- 163名前:○
投稿日: 2004/12/18(土)22:02
- 科学に祝福された世界、『浦板』
そのシンボルである、世界の中心に建つ巨大な像。
生まれては消えてゆくはずだった命。
1Fづつ流れる時間・・・。
このだだっ広い世界で、
2人の時間が動き始めた━━。
浦板ラブストーリー - 165名前:○
投稿日: 2004/12/18(土)22:31
-
分厚い雲に覆われた夜空の下にひとつの町があった。
辺りは暗く、静まり返っている。
街角の灯に照らされて、人の陰がゆらりとうごめいた。
アスファルトを踏みつけて歩いていく。
暗闇であまり見えないが、男のようだ。
そのまま、さらに暗い路地に入っていった。
しばらく歩いていると周りが少し明るくなったので、
男は急に立ち止まり空を見上げた。
雲に隠れた黄色い月が姿を現している。
「見てみな、月が綺麗だ・・・」
男が手をのばすと、長い袖の影から何かが飛び出した。
「シメッ!」
空を見上げて高く鳴く。
リスのような小さな獣だ。
毛並みはフワフワな感じだが、毛色は暗くていまいち分からない。
「星は見えないなぁ・・・シメジ?」
男は優しく二本の指でその獣の背中を撫でる。
「シメェ~・・」
それに反応し、くすぐったそうに身を揺らした。
どうやら、この生き物はシメジと呼ばれているらしい。
男は優しく笑うと再び空を見た。
が、雲に隠れて月さえ見えなくなる。
「・・・いくかぁ・・・・」
男がまた袖を伸ばすと、シメジが中に潜った。
男が、アスファルトを踏みつけながら暗闇へと歩いていった。
- 167名前:社灼
(sime.FJA)投稿日: 2004/12/18(土)
23:21
- (;゚д゚)チョウタイサク ノ ヨカンシメ
- 168名前:○
投稿日: 2004/12/19(日)00:01
- 街角の小さな寂れたバー。
扉には、『CLOSED』と書かれた看板が掛かっている。
男はその中に入っていった。
中は自分の体すら見えないほどに暗い。
慣れているのか、何も見えない部屋を当然のように歩いていく。
よく見ると部屋の奥の床からうっすらと光が漏れていた。
あれに向かって歩いているようだ。
キイッ
男が床に手を伸ばし引っ張ると、ゆっくりと音をたてながら開いた。
いっきに光が漏れる。
素早くそこに降りると、床をふさいだ。
どうやら地下があるらしい。
地下には、上の部屋よりも全然大きな空間があった。
生活感が溢れている。
「あ、お帰り、お兄ちゃん。」
中にいた男がパイプを片手に声をかける。
「おう、蠅。ただいま。」
「シメッ!」
男の赤いコートの袖からシメジが飛び出してくる。
蠅に向かってシメシメと吠えた。
「わっ、ごめんよ。シメジ!
ただいま!」
蠅が少し怒り気味なシメジをなだめるように撫でる。
男はそれを横目に、カウンターのようになっているテーブルの椅子に座った。
赤いコートをテーブルにかける。
「どうしたん?お兄ちゃんがこんな早く帰ってくるなんて。」
蠅がシメジとジャレながら言う。
シメジは楽しそうだ。
「いや、マスターに呼び出されてな。
旅行先から死ぬ気で帰ってきた。」
男はそう言うと深くため息をついた。
「火九お兄ちゃんも大変やね~」
蠅がシメジの体を高くあげながら言う。
シメジは怖がっている。
「いや、蠅も行くに決まってるだろ・・・
まぁとりあえず、ちょっと眠るな。」
火九と呼ばれた男は、テーブルに置いた赤いコートを背中にかけると、そのまま目を閉じた。
- 172名前:○
投稿日: 2004/12/19(日)02:40
- 火九が帰ってきてから数10分たっていた。
ガチャッ
奥にあるドアが開く。
中から男が眠たそうに歩いてくる。
「あれ?兄貴帰ってたんですか?」
男が言うとシメジが睨みつける。
「あ、シメジも。」
「うん、さっき帰ってきたよ。
探しに行く手間が省けたね。
マスターが呼び出したんだって。
いつもマスターが呼んでくれたら楽なんやけどなぁ~」
蠅が頭をかきながら言う。
男は火九の隣に座った。
全身黒づくめだ。
黒い服に黒いジャケット、黒いズボン。
そして黒い帽子。
「まったくその通りですね。
マスターが呼び出したってことは・・」
「仕事だと思うよ、DC」
蠅はそう呟いて、ため息を放つ。
DCは嬉しそうに拳を握りしめる。
シメジは眠たそうだ。
「そういや、後の2人はどうしたんですかね?」
ふいにDCが言う。
「さあ~ねぇ。
たぶん、お兄ちゃんを探しに行ったんだと思う。
マスターが連絡入れてるだろ。」
蠅はそういうと、立ち上がった。
「じゃあ俺もマスターが帰ってくるまで寝てくら~」
後ろ手を振ると奥の部屋へ入っていった。 - 174名前:社灼
(sime.FJA)投稿日: 2004/12/19(日)
07:51
- (゚д゚)sageジャー!!
- 176名前:○
投稿日: 2004/12/19(日)15:56
- 「で、用って何?マスター。」
火九が問いかける。
外では日が昇ろうとしていた。
床がギシギシときしむ。
でかい。あまりにもでかい。
火九を一掴みで握り潰しそうな黒い巨体が椅子を三つ並べてドスンと腰をおろした。
DCと蠅も座る。
「シィ・・・メ・・」
シメジは火九の肩でぐっすりと寝ている。
夢でも見ているんだろうか。
「仕事だ。」
マスターと呼ばれている男がそう言うと、火九はとてつもなく嫌そうな顔をした。
「マスター、分かってる?
俺たちは盗賊じゃないんだぜ?」
火九の声に蠅がウンウンと頷く。
が、マスターが強く睨みつけると二人はすぐさま固まった。
「・・・ここを貸してやってるのは誰だ?
