AHX(韓国次期攻撃ヘリコプター計画)


▼ロシアでKa-52に試乗する韓国調査団

韓国軍が現在運用しているAH-1攻撃ヘリコプター「コブラ」の後継を選定するための、次期攻撃ヘリコプター整備計画。当初はKMH計画として汎用ヘリコプターと攻撃ヘリコプターを同時に国産開発する予定だったが、KMH計画は予算面で中止となり汎用ヘリコプターのみを開発するKHP計画に変更されたため、韓国軍は攻撃ヘリコプターは国産を諦めて海外の既存品を購入するか、または改めて国産攻撃ヘリ開発計画を立てるか検討する必要に迫られている。攻撃ヘリ国産事業を望む声は大きいが、KHP計画にかかる予算も莫大であり国産反対の意見も多い。韓国はアメリカから戦時統制権が委譲される前に、旧式攻撃ヘリ代替の道筋を付けておきたいと考えており、2008年中に国産にするか輸入にするかの判断を下すという。

韓国軍が最も興味を示しているのが米ボーイング社のAH-64D攻撃ヘリコプター「ロングボウ・アパッチ」。朝鮮日報の2006年夏の報道によれば、韓国陸軍は2008年以降から2兆4,000億ウォンを投じて2個大隊分のAH-64級の攻撃ヘリコプターを導入する計画だという。AH-64Dはアメリカのほかに日本やイギリス、オランダ等の国々も導入しているが、導入費用が高価なため100機以上を保有しているのはアメリカ陸軍だけである。全天候下で圧倒的な攻撃力を有するAH-64Dは、強大な機甲戦力を持つ北朝鮮と対峙中の韓国軍にとって垂涎の兵器だろうが、常に予算不足に悩んでいる現状を鑑みると導入は非常に難しいと思われる。韓国のKAI社はF-15K採用の見返りとして、ボーイング社から各国向けのAH-64胴体部の組立作業を受注しており、もしAH-64が次期攻撃ヘリとして採用された場合は、KAIの工場で韓国軍向けの組み立てが行なわれるだろう。

AH-64DはAH-64Aアパッチの全天候型。マスト頂部にAN/APG-78ロングボウ火器管制レーダーを収めたレドームを有している(AN/APG-78を装備していないAH-64Dも存在する)。AN/APG-78はミリ波を使ったレーダーで、目標の捜索や捕捉・照準に使用される。レーダーが捉えた目標は最大256個まで追跡が可能(探知は1,000目標以上が可能)で、機上プロセッサーが自動的に目標の脅威度を判定して攻撃優先順位を決める。この優先度が高い順に最大16目標が操縦席のディスプレイに表示され、パイロットは煩わしい作業を行うことなく効率的に攻撃する事ができる。AH-64Dは情報の分配システムも優秀で、データリンクにより目標の脅威データや自機の航法データ等をほぼリアルタイムで味方に配信でき、この充実したC4IR(Command Control Communication Computer Intelligence Recognition:指揮、管制、通信、コンピューター、情報、偵察)機能によりデジタル戦場の中心的役割を果たす。搭載兵装として機体左右のパイロンにAGM-114対戦車ミサイル「ヘルファイア」やAIM-92赤外線誘導空対空ミサイル「スティンガー」などを装備でき、また機体下面にはM230A1 30mm機関砲を装備している。RFヘルファイアを使用した場合、AH-64Dは対戦車ミサイルの完全撃ちっ放し能力を持つ。

韓国軍の次期攻撃ヘリコプターとして最も現実的なのは米ベル社のAH-1Zバイパー攻撃ヘリコプターだ。韓国陸軍は既にAH-1コブラを運用しており、その発展型であるAH-1Zの導入は訓練体系や整備資産も大きな変更をしなくても済むため、AH-64Dと比べると敷居が低いと言える。また取得価格や整備コストもAH-64Dと比べると安価。だが全天候性能では最新光学センサーを搭載しているとはいえAH-64Dに一歩劣り、また多くの実戦を経験しているAH-64Dと比べてAH-1Zは実績が無いため、その辺りも海外カスタマーとしては気になるところだろう(AH-1Zを採用しているのは、現状ではアメリカ海兵隊のみ)。

