それ俺がFateとシャナに影響されてサキュバス考える前に書いた妄想だwww

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6 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 01:08:42 とりあえず俺の脳内ストーリー 主人公 最強の悪魔が眠り宝珠持ってる 主人公の妹 ヒロインで実は大天使の変わり身 敵 正体は戦天使殺しの過去を持つ悪魔で主人公の学校内で宝珠狩りしてる 8 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 06:44:20 私が再び目が覚めた時、 そこは真夜中の学校で、帆高先生がお兄ちゃんの胸を貫いていたのだ。 悪い夢だと思いたかった。 素手で胸を貫かれたお兄ちゃんは瞳孔を開いたまま呆然と立ち尽くしている。 時々まな板に乗せられた死に体の魚のように、体が痙攣している。 やめてよ。 何よ、これ。 「いやあああぁぁぁ――――!!」 私の悲鳴が虚しく木霊する。 でも帆高先生は表情一つ変えずに首だけこちらに向けると人形のような冷たい笑顔を歪ませ言い放った。 「ダメです。次はあなたですからね。」 再び向き直る。 ああ、あの男は本気だ。 慈悲の欠片も無いあの男は必ずお兄ちゃんの宝珠を剥ぎ取るだろう。宝珠?―。 彼は悪魔そのものなのだ。悪魔には慈悲なんてものは初めから無いのだ。悪魔?―。 悪魔が人間に容赦するなんてことは絶対に有り得ない。 なら、 私が。 悪魔を滅するしかない。 脳裏に遥か昔の思い出のようなぼんやりと、でもはっきりとしたイメージが走馬灯のように駆け巡った。 降りてきた天使―。あれは私。 天使から神々しい剣を賜る金髪の少女。あれも私。 その剣を掲げ自ら先陣を切って戦った。 戦いの日々の連続。 眼前にそびえる敵の城塞。 背後で響く雄々しいときの声。 天上のような光り輝く白の聖堂にファンファーレが響き、人々は歓喜する。 降りしきる雨に濡れる泥の戦場。 業火に燃える世界。 そして…そして、私は―。 9 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 06:47:41 もうどれくらいの時間こうしていたのだろう。有り得ない光景だった。 目の前には笑みを浮かべた帆高がいて、目を落とせばその腕が俺の胸を貫通しているのがはっきりと視認できた。 蠢いている…この感覚、この光景に酷く吐き気がした。 非現実的な現実を自分の意思が認めようとしない。 でも、この痛みは。この心が軋むようなこの感覚は一体何だ。 精神的とも肉体的ともはっきりと断言できない曖昧な概念の不快感。それが俺の胸の中ではっきりと感じられた。 「あまり動かないで下さいよ。そうすれば楽に死ねますから。」 帆高は冷たい笑みを浮かべたまま淡々と語る。 奴の腕が蠢く度言いようの無い苦痛が俺の体中の神経を刺激する。 「ううん、おっ、ありましたね。」 ガシッと何かを掴まれる感触と同時にとてつもない痛みが襲う。 「ぐあああああああ」 耐えきれずうめき声を上げる俺を帆高は愉快そうな笑みを浮かべ見つめる。 「なかなか大きな宝珠ですね。どれ」 体の中からブチブチという音がする。 体に埋め込まれ張り付いた何かを毟り取られるような音。 地に根を張った植物を無理やり引き抜くような、繊維が切れるような音が身体中に響く。 このままじゃ死ぬ。俺は間違いなくこいつに殺される。 「これはこれは、なかなか張り付いて…ううん。レアな宝珠のようですね」 歪んだ歓喜の表情を浮かべたそいつは何か意味不明なことを口走っている。 ふざけるな。こんなところで死んでたまるか。 そう思った。 10 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 06:52:13 奴の背後では妹が時折むせ込んで苦しそうに悶えている。 悲哀を浮かべた虚ろな瞳の光は乏しく今にも消えてしまいそうだ。 あ、俺はあの瞳を知っている。幼い頃、母親が死んだ時の―。あの時と同じ瞳だ… 酷く他人事のように感じた。 俺は苦痛で何も考えられない体の筈なのに、そんな昔のことを思い出しながら苦しむ自分自身を傍観していた。 俺が死んだら次は世羅が、同じ苦しみを味わうのか? ふざけるな。そんなの絶対に嫌だった。 世羅が死ぬなんて絶対に嫌だった。そう思った。 その直後、体の奥底から沸き起こる膨大な量の“何か”が逆流し暴発する。 体が熱い。炎に包まれ魂ごと炎上しているような感覚。 流れる血液は熔岩の類となりその濁流は地下深くを流れる赤い川のようにたぎりながら駆け巡る。 全ての力は倍加されたように感じられた。 一瞬の内に視界全てが深い真っ赤な紅色に染まる。 眼前で邪悪な笑みを浮かべる悪魔、悶えながらも虚ろな瞳で俺を見つめる妹の苦しそうな眼差し。 全てが鮮血のような赤色に染まっていた。 「うおおおおおおおおおおお!!!!」 そして、俺は叫ぶ。 何も考えられないまま意思の奥底に眠る“何か”を開放させたのだ。 11 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 06:55:08 刹那の時間視界が断絶した。 暗い世界の中、目が燃え尽きて灰になってしまったのではないかという位の焦熱が一瞬の内に額を廻る。 自分自身が燃えて無くなるそんな感覚だ。 でも、その感覚を感じていたのは俺だけじゃなかったらしい。 目を開けたその先では俺の胸から一線に突き立っている帆高の右腕が発火している。 いや、していた。 腕の形状をしていたものは一瞬の内に燃え尽き塵と化し、赤い空間に同化したのだ。 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 帆高は消えてなくなった腕の付け根を押さえながら屈み込む。 俺は絶叫を聞きながら奴と同じように思わずしゃがみこんでしまった。 頭がクラクラする。力が入らない。 ゆっくりと顔を上げると赤く霞んだ視界の中で隻腕の悪魔は笑っていた。 そして笑みを浮かべたまま肩で一息するや否や、跳躍。階段の中段に着地した。 12 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 06:58:29 「よもや認知しない状態でここまでの力を出せるなんて、驚きですね。」 相変わらずの笑みを浮かべたそいつは未だ存在する片腕でスーツに纏わりついた煤を叩くと胸ポケットから何かを取り出した。 縦に長い古びた数枚のカード。そのタロットともお札とも言えない代物を手札のように構える。 「いや、惜しいですよ、ええ。もし貴方が認知していたら大切な妹さんも救えたでしょうが。残念ですね。」 奴の持つ手札が銀色に輝く。 「厄介な同業者は店を出す前に潰させてもらいますよ、」 そして、にっこりと笑みを浮かべながらそれらを俺に向かい放った。 「さようなら、早瀬皐君。」 俺目掛けて一直線に飛んでくる三枚の手札。 それらは人の形をした薄っぺらい紙の人形に変わったかと思うと、一瞬の内に膨張し曲刀を携えた骸骨の姿をした異形の物となりそのまま俺に飛びかかる。 迫る死を確実に覚悟した。 しかし―。 乾いた金属音。軋む鋼と鋼の衝突音。 閉じた瞳を開かせて恐る恐る眼前の光景に目をやる。 目の前に立ちはだかる少女の後ろ姿がそこにはあった。 だが、その姿はまるで… 大きく猛々しく開かれた一対の白い翼。 全身を覆う白光に包まれた銀色の甲冑は眩しすぎて直視できず、手にした剣は微弱な淡い輝きを帯びている。 13 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 07:02:26 そして、剣と同じように微弱な輝きを帯びてはいるが見慣れた妹の綺麗な栗色の髪。 間違いない。今俺の目の前にいる少女は早瀬世羅。俺の妹本人に違いは無かった。 だが…その姿はまさしく、聖書や神話に登場する天使そのものだった。 「大丈夫?」 天使は俺に背を向けたまま凛とした声色ではっきりと問う。 「世羅…なのか?」 眩い光に直視できないまま右手で額を翳しながら眼前の白い翼に語りかけた。 「その問いが否定肯定前提の質問なら答えられないわ。早瀬世羅は私。でも私は―。」 言葉を遮るように襲いかかる骸骨の兵士。 古代ギリシャの英雄が身につけているような鎧兜に臑当を着飾ったそいつは錆びた曲剣をかざし天使の喉笛目掛けて斬りかかろうとした。 「大天使―、告知の女天使ガブリエル!!」 天使はそう言い放ち、振りかぶった剣を思い切り横に振ると敵の剣と交錯、そのまま剣ごと鎧ごと骨の身体を一撃で薙ぎ払った。 粉々になった骨がパラパラと舞い降りてゆく 躊躇していた後続の骸骨達。 舞い降りた光の現し見に幻惑したのだろう。 直後、一瞬の間の後に骸骨の剣士は隙をついたつもりなのか相次いで“天使”に斬りかかった。 しかし、骸骨達の携えた二本の曲がった剣から発せられる甲冑の隙間を縫って肉を断ち切る生々しい音が聞こえることは無かった。 天使がかざした左手。その掌から発せられた光で二体の骸骨は塵のように霧散したからだ。 14 名前: 大生板暦4年(樺太) 投稿日:2007/11/11(日) 07:08:24 世羅が顔を上げる。 その先には呆然とした悪魔、帆高が笑みを浮かべたままで硬直していた。 変わらぬその歪みきった笑顔には明らかに先刻までのそれとは違う恐怖の色が染みついている。 目の前の空間が空になる。 跳躍した天使は剣を突き立て目下で立ち尽くす悪魔目掛けて振り下ろした。 刺身を切るような音で両断された悪魔からは血とも髄液とも言えないような紫色の飛沫が上がる。 更に、天使は相対した悪魔に慈悲はかけずに振り下ろした剣を横一閃に払いのけた。 十字に開かれる悪魔の肉体。 硬直した笑みを浮かべたまま開かれている蜥蜴のような瞳。 しかし、湿った音を伴いながら崩れてゆく悪魔の、空虚を見つめる冷めたい瞳は光を失ったまま再びその視線を俺達に向けた。 瞳孔は開かれたままに嬉しそうに細める瞳。 「今日の所は諦めますよ。ですが、また近いうちに相間見えるでしょう。」 崩れた肉体は地に落ちることはなく、銀色の塵となり空間を漂い消えてゆく。 「では、またの機会に…」 そして、俺達に向けられた敵意は完全にこの空間から消え失せた。 36 名前: 上位駅弁(樺太) 投稿日:2007/11/15(木) 03:38:25 >>14の続き 灰色の空が広がる荒涼とした平原。 