M270自走ロケット砲「黒龍」(MLRS)



性能緒元
重量 24.0t
全長 6.97m
全幅 2.97m
全高 2.59m
エンジン VTA903-T500 液冷ターボチャージド・ディーゼル 500hp
最高速度 64.4km/h
航続距離 483km
武装 227mmロケット弾発射機
  12.7mm重機関銃×1
乗員 3名

M270は軍団レベルに配備されているM110 203mm自走榴弾砲の後継車輌として開発された自走ロケット・ランチャーで、自衛隊を初め西側各国の標準的自走式ロケット・ランチャーとして多用されている。

本車の開発は1971年にアメリカ陸軍が広域制圧兵器に対する研究に着手した事を端に発する。そして1974年にはGSRS(General Support Rocket System:全般支援ロケット・システム)計画として具体化し、1976年3月に開発提案要求が出されてボーイング社とヴォート社(LTV社)の案が選択され、1977年8月に本格的な開発契約が結ばれた。1979年には新世代歩兵戦闘車として開発が進められていたXM2/XM3と機関系や足回りなどのコンポーネントを共用することが決まり、1980年にLTV社案が選ばれて生産された。開発は三段階に分かれて進められ、その第一段階は基本と成る車体とランチャー、ロケット弾をアメリカが担当して進め、第二段階ではAT2空中散布型対戦車ロケット弾をアメリカと西ドイツ(当時)が担当、第三段階ではアメリカを主体として各種弾頭が開発された。車体はM270の呼称が与えられ、前部にアルミ合金製の装甲キャビンを設けて3名の乗員を収めている。車体後部にはロケット弾とランチャーを左右それぞれ6発ずつ収めるコンテナ(発射ポッド:Launch Pod)が搭載されており、弾頭には任意に各弾種を装着する事が可能だ。

最も標準的なM26ロケット弾は全長約4m、直径約227mmで、644個のM77多目的弾薬を内蔵しており1発で200×100m、の範囲を制圧する事が出来る。M77が車輌を直撃した場合、厚さ40mmのRHA(Rolled Homogeneous Armor:均質圧延装甲)を貫徹できるという。最大射程は32km。射程延長型のM26A1はM77の内蔵量を518発に減らし、その代わり最大射程を45kmまで延伸している。これらのロケット弾は無誘導だがGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)やINS(Inertial Navigation System:慣性航法装置)を内蔵する誘導タイプも開発が進められている。またより大型で長射程のMGM-140/M39 ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム:Army Tactical Missile System)も開発された。ATACMSは全長約4m、直径約610mmで、M270の発射ポッドに2発搭載する事が出来る。INSを内蔵しており、弾道修正が可能。最大射程は約165km。M74対人・対物弾薬を950個内蔵しておりATACMS 1発で200×200mの範囲に被害を与える。改良型のBlock1AはM74の内蔵量を300個に減らし、射程を300kmまで延ばしたタイプ。INSに加えてGPSも装備しており、命中精度が向上している。

韓国軍は1998年まで「米韓ミサイル開発覚書」により最大射程180km以内のミサイル・ロケットしか保有できなかったが、1999年1月の米韓安全保障協議で射程300kmまでのミサイル・ロケットの保有を認められた。これを受けて韓国陸軍はM270装甲ロケットランチャー(韓国名:黒龍)とそれに搭載するATACMS Block1A約110発の導入を決定、2004年までに配備を終えた。M270とATACMSの配備により、韓国陸軍は強力な長距離制圧火力を手に入れた。MLRSは各軍団直轄の砲兵部隊に配備されていたが、2006年9月28日に発足したミサイル司令部へと管轄が移動した。ミサイル司令部は北朝鮮の強大な大口径砲兵部隊に即応できるように新設された統合地対地誘導弾部隊で、MLRSのほかにも長距離地対地ミサイル「玄武」や新たに開発された巡航ミサイル「天龍」を指揮下に置く。

なお韓国はアメリカからFMSでMLRSを導入した際、727万ドルを投じて通信機器用のソフトウェアを開発したが、それをアメリカがイギリスに2005年に輸出したとして対価を求めていた。これに対しアメリカは237万ドルの支払いを受ける事になった。

▼パレードで後進する第6軍団のM270
▼M270の後部
▼M270の操縦席。中央に射撃管制用のコンソールが見える
▼ロケット弾を装填中のM270
▼射撃演習中のM270。山がちな韓国ではこのような谷間に隠れて射撃する事が多い

【参考資料】
月刊航空ファン(文林堂)
戦車名鑑-現用編-(後藤仁、伊吹竜太郎、真出好一/株式会社コーエー)
朝鮮日報
戦車研究室
Military Analysis Network(Federation of American Sientists)
Kojii.net
Defense-Aerospace

【関連項目】
MGM-140 ATACMS
M985弾薬運搬車


2008-12-21 01:10:48 (Sun)

最終更新:2008年12月21日 01:10