それにお前らは世間的にはただの盗賊だ。
今更何も変わらない。」
「いやだから変えるんだって。」
「そういう意味じゃない。」
マスターの重い声に火九が黙る。
「それで・・仕事って何ですか?」
DCが嬉しそうにたずねた。
マスターがDCの方を向く。
「・・いつも通り、簡単な盗みだ。」
マスターが淡々と説明を始めた。
浦板大陸南部にある夜の街『ナイトメア』
そこである物を盗んでこい、との事だ。
マスターは説明を終えると腰をあげた。
「俺は、そろそろ店を開ける。
裏口から出るんだな」
「あ、そういや二人は?」
火九が言う。
「火九を探しにたまたまナイトメアの近くまで行ってたから現地に向かわせた。」
マスターはそう言うと一階のバーに上がっていった。
「はぁーあ・・・・。行くかぁ~」
火九が赤いコートを羽織る。
文句を言いながらも裏口のドアを開けた。 - 178名前:○
投稿日:2004/12/19(日)23:59
- 火九たちのアジトがある街から、南へ数キロ。
夜の街『ナイトメア』があった。
行く道はどこも整備されている。
・・・科学に祝福された世界。
大抵どこにいても世界の中心に建つデカすぎる像が目に入る。
あれが出来てからもう何年経っただろう。
火九たちが誓いを交わした、あの日。
あの目触りな像が建てられたんだ。
作られた道を歩くのは嫌いだ。
好き嫌い以前に、そんな所を歩いていたらすぐに見つかって捕まってしまうのだが。
わき道、といっても木々が生い茂っているわけでもない。
ただ、まだ何もない道を火九たちは歩いていた。
ナイトメアに着く頃には、また夜だろう。
「で、兄貴。作戦とかはあるんですか?」
DCが言う。
「無いよ。いつも通り早いもん勝ちで」
火九の真っ赤なコートが風に揺れている。
「お兄ちゃん、あいつらには連絡入れたの?」
「あぁ、目的の物と早いもん勝ちとだけ言っといたよ」
太陽が大地を照らす。
その光は何のために注ぐのだろう。
最近は木々や草花なんて見なくなった。
数年後には世界の全てがアスファルトで埋め尽くされそうな勢いすらある。
「んじゃ、解散で。
先行ってもいいし、ゆっくり行ってもいいから。」
火九が手を振るとシメジが高く鳴く。
「じゃあまた、アジトで」
DCは頭を下げると走り去った。
蠅が火九の方を向く。
「俺はゆっくりと行くわ~」
懐からパイプを取り出して深く吸う。
白い煙が、ポワーっと浮かんでいた。
- 179名前:○
投稿日:2004/12/20(月)00:31
- 日が暮れる。
オレンジ色に染まっていた街は、やがて黒へと色を変えていく。
それに比例して街が賑やかになる。
夜の街『ナイトメア』
黄色い月の下、この街に活気が溢れる。
夜の街の名は伊達じゃない。
風俗女やホストマン。
洋風にギャンブルや和風に博打。
何でもありだ。
そんな街にある一つの大きな館。
その中にたくさんの人が集まっていた。
外とは少し雰囲気が違う。
皆、スーツなどを着こなしている。
中はライブなどの会場のようになっており、前方にある舞台を見上げれるように椅子が並んでいた。
「皆さま、お忙しい中お集まりいただき、大変ご恐縮でございます。」
マイクを持った男が舞台に姿を現す。
館の方々に設置されているスピーカーから、その男の声が響く。
「本日も良い商品ばかり集めましたので、最後までお楽しみくださいませ。」
男が手を胸に当て、深く頭を下げると、館中から拍手が鳴り響いた。
「それでは、一つ目の商品です。
カタログNO。・・苅毅械亜悒乾奪櫃粒─・まbr>男の声と同時に激しい格好をした女性が、荷車に乗せた商品を持ってくる。
「10000$からスタートさせていただきます。」
いっきに騒ぎ始める。
「12000!」
「15000!!」
「30000ッ」
- 180名前:○
投稿日:2004/12/20(月)00:58
- 人混みの中を火九が歩く。
その真っ赤なコートはどこにいても、とにかく目立つ。
「お兄さぁ~ん。遊んでかない?」
色んなとこから色んなものが飛び出しそうな服を着た女が火九に話しかける。
「あ~、今から仕事だから30分くらい待っ・・・・ッ」
ガンッ
火九がそこまで言うと後頭部を殴られ、言葉を飲み込む。
「・・・・・」
殴った奴は振り向きもせずに歩いていく。
「イッターッ
殴らなくてもいいだろうに。」
火九はエロティックな格好をした女に「ごめんね」と言うと、殴った奴の方に走っていく。
「どうしたんだ?何か怒ってる?」
火九が歩きながら、そいつの顔の前に顔を持ってくる。
「・・・・・」
無言で目をそらす。
「やっぱ怒ってるな?
あ、そういや俺を探してくれたんだって?
ありがとな。」
火九が笑顔でそう言うと、そいつは顔を真っ赤に染めた。
「ちっ、違うッ!!