地を覆う背が高い小麦色の草が悩ましげに揺れては靡いていく。 風は気まぐれにその向きを変えて吹き渡り、草はその流れに逆らわぬままに右へ左へ軽快にそよぐ。 そんな平原がどこまでもどこまでも果てしなく続いていき、ある地点を境に途切れた。 セピア色の草に変わって地を覆うのは銀色の群。 その中央に彼女はいた。 戦天使―。 神の下に仕え人々を導く存在。 世界の者達とは一線を画す天上の使者。 性という概念すら超えた存在の中で唯一の女性であり最上級の格にある熾天使、それが大天使ガブリエル。 彼女の後ろに控えるのは無数の銀の軍勢、彼女を慕い彼女の導きに従う彼ら。 その彼方には白の城塞がそびえ立っていた。 象牙のように白く輝いたその城塞には、同じく銀を身に纏った数多の兵士達が整然と立ち並ぶ。 その中の一際高い尖塔から鳥では無い無数の何かが飛び立った。 灰色の空を舞う規則的な白い数列はやがてその姿を確かな形にすると、彼女の傍らに相次いで降り立った。 白馬。 その白く滑らかな美しい馬体からは彼女と同じく雄々し翼が生えており、背には一際美しい装飾の鎧で身を固めた銀色の騎士達を乗せている。 天馬の、その背に跨る騎士達が眼前で佇む熾天使の背中を見つめる。 「敵の姿を確認しました。」 その中の一人、一際厳めしい十字の装飾を模した銀の盾を背にした騎士が抑揚を変えずに報告する。 「そなたの声に恐怖が見える。」 天使は少女のそれでありながらも低く威厳に満ちた声で答えた。 騎士は少し躊躇いながら隣の騎士と顔を見合わせると、荒ぶる天馬を手綱で諫めて向き直りながら答えた。 「はい。」 天使は振り返ると、俯いた騎士のその返答を聞いても尚表情を崩さずに歩み寄る。 彼女の白の外衣の袖下からは同じように白い華奢な腕を覆う篭手が現れて、それは荒ぶる天馬の額をゆっくりと撫でた。 彼女の手が離れると天馬は頭をうなだれながら平静さを取り戻した。 37 名前: 上位駅弁(樺太) 投稿日:2007/11/15(木) 03:44:26 天使は馬上の騎士を見上げるとゆっくりと穏やかに微笑みながら、 「恐れるな騎士よ。守り人が眼前の苦難から眼を逸らし、かの国の民が救えようか?」 そう言って、向き直る。 彼女の視線の先、そこには雲霞のように灰色の空を渡り来る軍勢の姿がはっきり見えた。 天使の片側を覆う白く長い袖が戦旗のように風に靡く姿を目にしながら騎士は己を恥じた。 少しでも彼女を疑った己を、自身の命を躊躇い、死を恐れた己を恥じた。 目の前の熾天使の横顔からは、その姿である少女として相応しい“畏怖” 彼方から迫る軍勢に臆する感情を感じさせる物は微塵も感じられなかった。 その蒼い瞳はひたすらに真っ直ぐ地平線の向こうに向けられている。 顔を上げ改めて正面を見据える騎士。 地平線の全て、灰色の空と小麦色の草原、そのどちらも黒で埋め尽くすのは「敵」の大軍勢。 地響きと羽音はこの世界の音を。 殺意に満ちた眼光と吐息はこの世界の命を。 全てを飲み込んでしまう闇のような黒い軍勢が迫る。 だが、彼の瞳にもう恐れは無かった。 彼は兜の隙間から安堵の表情を浮かべると愛馬の首を優しく撫でる。 相棒である天馬はそれに答えるかのようにたてがみを震わせた。 38 名前: 上位駅弁(樺太) 投稿日:2007/11/15(木) 03:52:12 天使はその足を喧騒と静寂の狭間に踏み出した。 後ろの兵士達がそれを固唾を飲んで見守っている。 髭を蓄えた老兵にまだあどけなさが残る若い剣兵 城壁に並ぶ長弓射手は弦を確かめ直し、槍を構えた若い兵士は柄を握り締めた。 そして天馬に跨る騎士達。 彼らの誰もが眼前で立つ彼女を見守っていた。 不意に、彼女の鎧に覆われた右腕が鞘に向かって動いた。 重い鋼が擦れる音が響き収められた剣の刀身がゆっくりと姿を現してゆく。 先刻から木霊する「敵」の足音で地がざわめく平原で、その音は、確かに彼らの耳ではっきりと聞くことが出来た。 彼女の鞘から抜かれた光を帯びた剣は一度斜めに空を切るとそのまま天高くへ向かい真っ直ぐに掲げられた。 その瞬間、高らかにときの声が響き渡った。 軍楽兵が彼女の意志を讃えるように甲高い音色のラッパを奏でると、 天使はそのまま白い翼を音を立てて広げ、灰の空に飛び立った。 次々とバイザーを閉じた騎士達が手綱をしならせる。 彼らの跨る天馬達は嘶くと後を追うように次々と大地を蹴って空に上がってゆく。 それに応じて大地を埋め尽くす銀色の軍勢はゆっくりと動き出した。 こうして戦いは始まったのだ。 47 名前: 飛べない豚(樺太) 投稿日:2007/11/16(金) 04:13:56 昨日の続き書いてみた。 目が覚めた。 まどろみを引き離せずに閉ざされたままだった瞼をゆっくりと開けると、そこはいつもの俺の部屋だった。 代わり映えのないいつも通りの俺の部屋。 随分長い間眠っていたようだった。 真夜中の学校で自分のクラスの教育実習生に殺されかけたのも、 自分の妹が白い翼をはためかせながら手にした剣で骸骨の兵士を切り払ったあの光景も全て夢。 秋と冬の変わり目。 その時期に疲れ気味だった体で最近見たぼんやりとした夢の中では久しぶりに鮮烈で特徴的な面白い夢を見た気がする。 本当はちょっと怖かったけどな。 夢で良かった。 悪夢や嫌な夢を見て目覚めた時に第一に思うこの感想。 今回見た夢も例に漏れず、そんな独り言を心の中で呟きながら枕元の時計を手に取ろうとした。 部屋にカーテンから差し込む日の光は赤く、無意識の内に俺は今が夕刻だということを悟った。 恐る恐る時計を覗き込むと長針は夕方の五時過ぎを示していた。 まさかこんなに寝てたなんて… ここ最近は特に最悪とも言える体調ではあったけど、病気にでもかかってるのかな。 そう考えると確かにダルいような頭が重い風邪のような感覚がするかも。 かなり曖昧な悪寒を覚えたような気がした俺は、一応熱を計ろうかと身を起こそうとした。 が、身体はそこで止まったままだった。 脳の指令に反応して筋肉が動くか動かないかのタイミングで扉が開かれ、制服姿の妹が部屋に入ってきたからだ。 「あ、起きてる。大丈夫?お兄ちゃん。」 そう言って部屋の扉を閉めると俺のベッドに腰掛ける。 「お昼ご飯の分作ってテーブルにあげておいたのに、ずっと寝てたでしょ?」 心配そうな目で俺を見つめる妹に俺は、 「うん、こんなに寝てたなんて初めてだしさ。自分でも何が何だか…」 どうしようもなく苦笑いをしながら右腕を額に当てながらそう答えた。 48 名前: 飛べない豚(樺太) 投稿日:2007/11/16(金) 04:20:17 俺の苦笑いを見た妹はとりあえず安堵したのかにっこり微笑む。 「お兄ちゃんのクラスの人達私のクラスに来てたよ。駒城さんが仮病か?って。」 げ、あいつらに病って思われてるなんて。でも時期が時期だけに仕方ないかも。 文化祭の準備で今週いっぱいは夜まで居残りは確定している。 サボリ目的の仮病ってあいつに思われても仕方ないよなあ。 思わずため息が出た。 「そしたらもう一人の人がね。なら放課後来いってすごい剣幕で言ってたよ。」 そう言って妹は可笑しそうに笑った。 「あのさ…それ言ったのって?」 仮病とは言え休んだ人間に放課後来て作業しろなんてスパルタ教師でもなければ普通誰も言う訳がない。 俺の脳裏にある人物が浮かび、そこから湧く恐怖が精神を侵食していく。 「うん、京ちゃん。怒ってたよ。」 妹は少し考えて思い出した人物の名前を明るい表情で口にした。 冗談じゃない。俺の悪い予想は見事に現実の物となった。 厄介なことになった。 一日をサボってしまったとは言え、このままでは休み明けに何を言われて面倒言を増やされるか分かったもんじゃない。 金を借りると利子の利子がつくような女だ。 「面倒なことなる前にちょっと行って来るよ。」 血相を変えながら再び身を起こそうとする。 が、力は入らず結果的に俺はベッドに横たわった体勢のままだった。 あれ?おかしいなと思い再度身を起こそうとする俺の肩を妹が止めた。 「大丈夫、私がちゃんと説明したから。 お兄ちゃん風邪ひいて、それで今日お休みだって、ね?」 49 名前: 飛べない豚(樺太) 投稿日:2007/11/16(金) 04:26:18 世羅はそう言うと肩から手を離してぺたんと俺の正面に座る。 「皆分かったって、だから大丈夫だから。ね?」 念を押すように同意を求めた語尾。 とりあえずは安心した。 世羅が言った言葉をあいつらが疑う筈がない。 あいつらと俺達兄妹は中学の頃から面識はあるし、 世羅が兄の仮病に口裏を合わせるような性格じゃないってことは駒城や橘川も把握しているはずだ。 ああ、良かった。 身体中の力が抜けるように安心したのか俺は天井を見上げ、仰向けのまま―。 ふと、視線を下げると泣きそうな顔をした世羅がいた。 本当ありがとな。俺は心の中で礼を言った。 「それよりさ」 唐突に妹が口を開く。 「記憶…戻った?」 「え?」 とっさに身を起こしながら聞き返す。 「身体は大丈夫だけどなんで?」 世羅は俺の質問に答えず、座ったまますり寄るとパジャマ越しに俺の胸に耳を当てた。 え、え? いきなりのことに事態を飲み込めない俺は両手を宙に泳がせたまま。 「昨日の夜、学校で胸を一突きされたよね?」 しばらくの間俺の胸に密着したままだった妹はこちらを見上げ言い放った一言は俺を現実から再び剥離させた。 そう―。昨日のあの夜の出来事のように。 53 名前: 飛べない豚(樺太) 投稿日:2007/11/16(金) 23:55:09 続き書いてみた 自分でもよく分からない設定だけどそれぽく妄想拡大してみた 「宝珠の損傷…うん。本当に大丈夫みたい。信じられない…」 世羅はそう言って考え込む仕草をして黙り込んだ。 そして、みるみるうちにあふれた涙が妹の瞳を満たしていく。 「ごめんなさいお兄ちゃん…」 何故か俺に謝ると世羅の頬を涙が伝った。 なんで謝るんだ? どう答えたらいいか分からず悪戯に時間が流れてゆく。 「なんで謝るの?」 俺は世羅の手を確かめるように握ると、ようやく自分の胸を満たしていた疑問を言葉で発することができた。 「私のミスなの」 世羅はまだ目に涙をいっぱいに浮かべながら消え入りそうな声で答えた。 「え、何が?どういうことなの?」 流れる時間。 世羅はやっと落ち着いたのか右手で涙を拭くと決意したように俺に向き直った。 「昨日のこと。」 そして、ただひたすら真っ直ぐな瞳で見つめたまま、そう一言だけ言い放った。 それに呼応するかのように俺の中の何かが蠢いて、昨晩の学校での出来事が甦る。 「…昨日って?」 夢であってほしい。 夢では無かったことを悟ったのに、今この状態ではそれは有り得ないことなのに、 俺はすがるような思いで聞き直した。 