※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

408名前: 投稿日: 2005/02/09(水)09:26:41
『浦板』


駅へと続く大通り


その途中、左手に見える路地


そこを曲がり真っ直ぐ進む


しばらくすると山沿いの細道


そこをさらに奥へと進むと山の上へと伸びる階段


それは、その先にあるらしい


それは、その先にあるらしい。




『浦板ラブストーリー』

409名前: 投稿日: 2005/02/09(水)10:02:25
第1話『白い鳩』


ミーンミンミンミン‥
ミーンミンミンミンミンミン‥‥


真夏の昼下がり。
照り付ける太陽の下、短い命を蝉が叫び続けていた。
その叫び声にさらに暑さが増していく。


「大丈夫?顔色、悪いわよ?」
何もない道の途中、ふたりは立ち止まっていた。
少し背の高いファフが屈んで様子をうかがっている。
「うん‥平気‥。
少しお日様に当たりすぎたみたい…。」
麦わら帽子の下から覗いてくるファフに、グレイプは笑顔でそう答えた。


額からうっすら光る汗を拭くと、グレイプはゆっくり立ち上がる。
「さっ、姉さん。
行きましょう‥。」
やはりか。
ふたりの振る舞いなどからはあまり感じさせないが、
同じ色―特徴的な深緑色―の髪からふたりが姉妹だろうと予想はしていた。
「そうね、お腹すいたわ。」
歩き出したグレイプの後を追うように、ファフが立ち上がる。


カランコロン
懐かしい音を立ててファフが歩き出した。
ふたり服装も振る舞いも、性格を表すように正反対。
カランコロン‥
木の下駄がアスファルトを叩く。


やがてその音は山の方へと向かっていった。

410名前: 投稿日: 2005/02/09(水)10:33:00
駅へと続く大通り、といってもそれ程人通りは多く無いのだが、
その大通りの左手に、地元の人も知らないくらいの細い路地があった。
そこを曲がると山沿いに道が続く。
奥へと進むと山の上へ伸びる階段。
その先にふたりの家がある。


ミーンミンミッ‥


ふたりが横を通ると、うるさい蝉の鳴き声がしばらくやむ。


ミーンミンミンミンミン


通りすぎるとまた鳴き出す。
それは、ふたりから明らかに異様な雰囲気が漂うせいだろうか。


生い茂る木木が太陽を遮り、広い影をつくっている。
ふたりは山の上へと伸びる階段を上がっていた。
「すいませーん!」
上の方から声が聞こえてくる。
そこにはひとつの家があった。
そこだけ時間が止まったような場所。
瓦の屋根に木造の建築。
『浦板』と書かれた小さな看板。
古びているが、しっかりと建っている。


「あの‥私たちの家に、何か‥用でしょうか?」
階段から上がってきたグレイプが、玄関で騒いでいる男に声をかけた。
男はハッとして振り向くと、頭を下げる。
‥‥客か。
真面目そうな面構えに、知的な眼鏡。
第一印象はそんなに悪くない。


ガチャッ
ファフは家の鍵を開けると、無言で中に入っていった。
男はどうしていいものかと、少しキョロキョロしている。
「姉さんはいつもああなんです‥。
気にせずに、お上がりください。」
まだ、自分より若い少女に丁寧に言われ、男は恥ずかしそうに玄関を跨いだ。


「居間へどうぞ。
しばらく待っていてください。」
ファフの脱ぎ散らかした下駄を揃えながら、ニールがそう言う。
男は頭を下げると、まだ空調の効いていない部屋に入っていった。

411名前: 投稿日: 2005/02/09(水)11:14:10
ゴオォォォッ


ゆっくりと室内温度調整機が動き出す。
かなり古い型で、床に設置するタイプのやつだ。
しばらくすると、居間は調度よい涼しさになっていた。


畳に敷かれた座布団の上に、男は座っている。
どうも落ち着かない様子でそわそわしていた。
それも、しょうがない事だろう。
何せこんな家にひとりで来たんだから。


「すいません‥。
お待たせしました。」
グレイプが部屋に入ってくる。
ロングスカートと普通にお洒落な洋服、外で会えば可愛い少女にしか見えないだろう。
だが、この和風な家と不似合いなその格好が逆に恐ろしく感じさせる。
グレイプはゆっくりと正面の座布団に腰をおろした。
深緑の髪は、座ると畳に届く程長い。
まるで人形のように美しい顔立ち。
男は自然と冷や汗をかいていた。


