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三人の夜」(2006/02/05 (日) 21:24:40) の最新版変更点

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いつも通り寝たはずだった。  だが、目覚めたのは眠ってから二時間後のこと。  ドミニオンが新たな港へ入った。  新たな指令を貰うために。  一応は、未だに最新鋭の戦艦。そして三機の規格外MSと強奪したザフト製MS、 そしてこれまた規格外なパイロットを六人も載せているのだから。  明日からはまた違う場所へと向かわねばならない。 (もう慣れたわよ)  自分に言い聞かせ、何だかよく分からない胸の騒ぎを治めようとする。  だが、それは焦る自分をあざ笑うかのように大きくなった。  彼女、フレイ・アルスターは上着を羽織り、隣で眠るステラ・ルーシェを起こさぬよう扉を開けた。 「お」 「あ」  思わず声が出る。そこにいたのはオルガ・サブナックだった。 「・・・アンタ、ここで何してるの?」  大慌てで髪を括る。上着のポケットの中にゴムを入れておいて正解だった、と心から思いオルガを見た。 「別に。散歩だ。なんだ? お前も眠れないクチか?」 「へえ、アンタでもそういうことがあるんだ」  特に他意はなかったが、オルガは呆れたような笑いを浮かべながら言い返す。 「強化兵でも人間だからな」 「そういうことだ」  また、声。二人揃ってそちらを向く。 「スティング・・・」 「よ、お二人さん。眠れないのか?」 「まあね」 「まあな」  その言葉のやり取りに、オルガがクックッと笑った。 「何がおかしいのよ。それにアンタ達、女性宿舎の側まで来て・・・」 「生憎、今回は女性宿舎じゃねえんだよ」 「あ」  そうだった。  今回立ち寄った連合の基地では一泊しかしないから大急ぎでMSとドミニオンの修理を行った。  それで夜遅くまで付き合わされたから仕方なしに私たちは近くの宿舎に入ったのだ。 「一番文句を言ってたのはフレイだろ?」 「もう忘れたのかよ」  不覚だった。いつもなら意地でも違う場所で眠るのに、何故か今回は妥協していた。  だから、完全に忘れていた。こいつらもいたんだ。 「あー、御免。忘れてた」 「だろうな」 「で、今起きてきたのか?」 「うん。何か眠れなくて。明日からの移動も戦闘区域じゃないし。寝ないでいいかなって」 「また艦長に怒られるぜ」 「アンタ達もでしょ?」 「そりゃそうだ」  スティングも笑顔を浮かべる。そして私もつられて笑ってしまった。 「あーあ、何だか目が覚めちまった」 今まで黙っていたオルガが振り向き、ぼやいた。  そんなことを言うが、少なくともそれは私たちのせいじゃ無い。  アンタも何かあったから、眠れなかったんでしょう・・・とそこまで考えて思い至った。 (俺達には何も無ェからな)  そんなことを言っていた。そんなコイツが眠れないって言うのだ。 (失う痛みってのは必要無いらしい)  目の前のスティングもそんなことを言っていた。  きっと、また私には分からない苦悩があるから眠れないのだろう。何より自分とはまったく違う境遇なのだ。 他人同士という時点で分かり合えないのかも知れない。でも、歩み寄ることは出来るはず。それを私はまた・・・  ああホント、私ってここまで考えないとココまでたどり着けないのかぁ。  ちょっと自己嫌悪。でも、そんな所で落ち込んでちゃコイツらのオペレーターなんて勤めてられない。 「そうだ。今からちょっと外に出ない? 気分転換にさ」 「おいおい・・・今からか?」 「そうよ。どうせ眠れないなら動いてた方がいいわよ。ね、オルガもそう思うでしょ?」  私がそう言うとオルガはコチラに顔を向けてニヤリと笑い、ポケットから鍵を出した。 「同感だな」  ドルン、と音がすると、ちゃんと整備されていたのだろう、軍用のジープが目覚めた。  運転席にはオルガ。そして後ろにはフレイとスティングが乗り込んでいた。 「さあ、行くぜ。てめぇら、ちゃんと着込んできたな?」 「大丈夫よ」 「寒いからな」  スティングの言うとおり、息が軽く白む程の寒さ。  だが、オルガはそんなことは気にはしていなかった。 「行くぜッ!」  ギアを1から2へ。そして一気に3へ。  真っ暗な基地の車道を切り裂いて、車は暴れ馬のように走り出す。 「おいおいオルガ!」 「速過ぎよッ!?」 「気にすんなよッ! オラオラッ!」  あらかじめ言っておいたのか門兵は既に端の方で傍観者を決め込んでいた。  そして彼らの視線のど真ん中を突っ走り、三人は基地の外へと走り出す。 「どこに行きたい?」 「フレイが決めろよ」  二人がいつもの調子で話しかけてくる。  そしてフレイも、いつもの調子で応えた。 「海に行きたい」 「オーケィッ! テメェラ、ちゃんとつかまってろよ!」  海は近い。もとより港のそばの基地なのだから当たり前だが。  私たちは海岸線の道路で車を止めていた。 「ほれ」 「ありがと」  スティングの買ってきてくれたコーヒーを受け取る。  安物のコーヒー、でも今はとても美味しく感じた。 「で、何で海なんだよ?」 「それは俺も聞きたいな」  コーヒーをもう少し飲もうかとした時にオルガが話しかけ、スティングがそれに続いた。  