55 名前: 飛べない豚(樺太) 投稿日:2007/11/16(金) 23:57:44 「昨日の、夜中の学校での戦い。」 時間が止まったように感じられた。 妹の口の動きと耳に伝わる言葉の意味が遅れてまるでスローモーションのように俺に伝わるのが分かった。 口を半開きにしたまま話を聞いている俺を後目に世羅は、 「現界剥離に巻き込んだのは私のミスなの。 寄りによってお兄ちゃんの宝珠まで傷つけさせちゃって、完全に私の認識不足だったわ。」 淡々と言い続けてゆく。 今まで見たことがないような冷静な表情で、昨日起こった俺の“現実”を詳しく説明してゆく。 「普通はあのまま剥離するはずなんだけど、あいつ…帆高がお兄ちゃんの宝珠剥離させてたの忘れてた。 だから、巻き込んじゃった。私のせいで、ごめんなさい…」 そう言って申し訳なさそうに俯いてしまった。 そこまで聞いて俺は、外の日が落ちかけ部屋は暗くなっていることに気づいた。 俺はしばらく考え込んでから重い体を起こし部屋の照明をつけて、再び妹の隣に腰掛けた。 「俺、何が何だか分かんないから… ちゃんと説明してくれる?」 「うん。」 怒られた子供のような返事をした妹は、物悲しげな表情のまま立ち上がるとそのまま部屋を後にした。 56 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:01:44 居間を静寂が支配する。 時が止まってしまったような部屋に響く時計の秒針の規則的な音だけが流れる時を証明していた。 普段はつけられたままのワイドテレビも黒い画面のまま沈黙し、テーブルに向かい合って腰掛けた俺と妹も同じく沈黙している。 さっき、俺が着替えて下に降りてからずっとこんな感じだ。 「昨日のあれね、夢なんかじゃないの。」 不意に世羅の口が開き、ようやく沈黙が破られた。 「現界剥離って言ってね。私達…神界の者による力なの。」 げんかいはくり?しんかい?何だ、それ? 「わかってる。」 世羅は目を閉じながら静かに呟いた。 頬杖をつきながら気だるそうに、 「お兄ちゃんまだ何もわからないもんね、教えてあげる。」 俺は思わず唾を飲み込み真剣な表情で頷いた。 その流れを見ていた世羅は固く冷静な表情を崩し可笑しそうに笑って突っ伏したた。 「大丈夫だから。」 「そんな大変なことでもないから。この世界の当たり前のこと。 知らない側からすれば異常に見えるだけだから。」 世羅はそう言ってゆっくり顔を上げる。 「えっとね。この世界はこの世だけじゃないの。聖書のカオスって知ってる?」 「ああ、知ってる。神様がこの世を作るときのあれだろ。混沌だっけ?」 「そ。つまりね・・・ この世界は作られたのよ。神といわれる神界の存在によって。」 57 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:07:16 「…うん。」 頷くしかなかった。昨日のアレを見せつけられたら信じる他なかった。 作られた世界ってことは俺達も作られたのか? 「直線的に言ってしまえば、そう。」 世羅は俺の考えていることを見透かして答えてみせた。 「あのね、昨日の悪魔…うん、帆高先生がお兄ちゃんの胸に手入れたでしょ?」 ああ、あの感触、忘れられる訳がなかった。 「それがどうかしたの?」 「うん。あれね…宝珠を取ろうとしてたの。」 「宝珠ってなんなの?そういえばその言葉何回も言ってたよな、あいつ。」 世羅は頷いて、 「簡単に言えば魂。」 しかし世羅は首を横に振りながら即座に訂正した。 「ううん、魂なんだけどね。別にあれが取られて死んじゃったりとかは無いの。 力は生命に充分供給されたまま生まれるから。」 「どういうことか説明してくれる?」 正直今までの説明だけじゃ分からない。俺は世羅が発する次の言葉を待った。 「うん。あのね、魂、いえ宝珠ってね。数が決まってるの。 生まれ変わりって分かるよね?」 そう言って一度口を止めた世羅は俺の返答を待った。 「ああ、死んだ人間がまた違う人間として生まれ変わるんだろ?それがどうかしたの?」 「うん。宝珠はね、人が死ぬと元の置き場所に戻ってまた何回も使われるの。 つまりね、宝珠はずっと循環しててそれで現界の生命は機能してるの。」 つまり、一定数の宝珠があってそれが再利用されてるってことか? 「でもさ、なんであいつ…帆高は俺のを取ろうとしたの?」 それを聞いた世羅の表情が曇った。 またしばらく静寂が流れた。 「あいつ…悪魔だから。」 そう言って世羅は気まずそうに俯いた。 58 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:12:33 「宝珠は“ここ”で作られた物じゃないの。 神界、ここじゃない方の世界で作られた高密度のエネルギー結晶体、それが宝珠。」 「命を動かす燃料みたいなもの?」 「う~ん…合ってる、けど何か違う…」 そして少し考え直してから、 「自由に加工できる点は鉱物みたいな… 神界ではね、それを使っていろいろな物を作るの。 武器とか食べ物とか…万物の根源。」 世羅が再び見上げた。 「悪魔はそれが手っ取り早く欲しいのよ。 だってわざわざ天上界で面倒な手続きして手に入れるよりも、弱い現界の人間から取る方が効率がいいでしょ? それに魔界と天上界は結構いろいろあるし」 「ちょっと待った。」 俺はあわてて会話の流れを止めた。 「宝珠が貴重なエネルギー源みたいな物だってことは分かった。 それより魔界とか天上界って何だよ? 神界の他にあるの?」 「ああ、そっか…ごめんなさい」 世羅は、 「ううん、どっちも神界。 ただ、別次元にあるというか…行き来はできるんだけどね。 魔界と天上界ってのは現界の言葉ってだけで別に暗い地獄と明るい天国みたいな感じじゃないし。」 59 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:15:48 つまり世界の違い以外は現界より次元が上ってことで同じ世界みたいなもんか? 「うん、ゲームの世界は自分側から操作できてもゲーム側からは操作できないでしょ?」 なんか分かるような分からないような。 まだ首を傾げている俺を後目に世羅は部屋のノートパソコンを起動した。 「見て。」 世羅が指差した画面の先ではインターネットの掲示板が表示されている。 レンタル式の個人HPの掲示板ってとこか。 スクロールされていく画面からは荒らしとも思える中傷が乱暴な文調で書き込まれている。 「これはひどい」 思わず口に出た。 「例えば、これ。この掲示板にはふさわしくない書き込みよね。 自分が管理人だったらどうする?」 「そりゃあ、荒らしの書き込みは火消しすると思うけど。」 「そういうこと。」 世羅は分かった?という風な語尾で俺に説明した。 いや、分からない。ごめんなさい。 そんな表情の俺を見た世羅は 「つまりね、現界で悪魔が宝珠を取ることはバランス上とても危うい行為なの。 別に取られた人間は死ぬわけじゃないけど、宝珠はもう無いから死んだら生まれ変われないでしょ?」 うーん。 60 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:21:26 世羅は未だに飲み込めずにいる俺を無視して話を続ける。 「生まれ変われないってことはその人の全てはそこで終わっちゃうの。 いろんな前世を経て積み重ねてきたものも全部含めてその人の人生が終わった時点で。」 「だから、」 世羅はそう言うと俺を見つめ決意に満ちた眼差しで、 「私、ううん。 現界でいう“天使”が“悪さをする悪魔”から宝珠を守らないといけないの。」 目と目が合う。 「分かった、けどさ。」 ある程度事の次第は理解できた。ただ唯一、どうしようもなく不安で心配な事だけが頭をよぎった。 「君は、早瀬世羅…俺の妹じゃなくて、天使だったってことか?」 幼い頃から共に過ごしてきた俺の妹は昨日のあの出来事でここから消えていなくなってしまったのか。 今、こうして俺と話しているのは彼女とは違う存在なのか。 それだけが気掛かりだったのだ。 きょとんとした顔で俺の真剣な質問を聞いていた世羅は、問いの意味を把握したらしく大きく頷くと 「うん、大丈夫。 私はお兄ちゃんの妹だから。安心して。 早瀬世羅は私。天使ガブリエルも私ってこと。 宝珠に眠る記憶が目覚めただけ。」 そう言っていつもと同じ、俺に見せる無邪気な笑みを浮かべた。 61 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:25:33 「私ね、」 世羅はそう言いかけてしばらく考え込む素振りを見せた。 「この生で起こる異変を正すためにかなり前の前世で天使と契約したから…。 昨日の一件で思い出したんだけどね、だから私はどっちもなの。」 つまり、早瀬世羅として生を受けるこの時に起きる異変が予め分かっていて、 それを正すために何百年も前の段階から天使と契約してたってことか? じゃあ… 「その異変って何なの?」 昨日の悪魔が俺の宝珠を奪おうとしたことが異変なのか? 「この学校に悪魔がいるの。そいつが一網打尽に大量の宝珠を奪おうとしてる。」 昨日の悪魔が? 「ちょっと違う。帆高先生はその悪魔と違う。 悪魔にもいろいろいるから」 そう言うと世羅は言葉を一旦区切った。 「私達の仕事…ねえ、例えばさ。」 世羅はパソコンの画面を再び指差し 「さっきの続き。管理人が荒らしを消す時ってさ…普通の人分からないよね? 気づいたらもう画面から消えてるよね?」 「そりゃ消す為の操作画面は普通の人は見れないよ。」 「うん、それが現界剥離の例えなんだけど…」 再び口ごもる。 「どうかしたのか?」 「うん、そうなんだけどおかしいのよ。 昨日私とあいつが戦ってる間、あそこには私達三人しかいなかったはずなのに…」 そう言うと世羅はノートパソコンを閉じてこちらに向き直った。 「明らかに違う悪魔が見てた。 ううん…使い魔の類だと思うんだけど…」 62 名前: 地理選択(樺太) 投稿日:2007/11/17(土) 00:28:25 「様子を見てたってことか?」 「そうだと思う。 “悪魔”って呼び名は言葉の上だけで意味上はそれが悪か善かはかなり曖昧なの。 だから、そいつが私達の宝珠が目的かは分からないけど」 「あの悪魔、帆高先生は違う。宝珠喰らいの類。 あいつが持っていたタロットも宝珠で作られた神具“アルマ”よ。」 世羅が言っているのは昨日俺達を襲った骸骨の兵士。 あの怪物は帆高が放ったカードから現れた。 