「あ、あの‥
何か言ってくれないと、すごく不安なんですけど…。」
グレイプの声に男が反応する。
「あ、すいません。
私はDCと申します‥。」
「私は‥グレイプです。
姉がファフ、今は台所にいます‥。」


また沈黙が起こる。
「えっと‥。
用件を‥聞いても‥?」
グレイプが切り出す。
DCは目をあわせられず、うつ向いたまま話出した。


「今回、ここに来たのは私の友人の事なんですが‥‥。」
419名前: 投稿日: 2005/02/11(金)16:03:02
DCの話によると、友人の『ひろゆき』が長い間寝込んでいるらしい。


「そうですか‥。
ここに来た・って事はただの病気じゃないんですね‥?」
グレイプの声は少し喜びが混じっているようにも聞こえた。
DCはうつむいたまま話を続ける。
「はい‥。
医者に診てもらっても、体に何の異常も無いらしく‥。
しかし、日に日にひろゆきさんは衰弱しています‥。」
「困り果てていた時、あなた方の噂を聞いて‥‥‥。」
次の瞬間、DCが深く頭を下ろした。
「お願いしますっ!
ひろゆきさんを‥。
ひろゆきさんを助けてくださいッ!!」
心の底から悲痛を叫ぶようにDCが言う。
それと同時に、グレイプの後ろ側にあるふすまが開いた。
外からペットボトルのお茶を片手にファフが入ってくる。
「顔をあげなさい」
ファフが、短く冷たく言い放つ。
グレイプは振り返ること無く人形のように前を見ていた。


ミーンミンミン‥
遠くから蝉の鳴き声が聞こえてくる。
薄いTシャツにジーパン、女性にしては長身な体、スッと伸びた脚がまた美しい。
印象的な深緑の髪は、グレイプのそれと比べかなり短く、肩くらいまでのびている。
が、その芸術的なラインに見とれる事も出来ず、DCは脅えるように顔をあげた。
421名前: 投稿日: 2005/02/11(金)16:44:16
「いいわよ、行きましょう。
ただし、代金は頂戴するわよ?」
ファフがグレイプの横に座る。
正座している二人に構うこと無く、楽な姿勢で座布団に腰を下ろした。
「はい‥分かっています‥。」
どうやらDCの覚悟は本物のようだ。
「グレイプ」
「あ‥はい‥。
一応、説明させていただきます。
代金は、時価。
仕事内容によって変えさせていただきます。
難しいほど‥高くなります‥。
‥いいですよね?」
グレイプが丁寧にそう言う。
DCはあまりの恐ろしさに声を出すこともままならず、ゆっくりと頷いた。


『浦板』での代金とは、金では無い。
「魂」
‥そう噂されている。




ひろゆきが住んでいる場所は『野間』。
ニールたちが住むこの町『光明池』の隣にある。
「ちょうどいいわ。
DCさん、だっけ?
先に行ってて。
私たちは後から行くから、駅前で会いましょう。」
ファフはそう言うと、グレイプに小声で何か言う。
それを聞くと、グレイプは「はい」と言い家の奥へ消えていった‥。




相変わらず、ジリジリと照り付ける太陽がうっとおしい。
ファフの履いた木の下駄が、カランコロンと町を進む。
その音は駅の方へと向かっていった‥。
424名前: 投稿日: 2005/02/13(日)14:23:42
「‥‥‥。」
ファフが深刻そうな表情で座っている。
ひろゆきの部屋。
畳の上に意識なく寝込んでいるひろゆきを、ファフを診ていた。
無言のまま診続けるファフにDCは不安を隠せない。
「あの‥治り‥ますか?」
DCが、恐る恐る口を開いた。


「‥大丈夫、なのは確か‥だけど‥」
「不思議ね」
ファフが立ち上がる。
「不思議‥ですか?」
DCが意味深な言葉に反応する。
「えぇ、不思議よ。
生きているのが‥。」
「えっ!?」
「この手の影(カゲ)にやられた人間は大抵即死するんだけどね。」
「グレイプ。」
ファフが一方的に話し続けている。

