遅延戦術

遅延戦術

遅延戦術


遅延戦術は、特許に関する意思決定時期を遅らせるための戦術で、特許化や遅らせたりして、係属状態を維持させるための戦術です。

一般論


特許を係属させておくためには

  • 特許出願を遅らせる
  • 審査を遅滞させる

が必要になります。

特許出願における戦術


特許出願を遅らせることは、クレーム確定や権利満了を遅らせることに直結します。

一方で、第三者による先願の危険性が高くなります。この危険性が無視できる状況であれば、必要になるまで特許出願しないほうがよいでしょうが、通常意識的に遅く出願するメリットはありません。

そこでまずは、特許出願自体はリーズナブルな時機におこうものとして、その他に取りうる方策を検討します。

優先権を伴う第2出願の利用


パリ条約上の優先権出願や国内優先出願(米港では仮出願)などを行うことにより、第1出願日のメリットを享受しつつ、最大1年間遅らせることが可能にあります。

また、PCTを利用すれば、米国などにおける審査入りを遅らせることができます。

優先権を伴わない第2出願の利用


優先権主張を伴わずに、第2出願を行うことも可能です。この場合、中間文献のリスクを考慮して第1出願を平行させる必要があります。第1出願の公開までに第2出願を行う必要がありますが、典型的な例は次のようになります。

2007.1.1 第1出願 クレーム:A 実施例:A、a(Aの下位概念)
2008.6.30 第2出願 クレーム:a 実施例:A、a
2008.7.1 第1出願の公開予定日

第2出願のクレームを、第2出願のそれの下位概念にしているのは、同一発明を避けるためです。また、当然ながら各国法制度へ対応させる必要があり、EPC出願であれば自己衝突を回避するため第1出願から第2出願で予定される主題(下位概念であるa)を削除しておき

2007.1.1 第1出願 クレーム:A 実施例:A、
2008.6.30 第2出願 クレーム:a 実施例:A、a
2008.7.1 第1出願の公開予定日

とする必要があります。

さらに、米国出願の場合、非公開制度(米国以外の特許出願を伴わない場合)を利用すれば、第1出願の特許公報が発行後1年を経過する前に第2出願を行うという方策も可能です。

2007.1.1 第1出願 クレーム:A 実施例:A、a
2009.6.1 第1出願の登録公報発行
2010.5.31 第2出願 クレーム:a 実施例:A、a

米国は特許法を大きく変える可能性がありますので、非公開制度、発行後1年を経過する前、などは要確認です。また、第1出願との関係で、第2出願でターミナルディスクレーマを提出しなければならなくなる状況を避ける必要がありますが、クレーム確定を遅らせることが目的であれば、それはあまり重要ではないかもしれません。

このような、第1出願、第2出願が並存する戦術を取る場合において、どちらを進め、どちらを維持していくか検討する必要があります。第2出願について権利化を先に進めて第1出願との間の中間文献の有無(第1出願の維持の必要性)を評価する、1年半のメリットを活かすために第2出願を係属させ続ける、など目的にあわせて選択するべきでしょう。

なお、第1出願から優先権を伴う出願しておくことも可能で、第2出願との日付差は半年となってしまいますが、第2出願の有効性が第1出願のそれに劣りますので、その対応として第1出願に万全を期しておいたほうがよいです。

分割出願の活用


審査過程で分割出願を活用すれば、出願を係属させ続けることが可能です。法と費用が許せば、分割出願を繰り返すことにより、満了日まで係属させ続けることも容易です。

分割出願を行う上で留意すべき点は

  • 分割出願できる時期
  • 分割クレーム
  • 分割出願の制限する法制

です。

分割出願できる時期は、国によって様々です。特に登録査定されると分割できない国の場合は注意が必要です。

分割クレームについては、分割のもととなる出願(親出願)と同一では分割要件を満たさない場合(国)があります。または、同一クレームの親出願の拒絶が確定した場合の不利益も想定されるため、分割出願のために親出願はダミークレームにしておくなど予め考慮しておく必要があります。

更に、サブマリン特許などへの対策と称して、分割出願を制限しようとする動きが、各国であります。分割回数の制限や、親出願の係属を条件とする、などですが、ほとんどの場合単一性違反を解消するための分割出願は許容されるので、これを利用する方策が考えられます。

単一性違反を利用した分割出願

次のようなクレーム

1.Aからなる物質
2.Bからなる物質

では、AとBに関連がなければ単一性違反を指摘されますので、2を削除してこれを分割出願できます。ただ、1回分割出願するためにこのような仕込を入れておくメリットは少ないかもしれません。

2回分割を考慮した場合、クレーム構成として

1.Aからなる物質
2.Bからなる物質
3.Cからなる物質

が考えられます。

このケースでは、単一性違反を指摘された後、2と3を削除してこれらを分割出願し、さらに単一性違反を指摘されてから3を分割出願するという戦術ですが、最初の単一性違反において、1,2,3の3発明だと指摘される可能性がありますので、その上で2と3の分割出願を行うことが意図的に審査を遅らせていると認定されるかもしれません。

