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シリアス11


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偵察は、二手に分かれて行われることとなった。
目標は、敵モビルスーツの根拠地と思わしき、廃棄火力発電所である。

第一陣はスティングとオルガ。それに遅れること暫し、別ルートでアウルとクロト。
この各班にそれぞれ大西洋連邦の軍人と、案内役の赤道連合軍兵が加わり、
あわせて4名の陣容となる。

(とはいえ、大西洋の奴はお目付け役だろうな……)

黙々と草を踏み分けながらスティングは思った。

前方には、やや離れて案内役の男が先頭を行っている。その後ろに自分、
連邦軍人と続き、そして例の無反動砲を装備したオルガがしんがりをつとめる。

この連邦軍人に、スティングは見覚えがあった。

いつぞや、ラボに団体で見学に来ていた軍関係者のうちの一人だ。恐らく何者かの
息がかかっているのだろう。毎度ながら周到なことだ。

(無理を通している、か。言い得て妙だ)

うすら寒い心地で振り返ってみると、連邦軍人を飛び越えてオルガと目が合った。

彼は砲を担いだまま肩をすくめるという器用な真似をして、小さく笑った。
何とはなしにそれを眺めていると、不意に連邦軍人が立ち止まった。

「おい、まだ着かないのか。さっきから同じところを歩いているようだぞ」

妙に裏返っただみ声。共通語ではなかった。
案内の男が困惑したように首を傾げるのを見て、スティングは声を割り込ませた。

「How long does it take to reach the destination?(目的地までどれくらいかかる?)」

ほとんど意訳して通訳する。男が安堵したように表情をゆるめた。

「Yes, it takes about 2 or 3 hours.(はい、およそ2時間から3時間の予定です)」

居ずまいを正して答える男の語尾を、

「おい、何と言っている? 通訳しろ」

と、連邦軍人が割り込んで遮った。スティングはむっとして顔をしかめたが、
仕方なしに彼に男の言葉を伝えてやった。

すると、連邦軍人はさも不満そうな呼気を漏らした。

「何だと? まだそんなにかかるのか。もうかなり歩いたのに」

およそ兵隊のものとも思えない科白だった。
どん、と砲を地面に降ろしたオルガと、スティングは顔を見合わせた。

「……まだ半分くらいしか来てないぞ。あんたも地図は見ただろ?」

呆れてスティングは言った。連邦軍人が頷く。

「見たさ。大体20キロくらいだったじゃないか。もう3時間は歩いたぞ」

だからあと1時間で着くと思っていた、などと言う彼に、
オルガが軽蔑したような視線を向けた。彼は嘲笑のように鼻を鳴らすと、

「少尉、そりゃ直線距離の話だぜ。それにこの状況じゃ、
20キロを4時間で行くのは無謀ってもんだ」

と指摘して、無反動砲にもたれかかった。

連邦軍人は一瞬、まなじりを吊り上げて険しい顔をしたが、それだけだった。
そうして一度ふんと鼻を鳴らし、再び歩みを再開する。

(なんだ、こいつ。あんたがチンタラ歩くのに合わせてやってんだろうが)

