ハーリド・ビン・ワリード級フリゲイト(DW-2000H型)


▼「バンガバンドゥ」(F-25)として就役時の写真
▼就役後の改装でFM-90N艦対空ミサイルを搭載した状態

性能緒元
基準排水量 2,170t
満載排水量 2,370t
全長 103.7m
全幅 12.5m
主機 CODAD 2軸
  SEMT-Pielstick 12V PA6V280 STC ディーゼル 4基(22,501馬力)
速力 25kts
航続距離 18kts/4000nm
乗員 186名(士官16名)

【兵装】
対空ミサイル FM-90N艦対空ミサイル / 8連装発射機 1基
対艦ミサイル オトマート(テセオ)Mk.II BlockIV / 連装発射筒 2基
魚雷 A244「ホワイトヘッド」324mm短魚雷 / B-515 3連装発射管 2基
オットー・メララ 76mm62口径単装砲 1基
近接防御 ブレダL70 40mm連装機関砲 2基
爆雷落射機   2基
搭載機 Z-9C/D対潜ヘリコプター 1機

【電子兵装】
2次元対空レーダー シグナール DA-08 1基
対水上レーダー タレス ヴァリアント 1基
航海レーダー KH-1007 2基
火器管制レーダー シグナール LIROD Mk2 1基
  345型(MR-35) 1基(SAM用)
光学照準システム シグナール「ミラドール」光学目標追跡・照準システム 1基
ECMシステム Racal Scorpion  
ESMシステム Racal Cutlass 242  
データ・リンク・システム KNTDS(韓国型Link-4/11/14)  
戦闘システム タレス TACTICOS  
ソナー STN Atlas ASO-90  
デコイ Super Barricade 2基

ウルサン級フリゲイトの建造で水上戦闘艦艇の建造の経験を得た大宇造船海洋は、ウルサン級をベースとした輸出向けフリゲイトDW-2000H型を自社開発して各国に提案する様になった。ほぼ同じころ、バングラデシュ海軍は1994年から1995年にかけてフリゲイトの調達を政府に要請、入札に応じた各国メーカーの提案では中国の提案が最も低コストであったが、発注確定には至らなかった。翌1995年から1996年にかけて改めて開催された国際入札では9社が参加し、DW-2000H型を提案した大宇造船海洋案が採用される事となった。正式契約は1998年3月に締結され、契約額は9997万ドル。2001年の引渡しが予定された[1]。DW-2000Hは韓国が受注した最大の水上戦闘艦であり、韓国海軍も乗員の訓練や公試などで大宇造船海洋を支援する体制を敷いた[2]。

バングラデシュ向けのDW-2000Hは、1999年5月12日に起工され2000年8月29日に進水、2001年6月20日には「バンガバンドゥ」(艦番号F-25)として就役に漕ぎ着けた[3]。バンガバンドゥとは、バングラデシュ建国時の首相(のち大統領)であったシェイク・ムジブル・ラフマンの尊称であり、当時のシェイク・ハシナ・ワセド首相(在職1996~2001年。2009年1月に再び首相に就任)はその長娘であった。

バングラデシュはDW2000H型の取得によって海軍力の大幅な増強を見込んでいたが、当時の大宇財閥は韓国経済危機によって経営破綻しており契約を履行できるかどうか不明だったため、バングラデシュ国会で大きな問題となった。結果的には予定通り引き渡されたが、2001年にシェイク・ハシナ・ワセド首相の与党アワミ連盟が総選挙に敗北、政権交代が行われた後「バンガバンドゥ」の発注に当たって不正が行われたとの指摘がなされ、シェイク・ハシナ・ワセド前首相と海軍参謀長などが収賄の疑いで起訴される事態になった[1]。1995~96年の国際入札において、6800万ドルという最安値を提示した中国ではなく、4番目に低い価格であった大宇造船海洋案が採用された件について検証が行われた。その結果、入札作業で大宇以外の提案はきちんと検討されておらず、大宇によるロビー活動の疑いもある事が指摘された。それと同時に「バンガバンドゥ」自体にもソナーの不具合や、ソナーカバーの破損など38箇所にのぼる欠陥が発生した事が指摘された。新政権の調査チームは「バンガバンドゥ」の引渡し前にバングラデシュ海軍による調査がきちんと実施されず、就役後に行われるべき性能確認もほとんど為されていなかったと報告した[1][4]。

これに対して、大宇側は調査の結果、不正には関与していない事、ソナーカバーの破損はチッタゴン港の早い海流によるものであるが、ソナーを製造したドイツ企業との調査によりソナー自体の性能には問題は無かった事が明らかになったとした。そして、就役前のきちんとした事前調査が行われなかったとの指摘に対しては、バングラデシュ海軍による調査団が訪韓して「バンガバンドゥ」の徹底した実地検分を行ったとして、報告の内容は事実とは異なると反論した[1]。汚職の嫌疑については2003年に容疑者一同が保釈金を支払って釈放されてからは、有耶無耶の内に調査は終了する事となった[5]。この嫌疑自体が、与野党の政権交代に伴う政争の色合いの強い物であり、「バンガバンドゥ」はそれに巻き込まれた感がある。

2002年2月13日、就役からわずか8ヶ月後に「バンガバンドゥ」は所属を予備役艦に変更される事となった。ただし、予備役艦になったにもかかわらず、乗員は通常通りに配置され装備や弾薬なども搭載され現役艦とほとんど変わらない状態に置かれた。さらに予備役にある間、2006年に中国から調達したFM-90N艦対空ミサイルを搭載する改装が施されている。「バンガバンドゥ」が予備役艦になった経緯や、現役とほとんど変わらない状態に置かれた事については不明確な点が多い[6]。