グレイプが閉じた目をゆっくりと開く。
「話は聞いていたかしら?
後は、またせたわよ?」
ファフはそう言い残し、ひろゆきの部屋を出た。


「あ、あの‥」
DCは状況が掴めずにおろおろしている。
「あ、もう平気です。
姉さんが診てくれたから‥、治療法は分かります。
昔、コイツは治した事あるんで‥‥安心していいですよ?」
グレイプの言葉に意味が分からない要素は大量にあったが、治ると聞いてDCはひとまず安心した。


「じゃあ‥早速ですが、治療を始めます‥。」
家から持ってきた大きなリュックを置き、ロングスカートの裾を持ち上げながらグレイプが立ち上がる。
白く細い腕を伸ばし、ひろゆきの胸に手を置いた。
「ううぅっっッ!!」
強くひろゆきがうなされる。
今までは、息さえもしてないくらい静かだった。
確実に何らかの反応を示したようだ。
何も分からないまま、DCは祈るようにそれを見つめていた‥。

425名前: 投稿日: 2005/02/13(日)17:17:38
幽霊、妖怪、呪い、
そう“呼ばれている”モノを総称し、『影(カゲ)』と呼んでいる。
『影』とはまったく別の生き物。


幽霊などは一般的に、死んだ生き物の恨みが化けるモノだと認識されている。
実際、それらの目撃は死人が多い場所で多発する。
ただそれは、その『影』が死人の肉を好むだけ。


『影』とは種族。
不思議な力を持った生き物たち。
それらはどの生き物にも属さない。
人間に害を与えるモノもいれば、無害どころか助けてくれるモノもいる。


昔からたくさんの『影』がいた。
呼ばれ方は様々だが、昔からそれらはいた。


普通の人間には見る事さえ出来ない。
‥稀に見える人間がいるくらいだ。
そのせいで、生態などは何ら分かっておらず
その中でも害を与えるモノを
幽霊、妖怪、呪い、
富や豊をもたらすものを
精霊、神、
などと呼んでいた。


『影』が、見える人間は稀にいる。


しかし


『祓える』人間はいつの時代にも一握りしかいない。
‥ニール家の血を継ぐ者だけ‥。

426名前: 窪田 (vgWD0Lks)投稿日: 2005/02/13(日)19:55:55
○さん(・∀・)b<GJ!
430名前: ひろゆき 投稿日:2005/02/14(月) 02:49:11
うはw俺死にかけてるやんw
職人グッジョブ。
447名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/02/19(土)12:00:56
「あ‥。」
ひろゆきの家の庭にファフがいる。
語りかけるように先を見つめている。
そこには、うっすらと光る白い鳩がいた。
それは、くちばしまで真っ白だ。


「へぇ‥、ほんとにいたのね。」
ファフが呟くと、白い鳩はゆっくりと振り向いた。
「あなたが、彼を守っていたの‥?」
「彼には、何かがあるのかしら?」
ファフはそのまま腰をおろした。


ミーンミンミンミン‥
「…羨ましいわ。それだけ色んな世界をみてきたって事だからね。
あなたの目から見てここはどう?
やはり他の場所とは何かしら違うのかしら?」
そこまで言うと、白い鳩は翼を広げた。
バサッバサッと音を立てて飛んでいく。
ひろゆきが治ったんだろう…。


「…良かったら今度、二人きりで話がしたいわね…」


ファフはそう言うと立ち上がる。
空を見上げる顔はどこか嬉しそうであった‥。
449名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/02/19(土)12:27:29
「ぁ…姉さん、おかえり。」
少し疲れた表情でグレイプが言う。
隣には、先刻と同じ格好で横たわっているひろゆきがいた。
しかし、表情はおだやかで、ただ眠っているだけのようだ。


「お疲れ‥グレイプ。」
「うん、楽だったよ。
でも…、どうして?」
生きていたのかな?と付け加えようとしたが、DCに気を使ってか言葉を飲み込んだ。
「『白い鳩』がいたわ」
ファフが嬉しそうに言う。
「えっ!?嘘っ!?
よっぽど、凄い人なんだね‥。」
グレイプがひろゆきを見てそう言った。




「さて‥そろそろ行くわよ。
後はしばらく安静にしてたら勝手に治るわ」
ファフがDCに言う。
DCは脅えるように「ありがとうございます」と言った。
「では、代金の方ですが‥」
グレイプが丁寧にそう言う。


