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三人の朝


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ひどく眩しい朝だった。
 半分寝ぼけていた頭を動かすには丁度良かったが、それでもきつい。
 だが、一つ言えるのはそれが別段不快なものでもなかったと言うことだ。
 オルガ、スティングは朝の艦長からの挨拶で本日のドミニオン出発が無くなってから熟睡している。
 クロトとアウルも眠ったままだ。
 その中、俺は目覚めてしまったので、フラフラと宿舎から出て行った。
「おはよ~シャニ~」
 宿舎から出たところにいたのは金髪の少女。
 普段着でいつも通り危なっかしい足取りで、こちらにやってくる。
「・・・おはよ」
「みんな寝てるね。シャニは早起きさんだね」
「・・・そうでも無いよ」
 そう言って歩き出す。
 目指すは門兵の所。街までの脚を借りるためだ。
 ここから街までは結構遠い。どうやらブルーコスモスの息がかかった所らしく、市街地から可能な限り離れていた。
 ムルタ・アズラエルらしい配慮だと、俺は思う。
「・・・なんか脚、ある?」
 若い、とはいっても30代だろう、門兵は残念そうに首を振る。
「すまないね。今使える分は全て出払ってるんだ」
「全部?」
「ああ、遠征演習だよ。MS戦だけじゃなく歩兵の訓練も絶やさないようにってね。で、大がかりな訓練があるんで全部使ってるんだ」
「まあ、最後に基地を制圧するのはMSじゃなくて歩兵だからね」
「そうなんだ。ごめんな」
「いいよ、謝らなくても。歩いていくから・・・・ん?」
 そう言って歩き出そうとした矢先、宿舎の方から一人の男が走ってきた。
 しかも全力で。
「そ、そこの君ィッ!」
「ア、アズラエル理事!? どうしたんですか!?」
「使える車はないか!? 今僕は生命の危機に直面しているんだ!」
 相変わらず大げさだな、と思ってしまう。
 しかしこれも彼、ムルタ・アズラエルの良い一面だ。
 これで彼に親近感を覚えるものは少なくない。
「も、申し訳ありません。本日は歩兵の遠征訓練の為、全部出払っているんです」
「なんて事だー! ・・・待てよ、もしかしてそれって」
「はい、理事が提案なさったことだと私たちは聞いておりますが・・・」
「しまったァァァ!」
 馬鹿だ。と思わず口に出しそうになるがそこは我慢する。
 というより、一体何をやらかしたのかこの男。
「このままでは艦長に・・・・考えろ考えろ。何か手があるはずだ・・・」
「あずらえろ~、ナタルが呼んでるよー」
「速ッ!? ヌゥッ!?」
 ・・・うるさいオッサンだ。

「思い出しましたよぉ・・・君!」
「はい!」
「三番倉庫の鍵は預かっているね!?」
「はい、理事専用の倉庫だと伺っておりますが・・・」
「そこの鍵を!」
「は、はい! これです!」
「ありがとう! ではさらばだ!」
 ・・・待てよ?
「・・・何でついてくるんですか? 2人とも」
「おっさん、アンタ逃げるための脚があるんだろ? 俺も街に行きたいから」
「何かおもしろそー☆」
「ええい、この非常時に。まあ良いでしょうついてきなさいッ! この逃げ足のムルタと呼ばれる私に!」
 三番倉庫。そこにあったのはサイドカー付きのバイク。排気量は明らかに1000ccをバイク。
 クラシックな雰囲気が漂っていて、俺にもその凄さが分かる。ステラにも分かるのか、まじまじと見つめている。
「これ、オッサンの?」
「いかにも! 三十年前に製造されたもので、とある島国で職人に作られた逸品です。その気になれば時速300㎞まで出ます」
「じゃーこれで逃亡だー」
「うむ、これなら艦長も追いつけないでしょう。では乗り込みますよ!」
 というとアズラエルはそこにおいてあったフルフェイスのヘルメットを被ると、俺達にジェットタイプのヘルメットを
手渡した。ゴーグルもついてるのが憎い。
「では免許を持ってるのは私だけですから私が運転します」
「ステラこっちに乗る~」
「じゃ、俺はオッサンの後ろか・・・」
「では・・・」
 各々が乗り込むとオッサンがキーを差し込みエンジンをかける。そして身を震わせ鋼鉄の馬が目を覚ます。
 アクセルを回せば「いななき」をあげ、自らの存在を大気に刻み込んだ。
「行きますよ!」
 オッサンの声。その瞬間、景色は真横に流れ大気が身体から次々と引きはがされていく。
 一瞬で倉庫を抜け出し驚く門兵を尻目に、そして背後から聞こえてくるナタル・バジルールの声を置き去りにして、
俺達は街へと走り出した。


「ここまで来れば流石の艦長も追って来れないでしょう。速度を落としますね」
「え~つまんなーい」
 ステラはいたく不満そうだ。まあ気持ちは分かる。このスピードが生み出す爽快感はそうそう味わえない。
「で、どこまで行くつもりだったんですか? 今なら送りますよ」
「俺は・・・CDショップ、と思ったけどもういいや」
「どうしてです? 新しいのが出たとか言ってませんでしたか?」
 どうして、と聞かれると困る。まだ乗っていたい、だなんて言えないからだ。
 言ったものなら明日明後日にはドミニオンの中に七台のバイクが鎮座在している事だろう。
 まあステラはそれでいいのかもしれないけど。
「ステラ、もっと乗りたーい」
 やっぱりね。
「分かりました分かりました。では海岸線を走って行きましょうか。天気も良いですし気持ちいいですよ」
「わーい!」