私は、ただ散歩してただけよ!!」
細い指で火九の顔を掴み、視界からどけるとまた歩きだした。
プイッと首を振ると深緑の髪が宙を舞う。
「んだよ~、怒りすぎだろ。
俺は別の方から行くからなぁ?」
火九の声に何ら反応もせずに女は歩いていった。
「シメッ!」
シメジが火九を見て笑う。
「こらッ、シメジ。
今から仕事だから静かにしろよ?」
シメジが裾に隠れる。
「さっ、行くか~」 - 183名前:○
投稿日: 2004/12/20(月)03:22
-
今回、マスターに盗って来るように言われた物はこの大きな館にあった。
中身はいつも通り知らされていない。
NO.4536『悪魔の種』
マスター自身もそれが何に使われるのかも知らないのだろう。
そういう仕事だ。
「それではNO.4535『ピカチョの絵』は、100000$で決定いたします」
会場に拍手が起きる。
「続きまして~、NO.4536『悪魔の種』・・・」
激しい格好の女性が荷車に乗せて小さな箱を持ってきた。
これが目的の物だ。
競り合いが始まる直前
舞台上から人影が降りてきた。
ダンッと大きな音をたてて着地する。
蠅だ。
客がそれを見てざわめく。
次の瞬間、マイクを持った男は蠅の手刀で気絶した。
客がそれを見て叫び出す。
席を立ち逃げ出し始めた。
「賊だぁーーーーッ!!!」
蠅はゆっくりと荷車の方へ歩く。
「これが目的の物か。ちっちゃいな~」
その箱をとろうと手を伸ばす。
しかしカチッとブレーカーが落ちる音が鳴り館が真っ暗になった。
蠅は、客の騒ぎ声の中誰かが「トゥーレイト!」と呟いたのを聞いた。
蠅の目が暗闇に慣れた時には、もう小箱は無くなっていた。
「げっ・・・やられた・・・」
- 184名前:○
投稿日:2004/12/20(月)03:51
- 「ふっ、勝った・・・」
人々の騒ぎ立てる館の屋根の上に男がいた。
彼の名はMDR。
小さな小箱を月の光にあてる。
「初勝利だ・・・マジ嬉しい・・」
MDRが嬉しそうに、その箱を見ている。
確かめるように、箱を揺らす。
スカッスカッ
「・・・あれ?」
もう一度揺らす。
スカッスカッ
「まさか・・・」
MDRは恐る恐る小箱の蓋に指をかけた。
「中身入ってない!シッショォーッ!!」
「表がうるさいなぁ。」
火九は、その館の裏側にいた。
窓を簡単に割ると、そこから中に入っていく。
舞台の奥に商品管理室があった。
サンプルを舞台に出し、競り落とした人に本物を渡す。
『悪魔の種』も例外では無い。
警備員が見張るその部屋に保管されていた。
「おい、お前!何者だ!?」
警備員が歩いて来ている奴に言う。
「悪いが、一つだけ盗ませてもらいます」
DCはそう言うと、警備員を斬った。
血は流れていないが気絶している。
逆刃刀か、何かだろう。
手応え無いなぁと言いたげな顔をして、商品管理室のドアノブを捻った。
ジリリリリリリッッ!!
警報音が館中に鳴り響く。
「ぉ、罠ですか!!」
DCがライトアップされる中、嬉しそうに剣を抜いた。
わらわらと集まる警備員。
黒一色でコーディネートされた男の服装に警備員たちは圧倒されていた。
見間違えるはずもない。
『黒いサイクロン』の異名を持つこの男
「なっ、壁際のDCだ!!
くそっ、まとめてかかれッ!!」
- 185名前:○
投稿日: 2004/12/20(月)04:13
- 「ふんっ!」
ひとり、ふたり・・・
DCが豪快に斬っていく。
「数はこっちが圧倒的だッ!!」
きりがない程敵がいるのにDCは楽しそうに笑っている。
「グワァッ!!」
DCの反対側から悲鳴が聞こえた。
警備員たちが振り返る。
バサッ
窓から差し込む月明かりが、男のコートを照らした。
「まさか・・・『赤いサイクロン』!?」
真っ赤なコートに月明かりが反射する。
「おう、DCお疲れさま。
じゃあ、先にその部屋に入った方が勝ちって事で」
火九が商品保管室を見てそう言う。
「了解。負けませんよ!!」
黒い影が警備員を次々と斬る。
赤い影も敵を殴り倒していく。
数分後には、30程いた警備員たちは全員のされていた。
DCが商品管理室に走る。
ドアノブに手をかけた。
「よっし!勝った!!」
DCがそれを勢いよく引いたが開かない。
何度も一生懸命引いている。
後ろからゆっくり歩いてきた火九がDCの横の壁に勢いよく手を当てた。
バラバラと壁が崩れていく。
「はい、俺の勝ちだ。」
火九が部屋に足を入れて笑顔で言った。
DCはドアノブを握ったまま唖然としている。
「はぁ~
兄貴の頭が柔らかいと言うか、無茶くちゃと言うか・・・・」
DCがドアノブから手を離す。
「さてっ、逃げようか~」
中から小箱を持った火九が出てきて、そう言った。 - 191名前:猿
投稿日: 2004/12/20(月)18:54
- 期待age
>○さん
応援してます(・∀・)オモシロイ
- 192名前:○
投稿日:2004/12/20(月)19:00
- とあるバーの地下に火九たちが集まっていた。
「また、お兄ちゃんの勝ちかよ~」
パイプを吹かしながら蠅が言う。
「マジ、シショッた。
良く考えたらそりゃ表に出るのはサンプルだよなぁ・・・」
MDRが空の箱を地面と垂直に投げては取り投げては取りと繰り返しながら悲しそうに言う。
「あれ?そういえばニールは?」
火九はテーブルに腰をかけ、嬉しそうに小箱をかかげている。
「先に帰ってたみたいです。
何か機嫌悪いんで放置しときました。」
DCが部屋の方を指さす。
「なぁ~に怒ってんだか、アイツ。
まぁ、マスターが来る頃には出てくるかな。」
火九がそう言うと、周りの3人と1匹が冷たい視線で火九を見た。
「うっ・・・。なんだよ・・お前ら・・」
あまりの冷たさに少したじろぐ。
「わっ、わーったよ。
行けばいいんだろ、行けば!!」
火九は赤いコートとシメジをテーブルに置くと、立ち上がった。
「つーか、俺が何かしたのか・・・」
火九がブツブツ呟きながら奥の部屋への方を向く。
「たぶん、お兄ちゃんが悪いから」
「身に覚えねぇ~」
蠅の言葉に火九はすぐさま反論したが、ゆっくりと歩いていく。
「兄貴、空気読めないからなぁ~」
「お前に言われたくない」
火九がそう言うと、DCは凄く分かりやすいくらいに凹んだ。
MDRはシメジと遊んでいる。
火九が奥の廊下を進んでいき、3人の視界から消えた。
- 193名前:○
投稿日:2004/12/20(月)19:02
- トントンッ
手の甲で、木のドアを軽く二回だけ叩く。
ドアには『グレイプニール』と書かれた板が掛けてある。
「ニール?起きてる~?」
火九が反応の無い部屋に話しかけた。
「・・・・・何?」
中から低く一言だけ聞こえてきた。
明らかにご機嫌ななめだ。
1、なぁ~に、怒ってんの?
2、何怒ってんだコイツゥーーッ!?
3、今、いい?