「あの神具、たくさんの宝珠を一枚一枚に凝縮させてた。 きっとあいつ、宝珠をカード収集くらいにしか思ってないのよ。」 世羅はそう言って唇を噛み締めた。 「なあ、これから俺達どうなるんだよ?」 俺は今更ながらその質問を世羅にぶつけた。 「とりあえずは目的の悪魔は形を潜めたままだし、 まずは害になる昨日の悪魔を滅するつもり…でも」 そう言って天井を見上げる世羅。 「この調子だと他にも悪魔が学校にいるみたいだし…」 そして、再び俺との目が合い 「面倒なことになりそうね。」 そう言って世羅は大きなため息をついて見せた。 112 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 00:49:15 >>62の続き書いてみた 朝。 それは、光の下に生きる者全てに与えられる始まりの刻。 日輪がもたらす光の刻を侵すことは何者もできず、 朝の暖光は目覚めを促し等しく平等に地上を照らす。 草、木、動物、太陽の下生きる者全てに その眩しすぎる白光が目覚めた者達全てにこれから始まる今日の日を告げる。 だが、あの彼方―。 燃える日輪が地上に与える暖かみを帯びた日光とは裏腹に、 長い冬が間近にまで迫ったこの街の空気は冷たく、どこか刃物のような鋭利ささえを宿しているように殺伐としていた。 朝の使者とも言えるような存在の小鳥たち。 真っ先に目覚めた彼らが、身に染みる寒さを必死に拒むような甲高いさえずりをあげながら飛ぶ。 澄んだ氷のように、ただひたすら冷えきったこの街の大気を切り裂いて。 鳥達が飛び去るそんな様子を見ていた少年。 手を額にかざし鳥達の行き先を見ながら彼は何を思っていたのだろうか。 ほんの数秒だけ歩みを止めた彼は正面に佇んだ教会の十字架に目を移した。 朝日に照らされた十字架の先端は神々しいまでの輝きを放っていた。 113 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 00:52:35 彼の通う聖ゲオルギウス学院は敬虔なカトリック系の学園であり、 創立とほぼ同時に立てられたのがこの校門に入ってすぐ東に佇む記念礼拝堂である。 学園の創始者の一人である異国から渡ってきた聖職者の名を冠したこの礼拝堂は正規の教会でもある。 管理をしているらしいシスターの姿をした女性が手袋を畳みながら中に入っていく。 厳かな音を立てながら閉じられる扉。 クリスマスにはこの向こう側に多くの学生達が集まる。 彼ら生徒達に加え近所の住民、子ども達も集まり、 賛美歌やお菓子のプレゼントといったクリスマス独自の催しを行いながら聖者の誕生を祝うのだ。 だが、今、この教会の前に一人佇んだ彼にとっては、 そのようなことは全く関心には及ばない事柄だった。 足を進め礼拝堂を横切る。 そのまま草の生えた脇道を進み裏手に出る。 普段はゴミ置き場に使われる人気の無い校舎裏。 その場所に向かう。 まるで、何かに引きつけられるかのように。 114 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 00:54:52 まだ始業時間には少しばかり早すぎる為か、その先に見える校舎の廊下を歩いている生徒の姿は見えず学校内は未だ閑散としている。 少年はゴミ置き場の脇、お世辞にも正規の通路とは言えない校舎の間の小道に足を踏み入れる。 普段は誰も歩かない場所が人目で分かる。 両脇を校舎の璧に囲まれ、日光が当たらず常に日陰を保っているその小道はひどく湿気を帯びており、 コンクリートの校舎の壁、その根本は湿気で濡れ、苔が蒸している。 そんな何もない日陰の道を一歩ずつ歩く度に鳴る、湿った砂利の音だけが双璧の間を響く。 不意に、少年の足がぴたりと止まった。あと数歩も歩けば行き止まりになろうかという所。 数歩先に日陰の為に常に薄黒い灰色をした、校舎の壁より僅かに白く灰色な鉄の箱が据え付けられているのが見えたからだ。 近づき改めて様子を伺う。 古びた鉄のその箱は、電気関係のメーターや器具が納められているのだろうか、 厳重にロックされており一般の生徒が開けることはできるようには見えなかった。 が、彼はそれ―。 箱の中身にはまるで興味は無いとでも言うように中腰にかがむと“箱そのもの”を探り始めた。 少女のように白く華奢な指が箱を探り、その下部で動きを止めた。 据え付けられた箱の底面、 この暗い日陰で懸命に日光を求めるように生えている細い雑草の頭が僅かに触れそうな位置。 そのブラインドの場所に、確かに彼は探していた何かを見つけた。 115 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 00:58:12 「この“スペル”貫通感知ができるんだ…」 少年は聞き慣れない言葉を含めた独り言を発し、感心と驚きが混在したような表情を浮かべた。 腫れ物から手を退けるようにそっと手を離し、その箱が据え付けられた校舎の壁を見上げる。 換気扇らしき通風孔と器具、窓。 それ以外は一面灰色の無機質なコンクリートの壁。 最も少年の背中側、向かい合わせた校舎の階が二階までしか無いため壁が存在せず、 朝日を直接浴びることができる三、四階部分は薄い灰色をしていたが。 「この壁の向こうは―。」 少年は壁を触れ数回撫でると指を離し、何もない脇の地面、敷かれた青みがかった灰色の砂利道を見る。 「職員の宿直室。」 さっきまで何も存在しなかった筈の砂利道にあぶり出しのように黒い犬が現れると、人語で少年の問いに答えた。 意思の疎通ができることを把握しているのか、少年は犬の放った人語には驚きもせずに、 「そう。」 一言相槌を打つ。 「僕はこれで三カ所目。ガルム、君は何個見つけた?」 「十二カ所。階層建物満遍なく、だ。」ガルムと呼ばれた犬。 いや、最早その体躯から言えば狼と言った方が適切であろうその黒い獣は、 ハスキー地味てしゃがれた、間違いなく人間が発する質感の声でそう答えた。 「全て同じ人が?」「ああ、そうだろうな。」 獣は僅かに頷くように首を下げると自分にも確認するように静かに呟く。 そして、 「恐らくは人間の仕業。俺達のやり口じゃない。」 確信を帯びたその一言を喉から吐き出すように言い捨てた。 「参ったな。」 116 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 01:06:34 少年はそう言ってカバンを持ち直すと、乗り気じゃないと言いたげな苦笑を浮かべた。 「何も無理にやる必要は無い。お前がやらないのなら俺がやるだけだ。」 ガルムと呼ばれた黒い獣はそう答えると、砂利音を立てて前足を踏み直しながら少年を見上げた。 金色の瞳が彼だけを見つめ、 少年はそれに答えるように仕方ないな、とでも言うかのような笑みを浮かべると目を閉じた。 と、しばらくの間を置いた後に気がついたように目が再び開き 「ところでガルム、僕ら以外には?」 少年の問いに、 「さあな。とりあえず三匹は見つけた。 あのいけ好かない山羊頭、そしてこの“スペル”を仕掛けた者。 それから」 既に質問の意味を理解していたらしく、事前に用意していたような返答を返すと口ごもった。 「何か気になることでもあるの?」 少年は屈みながら黒い獣の目線に合わせた。 「ああ、他に虹蛇を見た。」 「虹蛇?」 少年は不思議そうに獣が発する次の言葉を待った。 「ああ。全く厄介な奴が現れたぜ。 ま、あいつは依存型だから今のままじゃ無力なんだがな。」 ガルムは大したことではない。そう言って後ろ足で耳をかいてみせる。 「じゃ、当面の障害は。」 「ああ、あの山羊頭。次に会ったら今度こそ…」 耳を掻き終え姿勢を戻したガルムは、そう言いかけた所で首を上げ周囲の匂いを嗅ぐ仕草をした。 少年も気配を感じたらしく前方、元来た砂利道の方を見ると身構える。 「さっきから見てる奴、出てきな。」 ガルムは唸りを織り交ぜた低い声で何も存在していない空間に問い掛けた。 117 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 01:08:48 すると、それに呼応するかのように、空間が妖しく歪んだ。 まるで、先程問い掛けた黒の獣、彼自身が現れた時のように、 それは無であった空間に質量を持って姿を現した。 「盗み聞きしてるつもりは無かったんだけどねぇ」 このような陰気な場所では明らかに場違いな飄々とした口調で、第一声を放つ者。 極々普通な若者に見える彼の顔、声を除き、 現れた青年の姿は明らかにこの世界では異質な姿をした異形の者だった―。 身に纏うのは砂漠の遊牧民のようなオリーブ色の布の装束、 その袖から露出した腕には何かの紋章が辞書の文字列のように刻み尽くされ、 布の端から覗かせるの脚部を覆う錆色の甲冑は鳥のように尖った質感のつま先だけで砂利を踏みしめている。 髪と同じく輝く銀色の瞳の瞳孔は、暗闇から明るみに現れた猫のように狭められ、 また、明るみから日陰に場所を移したように膨張し、それを忙しなく繰り返している。 更には背中から生える猛禽類を思わせる灰と白の翼。 その有翼の姿は一目で人間では無い存在だということを証明していた。 118 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 01:12:13 「貴様、堕天使だな?」 声を押し殺すように低くぼそりと呟いたのは少年の傍らに座す黒い獣だった が、問い掛けが終わった時にその姿は少年の傍らには既に無く、弾かれた砂利が双壁に当たった音が鼓膜を震わせる瞬間。 その時既にガルムは灰色の青年の目前の宙を静止していた。 上下に大きく開かれた顎から剥き出しになった牙が喉笛を確実に狙いすます。 「くっ…」 獣の牙が彼の喉笛まで届くか届かないかの僅かな間。 その鮮血が彩るまでの僅かな刹那、 有翼の青年はそれまで空だった自分の掌の空間を物質で満たした。 無から現れたそれは水晶のように透き通る色彩をしており、 それは確かに錫杖の形をしていた。 その呼び出した“物”を逆手に構え迫る獣の一撃を受け止める。 白牙は目の前に現れた錫杖には全く躊躇せず一気にくわえ、容易く噛み砕いた。 杖は一瞬の内に砕け散り、恐らくは構成していたと思われる砕かれたガラスのような欠片。 細かく砕けた欠片が宙を落ちる間に粉末となり輝きを帯びながらパラパラと風に舞った。 突如目の前に現れた杖を反射的に噛み砕いたガルムは堕天使の足元に着地すると、 その次に来る反撃を予測してそのまま地を滑るように後ろ向きに元の位置に下がる。 