二人の投手がブルペンに入る。
「何球投げるんだ?」
古野が猪瀬に聞く。
「霧咲は何球投げる?」
「……百球を目安に投げるつもりだ。」
「じゃあ俺もその程度で。」
「変化球はどうする?」
「どっちでもいいよ。古野に任せる。」
「じゃあサイン出すからちゃんと見ろよ。」
「オッケー」
猪瀬はそういうとキャッチボールを始める。最初は近い距離で軽く放っていく。ボールは少しずつ速く、
そして力強くなっていく。距離はどんどん遠くなり。気づけば猪瀬はマウンドまで来ていた。
「じゃあ投げるぜ。」
猪瀬は左投げだ。そして、スリークォーター気味の左腕から白球が放たれる。
その白球はきれいなバック回転をしながら古野のミットに吸い込まれる。
『バンッ』
大きなミット音がブルペンに響き渡る。球速は140キロ後半といったところだろう。
(いつ見ても本当にきれいな回転してるよな。)
古野が猪瀬のボールを見てそう思う。
一方の霧咲は、猪瀬とは違い右利きだ。そして、フォームはサイドスローだ。
「……変化球…投げてもいいか?」
霧咲が竹井に聞く。
「ああ、はい。大丈夫です。球種は……」
「……サインは全部俺がだす。…コースは全部右打者基準だ。」
「あっ、はい。」
(内角ぎりぎりのシンカー)
霧咲は竹井にそうサインを出す。竹井はそこにミットを構える。
ボールがベース手前で真ん中から内角方向に曲がりながら沈んでいく。そしてミットへを吸い込まれる。
「はぁ、相変わらずすごい変化球にコントロールだなぁ。」
霧咲の投球を見ていた猪瀬がつぶやく。
猪瀬は本格派。霧咲は技巧派なのだろう。

二・三十球投げたところで古野が聞く。
「もうそろそろ変化球のサインも出すぞ。」
「オッケー。」
変化球は全部で五種類。スライダー、カーブ、フォーク、スクリュー、シュートと豊富だ。しかし、
どれもこれといったものはない。すべて普通といった感じだ。でも、コントロールは悪いというわけではなく、
相手のタイミングをはずしたり、裏をついたりするのには十分なのだろう。
霧咲は、シンカーのほかにスライダー、カーブ、シュートを持ち、それを抜群の制球力でミットに投げ込んでいく。
シンカー以外の三つの変化球は、シンカーほどの変化量はないが、社会人としてはかなりいいほうだろう。
「よし、ラストボール行くぞ。」
猪瀬がそういうと、古野がミットを真ん中に構える、サインはもちろん…
(ストレート)
『バンッ』
その日一番のミット音がブルペンに響いた。
「ナイスボール」
古野が大きな声で言った。
最終更新:2008年03月04日 20:45