「大切な物ってありますか?」
「へっ!?」
気の抜けたDCの声が部屋に響いた。
「あ、今。今思い浮かんだものでお願いします。」
グレイプの声にDCは思い出すようにポケットに手を入れた。


チャラン。
畳に落とされたそれらがぶつかりあう音がする。
「あ、すいません。」
DCがあわててそれを拾った。
10枚のコイン。
「こんなものでいいんでしょうか?」
DCが恐る恐るそう言う。
「あなたの大切なものでしょう?
『こんなもの』なんて言うもんじゃないわよ」
「でも‥」
ファフはゆっくり手を伸ばしコインを握る。
「2枚でいいわ。
特に理由は無いわよ?
あなた達が気に入ったとかそんなのじゃないからね?
‥ばか。」
隣でクスクスと笑うグレイプを睨みつける。
すぐにグレイプは真剣な顔に戻った。


「では、お支払いの方はこれで‥。」
グレイプは頭を下げると先に出ていったファフを追い掛けようとDCに背を向けた。
「あの‥本当にいいんでしょうか‥?」
DCの声に再びグレイプが振り向く。
「あなたの魂が篭ったもの‥。
こんな価値のあるものはありませんよ?」
初めて見せたグレイプの笑顔に見とれているうちに、DCの前からグレイプは消えていた。




ミーンミンミンミン‥
庭から蝉の叫び声が聞こえてくる。
おだやかな寝息を立てているひろゆきの隣で、DCが座っている。
DCは安心と喜びが混じった溜め息を深く吐き、
8枚のコインを握り締めたまま眠りにおちた‥。

450名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/02/19(土)12:45:22
カランコロン


「あ~、私も見たかったなぁ‥。
白い鳩‥」
グレイプが涙声でそう言う。
「はいはい、泣かないの。
あんたが悲しいとね、私まで悲しくなっちゃうの。
だから精一杯笑いなさい?」
ファフがそう言うと、グレイプは涙をこらえた。
「じゃあ、ついでにこれ持っていくわよ。」
ファフがグレイプが背負っている荷物を指差す。
「うん、ちょうど良かったね。」
グレイプが重たそうにそれを持ちあげた。



町外れの寺。
雲がふたりの行く先さえも覆い隠してしまいそうだ。
ふたりはその寺の前にいた。
寺は古びていて、人がいるのかも疑わしい。
が、中から聞こえてくる声はまさしく人の物だった。
「おーらおらおらおらおらおらッッ!!」
そのむさ苦しいほど男臭い声に、ファフはつい溜め息をもらす。


ピンポーン
何度押しても反応はない。
が、中から確に声は聞こえてくる。
ファフがめんどくさそうに敷居を跨ぐと、その後ろをグレイプがついていった。


「超ムカつく。
燃やしてやるわ!!」
イライラしたオーラを身に纏いながら、ファフがずんずんと寺へ向かっていく。
大荷物を抱えたグレイプはよたよたしながらも、必死でそれを追い掛けていた。

451名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/02/19(土)13:12:33
「ちょっと、ばか!」
大声でファフが中にいる男を呼ぶ。
「おらぉ‥‥。」
激しい声が止まる。
「よう、ファフ‥」
男が振り向き、手を振った。
後ろから付いてきたグレイプがやっと寺に着く。
「と、グレイプ!」
男は汗をタオルで拭き、グレイプの背負った荷物を受け取った。
「あ、ありがとうございます‥」
グレイプが言う。
「こんな奴に礼なんていらないわよ。」
ファフが冷たく言い放った。




「ふーん、なかなか頑張ってるな。」
男が袋の中に入っている物を取り出した。
「それは12月頃の奴ね。」
ファフが言う。
「んー…。
こんなもんか?」
男はそろばんをパチッと弾き、ファフに見せた。
「冗談でしょ!?
配達の分際で取りすぎじゃない!?
燃やすわよ。」
ファフが凄い勢いで押しかかると、男はもう一度パチッとそろばんを弾いた。
その音を聞いて、ファフは瞳をそろばんの方に向ける。
「‥よし」
ファフはそう言い、グレイプを見た。
「あ、ありがとうございます。
では、いつも通りよろしくお願いしますね。」
グレイプが言う。
男はいまいち納得いかない顔をすぐに笑顔に戻し、頷いた。




