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シリアス4


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誰よりも迅速だったのはクロトだった。

突然の爆発に頭を抱えて座り込む者すら居る中を、彼は弾丸のように走り抜けると手近な岩に駆け上がって腹ばいになった。そのまま双眼鏡を取り出して顔に当てる。

別にそれを待っていた訳ではない筈だが、直後に二度目の爆音が轟いた。尋常でない白光が頭上を埋め尽くし、一瞬遅れて猛烈な爆風が吹き荒れる。

咄嗟のことで、思わず棒立ちになっていたステラの頭を、誰かが背後から抱え込んで地面に押し付けた。驚いて身体に緊張が走るが、僅かに覗く視界から、
その誰かが自分も地面に身体を伏せていることに気付いて状況を把握する。
シャニだった。

ごう、と突風のような気配が頭上を過ぎ去り、ややあって、後ろの方から酷く耳ざわりな、何かが何かに激突する時の音が聞こえてくる。

どうにか頭を庇っている腕を押しのけて背後に目をやると、そこでは滅茶苦茶にひしゃげた偵察ヘリが黒煙を噴いていた。

――撃墜されたのだ。しかし、一体どこから?

ステラの疑問を代弁し、スティングが怒号を張り上げた。

「対空砲! どこから撃ってる!?」

その疑問を確かめるべく、岩の上のクロトが片膝を立てて上半身を起こす。彼は前方180度をぐるりと見回すと、ある一点で動きを止めて「げ」と呻いた。

「最悪!」

言うなり岩を蹴って空中へ身を躍らせ、身軽に地面に降り立つとそのままこちらへ駆けてくる。シャニがステラから腕をどけて立ち上がった。ステラが身を起こそうとすると、同じように庇われていたらしいアウルが額を押さえているのが見えた。

呆然とするスティングを後目に、クロトが叫ぶ――

「対空砲じゃねえ! ジンだ! モビルスーツ!」

その言葉に目を見張る暇があったか否か。

「伏せろ!」

振り向きざまスティングごと地面に倒れ込みながら、オルガが大声を出した。

反射的に身体が動いたのは、日々の訓練の賜物だろう。目と耳を手で押さえ、ぬかるみの中にダイブする。頬と首、露出した部分に泥の感触がふれた。

その不快感と引き換えに、ステラの命は救われる。

塞いだ鼓膜すら貫いて、機関銃を何倍も強烈にしたような音と衝撃がステラの全身を打ちのめした。直撃ではない。近くに落ちた砲弾が巻き上げた土くれだ。
幸いだったのは、濡れた地面が柔らかくなっていたことだろう。

MMI-M8A3、76m重突撃機銃。そんなどうでもいい知識が頭に浮かぶ。

砲撃は5秒ほどで途絶えた。
ステラが飛び起きると、強い土の匂いに混じって、ひどく濃厚な血臭がした。立ちこめる粉塵の向こうに、先程まで兵士だったものの成れの果てが累々と転がっている。

惨状に、息が詰まった。

「くそったれ、狙い撃ちかよ」

顔の泥を乱暴に袖で拭って、アウルがうめく。

張り詰めたその声に我に返り、ステラは慌てて周囲を確認した。
すぐ隣にシャニ。少し離れてスティングとオルガ。クロトはどうやって回避したものか、泥に身を伏せた様子もなくこちらへ走ってきている。
全員、無事だ。