タイミングが相変わらず悪い。 「コーヒー飲んでるんだから少し待って。もう少しタイミングを考えないと痛い目に遭うわよ?  例えば、ミーティアに切られそうになったり、変なMAに乗せられたり」 「そりゃ勘弁願いたいな」 「しゃーねえ、少し待ってやるよ」  そして少しの間三人で海を見る。  よくよく考えると、この三人が揃うことは珍しい。いつもならまだ四人いる。  いつも通り元気なクロトとアウルを止めたり、暴走するステラやシャニを抑えるのに私たちは手一杯だったから。  だから、この三人はかなり珍しい。  ふぅ、と一息つく。やっぱり、何だかコーヒーが美味しい。 「もういいわよ?」 「じゃあ改めて、何で海にしたんだ?」  スティングの改めた問いにオルガも聞きたそうな顔をしている。 「やっぱり、海が一番キレイだからって思ったからよ」 「「は?」」 「私がね、ちゃんと海を見た時って結構変な時なのよ。何か荒れててさ、どうしようもないことに躍起になってたの。 若かったのよね、まだ。自分の中で思いついた幼稚な、その時の私の中では最高の、方法にすがりついて」  自分のことをこんなに喋る私は珍しいのだろう。二人はじっと私を見ていた。 「で、気付けば宇宙でアンタ達に拾われたの。だから、ちゃんと静かに海を見た事なんて無かったのよ。 勿体ないじゃない、せっかくこんないい物が目の前にあるのに、ちゃんと見ないなんて」 「・・・・」 「難しいな、女心は」 「女心なんて関係ないわよ。アンタ達だってそう思う時があるわよ」  私はそこで立ち上がると、空を見た。  こんな戦争ばかりの時代なのに、空は皮肉なくらい澄み渡っている。 「大丈夫よ。ナチュラルでもコーディネーターでも、そして強化兵でも。綺麗な物を見たいと思う時はあるでしょ? それが今回たまたま私だったって事。簡単な話じゃない」 「そうだな」  オルガも立ち上がる。 「俺も綺麗な物ってヤツを見てみたいね」 「例えば戦場とかか?」 「もっと綺麗なヤツだよ。少なくとも・・・」  オルガが小さく呟く。  私には聞こえた。  (戦いは御免だ)  少し、涙が出そうになったのを必死で止める。 「俺もそう思うぜ。オルガ」  スティングがニヤリと笑いながら頷く。 「もう、御免だよ」 「そうだな。ただ、俺達にはそれをどうこうできる力がある」 「で、それを使いこなせる。だから・・・」 (戦うのさ)  スティングのつぶやき。  ふと垣間見る二人の本言がひどく重かった。  彼らにとっては普段の会話なのかもしれない。  やっぱり私には背負いきれないのだろうか、やっぱり私では力が足りないのだろうか・・・?  でも、でも・・・ 「・・・フレイ、どうしたんだ?」  気付けば涙が溢れていた。  同情じゃない。哀れみでもない。ただ、友人を思う涙だった。少なくとも私にはそうとしか考えられなかった。 「ゴメン・・・」  言葉には出来なかった。何だか小さなプライドと思いやりが邪魔をして。  ただひたすらに言葉は胸を渦巻いていた。 (アンタ達の力になりたい・・・) 「さてと・・・そろそろ行くか?」 「おいおい・・・フレイが・・・」 「いいのよ、スティング。ゴメンね、変な気遣いさせちゃって。今日の私ちょっと変みたい」 「・・・行けるか?」  スティングは立ち上がり私をのぞき込む。  だが、それよりも早くオルガの手が私の手を取った。  それは、ひどく暖かかった。 「お前が何も背負い込むことはねーよ。俺達も自分の事は自分でやる。自分の尻ぬぐいを他人に請うほど子供じゃねえだろ」 「な、何言って・・・」 「なるほどね。分かった分かった」  スティングの手が残った私の左手を取った。 「もっと肩の力抜いていこうぜ。俺達も、フレイも」 「・・・・何よ二人とも」 「付き合い長ェからな。お前の考えてることぐらい分かる」 「ホントにヤバくなった時は、期待してるぜ?」 「・・・・じゃあ、私も守ってよ? 私も貴方達を守るから・・・」 「あったりまえじゃねーか」 「姫を守るのは騎士の仕事だしな?」  二人は顔をお互いの顔を見るとニヤリと笑い、そして私の方を見た。  きっとひどい顔だったろう。化粧もしてないし、涙でくしゃくしゃだ。  でも、私は笑った。 「さて、次はどこ行くか」 「お姫様に決めて貰いましょう」  車に乗り込む。 「・・・アイスが食べたい!」 「おいおい、今冬だぜ?」 「それでも食べたいの!」 「はっ、本領発揮だな。オルガ、行けるか?」 「オッサンが昼間言ってた所ならあるだろ。仕事もせずに飯食いに行きやがったからな」 「ならそこに行こ!」 「頼むぜ」 「任せろ、オラオラッ!」  ギアは1から2へ。そしてあっという間に3へ。  さっきと変わらない。そしてさっきと同じポジション。さっきと同じ寒さ。  でも一つだけ違う。 「風が気持ちいいー!」 「オルガ! もっと飛ばせよ!」 「ハッ! 任せな!」  そして4へ。  不器用で器用な私たちを乗せて車は走る。  分かっているようで分からない私たちを乗せて走る。  風を切り裂いて。  真っ暗な世界を切り裂いて。  私たちは走る。  いつか来る、静かな世界を目指して。

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