火九の中でいろいろな選択肢が浮かぶ。
「・・・今、いい?」
火九がドアにもたれ掛かりながら優しく呟いた。
「ぇ?いい・・・けど。」
慌てたような声でニールが言う。
火九をその声を聞くとゆっくりとドアノブを捻った。
ガチャッ
ドアを開けると甘い匂いが鼻につく。
小さなベッドと洋服棚、木製の机。
女の子にしては少し殺風景な部屋だ。
ニールは部屋の端にあるベッドの上で、壁にもたれて膝に布団をかけていた。
薄いピンク色をしたタンクトップのワンピース。
さっきまで寝ころんでいたのか、後ろ髪が跳ねている。
ニールは、少しずりおちたタンクトップの肩を持ち上げた。
薄い黒色をした瞳を火九より遙かしたに逸らす。
膝にかけた布団から出ている足の指を時折曲げたり伸ばしたりしている。
どうも落ち着かないようだ。
パタッ
火九は開けたドアをゆっくりと閉めた。
- 194名前:○
投稿日: 2004/12/20(月)19:03
- 火九がニールの隣に腰をかけた。
ニールは無言で俯いている。
「先に帰ってたんだって?」
火九がニールの方を向いて言う。
ニールは何故か膝にかけた布団を引っ張り首くらいまで持ってくる。
「・・うん。」
露わになった膝元を隠すように三角座りになる。
「俺が盗ったぜ?」
火九が嬉しそうに言うと、ニールは口元くらいまで布団をずり上げた。
無言で俯いている。
「・・・怒ってない?」
火九が顔を覗こうとするが、ニールは布団の影に隠れた。
「何で?」
ニールがそのままの状態で言う。
「何となく、そんな気がする。」
「・・・別に・・・」
「ほら、やっぱり怒ってる!」
「怒ってなんか・・・ッ!!」
ニールは勢いよく顔を上げたが、目の前にあった火九の顔を見て言葉を飲み込む。
耳まで真っ赤に染めながら、体を反転させて立ち上がった。
「後ろ髪、寝癖すごいぞ?」
火九が言う。
「うるさいっ!!出ていけ!」
「へっ?」
「着替えるから出てけッ!!」
ニールがそう言うと、火九はよく分かんねぇ~と言いたげな顔をして部屋から出ていった。
- 203名前:○
投稿日:2004/12/23(木)11:08
- 「ご苦労だったな。」
マスターが小箱を手に取り、それと引き替えに札束を火九に渡した。
「さんきゅう。マスター。」
火九はそれから大ざっぱに約半分抜き取る。
残りを蠅に渡すと、蠅がそれを四人に渡していった。
ニールは無言でカウンターに座っている。
どことなく怒りのオーラを感じる。
「で、お兄ちゃん、これからどうすんの?」
蠅が言う。
このパターンだといつも、金を手に入れた火九は気づいたときにはどこかに旅立っている。
「アスファルトのジャンゴーから飛び出したいな~。」
火九がやはりそう言う。
「兄貴、奴らにやられっぱなしで悔しくないんですか?」
DCが流れをぶったぎってそう言った。
火九が苦笑いをすると手を伸ばす。
「まぁ、人には人のジャスティスってもんがあるからな~。
たしかに俺はこうやって世界が科学に浸食されていくのが嫌だけど、それで助かってる人もたくさん見てきた・・・」
「でも奴らの正義は犠牲の上に成り立っている。」
「それは俺たちも一緒だろ?
まぁ、戦いなんてのは極力ないに越したことはないってことだ!」
火九がどこか悲しそうにそう言った。 - 207名前:○
投稿日:2004/12/26(日)01:31
- 酒屋の地下に火九達は居た。
マスターはもう帰ったようだ。
一同は、思い思いくつろいでいる。
ニールの機嫌がどうにも悪い。
「・・・・ニール?」
火九が声をかけるとテーブルに顔を俯けたままニールが呟く。
「何?」
機嫌が悪いオーラをかも出している。
周りは見て見ぬふりをしているようだ。
火九はニールの隣に座った。
「明日ひま?」
火九が唐突に言う。
「え?」
蠅がゆっくりと立ち上がって部屋に退散していく。
くつろぐDCを引っ張ってMDRも部屋の方へ歩いていく。
そんな空気なんだ。
シメジはぐっすり寝ているようだ。
「明日暇ならどっか行こうか?」
シメ~とシメジがうなされている。
「・・・どこに・・?」
「ん~、俺のベストプレイスに!!」
火九が力強く言った。
ニールが椅子を揺らす音がゆっくりと鳴っている。
「・・・・あ、時間無いならいいんだが。」
微妙な間を取り繕うように慌てて火九が言う。
「・・いいよ・・」
ニールは俯き椅子を揺らしながら小さく言った。 - 210名前:○
投稿日:2004/12/26(日)02:14
-
数十年前、科学というものはそれほど盛んではなかった。
一人の少年がいた。
生まれた時は覚えてはいないが祝福の中、生まれてきた。
何の問題も無い家庭に育ち、両親から溢れるほどの愛情を注がれていた。
天才
それが本当にいるのなら彼のような男の事をいうのだろう。
彼はあまりに賢かった。
賢すぎた。
当初の目的は何だっただろう?
両親の病死
きっかけは確かそれだった。
愛していた両親が原因不明の病気で死んでしまったのだ。
「現代医学では治療不可能」
そう言われていた病気だった。
彼は、その病気の治療法を見つけるために医学の道を志したのだ。
しかし、今となってはそんな当初の目的なんて忘れてしまっていた。
彼は賢すぎた。
医者になり数ヶ月で両親の病気の治療法を見つけてしまったのだ。
若くして彼は科学の第一人者となる。
例えば、人間がチンパンジーを見るような感じだろう。
賢すぎた人間。
彼から見た人々は調度そんな感じだったのだろう。
世界に悲劇が襲いかかるのはこれから数年後の事である。
- 211名前:○
投稿日:2004/12/26(日)02:39
- 誰もいない大きな島にその像は建てられた。
「何でこんな何も無いところに建てるんですか?先生」
下っ端が彼に話しかける。
彼は少し成長していた。
あれから数々の奇病を治し、巨万の富も得ていた。
「まず土地が安かった。
それにどこだっていい。
すぐにここが世界の中心になる・・・」
思えば退屈だったのかもしれない。
人生の最大の目標を、人生の最初の所で達成してしまった。
残りの長すぎる余生の暇つぶしに、彼は世界を手に入れる事にしたのだ。
方法なんていくらでも思いついた。
彼から見たら全ては無意味な存在だった。
当初の目的などとうの昔に忘れていた。
自分に付けられた名前。
大切な意味があったような気もするが、そんな事も忘れてしまった。
両親が付けてくれた名前。
今では他の人間と識別するためのただの記号になっている。
意味なんてどーでもいいのかもしれない。
人間に興味なんて一切ない。
自分の生まれた意味も分からない。
ただ、何かを残したかった。
自分が生きていた証拠を?