流石に不愉快になって、スティングは控えめに舌打ちした。また同時に、慌てたように
歩き出した案内役に申し訳ないような気がして、彼はこっそりと男に近付いた。

「...Sorry, don’t take offence.(……すまん、気を悪くしないでくれ)」

控えめに声をかける。男は驚いたように顔を上げた。

「Ah...yeah, OK. And――(ああ、いや、大丈夫です。それに――)」

そこで言葉を区切ると、彼はにやりと笑って見せた。よく見れば男はまだ若く、
ちょうどオルガやクロトたちと同年代くらいに見えた。

「実は、言葉、分かります」

スティングは少し目を見張った。咄嗟に背後の連邦軍人を顧みる。

特に彼が気付いた様子がないことに安堵し、スティングは男に向き直った。

「……人が悪い。じゃあ、全部分かってたのか?」
「人の話す、分かります。でも、話すこと、苦手です」

たどたどしい物言いに、なるほど、とスティングは頷いた。
男はちらりと連邦軍人を横目にすると、声をひそめるように口に手を添えた。

「あの人、正しい訓練ないです。あの人と話する、嫌でした」

話になりそうにないから、という言葉が暗に聞こえてくるようで、
スティングは小声で笑った。

「まあ、ただの下っ端なんだろう。構ってやることもねえさ」
「Exactly!(おっしゃるとおり!)」

男も破顔する。と、そこでようやくこちらの動きに気付いたのか、
連邦軍人の声が割り込んできた。

「おい、何をこそこそ話してる。敵に気付かれたらどうするんだ」

やたらと高慢な口調が鼻についたが、相手が少尉であり、
自分がいま二等兵であることを思い出して、スティングは表情を押し殺した。

(口数と実力は反比例するもんだったっけな)

最初に口を開いたのが向こうであることは、言わない方が賢明だろう。

やる気もなくスティングは背筋を伸ばした。

「は、少尉どの。申し訳ございませんでした」

言いながら、ふと視界に入った男とオルガが、示し合わせたように同じ仕草で舌を出して
いるのに気付き、彼は笑いを堪えるのに苦心しなければならなかった。

ふん、と不機嫌そうな顔で黙り込んだ連邦軍人を後目に、オルガが近寄ってくる。

「よお、なんか楽しそうな話してるな」
「楽しそうっていうか……」

尻すぼみに口ごもり、スティングは男と顔を見合わせた。オルガは妙に楽しそうに
にやにやと笑って、「交代だ」と無反動砲を差し出してきた。

「いや、いいんじゃねえか、そういうのも。正義と和解についての話し合いってやつだ」
「はあ?」

芝居がかった調子で意味不明なことを言うオルガに、スティングは頓狂な声を上げた。
首をひねりつつ、冗談のような重量の砲を抱え直す。

男はといえば、不思議そうに双眸を瞬いていた。

「セイギ? Justice?」
「Yes, it means a justice.(そう、正義)……まあ短い間だが、よろしく頼むぜ」

オルガはそう言ってくつくつと笑った。
男はしばらくそんな彼を見ていたが、やがて右手を差し出して握手を交わした。

訳が分からないまま打ち解ける二人に、スティングは首を傾げた。

「……よく分からん」

オルガはといえば、1人で分かっているような笑みを浮かべたままだ。

「いいや、こっちの話だ。気にすんな。ほら、足がふらついてるぜ」

言うなり、軽くこちらの肩を押してくるので、スティングは本気で体勢を崩して
ふらついた。うわ、と思わず声を上げて踏みとどまる。

「な、何するんだ、危ないだろ」

小声で抗議するが、オルガは少しも本気ではない様子で「悪い、悪い」と
答えるだけだった。更には、隣で男が忍び笑いに肩を震わせているのに気付いて、
スティングはがくりとうなだれて嘆息した。

「……何だってんだよ。くそ、何でこいつこんなに重いんだ」

言って八つ当たりのように砲を抱えなおすと、オルガがきょとんとした顔で
目を瞬いた。彼は当然のことを指摘する時の軽さで、

「は? そりゃあ、そういうテストだからに決まってんじゃねえか」

こんなことを断言した。

「は?」
「そうだろ。何だ、分かってなかったのか?」

意外だ、というふうに言うオルガ。
思わず、スティングは腕の中の無反動砲をじっと見つめた。

テスト。この状況で、テストを行う。自分たちの立場を勘案して考えれば、
推し量られる意味合いは一つしかない。つまり、

(実験だっていうのか……いや、ちょっと待て)

