アナザヘブン(映画)


エンジェルハート(映画)


監督:アラン・パーカー
原作:ウィリアム・ヒョーツバーグ
「墜ちる天使」 ハヤカワ文庫
主演:ミッキー・ローク
音楽:トレバー・ジョンズ
演奏:コートニー・パイン

シティーハンターの続編の話ではないので、念のため。
「最後そこはかとなく寂寥感残るハードボイルドを頼む」
―――とまぁこんな曖昧なリクエストをしたら薦められた映画。
実際にどういうジャンルだと思うかは、見た人の感想にお任せする。

とりあえず、ジャケットにはこう書いてある。
「人間には、知ってはならない世界がある……」
一言で言うと、ナインズゲート系。

雨音。遠鳴り。路地裏。
そこに転がった死体を、猫が見下ろしている。
そんなOP。張り詰めた、そして人を拒むような怪しげな画面に、
不意にジャジーなトランペットの音が忍び込む。
人外の世界に、人の息遣いと、哀愁の気配が不意に現れるような始まり。
カメラは街の喧騒へと踏み込んでゆき、そして…・・・主人公が現れる。
彼はうらぶれた探偵だ。そして電話が鳴る。

教会のシーンで強烈に伝わる空気感から、思い出したのは「薔薇の名前(中世の教会で同性愛だの売春だの悪魔憑きだのの騒動に宣教師師弟が巻き込まれるアレ)」。陰鬱かつバロックな空気。とはいってもバリバリのカトリックではなく、しょっぱなから流れてくるのはゴスペル。牧師が歌い、ピアノがブルーノートを奏で、参拝者は立って踊る。そんな空間である。自害した青年の血を、母親がブラシで洗っている。一室には、異端と思しき眼球と、異形の神像が祭られた怪しげな祭壇がある。もうなんというか、「オマエはここに入ってくんな」という言外の主張で満ち溢れた空間に、ひなびた探偵が無造作に踏み込んでゆく。なるほど、この疎外感は確かにハードボイルドだ。ちょっと毛色が違うけど。

エンジェル、という奇妙な名前を持つ探偵。彼が出会う人々はすべて被害者であり、あらざる力にどこかで導かれている。「白人の、街の日常」から異邦へ踏み込むように、南へ下ってゆく主人公。行く先々で起こる悲劇。

転落。



個人的に面白いなと思ったのが、同じ国でありながら異邦である合衆国南部が描かれていること。たぶんそのものではないだろうし、ある程度映画的に脚色されてるんだろうけどアフリカ音楽から合唱+打楽器のスピリチュアル、そして今でも時折触れる「ブルース」へ。この変遷が、冒頭の教会のシーンのゴスペルから遡る形で描写されている。スタートが耳慣れた、現代的なジャズであるところからして象徴的な構成で面白い。人々の生活と音楽の結びつきに納得させられる。

実は始まって数分でオチが読た。推理小説的でない手の推理が得意な人にはすぐわかる答えだろうし、逆に推理小説的な謎解きは期待しないほうがいい。伏線は無くもないけど、細かく説明されているかというとそうでもない。むしろ、曖昧さにものがたりの髄がある。

余談だけど開始直後の犬猫の小競り合い。
動物好きな人にはあれだけで涎が出ると思う。
本筋にはぜんぜん関係ないけど。
最終更新:2006年01月16日 07:00