「これが、新種の影で、これが……」
ファフが淡々と説明を続けている。
しばらくたつと、説明が終り立ち上がった。
「じゃあ、まかせたわよ。」
ファフが言うと、男はメモを取りながら片手をあげた。


カランコロン
下駄が地面を叩く音が心地良く響く。
「姉さんは凄いよね‥」
空を覆い隠した雲が、日差しを遮る。
麦わら帽子を片手にグレイプが呟いた。
「なにが?」
ファフが不思議そうに言う。
「何でも知ってるし、何でも覚えてる‥。
私なんて‥」
「私は見えるし診れる。」
グレイプの言葉にファフが割り込む。
「‥でも‥
『祓える』のは‥グレイプ、あなただけよ‥」
小さく悲しそうに呟くファフの声は蝉の叫び声にかき消された。
「え?何て‥?」
グレイプが聞き返す。


「んーん、何でもない」


遠くから聞こえてくる蝉の声がうっとおしい。
見計らったように、照り付けてきた太陽に、
グレイプはまた帽子を被った‥。




第一話 終り
457名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/02/20(日)00:36:51
第二話『赤い星空』


まだ蝉が泣きやまぬ夏の終り。


ニール達の住む町『光明池』
そこにひとつの小さな学校あった。


この季節、見上げれば落ちてきそうな星空。
少し田舎なこの町では余計に星が見える。


星は照らしている。


静かに照らしている。

赤く照らしている‥。
469名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/03/08(火)18:10:01
響く声は蝉(セミ)のそれから蛬(コオロギ)へと変わっていく。

リーンリンリンリン


夏の終り
秋の始まり


夕暮れにふたつのカゲが伸びていた。


ひとつは美しい少女。
唇にひかれた薄いピンクがいつもと違う印象を与えるが、見間違えるはずも無い。
‥グレイプだ。


人形のような顔立ちにはあどけなさの中に恐怖すら感じる。
「涼しいですね‥」
グレイプの横にいた男が話かけた。
「そうですね。
ちょうどいい気候じゃないんですか‥?」
グレイプがそう答えると男は小さく頷いた。


事の始まりは数時間前━━。
471名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/03/08(火)18:28:28
「ん~‥。」
大きな欠伸(アクビ)をしながら、ファフが居間へ入る。

「ぁ、姉さん。
おはよ~。」
髪を後ろで束ねたグレイプがエプロン姿で声をかける。
対照的に、短いTシャツとパンツ一枚のファフ。
「おはよぉ‥」
と気だるそうに言うと、畳の上に腰を降ろした。


トントントンと包丁がまな板を叩く音がすると、
味噌汁の匂いがしてくる。
ファフがテレビのリモコンに手を伸ばすと、スイッチを入れた。


『今週は、からっとした晴れが続くでしょう‥』
天気予報が流れている。


「へー、嬉しいわ。
ここんとこジメジメしてて嫌になってた所よ。」
ファフが独り言のように呟いている。
グレイプが台所から朝食を運んできた。

『続いて、ニュースです。
昨夜‥連続強盗で逮捕された‥‥‥が‥‥脱獄‥‥』
プチッ


テレビのスイッチが切れる。
「食事中はテレビは消す!」
グレイプがテレビとファフの間に顔を入れ、そう言う。


ファフは顔をテーブルに向ける。
「いただきま~す♪」
嬉しそうに手を合わせ、箸を掴んだ。
488名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/04/19(火)02:48:05
昼過ぎ、仕事の無い日はとことん暇なようで、ふたりは退屈そうに庭を見ていた。

浴衣姿のグレイプと、何らおかまいなく下着姿ののファフ。
たらいにいれた氷水にふたりは並んで足を浸けていた。

「はぁー、涼しい~」
ファフがカランカラン・と氷を転がす。
グレイプは少し冷たそうに足を氷から遠ざけている。


夏の終り、秋の始まり。

リーンリンリンリン
静かにコオロギがないている。
夜になるとさらに煩くなるんだろう。

「あの…すいません~!!」

玄関から聞こえてくる声にグレイプは立ち上がった。
浴衣の裾をあげ、スタスタと歩いていく。

その後に少し残る水滴が太陽を反射して光っていた…。


「はい、どちら様でしょうか?」

グレイプはそっと玄関の扉を開ける。

大学生くらいだろうか?
そこには一人の男が立っていた。

いつもの客に比べてそれほど脅えてはいない様子だ。


「あの…噂を聞きまして…、少し相談に。」男が言うとグレイプが手招きする。
「あ、お客さんですね?
どうぞ、お上がりください。」
グレイプが丁寧に頭を下げる。
男はぼんやりとグレイプを見ているようだ。