獣は唸りを上げながらその身構えは崩さないまま、看破された攻撃を立て直す次の一手を考える。 「いきなりかよ!」 銀髪の青年は驚嘆と歓喜を混じったように裏声が入った叫びを上げた。 悪い冗談にでも遭遇したときのように。 「黙れ堕天使。」 ガルムはただそれだけ言い返すと遠吠えのような仕草で首を高く上げ空気を吸い込み―。 「そこまでよ。」 突如放たれた女性のかけ声に反応し動作を止めた。 122 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 19:37:42 更に続き書いてみた。 声がした方向、銀髪の青年を見る。 が、勿論その声の主は彼の言葉ではなく、 その声は手のひらから僅かに離れて浮かんでいた宝石の塊から発せられていた。 「誰?」 尚も威嚇しているガルムの傍らの少年がその宝石に向かい発した一言。 それに対し宝石はまるで人間のように、 「貴方達のお仲間、と言った所かしら。」 さらりと答えて見せた。 回転を続けている宝石から発せられた音が連なり言葉になる度にそれは淡い輝きを放っていた。 「俺達は仲間になった覚えは無い。」 尻尾を逆立て、唸りを上げながらガルムは答える。 少年はそれを片手でなだめるように静止した。 「待ってガルム。話を聞こうじゃないか」 輝く宝石の塊を右手に浮かべた銀髪の青年は少年の言葉に安堵したように笑って見せる。 「学校のあちこちで網を張ってたのは君達だね?」 「ええ、そうよ。」 少年の問いに宝石はあっさりと答えを口にした。 「私は何も貴方達と戦う気は無いわ。ただね…」 123 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 19:50:38 「貴方達の目的は把握してるわ。私が貼ったスペルでね。 邪魔なアルゴラヴを消したいんでしょ。なら私達と手を組まない?」 これまで覆っていた幕のような曖昧なトーンが剥がれ、宝石からははっきりと女性の声が聞いてとれた。 沈黙する一人と一匹。 「ああ、アルゴラヴって貴方達の言っている強欲の悪魔、山羊頭のことね。」 そんな彼らを無視したようないかにも楽しそうな無邪気な女性の声。 少年は少し驚いた表情で隣のガルムと見合わせた後、 「手は組まない。“あれ”は僕達がやる。 第一、使い魔をよこして高見の見物。正直信用できないね。」 少年はその幼い童顔には見合わないきっぱりとした口調でそう答えた。 124 名前: アニメ好き(樺太) 投稿日:2007/11/23(金) 19:56:09 「使い魔だあ?俺は―。」 恐らくは自分より何百年も年下の少年に使い魔扱いされた青年は、不服そうに顔をしかめる。 それから何か言い返そうとしたが、 彼の手に浮かぶ宝石が以前と変わらぬ回転を続けながら遮ぎるように 「そう、残念ね。なら諦めるわ」 それだけ答えて宝石も、それを所持する有翼の青年も口ごもった。 静寂が流れ 「ならさっさと消えるんだな。」 ガルムは背中を震わせて呟いた。 宝石からは何か考えているような女性のため息が聞こえた後に、 「じゃあ消えましょう。その前に一つだけ良いこと教えてあげる。 ま、貴方達には悪いことかもしれないけど。」 そう言ってクスクス笑っているようなしゃくりが聞こえてくる。 「・・・何?」 それまで常に張りつめていたガルムの口調が鈍る。 「ごめんなさい。 “天使”が覚醒したわ。じゃ、またね。」 その声の主は宝石を通じてそれだけ伝えると、 共に現れた銀髪の有翼の青年もろとも空間に溶けるように姿を消した。 「天使って…」 残された二人はお互いの顔を見合わせるとその瞬間を待ちわびていたように予鈴が鳴り響いた。 195 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/11/29(木) 04:10:55 戦闘ないグダグダな展開だけど>>124の続き書いてみた。 穏やかな秋空の下、俺は頭を垂れながら。 その足取りは重い。 1年と11か月の間毎日のように歩いてきたこの道は、桜が咲き乱れたあの春の日から変わらないまま、 でも俺にはこの見慣れた道がもう同じものだと感じることができない。 物心ついた時から見上げていた。 この街の空も、道を行き交う人の姿も、ここにあることには変わらない。 が、穏やかだった日常は果てしなく遠い存在となり、俺の感じてきた日常はとっくの昔に消えてしまっていたのだ。 いや、そもそも最初から無かった。 この踏みしめている土も、そこに生きる者も、 全てが、この世界という名の空間に存在する「作られたもの」だということを聞いて誰が信じるだろうか。 信じたくなかった。だが、信じざるを得なかった。 彼女が告げた世界の理。 彼女・・・熾天使ガブリエルはこの世界の外側の者。それが俺の妹の真の姿だった。 俺がこの身で体験したあの非日常的な出来事は、全てが否定のしようがない事実であり、未だに頭の中でその光景が鮮明にフラッシュバックする。 俺は、あの日感じた体の中の「大切な何か」をえぐられるような独特の痛みを忘れ去ることができずにいる。 196 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/11/29(木) 04:12:18 例えどんなに忘れようと努力しても、身体の宝珠が忘れようとする意志を頑なに拒否する。 あの日以来、それまで感じずにいた宝珠の存在を常に感じる事実。 それはつまり天使の言ったことが偽りではないということを意味していた。 宝珠は人の生を司り死後も尚繰り返し使われる永久機関。 故にその内に秘めた数多の情念、記憶全てが凝縮されているのだ。 世羅が言っていた。 俺があの日宝珠への刺激を直に与えられたことで、今までの無数の生を経て蓄積された記憶が逆流する恐れがあると。 そうなると、宝珠は素体の内部から徐々に熔解し完全に変容させるのだという。 蓄積された記憶の再燃は俺に一体何をもたらす? それを聞いた時世羅は、「私にも分からない。」とだけ言って見せた。 そもそも宝珠が現界で外部からの刺激を受けること事態が異常なのだ。 だから、宝珠喰らい―。あの悪魔、実習生の姿をした悪魔、帆高を倒す。 世羅は決意に満ちた眼差しでそう言った。 なら、作られた存在である俺は。 それを知ってしまった俺は。 これからどうすればいい? そんな、自分一人では出る筈が無い答えを求め、堂々巡りの考えを巡らせながら歩いていた。 197 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/11/29(木) 04:13:57 そこまで考えていた所で俺は彼方から聞こえる鐘の音を耳にした。 この音を俺は知っている。 そこで初めて今がもう登校時間の終わりに近いことを理解した。 「やば・・・!!」 その時点で俺の思考を占有していた糸くずの塊のような物は一時的に退去し、俺は周りの生徒と同じく地を蹴って走り出す。 それまでずっと、前を横を後ろを歩いていた生徒達も鞭で叩かれた馬のように、 ほぼ時を同じくして揃って走り出す。 彼方に見える門を目指して。 疾走。 ゴールである門を駆け抜ける。 肩で息をしながら喘いでいる俺を風紀委員担当である担任教師が呆れた顔をしながら 「早瀬遅いぞ。もっと急げ」 それだけ言って顔をしかめた。 「はあ・・・はあ・・・すみません・・・」 息を切らせながら出た言葉は何の意志も伴わない形だけの謝罪。 それを承知のこの初老の教師は、やれやれといった表情で 「一年生の妹はもうずっと早くに登校したぞ。もっと妹を見習わないか」 それだけ言うと振り返り校門の方に歩き始めた。 妹はいつもは俺より遅くに家を出て、登校時間の五分前ジャストに校門を越える。 だが、今日だけはいつもと違って「調べ物がある」と言って早朝に家を出た。 反面、俺は凄まじい疲労感から家が出るのが遅れ立場が逆転。 いつもこうやって校門前に立ち遅刻しそうな生徒を叱咤する全くもって熱心な担任に毒を吐かれる羽目になった。 ツイてねぇ。 世羅が言うにはこの前の一件で宝珠自体が一時的に激しく摩耗しているらしい。 いつまでこの倦怠感が続くのか。そんなことを考えて息を落ち着かせうなだれていたら 「お前もだ橘川。」 目をやると俺のクラスの橘川京も同じく息を切らせながら叱咤されていた。 同じく肩で息を切らしながら視線をあげた橘川と思わず目があう。 その女子は俺の視線に気がつくと一瞬だけ悪戯そうに笑ってみせるといつもの刺々しい表情に戻った。 198 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/11/29(木) 04:15:33 朝の廊下は喧騒の坩堝と化していた。 まあ、いつものことなんだけど。 いつもとは違う違和感。 その正体は各教室前の廊下に置かれた多数のダンボールやら看板。 週末に控えた文化祭の為だ。 心なしか周りの生徒の表情も楽しそうで文化祭が待ちきれないといった雰囲気が学校全体を覆っている。 が、俺はそんなお祭り気分に浸れないでいる。 俺の歩く横には俺と同じく、門で担任のお叱りを受けた橘川京の姿があったからだ。 「なんで休んだの?」 さっきからこの台詞を何度も聞かされている。 鳶色の髪が美しい「いかにも優等生」な雰囲気漂うこの女子は、俺の親友の駒城祐一と同じく高校に入る前からの俺の顔なじみだ。 むしろ中学から知り合った駒城と違って、こいつの場合は同じクラスに転校してきた小5からの腐れ縁。 分類学上は幼なじみになるんだろうか。 俺は正直こいつが苦手だ。 昔から何かを率先するタイプで今回も例に漏れず文化祭展示用のクラス新聞の班長。 つまりグループのリーダーとして無断欠席した俺が許せないのだ。 考えを見透かす鋭さも合間って、既に俺の欠席の理由が病気でないことにも薄々感づいているようで、 さっきからこんな感じのやり取りが一方的に続いている。 240 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/02(日) 21:14:55 >>198の続き書いてみた わからないことをはっきりさせないと気が収まらないのは、 その強引さと同じく昔から変わっていないらしい。 「ねえ、 ね え っ た ら !!」 追及する橘川。 右から左に適当に受け流していた鼓膜が、突然の高音でビリビリと激しく震える。 「なんだよ。」 耳を片手でうるさそうに押さえながらそう答えた俺を橘川はまくし立てるように怒鳴る。 「なんで昨日休んだの!?本当に風邪だったのかって話!!」 