AH-1ZはAH-1コブラの双発型でアメリカ海兵隊が運用しているAH-1Wスーパーコブラの能力向上タイプ。メイン・ローターは複合素材製の新型4枚ブレードになり、エンジンをT700-GE401Cに換装、操縦席はグラス化されている。最も注目されるのは機首部分に装備している最新鋭の光学センサー、米ロッキード・マーチン社製のAN/AAS-30ホークアイ先進目標照準システムで、AH-64Dが装備している第1世代型のTADS(Target Acquisition Designation Sight:目標捕捉及び指示照準器)、PNVS(Pilot Night Vision Sensor:パイロット暗視センサー)と比べて約2倍の目標捕捉能力を有している(陸自のAH-64DJは新型のアローヘッドを装備)。AN/ASS-30が装備するFLIR(Forward Looking Infra-Red:前方監視赤外線)センサーは遠距離でも目標の車種識別が可能なほど高解像度な画像を得る事ができる。またAH-64Dのロングボウ・レーダーが自ら電波を発する事によって隠密性が低下するのに対し、AH-1Zの最新光学センサーはパッシブ型なのでセンサーを使用して敵に逆探知される可能性は無い。AH-1Zの搭乗員が装備するIHDSS(Integrated Helmet Display and Sighting System:統合ヘルメット表示及び照準システム)はAH-64DのIHADSSよりも高性能だ。武装はM197 20mm機関砲のほかに各種ヘルファイア対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイル、ロケット弾ポッドなどを搭載可能。

他に候補として有力なのは、ロシア製のKa-52だ。韓国は盧泰愚大統領が行った14億7,000ドル(金利の関係で現在は20億ドル以上に増加)にも及ぶ対ソ連経済協力借款の償還として、T-80U戦車やミレナ型エアクッション揚陸艇、メチスM対戦車ミサイルなどの兵器をロシアから導入しているが、攻撃ヘリコプターも償還の一部として導入される可能性がある。韓国が興味を示しているのは露カモフ社製のKa-52攻撃ヘリコプター。韓国軍は既にロシアへ調査チームを送り、Ka-52に試乗するなどして資料を収集したという。

Ka-52は露カモフ社が開発した新型攻撃ヘリコプターKa-50チェルナヤ・アクラ(NATOコード:ホーカムA)を改修した全天候攻撃型。カモフ社伝統の二重反転式ローターを採用しているためテイル・ローターを装備しておらず、通常のヘリコプターと比べて極めて高い機動性を有している。操縦席は並列複座で二重に装甲が巡らしてあり、100mの距離から撃たれた23mm機関砲弾の直撃からパイロットを守る事ができる。ローター・マスト上には円形のフェアリングが設けられ、その中に捜索・ミサイル照準用のミリ波レーダーが収められている。また操縦席後方のキャビン上と機首下面に球形状の回転式センサーを持っており、レーダーと合わせる事でKa-52は昼夜間・全天候下での攻撃能力を有している。固定武装は2A42 30mm機関砲で、左右のパイロンに9A4172ビーフリ レーザー誘導対戦車ミサイル(AT-16)やKh-25MLレーザー誘導空対地ミサイル(AS-10カレン)、9M39イグラ赤外線誘導空対空ミサイル(SA-18グロース)、S-8 80mmロケット弾ポッドなどを搭載可能。

【2007.05.04追記】
KHP事業団長は2007年5月3日、次期攻撃ヘリコプターの国産開発事業についての基礎研究を2007年1月から行なっており、2007年秋頃には国産を進めるかどうかの決定を下す予定だと発表した。

【2013年4月18日追記】
2013年4月17日、韓国防衛事業庁は、次期攻撃ヘリコプターについてAH-64E「アパッチ・ガーディアン」を選定、2016年から3年間をかけてボーイング社から36機のAH-64Eを調達することを明らかにした。同庁は、AH-64Eの導入は、北朝鮮からの挑発に対する韓国の防衛力をさらに強化するものであると位置付けた。

防衛事業庁は契約総額は明らかにせず「契約には技術移転も含まれている」とだけ述べたが、ボーイング社との契約額は15億ドルに上るとの報道もなされている。

【参考資料】
[1]Jウィングス特別編集 戦闘機年鑑2005-2006(青木謙知/イカロス出版)
[2]軍事研究2000年8月号、2001年3月号、4月号(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[3]DefenseNews「S. Korea To Buy Apache Guardian Helicopters」(2013年4月17日)

朝鮮日報
PowerCorea
Kojii.net
Defense-Aerospace


2013-04-18 02:55:34 (Thu)

最終更新:2013年04月18日 02:55
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