けいこのブログ > 2005年07月05日 > 「犬」という分節

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机の下に、白い毛に全身覆われた生き物が寝ている。こいつは世間では「犬」と呼ばれている。いや、5年前にはじめて会った時は「犬」だった。
望んで飼ったわけではない。引き取り手がなく、困り果てた知人に押しつけられた格好だ。だから当初は世話をする対象であり、「飼って」いた。いまは「同居者」といったところか。

犬というものは、基本的に人間に対してフレンドリーな生き物だと思っていたが、こいつは違った。たらいまわしにされ、苦労したからかもしれないが、子犬の頃から愛想のない犬だった。呼んでも来ない、抱こうとすれば抵抗する。家の外で飼うつもりだったので、奮発して大きな犬小屋を買ったが、入っているのを見たことがない。
最初の冬、珍しく大雪が降った夜、気になって見に行くと、犬小屋の外で背中に雪を積もらせ、アルマジロみたいに固まっていた。冬の間だけ、せめて玄関の中に寝させてやろうと思って家に入れた。母は家の中で飼うことに反対だったが、玄関限定から始まって、ベランダ、私の部屋、と徐々に許可範囲を広げ、家中どこでも出入り自由になるのに1ヶ月かからなかった。

身近に暮らすと、気心が知れてくるのは人間も犬も同じらしい。愛想のなさもそれなりに緩和され、散歩に出ると「おれはこっちへ行きたい」と強烈に自己主張するようになった。しかし私にも好みの散歩コースがある。30キロの犬が全身で踏ん張る。それを渾身の力で引きずる。道行く人に笑われながらそんなことを繰り返しているうちに、なんとなく折り合いがついて、交互に譲り合うという合意が成立した。

散歩に出ると、いろんな種類の犬に会う。こいつは雑種だが、よく紀州犬かと聞かれる。そうか、お前は本来、山で猪を追いかける猟犬なんだよな。けど人間の都合で、山を駆け巡るどころか散歩のリードを外してやることも許されない。狩りの能力があってもそれを発揮することができず、食べ物をもらう暮らしを強いられている。悪いな、人間のルールに従わせて。
同じ環境に暮らしているが、お前の目に、この世界はどう映ってるんだろう。お前は世界をどう認識しているんだろう。
人間は言語で世界を分節する。お前を「犬」と呼ぶ。人間社会の取り決めによって、お前は管理される生き物だ。けれど「魂」のレベルで、お前も私も同じ生き物だ。同じ生命現象だ。地球を循環する一つの生命体ととらえれば、そのような分節に何の意味があるだろう。
けれど、どういうわけか生命体は個々バラバラに現象している。そしてこの宇宙で、「この私」として「お前」として現象するのは、ただ1度きりだ。死ねば2度と同じ「私」も「お前」も現れないだろう。池田晶子がうまいことを言っていた。「ドッグ・スーツ」。犬のスーツを着た魂。そして私は「ヒューマン・スーツ」。出会ったのは「縁」だ。

カテゴリ: [雑記] - &trackback() - 2005年07月05日 02:53:43
  • >abc -- けいこ (2005-11-21 11:48:10)
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最終更新:2005年11月23日 03:36
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