髪と同じ色をした鳶色の瞳が、獲物を捉えた鷹のようにカッと見開く。 背筋が震えた。 こいつの前世が鷹だったとしたら俺の前世は捕食された小動物か何かじゃないのかな。 今度世羅に聞いてみよう。 そんなのんびりとしたことを考えていたら、 「ちょっと、 聞 い て ん の !?」 耳元で発せられた馬鹿デカい高音が再び鼓膜を太鼓のように震わせる。 ナーバスな脳髄がガンガン打ちのめされ視界が舞った。 正直な話、朝っぱらからこの声を聞かされるのは辛い。 そんな音がさっきから散々鳴り響く。 それはまるで始まったばかりの映画館のステレオ、 慣れない耳を強烈に刺激する特大の音が頭の中を凄まじい勢いで駆け巡る。 241 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/02(日) 21:17:27 俺は思わず、本当のことを言おうとしたところをやっとの思いでグッとこらえた。 余りにも日常からかけ離れたあの出来事を橘川に言ったところで信じてもらえる筈がないし、 頭がおかしくなったと勘違いされるのもごめんだ。 万が一信じて貰えたとして、更に面倒なことになるのは明白で考えただけでも気が滅入る。 そこで、俺はできるだけ穏便に事態を収拾すべく最善の策を取る。 「だから風邪だって。ほら、季節の変わり目だから。」 それらしいことを言ってはぐらかし橘川の反応をうかがった。 かなりの違和感があるけど最もな理由だと思う。 そんな俺をしばらくの間、珍獣を見る動物学者のようにじっと見つめる橘川。 俺は全身に感じる冷や汗を押さえながら、感情が思わず顔に出さないように努めた。 そして、鳶色の髪の少女は俺を見ていた険しい表情を解くと、 「ふ―ん・・・わかった。」 仕方ないなというふうに語気を緩めてゆっくり息をついた。 そして 「じゃあ、早く治しなよ。暖かくしないとダメだよ。」 まるで小児科医が病気の子供に言うような優しい口調。 242 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/02(日) 21:18:21 そして何故か気まずそうに彼女の横顔が俯いた。 口では言わなくても心配してくれてるのだろうか? その反応が普段のこいつに比べてあまりにも意外で、拍子抜けすると同時に少し見直した。 が、その矢先 「早瀬君が風邪ひいたら世羅ちゃんが大変でしょ?」 あからさまにふてくされたような顔を浮かべながら前を歩き始める。 結局それかよ・・・ 俺はそんな橘川の背中を見ながら後に続いた。 そして、教室の前にたどり着き踏み入れようとした時、一歩先に教室に踏み込んだ彼女は突然振り向いた。 あまりに急に振り返るもんだから顔と顔がぶつかりそうになりる。 止まる時間、思わず言おうとした「いきなり振り向くなよ」という言葉。 それを言おうとした俺よりも僅かに早く、橘川は満面の笑みを浮かべて口を開く。 「あ、今日仕事あるから残って。早瀬君昨日休んだから。」 彼女はそれだけ言い残すと手前に固まった女子の輪の中に入っていく。 さっき風邪ひいたら早く治せって言ってたよね? 俺は心の中の自分に問いかける。 しばらくしていつものように彼女に翻弄されたことを自覚するまで、 俺は朝のHRが始まる鐘の音を聞きながら呆然とその場に立ち尽くしているしかなかった。 300 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/05(水) 18:06:07 >>242の続き書いてみた 頂点に達しかけた太陽がグランドを照りつけ、上空で渦巻く冷たい大気はほのかな熱を帯び地上に吹きつける。 今は四時間目、体育の時間。昼飯前のこの時間を上手にこなしてできるだけ腹を空かせるのがいつものこの時間の日課なんだけど、 朝を抜いて出てきた既に腹ぺこの俺にとって昼飯前の体育の授業は少々辛すぎたようだ。 さっきからお腹の虫がぐうぐうと空腹を訴えかけてくる。 それを必死に押さえながら。 グランドの隅、校門から最も離れたいわば学校の外れで俺達は二クラス対抗の野球の試合をしていた。 ダイヤモンドが描かれたその中心から投手を務める駒城が投げた球は、緩やかに速度を保ちながら隣クラスのいかにもな体格の四番の胸をえぐる。 彼のバットは空を切り三振、3アウト。再び迎えた攻撃の回。 後ろを守っていた全員が戻る。もちろん俺も。だが、攻撃の為ではない。 それは俺にとっては「座れる機会」でしかない。さっき三振したからあと8打席は座れる。 朝のように息を切らせながら外野から戻り、一塁側の葉が落ちた植木の根本までたどり着き両腕をついて座り込んだ。 「よう」 あとからゆっくり歩いて来た駒城が俺の隣で止まって見下ろす。涼しい表情だ。 本来剣道部の幽霊部員であるこいつは事も無げにピッチャーを務め、三振を山のように取っていた。 勉強もスポーツも俺はこいつには勝てなかった。 だが、俺も含めクラスの皆が彼を慕っていた。 それに対してまた、鼻にかけないところが彼の人柄を表しているとも言えた。 駒城は労うように俺の肩を二度、ゆっくり叩くと隣に座り込んだ。 その瞬間冷たい風が向きを変えて俺達の頬を撫でた。 駒城は下に着ている黄色シャツを覗かせていた胸元、ジャージのジッパーを上げながら小刻みに身震いをする。 体を動かしている時はそうは感じないのに、こうやって何もせずに座っていると冷たい風が襲い寒さが身に染みる。 誰もが間近に迫った“冬”を感じていた。 もちろん俺も。 「早瀬、まだ“風邪”は治ってないの?」 聞いてきたのは俺の隣に座った大澄誠だった。 301 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/05(水) 18:06:54 「なんで“風邪”で区切るんだよ」 不満げに言う俺に大澄は含み笑いをしながら同じく隣に座った成田と顔を見合わせた。 「お前の妹から聞いたんだよ、昨日。あんまり妹を困らせるなよな。」 そう答えたのは駒城だった。 「橘川さん、早瀬の妹に問いつめてたよ。 本当に病気か、係サボりたいだけなんだろってさ。いつもの調子で。」 大澄が呟いた。 「かわいそうになぁ、早瀬の妹。」 あからさまに同情するような素振りを見せながらそう言ったのは成田だった。 「いいんだよあの二人はお互い知ってる。というか、世羅は兄の俺より橘川に懐いてるし。」 俺は枯れかけた芝生の草をいじりながら答えた。 実際、妹の世羅は中学時代の部活の先輩である橘川とは昔から仲がよく、今でもたまに一緒に遊びに出かけているらしい。 橘川は妹や他の女子や教師に対しては面倒見がいい優等生気質で、橘川が強く当たるのは男子に対してだけ。 同性でしかも知り合いの妹と昔からの仲なら姉妹みたいなもんだ。 ああ、橘川の場合は姉というより兄か。 「兄が二人いるようなもんだよ、世羅にとっては。」 俺は冗談混じりに笑いながら答えた。 302 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/05(水) 18:07:46 「本当か?なら、それはそれでいいとしてもさ」 ニヤニヤ笑いながら聞いていた成田が口を開いた。 「ま、頑張れよ。」 悪戯っぽい笑みを浮かべて俺に何かを忠告する。 「何をだよ。」 成田はニヤニヤ笑ったままだ。 なんなんだよ・・・ そう言いいかけた俺を封殺するように駒城の声が被さった。 「見ろよあれ。」 そう言って駒城はある方向を見ていた。 それまで笑いながら俺を見ていた成田や大澄もその方向に目を向け、俺も続く。 俺達が見た方向、校庭の脇の校舎に隣接したその区画は高めのフェンスで覆われ、それを隔ててテニスコートが設けられていた。 そこでは女子がジャージ姿のまま俺達と同じ体育の授業、テニスをしている。 その一角、一番端の手前のコートには軽い人だかりが出来ていて、歓声がこっちにまで微かに聞こえてきた。 「あそこ、何であんな人集まってるのかな?」 大澄が間延びした声で俺に問いかける。いや、俺に聞かれても分からない。 そう答えようとしたその時、 「あれだよ。」 成田がその人だかりの中の中心でテニスをしている女子を指差しながら代わりに答えた。 303 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/05(水) 18:11:14 そこではこちらに向いた方のコートに立つ橘川が左右往々に動き回り、必死にボールに食らいついていた。 無駄の無い動き、まるでテニス部員のようなキレのある慣れた手つきでボールを返していく。 流石、運動も勉強も万能な橘川といったところだ。 だが、成田が指差したのは橘川ではなかった。 その手前、丁度俺達に対し背を向けながらボールを返す女子。 彼女が立つエンジ色の地面と対比するようなあまりにも明るい金色の髪。 背中まで長く垂れたポニーテールの尾が激しく揺れた。 放たれたスマッシュは中腰で構えていた橘川の脇を抜き、その瞬間歓声がどっと沸いた。 あんなボール返せるわけがない、そう思った。 それ程までに彼女の型は完璧で、そのラケットを握る彼女自身も完璧を象徴したような容姿だった。 対戦相手をしていた橘川の提案で一時ゲームを中断したのか、彼女はポニーテールを解くと胸元までかかるような長さの金髪をなびかせながらゆっくりとこちらに一瞬横顔を向けた。 次の順番を待っていた女子生徒にラケットを手渡し脇のベンチに腰掛ける。 向こう側から走ってきた橘川が隣に座り何か話をしているのが見えた。 304 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/05(水) 18:11:59 「石英ルカ。」 成田が呟いた。 「へ?」 反射的に口から声が出た俺に成田は少しむっとしながら 「あいつの下の名字だよ。」 そう言うとまたその方向を見る。 「ああ」 名前は俺も知ってる。一応同じクラスだからな。 胸元まで伸びた美しい金色の髪が風で揺れ、ばらばらになった金色の糸のような髪が無造作に頬にかかる。 彼女の名前は石英・ルカ・グラスベリー その名前の違和感が示す通り彼女は日本人ではなく、生粋の英国人だ。 有名な名家のお嬢様らしく、わざわざイギリスから日本人の血が入ったこっちの分家に養子に来てここに通っているらしい。 という話を二年のクラス替えの自己紹介で聞いた気がする。 ただ俺が知っているのはそれだけで後は知らない。 日本語は日本人並みに話せるらしいけど、 いつも物静かな表情を浮かべながら女子生徒の集まりの中で彼女達の話に耳を傾けながらうんうんと頷いている。 