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シリアス1


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その男は、一向に口を開こうとしなかった。

何故かといえば、話すことがなかったからだとしかいえない。必要なことは全て、そこでどうということのない雑談に興じている、彼の仲間が話してしまった。
彼はただ、石柱のように後ろに控えて、紫色の隻眼を無造作にこちらに向けていただけだ。

「おい、手が止まってんぞ」

横合いから声をかけられ、ステラ・ルーシェははたと自分の手元に視線を落とした。

腰を下ろした砂混じりの床――貨物用トラックの荷台の底――の上には、半ば分解された45口径が転がっている。具合が良くなかったので、ばらしてみていたのだ。

心持ち慌てて作業に戻ろうとすると、些細な異変に気付いたのか、それまで二台から身を乗り出して外を眺めていた1人が振り返った。

「なに、なんかトラブル?」
「さあ。おい、何でこれ、ばらしてんだ?」

赤い髪をしたその男に答えたのはステラではなく、その前にかけられた声の主である。

ステラの手元を覗き込むように身をかがめた彼は、軍帽から金糸がいくらかのぞいている。見やすいように身を引きつつ、ステラは小さく答えた。

「ボルトが、動かなくて」

言う間に、金髪の彼は分解されたパーツを手にとって検分を始める。親指の先くらいの欠片を日に透かして目を細めると、彼は嘆息のように呟いた。

「……ああ、駄目だな、こりゃ。屑だ。おい、予備持ってねえか?」

訊ねた相手は赤毛の彼である。しかし彼は「生憎と」と肩をすくめてみせると、

「一式しか持って来てないよ。――シャニ、お前は?」

言いながら彼が投げた視線につられるように、ステラが顔を向けるとそこには例の隻眼の男があぐらをかいていた。彼は閉じていた目をゆっくりと開けると、緩慢な動きで背嚢の中を探り始めた。面倒くさそうな動作だった。

ややあって、彼はその平坦な視線をステラに向けた。

「ほらよ」

囁きのような声と同時に、ぽい、と予備動作もなく放り投げられた45口径に、ステラは仰天してそれを受け取った。傍らの金髪が、引きつった呻きを漏らす。

「シャニ! 馬鹿、お前、投げるやつがあるか」
「弾は入ってないよ」
「なお悪いっての。準備しろよ、もうすぐ着くぜ」

呆れたように言い含める赤毛に、隻眼は悪びれた様子もなくひらひらと手を振った。

とはいえ、無視する訳ではなく、そのまま素直に背嚢の中身を広げ始める。
手袋を外した下から出てきた、不健康そうな色の指先が弾薬を並べていくのを、ステラは暫しぼんやりと眺め――ふと我に返った。

「あ、あの」

ためらいがちに呼びかけ、先程の45口径を掲げてみせる。呼びかけた本人の前に、何事かと不思議そうに眺めてくる金髪と赤毛に挟まれて、ステラは伏せられた隻眼を見た。

果たして、再びゆっくりと紫の右目が浮上してくる。

「これ……ありがとう」

目が合ったが、前髪に隠れがちな片目は揺らぎもしない。
それこそ、瞬きすらしないので、何となく自分まで瞼の動きを自粛しながらステラがその目を見つめていると、やがてシャニを呼ばれた彼は視線を手元の薬莢に戻した。

「弾、込めときな。もうすぐ着くらしいから」

もう彼はこちらを見てはいなかったが、それでも無言で頷いて、ステラは自分も背嚢の弾薬に手を伸ばした。そこでふう、と赤毛が細く長い息を吐いた。

「……ま、そういうことで。おら、てめえらもさっさと起きな」

と、軍靴のつま先で、脇で眠り込んでいた少年を小突く。うう、呻いて身をよじるその少年から、彼のかぶっていたメットを赤毛が取り上げる。

ばさりと音がして、たっぷりした青い髪が広がった。

「う……なに、訓練?」

寝ぼけ眼で、がしがしと頭をかく少年――アウルの姿に、赤毛が嘲るように鼻を鳴らし、金髪が小さく舌打ちした。アウルは状況が分かっていないのか、ぼんやりしている。

「これだよ。大丈夫なのかね、全く」

真面目に怒るのも馬鹿らしい、と言わんばかりの嘆息が、金髪の口をついて出た。

アウルに続いて、その隣で熟睡していたスティングの尻を赤毛が蹴飛ばし始めていたが、それで悲鳴が上がっても、隻眼は黙々と弾薬を装填し続けていた。
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