両親が付けてくれた『小川』って名前を?
どちらにせよ、彼はその大きな像に入っていった。
何も無い大地に建つその像が、静かに世界を見ていた・・・。
- 215名前:社灼
(sime.FJA)投稿日: 2004/12/30(木)
00:50
- ~(ミ ゚д゚) シメッ
- 217名前:○
投稿日:2004/12/30(木)01:32
- 世界の端に建つ像の中にあるたくさんの研究室。
その一番奥にある薄暗い部屋に小川はいた。
「ついに・・・出来たぞ・・・!ハッハハッ!」
小川が黄色く発光したモノをかかげて呟いている。
暗い部屋がそれを中心に光っていく。
それが収められているカプセルのような入れ物に貼ってあるラベル。
そこに書かれている赤い文字。
『オガニウム』
それは、個体のようで形が無い。
液体のようで感触も無く、
気体のようで眼に映る。
なんとも不思議なモノだった。
小川がこれを数年かけて作り出した。
意志を持つ意思。
と言えば的確なのだろうか?
「アハハハハハハッ!!!ハッハッ・・・」
小川はそれを見つめては笑い続けている・・
自分の才能に恐怖を抱くほどに。
「後はこれを放つだけだ・・・」
今までの何にも属さないモノ。
それを小川は『オガニウム』と名付けた。
どれでも無いが、全てであるモノ。
学習する恐怖。
意志を持つ意思。
空気には触れられない。
音にも、光にも。
常に触れている?
そうだとしても、傷つけることは出来ない。
それらに傷つけられる事があったとしても・・・。
- 218名前:○
投稿日:2004/12/30(木)01:50
- 誰もいない静かな森に男がひとり歩いていた。
獣を追ってきたのだろう。
「・・・・・?」
が、男は急に立ち止まる。
森の奥からする不思議な気配に引き寄せられるように男が歩いていく。
草木をかきわけ奥へ奥へと歩く。
しばらくすると水の匂いがしてきた。
泉だ。
神秘的な光を放っている。
黄色い発光体。
男は瞬きもせずにそれを見つめていた。
『血を一滴、くれないか?
そうすれば何でも願いを叶えよう。』
泉から透き通るような声が響く。
男は無言で自分の指を噛みちぎり、滴る血を泉に垂らした。
・・この日、人知れず悪魔が生まれた。
全ては小川が作った筋書き通りに。 - 221名前:○
投稿日:2004/12/31(金)02:08
- 一面に咲く花びらの丸い紫色の花。
この地方の人々はそれをパーフルと呼んでいる。
パーフルの広がる花畑にひとつの影があった。
まだ若い火九だ。
大の字になって寝ころんでいる。
澄んだ空気に星が輝き辺りを照らす。
今にも掴めそうな月に手を伸ばしていた。
「はぁ~・・・・」
降り注いできそうなほど近くにある夜空を見つめて、火九が深く息をつく。
リンリンと虫の鳴く声が静寂に響いている。
「やっぱ、ここにいたのか!」
遠くから赤い影が歩いてきた。
火九は空を見上げたまま動かない。
時折吹く風に、男の赤いマントが揺れている。
男は火九の隣に腰をおろした。
「いい匂いだな。
お前はホントここが好きなんだな」
男が一つパーフルを摘むと鼻に当てた。
「こうやって空を見てたら楽しいんだ~」
火九がぼんやりと呟く。
「相変わらずだな。」
「んなこと言って、お前も来るじゃないか。シュウト?」
「お前がいつもあまりに遅いからだ」
「あ~、悪い。
ぼーっとしてたら時間なんてあっという間に過ぎるからな~」
火九が地面に手を着くと腰をあげた。
「帰るか?」
シュウトが立ち上がる。
赤いマントがフワリと風に乗る。
「そうだな、そうしよう。」
火九が両手を大きくあげて背筋を伸ばす。
「そういや火九、もうすぐ誕生日だな」
「ん?」
「何か欲しいものとかあったり?」
「あ~、ん~、珍しい花・とか」
「・・・・相変わらずだな」
パーフルの花びらが春を運ぶ。
それは、ひらひらと風に舞い散っていた。
- 222名前:○
投稿日:2004/12/31(金)02:32
- 火九とシュウトは同じ村に住んでいた。
生まれたときから家が近く、親友だった。
「珍しい花かぁ~・・・」
シュウトがそう呟きながら歩いている。
火九への誕生日祝い品といったところか。
まだあまり行ったことの無い場所を探す。
森の奥へと足を進めていった。
「・・・やけに静かだな・・・」
シュウトの着た赤いマントが少しも揺れないくらいに風がない。
「・・・ん?何だあれは?」
森の奥からうっすらと延びる光にシュウトは惹かれるように歩いていく。
眼が虚ろになっている。
その先には泉があった。
黄色い光を放つモノが浮いている。
シュウトは、ただひたすらにそれを見つめていた。
『血を一滴、くれないか?