アズラエルの右手がアクセルを握りしめ、左手がタイミング良くクラッチを握り、左足が器用にギアを変える。
 瞬く間に1から2へ。そして2秒の加速で3、4へ。
 慣れた手つきでカチカチとギアを上げる様は、まるでMSパイロットのようだった。
「なあオッサン」
「何です?」
 驚いた。
 この速度で走行しているのに声が届くとは思わなかったからだ。しかもフルフェイスで。
 そして自分もそれが聞こえたと言うことだ。まあ俺は強化人間だから出来てるのかもしれないけど。
「・・・何でブルーコスモスにまだいんの?」
「なぜそう思いますか?」
「ジブリールだっけ? アイツに奪われたんだろ? 総帥」
「そうですね。ロード・ジブリールが今ではブルーコスモス総帥です」
「国防産業連合理事はまだ続けてるんだっけ?」
「名前は隠してますけどね」
「連合の中にはジブリール派が増えた?」
「そうですねぇ。サザーランドも死んじゃいましたし、連合の中ではアズラエル派はいませんねぇ」
「・・・・ロゴスだっけ? アイツらも結構デカイんだろ?」
「ははは、ブルーコスモスもロゴスの力を借りて存続させてたものですから。
 そうでも無ければ核ミサイルを早急に用意することは出来ませんよ」
「・・・・・」
「それでも、私はブルーコスモスにいますよ」
「コーディネーター殲滅のためー?」
 どうやらステラにも聞こえているらしい。結構なスピードなんだけどな。
「それはもう諦めました。彼らを滅ぼしたところで、何も変わりません。まあそれよりも・・・」
 そこでゆっくりと速度を落としだす。
 一体何なのか?
 そんな事を考えている内にバイクは完全に停止し、海が良く見える場所で止まった。
「海はキレイですよね」
「うんッ!」
「・・・はぁ?」
 相も変わらずすっとぼけたオッサンだ。やりづらいことこの上ない。
「ステラに質問です。海は地球の一部ですか?」
「一部でーす!」
「正解。では続けて、シャニ。今の地球はキレイですか?」
「ここから見える分にはキレイだよね。でも戦争してるし本当は汚いんじゃない?」
「正解です。では2人に質問。地球を汚くしてる戦争をしているのは誰ですか?」
「・・・人間?」
「だよな」
「はい、そうです。では、誰が地球をキレイにするべきでしょう?」
「人間ー! 汚くしてるの人間なんだからー!」
「・・・・・」
「そうですよね・・・。シャニ、それが私がブルーコスモスに残った理由です」
「・・・クサ」
「ヒドイですねぇ」
 肩をすくめて苦笑するオッサン。
 でもクサイ事には変わりない。今時、こんな事を言えるオッサンなんて、世界広しといえどもコイツだけだろう。

「世界は、地球は人間に力をくれました。成長する力です。それが例え悪い方向であろうとも大事なことです。
 成長し学ぶことで人は強くなるのです。ですから、私はこの地球が大好きなんです」
 いつの間にかステラがオッサンの話に聞き入っていた。
 そして、俺も。
「ですから私は戦うんです。青き、清浄なる世界のために・・・」
 その時が初めてだった。
 目を細めて、とても穏やかに、そしてとても暖かな顔で、オッサンは、ムルタ・アズラエルは、笑っていた。
 それはとても、とても、優しかった。
「あずらえろ・・・ステラ頑張るよ! 青き清浄なる世界のためにー!」
 飛び回るステラ。その顔にもまた、笑みがあった。
 この男の、こんな顔を見たのは初めてだった。
 戦場でも、ドミニオンでも、基地でも、いつでも、こんな顔はしなかった。
 いつもしかめっ面で、皮肉ばっかりで、艦長に怒られていたあの男が。
 今は穏やかに笑っていた。
 だから、言葉が出てきたのだと思う。
「・・・じゃあ死ぬなよ」
「はい?」
「青き清浄なる世界のために、死ぬなよ。オッサンがいなくちゃ出来ないだろ・・・」
 その言葉に驚いたのか、ムルタ・アズラエルは一瞬黙った。
 しかし、
「・・・分かりました。その時まで頼みますよ」
 またあの笑顔に戻っていた。
「あずらえろー、ナタルが追いかけてきたよー」
「はいィッ!?」
「あ、ホントだ」
 海岸線の道路を走ってくる一台のジープ。そこにナタル・バジルールは乗っていた。
 ・・・相当お怒りのご様子で。
「ま、マズイですよこれは! さ、速く2人とも乗ってください!」
「うぇーい!」
「・・・はいはい」
 大急ぎでヘルメットを被る。
 そしてエンジンに火が灯り、タイヤは大地を踏みしめ、鉄の馬は走り出す。
 ムルタ・アズラエルの脚の動きに合わせてギアが上がり、風が俺達を包み込んだ。
「さて! 街まで走りますよー!」
「やっほー!」
「・・・・・・」
 俺達は走る。
 それは青き清浄なる世界のために。
 俺達は信じる。
 この男の目指す世界のために・・・。

(終)
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