「…?
どうかしましたか…?」
グレイプの声にハッとしたように男は笑った。

「いえ、何でも…。
失礼します。」
そう言うとゆっくりと敷居を跨いぐ。

グレイプに誘われるように居間へと向かって行った…。
501名前: (HAVNEicQ)投稿日: 2005/05/16(月)13:54:07
「それでご用件は…?」
グレイプがそう言うと、後ろの襖が開きファフが居間へ入ってきた。
男は言いづらそうに呟く。
「調査…とか…してもらえますか?」
「‥調査?」
グレイプがそのまま聞き返す。
男は申し訳なさそうに続ける。

「はい‥、噂を聞きまして‥学校に調査に来てくれませんか‥?」
男の依頼にグレイプは不思議そうに首をかしげた。
ファフはグレイプの隣に勢い良く腰をおろす。

「要は‥いるかどうか分からないって事でしょ?」
ファフはめんどくさそうに、頬杖をつき男を見た。
「はい‥、けど、毎年噂になりますし‥。」
男がそこまで言うとファフが立ち上がる。

「あ~ヤだ、私は嫌だから。めんどくさい。
そんなのはどうせ噂よ、あれでしょ?どうせ学校の七不思議とかでしょ?」
ファフは、最高にだるそうな表情をしている。
「グレイプ、後はまかせるわ。」
そう言い残し後ろ手を振ると、居間をあとにした。



「すいません‥、いつもああなんで‥。」
グレイプが丁寧に頭をさげる。
「いや‥無理なお願いだとは思っていました‥。」
男は頭をあげてください、と言いたげなジェスチャーでグレイプを見た。

「じゃあ、どうしてですか?」
ふいにグレイプが言う。
「‥はい‥?」

「いえ、無理だと思っていたのに、どうして来たのかと思いまして‥。」
「‥あ、あぁ。
俺はそこの学校に行ってまして、天文気象部の部長なんですよ。
と、言っても今年作ったばかりの部活なんですけどね。
まぁ、その部活で合宿する事になったんです、学校で。」

「ぁ、流星群ですか。」
グレイプが言うと、男は軽く頷き続ける。

「それで、俺合わせてたった四人しかいない部活なのに一人の子が、
七不思議を信じてて怖いからやめる・って言い出したんですよ。」
男がここまで言うとグレイプを見た。

「なるほど、それで‥」

「あの‥、お願い出来ます‥か‥?」
男は恐る恐るグレイプから視線を外していく。



「いいですよ。
それが私の仕事ですし、噂が嘘なら料金はいただきません。」
グレイプはそう言って男を見た。

552名前: 名無しさん 投稿日:2005/09/28(水) 03:52:52
響く声は蝉(セミ)のそれから蛬(コオロギ)へと変わっていく。
リーンリンリンリン
夏の終り
秋の始まり
夕暮れにふたつのカゲが伸びていた。
ひとつは美しい少女。
唇にひかれた薄いピンクがいつもと違う印象を与えるが、見間違えるはずも無い。
‥グレイプだ。
人形のような顔立ちにはあどけなさの中に恐怖すら感じる。
「涼しいですね‥」
グレイプの横にいた男が話かけた。
「そうですね。
ちょうどいい気候じゃないんですか‥?」
グレイプがそう答えると男は小さく頷いた。

しばらくすると、町外れに学校が見えてくる。
「勝手に入っても良いんでしょうか…?」
グレイプの問いに小さく笑顔で男は答える。
「大丈夫ですよ、田舎の学校ですから」
男は、グレイプの前をゆっくりと歩いていく。
「それで、噂・というのは?」
誰もいない静かな校舎にグレイプの声が響いている。
「いえ、言われた通り他愛も無い噂話なんですが…」
男はグレイプの歩幅にあわせるようにゆっくりと前を歩いていく。
その話は、本当にどこの学校でもあるような噂話。
1、トイレの花子さん
2、校長室の写真
3、真夜中の音楽室
4、理科室の人体模型
5、運動場の銅像
流石にこれら全てを真に受けているわけではなく、その子が怖がっている噂。
6、屋上で自殺した女の子
これが問題だそうだ。

