ヴィブラートに泣かないで 「馬鹿野郎、俺を誰だと思ってやがる。たかだか一回フラれたぐらいで落ち込むような「やわ」に見えるか?」 「いや・・・見えるぞ。充分涙目なくせして強がるなって。」 「へ、四、五回フラれたって、泣かねえよ。どうせならクラス中の女子にフラれたって問題ないぜ。」 「そんなことあったら、お前自殺を目論むだろうが。・・・ホントに、顔は中の上ぐらいのまあまあで文句無いのに、女には恵まれんなぁ。お前も。」 「・・・だがよぉ、今回は本当に脈があると思ったんだ。だって、お前。九年だぞ、九年!九年間も同じクラスで、周りからもお似合いのカップルって言われて、そして・・・」 「そして?何だ。」 「そして、クラスが変わった途端、話も、交流もなくなって・・・挙げ句の果てに周りからは「よく、全く話もしてないのに好きでいられ続けられるね」と、言われ、突然、何の前触れもなく・・・」 「前触れもなく?」 「あなたは私のことが好きみたいですけど、私はあなたのことが好きではありません。周りではお似合いのカップルとか言われて、冷やかされてちょっと困っています。どうかその辺を踏まえて、よろしくお願いします。あ、あと、  PS。あなたも私のことが好きでなくて、ただ迷惑かもしれませんが、とりあえず、周りの男子に、「私とは何の関係もない」ということを伝えて、冷やかしなどが起きる誤解が無くなるよう、公表して下さい。  PSのPS。まことに身勝手ながら、本当によろしくお願いします。・・・っていう手紙を突然渡されたんだ。  いや、前触れもなくというのは違うかもしれない・・・それを渡される、ちょっと前に、花田と岳名に呼び出されて、彼女のところへ連れてかれたんだ。そして、いきなり・・・」 「なぁ、体育館でバドミントンしようぜ。」 「わかった。じゃあ、四人でか?」 「ああ、俺とお前と・・・田市と、アッグで、ダブルス。」 「そんじゃ、コート取られる前に行こうぜ!」 そして俺たちは体育館に向かった。 「遅ぇよ、おめぇら。待ちくたびれたぜ。」 「何だよ。先にきてんじゃねぇか。」 「あたぼうよ!先にコート取られるんでな。」 「そんじゃ、やるか。」 ・・・・・・ 「25対23。俺たちの勝ちだな。」 「くそぉ!もう一勝負!」 「何度でも相手になってやるぜ。」 「言ったな!よぉーし、今に赤っ恥をかかせてやるよ!ん?何だ。何か用か?」 「来て。ミヤちゃん待ってるから。」 こいつが花田莉乃(はなだ りの)。能力もほとんど無く、学級崩壊トリガーの一つとも言われる位なのに、クラス会長にわざわざ立候補した、ゆとり教育とモンスターペアレントが生んだ悪産物だ。  給食は「不味い」と言って躊躇無く捨てて一言、 「何でこんな不味いもの食べなくちゃいけないの?」 だ。それに親は、 「うちの子の給食は、本人が食べるものといったもの以外は食べさせないでください。ご飯の量も、本人の自由にしてあげてください。」 なんて言う。先生が「残さず食べなさい」と注意したら、 「親に食べなくてもいいんですと言われているんです」 といって、せっかく片づいた給食を戻して、給食当番がクラス全員にまた、少しづつ配るはめになり、合掌の時間が遅れる。なのに自分の嫌いな食べ物は平気で残して、好きなものは多くしてもらう。支持度0%の超問題児クラス会長だ。  ほかにも、理不尽で問題児っぽい部分はたくさんあるが、それは今回、話すと長くなるので控えておこう。 「はぁ〜?今忙しいんだ。後にしてくれ。」 「今じゃないとだめなの!・・・ってか、あんたミヤちゃんのことどう思ってるの?好きなの?嫌いなの?」 「はぁ?何でお前にそんなこと教えなくちゃいけないんだよ。そんな義務は無いね。」 「会長命令です。」 「会長命令はこんなところでは効果は持ちません。第一、何で学級会長の言うことなんか聞かなくちゃいけないんだよ。」 「何でもいいから、さっさと来なさい。」 「お前の言うことを聞く義理はありません!さぁ、バドミントンの続きやろうぜ。ほら、邪魔だ。そこどけないと危ないぞ。」 「来るまで動きません。」 「おい、行ってこいよ。その方が早い。」 「仕方ない・・・」 「ちょっと、あんたさぁ、ミヤちゃんどれだけ、あんたと恋仲って叫ばれて、困ってるか、知ってんの?」 「そうだよ、そうだよ。ミヤちゃんあんたとのについて、どれだけ冷やかされて困った思いしてるのか知ってるの?」 こいつが岳名真津香(たけな まつか)。テストの点数も良く、生徒会選挙にも何度も出馬していて、優等生オーラを出していたが、こいつの本性はこのとき初めて分かった。とんでもない悪女だ。  俺はミヤと9年間一緒のクラスだった。そんな中で俺はほとんどひと目惚れ状態、あっちも、9年の中でなかなかの好感触で、何度かミヤは俺のことが好きらしいという噂を聞いたことがあった。そして、俺が不器用で奥手ながらも、もう少しぐらい・・・というところまで行った。しかし、ある手違いで嫌われ、そのままクラス替えを迎え違うクラスになった。それが一番厳しかったのかもしれない。まぁ、これらに関しては後に綴ろう。  そして、すれ違いぎりぎりのところを、この岳名がぶちこわした。おそらく、何か吹き込んだか、強制的に行動を起こさなければならなくしたのだろう。ミヤは絶対にそんなことをわざわざ深刻に言うような娘じゃない。軽くなにか文句を付けられることはあったが、嫌い、というのは無かった。  それに、俺とミヤが恋仲だとか、ミヤがそのことに関して冷やかされてるなんていうことは聞いたことがない。後で周りの人間に聞いた話でも「そんな情報は初耳だ。」「そんなことがおきた様子は全くなかった」という話を聞くばかりで、おそらく、冷やかしや、恋仲を吹き込んだのは花田と、岳名だろう。そしてこんな目にあっているんだ。 「ほらぁ、ミヤちゃんも言ってやりなよ。」 「いや・・・その・・・」 「ここでがつんと言ってやらないと。ミヤちゃん困ってるんでしょ?」 「いや・・・でも・・・」 「用件がはっきりしていないのなら、バドミントンの続きがしたいんで戻らせてもらうぞ。」 「ちょっと待ちなさいよ。」 「あ・・取り込み中・・・か?」 「いや、いいんだ。戻ろうぜ。」 「だから!・・・まぁ、いいわ。行くんだったら、今ここではっきり、 「僕は莉咲美弥(りざき みや)とは何の関係もありません。好きとも思っていません。今後一切はやしたてないで下さい。」  って、きちんとみんなに言うって約束して!」 「どういうことだ?」 「だから、ミヤちゃんにフラれた、あるいは好きじゃないという意志を学校全部に公表して、って言ってるの。」 「は!?ふざけんな!何で俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ!」 「グッ・・・ふざけるな。」 あからさまにそれはフラれるであろうというシチュエーションだった。完全にあの二人の罠にはまったのだ。  何故俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだ?と誰かに訴えたかったがそれも叶わぬものだった。