そんな印象しかなかった。 俺はふと横を見た。 大澄がぼーっとしながら石英の横顔を見ている。 「お前惚れてんの?」 成田が呆けている大澄をからかった。 「え?・・・!!」 大澄は真っ赤にした顔をしどろもどろにさせながら何か言っている。 図星らしい。 なかなか戦闘行けんorz 307 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/06(木) 01:12:56 >>304の続きです 「やめとけやめとけ。お前じゃ無理だから。」 大袈裟に手を振って見せる。 「お前も無理だって。」 俺はそんな成田にすかさずツッコミをいれた。まあ、俺も無理だけど。 彼女は何か近寄りがたい雰囲気を持っていた。 それが、自然と他人を近づけない空気を作り、クラスの仲が良い特定の女子数人以外の者を不思議と遠ざけていた。 実際彼女が男と話をしている光景なんか見たこともないし、想像もつかない。 これは俺の勝手な予測だけど、俺達みたいなのが話しかけた所で無視されるのがいいオチだろう。 そして、誰もがそれにビビっているのか、クラスの男子は遠めから羨望の眼差しを向けることしか出来なかった。もちろん俺もその一人だ。 まあ、横の駒城悠一、こいつなら顔も人当たりもいいし、 もしクラスの男で石英とまともに付き合える人物がいたとしたらこいつ以外にはいないだろう。 と、しょうもないことを考えていたら当の本人、駒城が口を開いた。 「誠、次お前じゃないのか?」 駒城は空いたバッターボックスの方を顎で示しながら呆けていた大澄に声をかけた。 308 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/06(木) 01:15:06 「え!!」 大澄は驚いた声をあげ立ち上がると向こうでバットを持ちながら待っていた生徒の方へ急かされるように向かった。 「で、お前はどうなんだよ。」 駒城は鼻の下を伸ばしながら念仏のような独り言をぶつぶつ言っている成田の方を少し見た後、俺に問いかけた。 「へ、何を?」 「石英ルカだよ。」 駒城はいきなり話題を振られて素っ頓狂な声を上げた俺には驚きもせず真顔のままだ。 「え、ああ、綺麗だなとは思う・・・けど。」 そう言って言葉を濁した。 まあ、彼女にとっては俺なんて眼中にはないだろうけど。 俺は他の男子と同じように彼女に憧れていた。 駒城は俺の答えを聞くと感想はいわず、両手を伸ばし空を見上げた。 「悠一?」 俺の問いかけに気づいた駒城はこちらに再び目をやると 「橘川は?」 そう言ってにやけて見せた。 309 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/06(木) 01:17:23 「お前何言ってんだ?」 駒城はそんな俺を見て可笑しそうに腹を抱えながら笑いながら 「いや、お前と橘川、結構お似合いだからさ。付き合ってんのかなって。」 こいつ何言って・・・まさかこいつ橘川のこと。 「ばばば、ばか。そんなんじゃないよ。お前まさか・・・」 「ばーか、違うよ。」 そんな俺の考えを見透かしたように駒城は白い歯を見せながらニヤリと笑ってみせる。 「いやさ、お前等見てるといつも思うんだよな、お似合いだなって。 お前らさ、なんだかんだ言いながらいろんな行事とかで昔から吊るんでるじゃん。」 そう言って手で鼻を拭いながら笑う。 「は?俺があいつと? タダの腐れ縁だって。いや、むしろあいつがいつも強引に引き込んでくるだけじゃないか。」 全否定する俺を駒城はわかったわかったと言うように苦笑いをしながら諫めた。 310 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/06(木) 01:18:56 ちぇっ。ふてくされた俺は遠くの打席に目をやる。 小柄な大澄が短く構えたバットを動かさないままボールを見逃しているのが見える。 四球狙いのつもりらしい。 尚もボールが放られる。緩いストレートの棒球は全てド真ん中に決まった。 大澄は全く振ろうとしない。もう三球目だぞ。 ピッチャーから放たれたボールは真っ直ぐに進んでいく。どう見てもストライク。 「残、念。」 成田が呟いた一言に合わせるように乾いた音を立てながらボールはミットに収まった。 慌てるように振られた大澄のバットは空を切った。完全に振り遅れ。 ストライク、バッターアウト。 審判役の生徒が放った言葉を横目で聞いて唖然とする大澄。 肩を落としてうなだれながらバッターボックスを後にするその足取りは重い。 あーあ、といった表情で成田は立ち上がる。 「ああ、ところでよ。さっきの話。」 思い出したように唐突に俺に話題を振る成田。 「何だよ?」 俺はバッターボックスに向かう成田の背中に聞き返した。 「放課後の新聞。橘川あんまり怒らせるとおっかねえぞ。」 成田は振り返り際にそう言って大澄からバットを受け取ると、バッターボックスに入っていった。 311 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/06(木) 01:19:47 「?」 何のことかさっぱり分からない。 俺が傍らの駒城に聞き返すと、 駒城はお手上げといった表情で両手を上げて見せた。 遠くでは女子がテニスコートからぞろぞろ出てくるのが見えた。 しばらくその様子を眺めていたら、不意に視界を白い点が僅かにかすめた。 弧を描いて上がっていく白球は一塁手のミットに収まった。 ポカーンとした表情でこっちを見ているのは先程バッターボックスに入ったばかりの成田だった。 打ち急ぎ過ぎたようだ。まあ、いつものこと。 そして、それを見届けた体育教師がファイルを片手に古びたベンチから立ち上がった。 「よし、終わるぞ!」 ほうけている成田の肩に手をやって皆に集合をかける。 「さあ、行くか。」 駒城は立ち上がり疲れて動けない俺に手を伸ばした。 「おーい、お前ら。早くしろ!」 俺は体育教師の急かし声をはいはいという風に聞き流しながら差し伸べられた手を取った。 彼方から午前の授業の終わりと、これから始まる長い昼休みを告げる鐘の音が聞こえてきた。 353 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:23:44 >>311の続き書いてみた。 寒空の中照りつける強い日の光を花時計が受け止める。 太陽に対を成すかのようにこの中庭に存在するそれは、色とりどりの花を一面に乗せて日差しをいっぱいに浴びる。 巨大な花の円卓を回る二本の白い針。幾度と無く長針に追い抜かれた短針はしばらく前から頂点を差し、忙しなく回り続ける長針は正反対の位置を示す。 二つの線はまるで巨大なパイを二分するかのような位置で止まっていた。今は昼休み。 だが中庭に喧騒はなく、離れた教室が密集する棟から漏れる生徒の声が微かに聞こえるのみ。 花時計の傍らに点在するベンチや芝生に腰を下ろし、たくさんの生徒達が楽しげに食事を取る光景が中庭を埋め尽くすのは春、夏の時期の話。 ほぼ、静寂に包まれた空間。それがこの季節の中庭の光景だった。 冬の凍てつきを予感させるこの時期に敢えて中庭で昼食を取る生徒はいるわけでもなく、寂しげに放置されたベンチが寒風に吹かれては震えるような小音をたてている。 専ら彼ら、花時計の輪の中に所狭しと植えられた花達はその寒さは関係ないというように、 楽しそうに真上に座す日輪、その光をまるで夏の日のこの刻に中庭を埋め尽くす生徒達のように体一杯に受けていた。 354 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:26:17 まるで、自らに許された残り少ない「生の時間」を精一杯生きようとしているように。 それを目下に見ながら少女はある考えを巡らせる。 食堂とは正反対の位置にあるこの渡り廊下を歩く者は少なく、今ここに留まっているのは彼女だけ。 花時計を隔てた向こうの渡り廊下では、食堂や売店を行き交う生徒達が時折右から左へ、左から右へと向かう姿が目についた。 彼女は一人、そんな様子を遠目に見ながら後ろの自動販売機にコインを入れる。 赤いランプが灯り、彼女の指は品定めをするように動くと紅茶のボタンの前で動きを止めた。 が、その列に並べられた様々な紅茶は、どれもが申し合わせていたように売切のランプを灯らせていた。 その前で止まった指は一瞬躊躇したように僅かに震えると下の段に移動する。 「売り切れ?全く。いくら人通りが少ないからって、補充くらい定期的にしてほしいものだわ。」 一人でそんな愚痴を呟きながら、コーヒーのボタンを小突くように押す。 重みを帯びたカランという軽い衝突音が静寂に包まれた廊下に響き渡り、彼女は取り出し口から紙パックのコーヒーを取り出すと、付属のストローを差して口に含んだ。 コーヒーをストローで吸いながら窓の縁にもたれる。 前方に見える中庭をぼんやりと見下ろしながら何を思っているのか、彼女は片手で頬杖を突きながら憂いげな表情を浮かべる。 窓からはあと少しもすれば枯れてしまうであろう花の大輪が見える。 「ネビュラル」 微かな呟き、独り言。 この渡り廊下に彼女以外の人影は無く、もしもこの場でこの光景を目にした者がいたなら、まずそう思うだろう。 しかし、彼女の放った一言は確かに存在する自分以外の者に対してのものだった。 ストローを口から離すと彼女は後ろに置かれた簡易ベンチをゆっくりと振り返った。 そこ、自動販売機の横には誰もいない空のベンチが置かれている。 だが、彼女にしか見えない“存在”は紛れもなくその場所に質量を持って存在していた。 355 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:29:01 彼女にしか見えない、彼女が「ネビュラル」と呼んだ彼は―。 灰色の翼を閉じ、銀色の髪を退屈そうにかきむしりながらベンチの真ん中にあぐらをかいて座していた。 ゆったりとした呼吸に合わせるように僅かに体が動く度、彼の足を覆う錆色の甲冑がこすれてカチャ、カチャ、と軽く金属のこすれる微かな音が静寂の中を蠢いた。 「ルカに言われた通り、俺は天使を特定した。」 そう発せられた人間の話す言葉。 しかし、その姿は一般の人間には見える者ではなく、声の主も人間ではなかった。 彼、「ネビュラル」は悪魔でも天使でも無い堕天使。人間にはそう呼ばれていた。 気高く清らかな存在の象徴である天使が七つの大罪のいずれかに染まり、それだけの為に彼らの住処である天界を追放され、堕ちた姿。 