「…では、屋上を調査すれば良いのですね?」
グレイプが丁寧に言う。
「はい、本当にすいません」
男がそう言うとグレイプは首を一度だけ横に振る。
「気にしないでください。
もし、真実であれば退治。嘘であれば、その子に嘘だと伝えれば?」
カツンカツンと階段が叩かれて音が鳴る、視界にうつる屋上への扉を見て男は無言のまま首を縦に振った。
554名前: 名無しさん 投稿日:2005/09/28(水) 04:02:21
「ん~、いい天気だ!」
男が大きな望遠鏡を抱え、さらに大きく伸びをしている。
学校へ向けて意気揚々と足を進めていく。
空には雲ひとつなく、まだ低い太陽がそこへ昇ろうとしていた。
「あら、おはようございます」
後ろから聞こえたくる声に男は振り向く。
清楚な服装だが、グレイプとは違いどこか高飛車な雰囲気が漂う。
「お!おはよう、彩子」
「いい天気ですわね」
「んー、そうだな!晴れてよかったなー。
それにしても、彩子がちゃんと来てくれて良かった良かった!」
男が嬉しそうに笑うと彩子は少し顔を俯けて早足で前に進む。
「…あなたが調べてくださったんですもの」
すれ違い様に小さく呟いた。
「え?何か言ったか?」
男が聞き返すが、彩子は何も言わずに早足で校門を抜けていく。
男は「何なんだよ」と言いたげに頭を掻くが、慣れているのかすぐに後ろを追いかけていく。
校門を抜け、校舎一階の端「天文気象部」と書かれた部屋にふたりは入る。

「ふー、疲れたあー」
ドサッと荷物を地面に放り投げ、丁寧に望遠鏡を部屋の片隅に置く。
彩子はマイチェアーに腰をおろした。
「晴れて良かったなー」
男は嬉しそうに空をうっとりと見つめ、何度もそれを繰り返す。
どのくらいか「晴れて良かったなー」が彩子にとってただのBGMになりつつあった時、外から声が聞こえてきた。
「大丈夫か、ディー?重いなら俺が持つぜ?」
「だ、大丈夫…です。サイコさんに迷惑ばかりかけれません!」
「そんな所も大好きだぜ…?ディー」
「サイコさん…」
外から聞こえてくる声に男は大きくため息をつくと部室の扉を開けた。
「おはようございます、サイコ先輩。ディズィーさん」
いちゃつくなバカップルと言いたげな表情で男は呟く。
「よう、いい天気だな!」
「お、おはようございます…」
「おはようございますですわ、お二方」
いつものやり取りを済ますと、ふたりも荷物を置き腰をおろした。
「星が出るまで時間がまだまだあるぜ…?」
サイコが何か思いついたように呟くと、カーテンを閉め電気のスイッチを切った。
「キャッ、真っ暗で何も見えませんわよ!?」
彩子のかんだかい声が部室に響く。
男とディズィーはいつもの事のようにサイコの出方を伺っていた。
暗闇の中に、ボッと小さな灯りがともる。
「ロウソク、ですか」
男の声にかぶせるようにサイコが大きな声で叫んだ。
「季節外れの…怪談スタートだぜ!!」