そうすれば何でも願いを叶えよう』
透き通るような声が響く。
シュウトは操られたように自分の指を噛みちぎった。
指から滴る血が泉に色をつける。
それと同時に黄色い光がシュウトを包み込んだ。
膝を地面におとす。
『我はオガニウム。
血の契約で貴様に力を貸そう。
何でも可能な程の巨大な力だ。
我は意志を持つ。
こうするように育てられた。
この感情しか・・・無い・・』
光が完全にシュウトに吸い込まれる。
バサッと赤いマントが地面に落ちた。
光の無い瞳が、恐ろしく輝く。
「殺意しか・・・無い・・」
シュウトはそう呟くと空に浮かんだ。
- 223名前:○
投稿日:2004/12/31(金)03:41
- 太陽はまだ東よりにあった。
火九が村を歩いている。
朝からシュウトがいない。
無性に嫌な予感がする。
「シュウト知らない?」
火九がたまたま通りかかった村人に訪ねた。
「さっき森の方に行くのを見たよ」
村人がそう答えると火九は「ありがとう」と言って、森に向かった。
どこか薄気味悪い空気が流れている。
森の奥から静寂が広がっているような感覚だ。
嫌な予感がする。
何かに呼ばれるように火九は走り出した。
ザッザッ
静かな森に草を踏む音だけが走っていく。
「シュウト!?」
泉がある。
その側に落ちている赤いコート。
間違えなくシュウトのものだった。
が、シュウトの姿が見えない。
「シュウトッ!!??」
火九の声が森の奥からこだまする。
泉の端に付着している血痕。
・・・・嫌な予感がする。
火九が赤いコートに手を伸ばした。
ゴゴゴゴゴゴゴッ
それを手にした瞬間、静かな森が突然騒ぎ始めた。
鳥が叫び、風が木々を激しく揺らす。
獣が辺りを走り回っている。
「・・・・・!!」
火九が村へ走り出す。
なぜ走り出したのかも分からない。
ただ、火九は恐怖で震える体を恐怖に向かって進めていった。
村の方から途切れ途切れだが、爆音が聞こえてくる。
「何だ、何が起きている・・・・ッ!?」
来た道を戻っていく。
来た時とは何かが違う。
赤いコートを手に、ひたすら走る。
火九の眼には恐怖が映った。
跡形も無く削り取られた住宅。
そこらじゅうに転がっている屍。
その先にいる立ち尽くしているシュウト。
「なッ、シュウ・・・ト?」
火九の体が震えている。
シュウトの腕が村人の体を貫いていた。
恐ろしい光を放つ瞳が火九を捉える。
その次の瞬間、低く唸り頭を抱えた。
「ぐぅぉぉぉォォ」
シュウトの体が空に浮く。
そして、手を伸ばしても届かない遙か遠くへ消え去った。
ただ一人、火九を残して・・・・ - 227名前:○
投稿日:2004/12/31(金)15:12
-
それは人の形をしているが、人としてはありえないモノ。
どこから現れたのかは誰も知らない。
すでに十の街や村が破壊された。
それの通った後には何も残らない。
削り取られたように総てが塵となる。
『悪魔』
この呼び名は大袈裟では無い。
それに触れることは出来ず、兵器も無力だった。
一方的に触れられる感覚。
浦板の人々はいつ現れるか分からない悪魔に怯える日々を送っていた。
そこだけ地表が剥き出しとなった地面。
悪魔の通り道か。
その真ん中に赤い影がひとつあった。
「また間に合わなかった・・・ッ!!」
火九が骨も残らない砂を手に握りしめ、そう叫ぶ。
あれから、シュウトと故郷を失ったあの日から、火九はシュウトを追っていた。
悪魔の噂だけをあてに、この広い浦板を独り歩き回っていた。
「お前、こんな所で何をしている?」
後ろから呼ばれる声がする。
火九は少し警戒しながらも振り向いた。
黒い巨体、火九を一握りで潰せそうな巨体が立っていた。
「もしかして、ここはお前の故郷か・・・?
気の毒だったな・・・
数日前に悪魔が現れた・・。」
黒い巨体が悲しそうに立つ火九に、そう言う。
「悪魔なんかじゃないッ!!!
あいつはッ悪魔なんかじゃなかった!!」
それに火九がすぐさま言い返す。
黒い巨体は驚いた顔をしている。
「何か・・・・知っているのか・・・・?」
黒い巨体が問いかける。
火九は赤いマントを強く握り下を向いた。
無言で震えている。
「・・・俺は、すしや。
良かったら話を聞かせてくれ・・・」
すしやと名乗った黒い巨体が、火九に優しくそう言った。
火九の震えが増していく。
「世界を救う・・・・手がかりになるかもしれない。」 - 230名前:○
投稿日:2005/01/02(日)20:41
- 「おかえりなさい、Dr.すしや。」
白衣を着た人がすしやにそう言う。
「あぁ、少し部屋を借りる。」
すしやは火九を連れて奥にある部屋に入った。
中は色々な実験器具がある。
「医者・・・なのか?」
すしやの巨体に完全に隠れていた火九が後ろから言う。
二人はさっきの街からすしやの車で移動し、ここに来た。
「ああ、昔、な。
今は他の街で酒場をしてる。」
すしやはそう言うと椅子を出し火九を座らせた。
「・・・昔?」
「逃げたんだよ・・・。
・・・死を見るのが嫌になって。」
すしやは大きめの椅子を出し腰をかけた。
「じゃあ、今は・・・・どうして?」
「くだらない正義感からだ。」
そう言い、すしやは一つのファイルを出した。
それには、悪魔が破壊した街や悪魔に関する記録がたくさん書かれている。
「車で聞いたお前の話と今まで調べた事から、悪魔は一種のウィルスだと思うんだ。」
すしやの言葉にファイルを見ていた火九が顔をあげる。
「考えにくいが、そのウィルスに感染すると悪魔になる。
しかし、それじゃあもっと悪魔が増えるはずか・・・・。
何にしろ、そのウィルスのサンプルが無ければ何も分からないな・・・」
すしやは一人ぶつぶつと繰り返す。
「シュウトは・・・元に戻るのか・・?」
火九は不安そうに、そう言った。
すしやは何の反応もせずに、ひとりぶつぶつと色々な事を言っている。
「どこからウィルスが生まれたのか・・・
いや、そもそも自然がそんな物を生んだのだろうか・・・
感染後、身につけていた衣類は・・・」
「あ。」
それを聞くと火九は思い出したように赤いマントを脱いだ。
「これ、シュウトのマントだ・・・
いつ脱ぎ捨てたかは分からないけど・・」