はたと気付いてスティングは顔を上げた。オルガの言っていることは機密事項だ。
慌てて顧みた男は、ただ不思議そうにこちらを見返していた。

「……私ですか? 聞くこと、いけないですか?」

一瞬口ごもったスティングの代わりに、オルガが男の問いに答える。

「いや、聞いてても分からねえと思うから、別に構わねえよ。まあ他言はしねえ方が
いいだろうが。お前も、いちいち慌てんなって」

科白の最後は、スティングに向けられたものだ。
それにいささか憮然としつつ、気を取り直してスティングは口を開いた。

「……いや、しかし、何で今頃? この環境下でか?」
「この環境下だからだろ。ある意味、滅多にあるもんじゃねえからな」
「そりゃそうだが……」

スティングは語尾を濁した。納得しがたいのは、あまりにナンセンスだったからだ。
戦場はラボとは違う。消費されるのは実験器具ではなく人命なのだ。

同時に、それをあの白衣が気にするとも思えなかったが――

「お前、意外といい奴だな。アウルだったか? あいつは分かってたみたいだぜ」

見透かしたようなオルガの物言いに、スティングは唇を引き結んで黙った。
オルガは軽く嘆息すると肩をすくめ、独り言のように言葉を続けた。

「まあ、まともに考えりゃ、歩兵がモビルスーツに勝てる訳ねえしな。
こんなもん気休めにもなりゃしねえ。まあ、強いて言えば鈍器くらいにはなるか……」

そうして、砲身をつっと指でひと撫でする。

オルガの言っていることくらいは、スティングにも分かっていた。
元よりモビルスーツとはそういう兵器だ。戦車の正面装甲に匹敵する防御力と、
戦闘機に匹敵する機動力を兼ね備える悪鬼。歩兵がどうのという以前に、そもそも
従来の兵器で太刀打ちできる存在ではないのだ。

(出遭ったら死ぬ。なら、少しでも身軽な方がいい……)

だというのにこんな物を持たせた白衣の意図に思い当たり、スティングは顔を俯けて
眉を寄せた。いつものことではあった。だが、気は重かった。

「Ah...uh, sorry, I don’t know well your circumstances, but...
(ええと、その、事情はよく分かりませんが……)」

男が困ったように瞬きして、どこか曖昧に口を開く。

「任務が嫌なことです、私もです。頑張ること、してください」

崩壊した文法。滅茶苦茶なイントネーション。

その中から、とにかくフォローをしようという意思を汲み取って、
スティングは返答に詰まった。とりあえず、ああ、とだけ頷いておく。

その時、唐突に背後で「ばきん」と何かが折れる音がした。

「うわあああああ……!」

悲鳴が続く。驚いて振り返った先で、スティングは開いた口が塞がらなくなった。

「……何やってんだ、あれ」

オルガが、全力疾走後の疲労感に似たものを滲ませて呟いた。

そこには、スティングたちと5メートルほどの間隔をあけて、
木の根に必死でしがみついて崖下への落下を堪えている連邦軍人の姿があった。

「……な、何をしている……! 早く助けんか、貴様!」

全力で力んでいる時に特有の詰まった声に、男が弾かれたように駆け出した。

大慌てで救助に向かう後姿を眺めつつ、スティングは頬を掻いた。
ふう、とオルガが大仰に溜め息をついた。

「まあ……お前も、あんまりラボの連中を信用しねえことだな」

急に話を戻す彼に、スティングは少し戸惑った。

「え? ああ……さっきの話か」

おう、とオルガが頷く。薄い笑みを顔に貼り付けた彼は、親指で襟元のあたりを
ざっくりとかき切るような仕草をした。

「あの連中はな、隙あらば俺たちを解剖したくてうずうずしてるような気狂いどもだ。
作戦効率なんざ考えてる訳がねえ。まともに相手しねえ方が身の為だぜ」
「身も蓋もねえな」
「だが嘘じゃねえ。こういう時あてにしていいのは、ああいう奴さ」

言いながらオルガは視線だけで、連邦軍人を引き上げようと苦心している男を示した。
スティングはぼんやりとそれを眺めてから、砲を緩慢に持ち直した。

「……そうかも知れんな」

ぽつりと呟くと同時に、耳元の無線がじじ、と耳障りな音をたてた。

一度オルガと目配せして、聴覚に意識を集中する。ニュートロンジャマーの影響で、
以前よりもずっと多い雑音の中から、耳が一つの声を拾い上げる。

『――グリーン1、こちらイエロー2。
今悲鳴が聞こえたけど何かあったの? どうぞ』

途切れがちに聞こえてくるのは、クロトの甲高い声だった。
オルガが盛大に溜め息をついて、がりがりと撫で付けた金髪を掻いた。

「……こちらグリーン1。大丈夫、無線切り忘れた馬鹿が転んだだけだ」
『はい?』

間の抜けた調子で聞き返すクロトに、スティングは控えめに苦笑した。
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