ、ロケット・エンジン(燃焼室)と繋がっている。液体燃料式は固体燃料式と比べて比推力に優れ燃焼状態の制御も容易だ。しかしノドンが使用する燃料の非対称ジメチルヒドラジンは、常温での長期保存が可能なものの毒性が極めて高く(発ガン性物質)扱いが難しい。酸化剤の赤煙硝酸は貯蔵タンクの腐食を抑えるために抑制剤が添加されている。燃料と酸化剤はポンプで高圧の燃焼室に送られて混合し、爆発的に燃焼てしミサイルの推進力となる。赤煙硝酸は燃料と混合されるだけで発火するため、点火系統は設けられていない。ロケット・エンジンはスカッドに搭載されていたものの拡大版で、推力は26,000kgとスカッドの約2倍になっている。ミサイル後部には軌道修正用の推力偏向ベーンと4枚の安定翼が取り付けられている。

ノドンは固定式の地下サイロから発射されるが、ロシア製のMAZ543P 8×8重機動トラック(TEL:Transporter-Erector-Launcher vehicle=起立発射機輸送車)にも搭載されている。この車輌はクロス・カントリー能力が高く、路上だけでなく不整地をも自在に移動して発射位置に着く。発射準備が指示されるとミサイルを起立させ、燃料と酸化剤の注入が約1時間かけて行われる。発射機に装備されたGPS(恐らく日本製)によって現在位置が正確に計測され、それを基に発射データが計算される。目標の位置は事前にミサイルにプログラムされ、発射後はそのデータを基に慣性航法装置を使用して軌道修正しつつ飛行する。発射されたノドンはロケット・エンジンによる加速段階(約80秒)が終わると弾頭部が分離され、燃焼の終わったロケット・エンジンや燃料タンクなどの部分は破棄される。分離した弾頭部は加速段階に得た運動エネルギーで飛行し(弾頭部に軌道修正用モーターなどは無い)、その後大気圏に再突入し目標に向かって落下する。

射程距離は1,000~1,300kmでほぼ日本全土がその範囲に収まる。5,000トン級のコンテナ船に擬装したノドン発射船があるのではないかと一部では推測されており、その場合はこの船が進出できる限り世界中ほとんどの場所にノドンを打ち込むことが出来るだろう。ノドンの飛行軌道中の最高高度は200kmで半数必中半径(CEP:Circular Error Probability)は約3,000~5,000mといわれる。2006年7月に行われたノドンとスカッドの連続発射ではほぼ同じ海域に弾頭部が落下しており、信頼性は高いようだ。弾頭部が大気圏に再突入する時の速度は毎秒3kmで、これは音速の約9倍の速さである。日本に向けて発射された場合、7分前後で到達する。ノドンは対日専用のミサイルで、在日米軍と自衛隊の基地及び日本の大都市を目標にしているといわれている。

ノドンの地下発射基地は北朝鮮に4ヶ所以上あるといわれ、咸鏡北道の熊徳山(コムトクサン)、慈江道の中江(チュンガン)、平安北道の定州(チョンジュ)、江原道の元山(ウォンサン)が挙げられている。各基地にはノドン大隊1個が配備され、それぞれノドン発射機9基を有しているという。2006年7月5日に発射されたノドンは、移動式発射台の訓練施設がある江原道の旗対嶺(キテリョン)から発射された。

▼【参考】パキスタンの弾道ミサイル「ガウリII」(ノドンと同型)
▼【参考】イランの弾道ミサイル「シャハブIII」(ノドンと同型)

▼コンテナ船に艤装したノドン発射船の想像図

【参考資料】
軍事研究(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
日米イージス艦とミサイル防衛(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
月刊航空ファン(文林堂)
朝鮮日報
North Korea Today
Grobal Security


2009-07-04 23:17:29 (Sat)

最終更新:2009年07月04日 23:17