そのため、クレーム構成として

1.Aからなる物質
2.Bからなる物質
3.Bがb1である2
4.Bがb2である2

としておきます。

最初の単一性違反では、1と2~4の2発明と認定させ、2~4を削除して分割した1回目の分割出願のいては、2が特許性がないために3と4に単一性がないと認定させ、4について分割出願の機会を得るというものです。ポイントは、実体審査が行われないと3と4とが単一性がないことが判明しないということです。ただ、同じサーチで済む場合、3と4について単一性違反とされない危険性もあります。

さらには

1.Aからなる物質
2.Bからなる物質
3.Bがb1である2
4.Bがb2である2
5.b2がb21である4
6.b2がb22である4

などとしておけば、3回以上の分割出願も可能かもしれません。クレーム範囲を確定させたくないという場合には、仕込んでおくクレームをどのようにするのかが問題ですが、ターゲットクレーム(上記の場合は6)を上位概念的なクレームとして、審査過程における補正の自由度を確保しておくべきでしょう。また、その他のクレームは、いっそのこと単一性違反を受けるためたけに設けるダミークレームとすることも一考です。

審査における戦術


審査段階における遅延を考える上での最大の留意点は、審査を遅らせる出願人の意図を出さないことです。意図的に審査を遅らせたとされると、権利行使の場面で不利益を蒙るケースがありますので、国によっては注意が必要となります。

さて、審査段階における基本は、

  • 審査請求は期限までまつ
  • 局指令を出させる
  • 応答を遅らせる

です。

審査請求


審査請求期限ぎりぎりに審査請求を行うことになりますが、その際、制度が許せば、第三者(ダミー)による審査請求を行うことが考えられます。第三者による審査請求が行われると、出願人は補正機会のための期間が設定されますので、その間は審査が行われないことが期待できます。更には、審査範囲が全く異なるように補正することで、どこの審査部が審査するべき出願か分類から行わせることにより、審査着手を遅らせることが期待できます(この場合、当初のクレームはダミー)。ただ、審査の順番がどのように決定されるのか不明なので、まったく意味がないかもしれません。

局指令


局指令を出させるためには、方式、実体を問わず、拒絶理由となる根拠を仕込んでおく必要があります。

提出書類の不備など、実体審査に入る前の瑕疵は、実体審査に入るまでの時間稼ぎにはならない可能性があります。また、出願日がつかないなどといった不備は、メリットの点で疑問があります。

実体審査の前に、単一性違反や発明主題違反のみの局指令を発行する国では、これらの拒絶理由を入れておくことは有用です。米国の限定要求・選択要求や、台湾におけるプログラムクレームなどです。特に発明主題にまつわる拒絶理由は、審査官が見逃す可能性が低いと思われるので、非常に有用です。

次に実体審査ですが、最初の審査官の指摘が当を得ている場合はちゃんと応答(クレーム補正)する必要が生じますので、門前払いできるにしておくのが理想です。すなわち、クレーム(発明)を審査官に誤解させ間違った範囲のサーチを行わせることにより、クレームを補正することなく意見書や面接などで発明を理解させて、再審査させます。これは、ちゃんと応答すると査定に一歩近づいてしまうためで、日本に関して言えば、最初の拒絶理由通知の次に最後の拒絶理由通知を受けないようにする、ということになります。審査官を誤解させるのは難しいですが、本来とは異なる審査部門が審査するように配慮する、というのも手です。

当を得た指摘がきたら、拒絶理由を解消する必要があります。日本の場合、解消できないといきなり拒絶査定となり、局指令の機会を無駄にします。その上で、新たな拒絶理由を入れておきます。このとき、単一性違反や発明主題違反になるような拒絶理由になるような補正ができないかどうか検討します。シフト補正はもとより、カテゴリの追加などについての制限的な補正要件を課している国がありますので、このような拒絶理由を埋め込むのは難しいですが、直列的な従属関係により単一性が保持されていたクレーム群の従属関係を、個々に独立クレームのみへの従属とすることにより単一性違反を期待できるかもしれません。また、実体的な理由の局指令を再度受けるためには、審査官指摘の妥当性を十分に争える従属クレームを独立クレームに繰り上げたり、内的・外的付加によりクレーム補正を行います。

応答


応答を遅くするためには、法定期限のぎりぎりに応答するのが基本となります。また、延長制度については、延長できるだけ延長することが考えられます。ただ、前述の通り、審査を遅らせようとした、とされないために、時にはすばやい応答を行う、代理人側のミスで延長することになった(と外形上思われる)ようにしておく、といった配慮が必要かもしれません。

また、応答内容を不明瞭にする、応答書面を不鮮明にする、などして、審査官から応答内容の確認行動(代理人への電話連絡など)を引き出すことも考えられます。すでに応答内容の検討に入っている状況ですので、時間的なメリットは少ないかもしれませんが、回答・再提出するまでの時間稼ぎにはなるかもしれません。ただ、不明瞭として応答そのものを退けられる危険性があります。
最終更新:2007年01月27日 21:55
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