「バンガバンドゥ」は予備役艦として5年間を過ごした後、2007年7月13日に艦名を「ハーリド・ビン・ワリード」(艦番号はF-25のまま)と改名した上で再就役する事になった。この名称は、イスラーム初期の著名な将軍で「アッラーの剣」と呼ばれたハーリド・イブン・アル・ワリードに由来している(ビン、イブンとも「~の息子」という意味のアラビア語)。バングラデシュとは関係ない人物の名称に改名された理由、実質的には現役艦艇と変わらない状態にありながら5年間に渡って予備役艦とされた理由についても明らかにされておらず、不明瞭な経緯についてはバングラデシュのマスコミによる批判も行われている[5][6]。

「ハーリド・ビン・ワリード」は排他的経済水域の監視を主要な任務としており、ほかに対テロ作戦、密輸や海洋汚染の監視任務、サイクロンや津波などの災害救助・捜索救助任務、訓練任務などにも投入される[3]。2007年以降、隣国のミャンマーやインドとの領海問題が浮上した際にはしばしば出動している。2008年12月には、DW2000H型の調達を決定したシェイク・ハシナ・ワセド元首相(当時)は、同艦の領海警備の実績を挙げて、「バンガバンドゥ」の調達はバングラデシュの国防体制を強化したとして導入批判派への反論を行っている[7]。

【性能】[3]
「ハーリド・ビン・ワリード」は原型となったウルサン級が平甲板船体を採用していたのに対して中央船楼首型に変更されている。船体形状の変更により、新型装備を搭載し乗員の生活環境を改善するための艦内スペースを確保する事が容易になったものと推測される。対レーダー・ステルスのために舷側はV字型に傾斜しており、上部構造物は逆方向に傾斜しており、上部構造物やマストなどもある程度のステルス性を考慮した設計が施されている。艦後部にはヘリコプター1機の搭載が可能な格納庫と発着甲板が設置された。就役時には搭載機は用意されていなかったが、後に中国からZ-9C/D対潜ヘリコプター1機を調達して搭載することになる(注1)。「ハーリド・ビン・ワリード」は上記の設計変更により原型のウルサン級より排水量が200tほど増加して満載排水量2370tとなった。

タイプシップのウルサン級は機関にCODOG方式を採用し、米GE社製LM2500ガスタービン 2基(58,200馬力)とMTU ディーゼル 2基(5,940馬力)を搭載、最高速力34ktsという快速艦であったが、バングラデシュではそれほど高速を必要としなかったこともあって、主機はSEMT-Pielstick 12V PA6V280 STC ディーゼル 4基(22,501馬力)に変更され、最高速力は25ktsとされた。

就役時の兵装は、兵装はオトマート(テセオ)対艦ミサイル連装発射機2基、オットー・メララ社製76mm62口径スーパーラピッド単装速射砲1基ブレダ社製L70 コンパクト40mm連装機関砲2基、短魚雷3連装発射管2基、爆雷落射機2基となっていた。沿岸警備を主任務とすることから艦対空ミサイルについては搭載されていなかったが、前述した様に後に中国からFM-90N艦対空ミサイルシステムを調達して、艦橋直前の第二甲板に搭載する改装を施して経空脅威に対するポイントディフェンス能力を獲得している。バングラデシュ海軍のフリゲイトで艦対空ミサイルを搭載するのは「ハーリド・ビン・ワリード」が初となる。

電子装備については、DA-08対水上レーダー、LIROD Mk2火器管制レーダー、「ミラドール」光学目標追跡・照準システムなどから構成されるタレス社のTACTICOS指揮管制戦闘システムを装備している。後にFM-90N対空ミサイルを導入した事から、FM-90Nの管制に使用する345型(MR-35)火器管制レーダーも搭載が実施されたと見られる。

(注1)搭載ヘリコプターに関する記載はBangladesh Military Forces「Ulsan (Mod.) Class Guided Missile Frigate」を参照。ただし、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の兵器取引データベースではZ-9C/Dの取引は記載されていらず、他の情報ソースでも確認できていない。

1番艦 ハーリド・ビン・ワリード(旧バンガバンドゥ) BNS Khalid Bin Walid (ex-Bangabandhu) F-25 2001年6月20日就役 2002年2月13日退役 2007年7月13日再就役。

【参考資料】
[1]新東亜「대우조선 수출 군함 스캔들 내막」(2002年10月01日)
[2]국방일보-Kookbangilbo「해군 기술력 세계에 과시」(2001年8月9日)
[3]Bangladesh Military Forces「Ulsan (Mod.) Class Guided Missile Frigate」
[4]Grobal Security「FFK Ulsan class Frigate Korea (FFK)」
[5]The Daily Star(Internet Edition)「Frigate torpedoed by mean politics」(Sharier Khan/2007年3月6日)
[6]The Daily Star(Internet Edition)「Decommissioning and re-commissioning of a Navy ship」(Khurshed Alam/2007年8月26日)
[7]THE DAILY NEWSPAPER「Hasina terms Dec 29 polls moment of truth」(2008年12月27日)

【関連項目】
ウルサン級フリゲイト


2010-04-02 23:50:43 (Fri)

最終更新:2010年04月02日 23:50