すしやはすぐさまそれを手に取ると、顕微鏡に映した。
火九がそれを黙って見守る。
すしやの口元が恐れと喜びが混ざったように歪む。
「・・・大当たりだ・・・・・ッ」
- 231名前:○
投稿日:2005/01/02(日)22:00
- 「しばらく俺は研究室にこもる。」
すしやが赤いマントを広げた。
「シュウトは助かるのか!?」
「ああ、絶対ワクチンを作ってみせる。
お前も感染している危険性がある。
このウィルスの性質が分かるまでは、この部屋を出るな。
食事はそこの中にあるのを適当に喰っといてくれ。」
すしやの言葉に火九が頷いた。
数日後
ガチャッ
火九の薬臭い部屋が開く、外から少しやつれたすしやが入ってきた。
「出来たのか!?ワクチン!」
「いや、それはまだだ・・・。
ただ、あのウィルスの性質が分かってな。
恐らく、それを機能させる核となる部分がある。
そこ以外はただの付属品でそれから感染することは無いようだ。
空気のような存在で、触れることが出来ない。
が、フラスコなどの密室に入れると外に出れない事から透き通るわけでは無い。
ここまでくるとウィルスかも疑わしいが・・・・」
しゃべり続けるすしやに火九が難しいことの言い過ぎでついていけなさそうな顔をする。
それを見てすしやは本題を思い出した。
「まぁ、要するにお前に感染している事は無い・というわけだ。
・・・俺はまた研究室にこもる。」
「俺は・・どうすれば・・?」
火九がそう言う、帰る場所も無い事はすしやも知っていた。
「そうだな、子守でもしてくれ。」
「子守ぃッ!?」
「人手不足でな。
親類のいなくなった子供や親が入院してる子供を預かってるんだ。」
すしやはそう言うと、火九に背中を向けた。
「手配しとくから後はよろしく。
数ヶ月程でワクチンは完成すると思う。」
「ちょっ、俺はッ!!」
「強制だ。
友達の事だからしょうがないが、気を張りすぎだ。
息抜きだと思ってやるんだな。」
- 232名前:○
投稿日:2005/01/02(日)23:38
- 「お兄ちゃん、遊ぼうぜ!!」
「兄貴!決闘を申し込みます。」
「兄上~、かけっこしようカケッコ!」
子供たちが火九の赤いマントにまとわりつく。
火九が子供の面倒を見るようになってから一ヶ月ほどが経っていた。
田舎育ちで毎日獣と戯れていた火九の運動神経は常人を逸している。
「じゃあ皆の意見の間をとって、
かけっこしながら決闘するか~」
「兄貴!決闘は1対1でするものです!」
「DCは一番年上なんだから、細かいことは、我慢する!」
火九がそう言うと、DCは物わかりよく黙った。
ガチャッ
扉の開く音に火九達は振り向いた。
「あの・・・・」
弁当を持った少女が、そう呟く。
隣の弁当屋からよく配達に来る子だ。
「あ、ニールだ!昼ご飯だ!」
MDRが指をさす。
「いつも大変だな~
皆もニールを見習え!!」
火九はそう言い、弁当を受け取った。
「ありがとな~」
「ぁ・・・うん・・」
ニールは背伸びしてドアノブを回し扉を閉めると、そのまま走り去っていった。
「ふっ。」
蠅が意味深に笑う。
「・・飯喰ったらカケッコね」
MDRが言う。
「食べますか」
DCが割り箸を縦に割った。
「いただきます!!」
「いただきまぁ~す!」 - 235名前:○
投稿日:2005/01/04(火)18:34
- 「街外れまで競争だッ!!」
火九の声を合図に4人は走り出した。
流石にこれだけ年の差があれば火九より速いやつはいない。
ある程度手を抜きながら火九は走っていく。
続いてMDR、蠅、DCと言ったところか。
火九を先頭に4人は走り続けていた。
浦板のとある場所に各国のお偉いさんが集まっていた。
真っ暗な部屋にあるモニターにそれぞれの顔が映し出される。
「悪魔によって既に十以上の街や村が破壊されている。」
モニターのひとつが話し始める。
「しかし、兵器は何も効かなかった。
物理的な銃火器はおろか、毒ガスなどの化学兵器ですら意味をなさない。」
ブォンと音を立てて新たなモニターが光った。
「!!!」
「あなたは!!!」
そこに映っているのは浦板中誰でも知っているであろう、天才『小川』だった。
「まさか悪魔に対する何かが分かったのか!?」
モニターの中にいる小川がゆっくり瞬きをする。
悪魔を作り出したのが小川だとは誰も知らない。
「はい・・・、悪魔は・・・一種のウィルスだと思います。」
「ウィルス!?」
「そうです。ウィルスのようなもの、我々は偶然、そのサンプルを手に入れました。
見てください」
小川が小さなビーカーに入った黄色い光をモニターに映す。
「これが悪魔の正体です。」
「そんなものを持っていて、あなたに感染することは!?」
「ありません、これらは悪魔の核、人間でいう心臓のような部分に集まり初めて動きます。
これに感染すれば最後、体は全てこれと同じモノになるのです」
「元は人間だった、という事か?」
「はい」
「では治療法はあるのか?」
「はい、ワクチンを見つけました。」
いっきに周りが湧く。
「しかし」
「?」
「悲しいながら、感染者は救えません。
単純に悪魔を殺すワクチン。
さらにその際街一つ消し飛ぶ程の破壊が伴うでしょう。」
「なッ!?そんなものは・・・・ッ」
「どのみち、これを使わなければその街は破壊される。
悪魔を殺して街を破壊するか。
悪魔を逃がして街を破壊するか。」
「・・・・・多数決を・・・・」
小川が再びゆっくりと瞬きをした。 - 237名前:○
投稿日:2005/01/04(火)19:14
- 「はぁ~、疲れたぁ~」
街外れの野原に4人は寝ころぶ。
空には白く浮かぶ雲。
それの行く先を眺めながらボーっとしていた。
「そろそろ俺のが速く走れそう」
MDRが火九を見て言う。
「ハハハ、まだ無理だな~」
火九がそう言うと、隣にいた蠅が立ち上がった。
「あれ?何?」
蠅が街の上空を指さした。
良くは見えないが影が浮いている。
「シュ・・・シュウト・・・」
「もしかして・・悪魔ッ!?」
火九が呟くのと同時にDCが叫んだ。
「お前達ッここにいろッ!!」
火九がDCの肩を掴んで、そう言う。
「絶対にッ絶対にここから動くなよ!?