555名前: 名無しさん 投稿日:2005/09/28(水) 04:25:15
いつの間にか太陽は沈み、空を色を失くしていく。
冷えていく空の下で、真っ暗な学校の端にある小さな部屋から微かに光が漏れていた。
「サイコさん、もうこんな時間ですし…星、見に行きませんか?」
男が望遠鏡に触れながら玩具を買ってもらった子供のようにそう言う。
「そうだな…、じゃあ最後に…」
「肝試しだぜ!!」
サイコの楽しそうに言う言葉はディズィーは逆らう術もなく、男は意味が無い事を知っていた。
「最後ですよ?」
男がいやいや同意する。
サイコ嬉しそうにクジを作っていた。
「え?本当にやりますの…?」
彩子のおびえた声が薄暗い美部室の隅から聞こえてくる。
「あれ?彩子、もしかしてびびってる?」
「そ、そんな事ありませんわ!!!」
「なら、いいじゃん」
「……でも」
彩子の言葉にサイコがまたも割り込む。
「クジが出来たぞ!ひくんだ!」
クジは四枚、肝試しに行く順番だろう。
「ひとりひとり行くんですか?」
「当たり前だ!肝試しだぞ?ひとりに決まってるぜ!!」
サイコに言われ男とディズィーはクジを引く。
残った1枚を彩子は無言のまま受け取った。
肝試しのコースは単純。
1、トイレの花子さん
2、校長室の写真
3、真夜中の音楽室
4、理科室の人体模型
5、運動場の銅像
これらの全てを通り、
6、屋上で自殺した女の子
ここにクジを置いて帰ってくる。
今まで話てきた怪談の効果もあってか、彩子とディズィーはかなりおびえている様子だ。
「俺は最後かー」
男はクジに書かれた数字を見てそう言った。
「そ、そそ、それじゃあ、行って…きますわね」
彩子が「1」と書かれたクジを握り締めそっと部室の扉を開く。
キイッと静かな校内に音が響き、続いて足音が離れていった。
またキイッと音が鳴り、足跡が離れていく。
そして、静かな部室にひとり男が残されていた。
「…何で俺が行かなきゃならないんだ!?」
男は扉を開けようとして、そう呟いた。
「な、何だ俺…、び、びびってるのか?」
「い…行くぞ!!」
キイッと音が鳴り、足音が男と共に校内を進んでいく。
窓辺から差し込む月明かりが不気味に教室を照らしていく。
「怖くない、怖くない、怖くない…」

556名前: 名無しさん 投稿日:2005/09/28(水) 04:37:36
屋上に続く真っ暗な道を歩く…。
部室から屋上への道、理科室やら音楽室前を通らなければ行けないフルコースだ。
6、屋上で自殺した女の子
男は心臓音が聞こえてきそうな表情で上を見ていた。
屋上のドアノブに手を伸ばす…。
「いてっ!」
ドアノブに触れた瞬間、男は手を離しのけぞった。
「なんだ…静電気か…」
気をとりなおしてドアノブに手を伸ばす。
いやな予感がすると同時、ある思いがよぎる…。
屋上までは一本道…帰ってきてもおかしくないはずなのに、誰ともすれ違ってなくないか…。
背筋がぞっとしたが、おそらく隠れているとかだろう・と言い聞かせる。
ドアを開く、ひとりの男が立っている。
下にはよく見えないが 数人が倒れているようだ…。
状況がわからない…。
雲に隠れた月が姿をあらわし男の顔を照らす。
「あっ…!?」
星空の下、銃声が響いきわたった。




「ん~‥。」
大きな欠伸(アクビ)をしながら、ファフが居間へ入る。
「ぁ、姉さん。おはよ~。」
髪を後ろで束ねたグレイプがエプロン姿で声をかける。
対照的に、短いTシャツとパンツ一枚のファフ。
「おはよぉ‥」
と気だるそうに言うと、畳の上に腰を降ろした。
トントントンと包丁がまな板を叩く音がすると、
味噌汁の匂いがしてくる。
ファフがテレビのリモコンに手を伸ばすと、スイッチを入れた。
『今週は、ジメジメとした天気が続くでしょう‥』
天気予報が流れている。
「へー、嬉しいわ。
ここんとこ暑くって嫌になってた所よ。」
ファフが独り言のように呟いている。
グレイプが台所から朝食を運んできた。
『続いて、ニュースです。
連続強盗で逮捕され脱獄した小川氏が先日、逮捕されました。
場所は光明学園の屋上で、銃声を聞きつけた教員によって通報されたようです。
その際、屋上で天体観測を行おうとした学生4名が…』
プチッ
テレビのスイッチが切れる。
「食事中はテレビは消す!」
グレイプがテレビとファフの間に顔を入れ、そう言う。
ファフは顔をテーブルに向ける。
「いただきま~す♪」
嬉しそうに手を合わせ、箸を掴んだ。


こうして…彼らの話が七番目となり、
学校の七不思議は語り継がれていった…。

星は照らしている。
静かに照らしている。

赤く照らしている…。


『浦板ラブストーリー』完