ネビュラルと呼ばれる堕天使の彼がどのような罪を犯して堕天使の地位に堕ちたか、そうなった時期等は対面する金髪の少女に知る由は無く、 また、知る必要もない取るに足らないことだった。 堕天使ネビュラルと彼女が契約している以上、お互いの規約を破らない以外、彼女らを咎めるような他の要素は全く必要の無い事柄だったからだ。 「で、誰だった?」 金髪の少女はネビュラルが得た情報、それは即ち彼女に取って喉から手が出るほど欲しかったパズルのピースの一つであり、 それがすぐそこまで手が届く位置にあるにもかかわらず眉一つ動かさずに聞く。 356 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:30:33 ネビュラルはゆっくりと目を瞑り何かを思い出すように考え込むような仕草をすると、 再び目を開けて正面に存在する彼女唯一人の蒼い瞳を見据えた。 「君の学年の一つ下、ハヤセセラという名の栗色の髪をした少女だ。」 それだけ告げると再び瞑想に耽るようにその場にうなだれる。 「ハヤセ・・・セラね。わかったわ、ご苦労様。」 自分より遥かに短い時を生きてきた契約者の少女から労いの言葉をもらった堕天使は、 「なぁに。常時宝珠から出されているオーラの海から特異な波動を探すなんざ、 こっち側の俺にとっては朝飯前さ・・・それに。」 「はっきりとした悪魔でも天使でも無い俺みたいな半端者だからこそ見つけやすいからな。」 そう言ってわざとらしくベンチにもたれる。 照れてる。 少女は一瞬そんなことを考えたがすぐに契約者側としての意思が体を支配した。「で、アルゴラヴの器は特定した?」 僅かに綻んでいた少女の表情が再び険しいそれに変わり目の前の堕天使に疑問をぶつける。 357 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:31:30 銀髪の青年はベンチにもたれたまま、両手でお手上げのポーズを取る。 「さぁな、ヤツのオーラは感じられなかった。今ここにいるのは天使、リリス、今朝のわんころ・・・」 彼女の脳裏をあの黒い犬と契約者であろう少女のような体躯をした少年の姿が一瞬かすめた。 「それから、ああ・・・鳥だな。こいつらで全部。アルゴラヴの気配は影すら感じられなかった。」 「今日のところは。」 一言付け加え気だるそうにあくびをして見せた。 ネビュラルから語られ鳥という言葉に聞少女が反応する。 「フィアーマね・・・。契約者は見つけたのかしら?」 そう言って飲み終えて空になったコーヒーパックを片手で握りつぶしてゴミ箱に捨てた。 そして彼の隣、ベンチの右端に座る。 「さぁな・・・力になれなくてすまない」 彼女の方に首を傾けながら堕天使は謝罪の念を込めた言葉を発した。 その言葉に答えるわけでもなく、少女は前方の何もない空間に手を差し伸べた。 彼女の指先を漂っていた空間は音も無く凝固し、向こう側の風景の純度を保ったまままるで氷のような透き通った物体に固まった。 重力に従い落下する結晶のようなそれを彼女は手のひらで受け止めた。 358 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:34:35 「やれやれ」 その光景を目の当たりにした傍らの堕天使は感心と落胆を交えた半ば自虐的な笑みを浮かべた。 「錬金術、俺の恩恵は必要もないか。」 少女は両の手のひらで受け止めた野球ボール大の結晶を膝元に寄せると彼の方を向き、 「何?」 少し不愉快そうに眉をしかめた。 青年は決まり悪そうに銀色の髪を指でいじりながら、 「本来人間が契約の代わりに俺達が持つ力の恩恵を求めるのは極自然なことだ。 どんな悪魔でも人間と契約した以上求めには応じる。契約はその為の取り決めなんだ。 俺が人間に知恵と錬金術の力を授けれるように。それをルカ、君は」 そう言って少し口ごもった後、 「君はあくまでも自分の力で全てを成し遂げようとするんだな、って思ってさ。君は錬金術師だろ。」 彼の知りうる限りの人間の言葉、それを慎重に選択しながら契約者である彼女に自分の意見を告げた。 堕天使である彼が敢えて人間である彼女の機嫌を損なわないように発したその言葉、その意図を彼女は余すことなく汲み取ることができる。 彼女はこれまで無表情だった顔に少し拍子抜けしたような表情を浮かべ、 「私にあなたの力は必要ないってだけじゃない。だって私は完璧だもの。」 そう言ってフンという風に顔を背けた。 ネビュラルは微笑ましい表情を浮かべながら、 「ああ、それは分かってるさ。君は生まれた時から錬金術師だったからな。」 少しふざけたような語調で答えた一言に対し、少女はキッと唇を噛み締めながら再び堕天使の方を向く。 「その呼び方はやめて。」 少し語気を強めながら忠告した。 これまでの落ち着き払った無表情に近い彼女の表情からは考えられないような一言だった。 ネビュラルは少し驚いた表情をして固まり、しばらくの間沈黙が支配する。 359 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:36:38 「まあ、いいわ。」 少女は自ら作った沈黙をまた自らの言葉で破った。 そして、気を取り直すように制服の胸ポケットから小さなケースを取り出す。 この年頃の女の子なら化粧品の一つや二つ、ケースに入れて持っていてもなんら不思議なことではない。 だが、彼女の取り出したそのケースから現れたのはリップクリームや汗拭きシートのようなものではなく、ペンチ。 正確には社会一般で言うペンチというようなゴツゴツした大きな工具でもなく、そのような名称による表現が最も適切であろう形状がよく似た小さな道具だった。 彼女は慣れた手つきでそれを使って、先程虚無の空間から作り出した結晶の塊を砕いていく。 ガリッという結晶を削るような砕くような鈍い音が発せられる度に、光を受けて反射する結晶の粉が輝きながら宙に舞った。 隣に座っていたネビュラルはその様子を黙って見ていた。 砕かれた結晶は六つ欠片となり彼女の手のひらによって握りしめられる。 「錬磨せよ。」 少女が呪文を唱え閉ざされた手のひらを再び広げる。 360 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:54:30 そこには先程まで彼女の手に存在していた無骨な結晶の欠片は無く、 水晶のように研磨され先端に丸みを帯びた滑らかな、弾丸と呼ぶにふさわしい形状をした透き通った六つの物があった。 ネビュラルはそれを見たまま軽く口笛をした。 「流石だな、ルカ。」 だが、褒められた当の本人は全く表情を崩さぬまま、それを握りしめていない方の手をスカートのポケットに入れる。 再びポケットの中から現れた手には美しい装飾が施された拳銃、この場で少女が持つにはふさわしくない代物が握られていた。 それまで膨らんでいなかったポケットから現れたそれは手品の類に近い。 「褒めなくていい。」 ルカと呼ばれた少女はそれだけ言い放つと手にした拳銃を可動させる。 筒型の弾層はその断面である六つの穴が開いた円形部を露出する。 少女は手にした透明な弾丸を一発ずつ確かめながら装填していく。 「やるのか?」 ネビュラルは最後の弾丸を込めた後、景気のいい音をさせながら両手で支えるように垂直に銃を構えた少女に問いかけた。 返事はない。 「やるのは天使か?それとも・・・」 「天使。」 彼が言い終わるより早く彼女は言った。 361 名前:学生さんは名前がない 投稿日:2007/12/09(日) 04:56:07 そして弾層の窪みに親指の腹を当てて回転を加える。 風でページをめくられた本のような音をさせながら、弾層は回転を続け、 「協力するか聞くだけ、もし、天使が断ったら・・・」 一瞬、少女を見つめる青年の飄々としたいつもの表情が険しくなったのを彼女は見逃さない。 「大丈夫、ネビュラルは家に帰ってて。 探索はずっと貴方に任せきりだったし、私がやるわ。」 弾層の回転が止まった。 「そうか。」 ネビュラルは軽いため息をこぼした後ベンチから立ち上がった。 「じゃあ、先に帰るよ。ルカ。」 少女は振り向きもせずに正面の窓に向けてリボルバーを構えた。 少女の細く雪のように白い人差し指がゆっくりとトリガーを引き絞る。 ネビュラルは目を瞑った。 そして―、消えた。 存在していたはずの青年は一瞬にして姿も質量も、この場から消滅した。 次の瞬間、 短く乾いた音をさせ、鮮やかな装飾がなされたリボルバーは一瞬震えた。 窓に向かって発砲された弾丸は、窓には傷一つつけること無く直線上にある中庭の宙に貫通し空気の流れを矢のように貫くと風に紛れるように消えた。 少女はそれを遠い目で見届けた後、愛でるように手にした銃を見つめてポケットに戻した。 その瞬間、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。 脳内に浮かんだ描写をひたすら文章にしてたらしちめんどくさい長文になっちまったorz 362 名前:学生さんは名前がない sage 投稿日:2007/12/09(日) 04:59:03 懐かしい風が頬にあたる この匂いは相変わらず代わらない。 この田舎路を幾度通っただろう  どこまでも続く畦道 見渡す限りの緑 かすかに聞こえる湧き水の音 ここで俺は育ってきた。今はなき祖母と2人きりで。 あのころのことは、はっきりと思い出せない。 いや、もっというと色が無いモノクロの世界。 楽しいこともそれなりにあったはずだ だが思い出せないのだ。 そうあのときを境に一切の色を失ってしまった。 通っていた学校は既に廃校となったそうだ。事実上俺(ら)が最後の生徒ということになる。 廃校となった母校は人影も無く、だいぶ朽ち果てていた。 しかし廃虚とは不思議なものだ。そこに何も無いのに、何かを思い出そうとさせる。 だがやはりそこには色は無く、ぼんやりとした何かが浮かんでは消えていく。 ふと何かに気づく。 誰かに見られている?そんな気がした。あたりを見回しても人の気配はない。 ふっ。慣れない船旅で少々疲れているのだろう。 だが、何を思い立ったのか俺は立ち入り禁止となっている校舎の中に 入ってみることにした。 何か思い出せるかもしれない。何か懐かしいものがあるかもしれない。 ―そんな淡い期待感― 否、誰かが呼んでいる、そんな気がしたのだ。 そうして俺は古い木造校舎の入り口に向かった。

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