だがほっとしたのも束の間、起き上がったオルガが怒号を飛ばす。

「森に逃げ込め! ここに居たんじゃ丸見えだ!」

それに一も二もなく従って、ステラは更にうっそうと草木の茂る方へ駆け出した。
突然の襲撃に恐慌を起こしたのか、本来オルガの指揮下ではない筈の兵士達まで倣い出す。

パニックの喧騒に混じって、どこか別の所へ機銃が浴びせられている音が聞こえた。

嫌な汗が背中に噴くのをステラは感じた。今までの訓練とはまるで違う。本物の戦場で出くわした敵はあまりに一方的であり、かつてなく理不尽だった。

これと戦ってはならない。こんな強大なものを相手にしてはいけない。こんな――

「ステラ、そっちじゃねえ、戻れ!」

スティングが叫んだ。もうどこから声が飛んできたのか分からない。

だがそれでも何とか踏みとどまろうとした瞬間、何かに足を取られてステラはバランスを崩した。あっと思う間に視界が回転し、肩から地面に倒れこむ。

「このバカ何やってんだ!」

アウルの声が裏返る。彼が顔色を変えて駆け寄ってくるのが目に入った。

混乱の最中である。暴徒のごとく逃げ惑う兵士達の視界に、小柄なステラの姿が入る余地などない。踏み越えようと迫るたくさんの軍靴に、ステラは悲鳴を上げた。

「ひ……!」

だが、そこで彼女を助けたのは、アウルではなかった。

ぱらららら、といっそ軽やかな音と共に、ステラの真上を何かが通り過ぎた。

目前に迫っていた軍靴の主が、くぐもった苦鳴と共にのけぞり、
背後の数人を巻き添えにする。何か、などとよく言ったものだった。銃撃だった。

ぞっとして、ステラは無我夢中で起き上がった。そのまま手近な草陰に転がり込む。

その背を銃声が追ってきた。背後から衝撃がきて、ステラは紙のように吹き飛ばされた。

「ステラァ――!!」

誰かの絶叫。アウルか、スティングか。あるいは両方だったかも知れない。

地面に叩き付けられる。

同時に猛烈な脱力感に全身を襲われる。銃弾の威力とはそういうものである――立ち上がる気力すら根こそぎ奪われていくような感覚の中、ステラは、草に隠れがちな向こうに迫る迷彩服たちの姿を見た。

汗と乾いた泥に汚れた、ぼろぼろのレンジャー服。腕章と階級証の剥ぎ取られた軍服は、ユーラシアのものであったり、大西洋連邦ものであったりした。

統一性を欠き、国籍の判然としない装備に身を包んだ男たち。
正体は、明らかだった。

「挟撃!」
「待ち伏せだと!? くそ!」

オルガとクロトが喚くのに続いて、サブマシンガンが迷彩服に襲い掛かる。先陣を切って突っ込んできた数人が倒れるが、後続の勢いは止まらない。

大声で叫びながら、津波のように押し寄せてくる線上に自分が倒れているのを自覚して、ステラは諦めにも似た思いで、ああ、と声を漏らした。

殺される。

「――生きてんなら逃げろよ、チビ!」

低く短い罵倒と共に、不意に、誰かがステラを飛び越えて眼前に降り立った。

握り締めていた45口径がもぎ取られ、立ちふさがるように現れた背中が目の前を埋め尽くす。5発の銃声が響いて、5人の迷彩服がばたばたと倒れた。

転倒した仲間に遮られ、迷彩服たちの足並みが乱れる――ステラがそれを見止めた瞬間、遠慮のない力で二の腕が引き上げられた。耳元でその誰かが怒鳴る。

「立て、走れ! 撃たれたのは荷物だ!」
「――!」

冷水を浴びせられたように、意識がクリアになるのをステラは感じた。

言われてみれば確かに背中は痛いが、死ぬほどの痛みではなかった。
手足に力が戻る。

腕を掴む誰かの顔をステラは見た。こちらをねめつける、紫の隻眼。

シャニだ、と彼女が思った途端、彼は腕を放して走り出した。
ステラは死に物狂いで追いすがった。

銃撃は余韻のように、いつまでも彼女の背を追ってきた。



赤道連合政府軍は、大混乱に陥っていた。

先行した部隊とは通信途絶。後続の本隊も、罠に誘い込まれてかなりの被害を受けた。

ほとんどはジンの機関砲にやられていた。テロリスト側の奇襲部隊は足止め程度の戦果しか挙げなかったが、砲撃の照準を合わせるには充分な時間だったのである。

命からがら帰還した者も、士気の低下が著しく、また奇襲部隊との戦闘で多数の負傷者が出ていた。衛生兵は全力で駆け回っていたが、混乱の中で仕官が何人か戦死した影響で指揮系統が乱れており、建て直しには時間がかかることが予想された。

当初の予測を大いに裏切り、戦況は一気に混迷の度合いを深めつつあった――
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