DC、俺はすしやさんの所に行く。」
「そんなッ俺も・・・・」
MDRがそう言おうとするのをDCが妨げた。
「足手まといなんですよ・・・。」
悔しそうにDCが言う。
火九はMDRの頭を撫でると、街に向かって走り出した。
さっきまであんなに晴れていた空を黒い雲が覆い隠す。
ポツリポツリと雨が降り出してきた。
病院に向かい火九はひたすら走っていく。
時折聞こえてくる破壊音や悲鳴が、雨音にかき消されるのがせめてもの救いだった。
研究棟の地下へ向かい走る。
「すしやさんッ!!」
黒い巨体の背中に話しかける。
「分かっている・・・。
病院の皆はもう避難の準備を始めているだろう・・・。」
すしやは振り向かずに作業を続けている。
「なら、すしやさんもッ!!」
「もう・・・出来るんだ・・・」
外から爆音が聞こえてくる。
「すぐにワクチンを持っていく・・・
お前は外の様子を見てきてくれ」
「え・・・でも・・」
「早くッ!!」
すしやの気迫におされ、火九は再び階段を戻った。
外はもう数分前とは姿を変えていた。
人々が山のように重なっている。
見渡しの良くなった街に雨が降り注ぐ。
「お母さんッ!!お母さん!!!」
隣の崩れた瓦礫に立ちすがる少女。
ニールだ。
色々な血が雨に流され混じりあう。
「おかあ・・・・ッ」
何かを見たのか、ニールは気を失った。
瓦礫から血が流れている。
「シュウトォッ!!」
火九が空に向けて叫んだ。
「どうしてッ、シュウトッ!!!
シュウトッ、シュウト!シュウトッ!!」
ただひたすら、雨の降る空に叫び続けていた。
- 238名前:○
投稿日:2005/01/04(火)19:42
- 建物で遮られていた視野がいっきに広がっていく。
その片隅に黄色く光る悪魔がいた。
恐ろしく輝く瞳。
「シュウ・・・ト・・」
火九が呟く。
雨音で声など聞こえるわけが無い距離に2人はいたが、悪魔はゆっくりと火九を見た。
ザァー
雨粒が地面に跳ね返り音をたてている。
赤いマントが濡れ、薄黒く色を変えた。
悪魔の眼光が色あせていく。
「シュウト・・・今助けてやる・・・」
悪魔が低く唸る。
頭を痛そうに抱えて唸り続ける。
悪魔が火九を見て、口を動かした。
声など聞こえるわけがない。
でも何となく
「逃・げ・ろ」
と三文字だけ言った気がした。
悪魔の瞳が恐ろしく輝く。
シュウトはニールをかつぎ上げると研究棟の地下へ走り出した。
「ワクチンをッ、早くッ!!!」
カンカンカンカンッカンッ
階段を走り降りていく、時折揺れる大地に足を滑らせないように必死に踏ん張る。
火九がドアノブに手をかけたのと同時に、扉が開いた。
「出来たぞッ!火九!!
外の様子は!?」
すしやが死にそうな顔で叫ぶ。
「・・・・・・」
火九は無言で涙を流していた。
短いけれど、自分の村を出てから初めて居座った街。
それを破壊したのが親友。
どんな気持ちだったのだろう。
「そうか・・・こんな事はしてられないな・・
行・・・ッ」
ドォォォーンッ!!
今までに無いほどの揺れが2人の平行感覚を失わせた。
ガシャン、バァーンッ
実験器具がぶつかり合う音が響く。
外で何が起きているのか。
立つことも出来ない。
すしやは崩れていくであろう、この場所から2人を守るため、ニールと火九の上に覆い被さった。
- 239名前:○
投稿日:2005/01/04(火)20:04
- 「では、満場一致で悪魔の破壊を実行します。」
モニターに映った小川が呟く。
「方法は?」
「戦闘機よりワクチンを打ち出し、悪魔の爆発前に離脱させます。
次の出現が悪魔の最後になるでしょう・・」
黒い雲をかき分けて、白い影が現れた。
ゴゴゴゴゴッとジェット音が鳴り響く。
悪魔がそれを見上げると、プシュッと音をたてて戦闘機が放った何かが悪魔に刺さった。
そのまま戦闘機は空に消える。
「ぐあぁぁぁアァッッ!!!!!」
不安定な光を放ち、悪魔が悲鳴をあげている。
しばらく悶えた後、光が悪魔の中心に吸い込まれ、いっきに爆発した。
周りにあるものが次々と消し飛んでいく。
街中が光で満たされた。
黒い雲から落ちていく雨。
消えていく街にいっそう強く降りつけている。
悪魔の死亡
その吉報だけが世界中に流されたのだった。
- 240名前:○
投稿日:2005/01/04(火)21:48
-
地下にいたおかげでニール、すしや、火九はほとんど無傷で生き残った。
他に、野原にいたDC達も生きていたが、全てが塵となった事から生存者は0と報告されていた。
こうして、小川は英雄となる。
小川の建てた像。
科学に祝福された世界『浦板』
そのシンボルである巨大な像を中心にアスファルトが広がっていく。
火九達はすしやの経営している酒場のある街に来ていた。
長い間帰ってなかったので、中は埃がたまっている。
4人の精神状態が落ち着くのに、長い時間がかかった。
その間、色々な発表があった。
悪魔の死亡
小川が作ったワクチン
・・・すしやの作った物と同じだった。
どこでサンプルを手に入れたのか?
アレ(悪魔)はどう見ても人工的に作り上げられたモノだった。
もしかして・・・
すしやの中に色々な考えが巡るが、それを今火九らに言うべきじゃない
と、心の中にしまっておいた。
数年後、小川が新たな研究を発表する。
『永遠の命』
自分のクローンを作り、それを冷凍保存しとく事により、怪我をした体や癌にかかった部位を取り替える。
簡単なようでかなり高度な技術だった。
これの導入により、金持ちは死ななくなったのだ。
・・これにより、小川は完全に世界を手に入れた。
しかし、また数年後、小川は死亡する。
「飽きた」
遺言として、それだけを残して・・。
すしやの考えは永遠に解けないまま、小川はこの世を去ったのだった・・・・。
- 241名前:○
投稿日:2005/01/05(水)00:02
- 「ん~、いい天気だな~!」
火九が青い空を見上げて言う。
シメジは家で留守番しているようだ。
「なぁ、ニール?」
「ぇ・・・、うん。」
ニールは後ろから歩いてくる。
かなりの距離を歩いた。
火九が突然、立ち止まる。
ニールは走って火九の少し後ろまで行った。
「あ、きれいっ~」
ニールが目の前に広がる紫色を見て声をあげる。
火九もかなり久々にここに来た。
・・・・何一つ変わっていない。
一面に咲くパーフルの丸い花。
この村の春、その紫色。
村はなくなったけど、ここだけは変わらない。
「・・・火九・・・?」
ニールが火九の背中に話しかける。
「どう・・・したの・・・?」
火九の震える背中を見て不思議に思う。
泣いているのだろうか?
「いや・
atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!