雑記


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

プロローグ仮案(ノベルベース)

――車窓から、夏の夕日が射し込む。
 新幹線を降り、特急列車に乗り換えて二時間。午前中に出発したのに、日が傾いてもまだ目的地に着かない。
 博也はふと、窓の外に目を向ける。

「……すごい」

 赤い太陽に照らされた、金色の海。
「!」
 と、急に視界が暗くなり、鼓膜に違和感を覚える。
 トンネルに入ったんだ――そう理解して、博也は窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。
(やっていけるのかな。こんな、遠いところにきて……)
 崩壊しつつある地方の医療に光を――なんとなく、そんな理想を追いかけて、こんな片田舎まで研修に来たのだった。

 再び、車内を夕日が照らし出す。
 特急列車は大きく車体を傾け、窓外の景色を海から山へと変えた。
 目的地が近い。
 地元の名産品を乗せた車内販売の声が、博也の意識を覚ます。
 太陽がいよいよ水平線に沈もうかという頃合いになって、列車は目的地のプラットホームに滑り込んだ。
「ふわ……あぁ」
 ひとつ伸びをして、席を立つ。
 大きな旅行カバンを、四苦八苦しながらなんとか通路を通す。やっとの思いでプラットホームに降り立つ――と、ラッシュアワーのはずなのだが、この街には、列車の到着を待つ人の波はない。
 ドアが閉まり、小さな汽笛の後、列車はゆっくりと動き出した。頭上の掲示板がパタパタと音を立てる。

 自動販売機で缶コーヒーを買い、ベンチに腰を下ろす。と、改札の外から手を振る人が見えた。ナース服に、カーディガンを羽織っている。
「まいったな……」
 熱々のコーヒーを上着のポケットにしまい、改札を目指す。エレベーターなんて気の利いたものはない。ダラダラと延びたプラットホームは、その大部分が今は使われていないらしく、ところどころに雑草が顔を出していた。
 博也が改札に近づくと、ナース服の女性が声をあげた。
「相川先生! こっちです」
 手を振る……と同時に胸も揺れる。
「ああ、ええと」
 あわてて目をそらす。



シナリオ原案サンプル(ノベルベース)・主人公と塚原・豊平の出会い

「あらら~……」
 おとといの宿直の疲れが抜けきってないのだろう。
 往診に出発してから、小一時間ほど舟を漕いでいたらしい。
 ひなたの間の抜けた声で、博也は目を覚ます。
「どうかした? 沢越さん」
「先生、あれ」
 ひなたの左手、細い人差し指が伸びた先に目をやる。立派な庭付きの日本家屋の前に、運送会社のトラックが鎮座していた――狭い道路

を完璧に塞いで。
「今日も通れません……」
 困った顔で、指をハザードランプのスイッチへと動かす。
「今日も、って、いつも停まってるの?」
「この時間帯は。――先生が、寝坊するから」
 (う――)
 それを言われると、辛い。まだまだ学生気分が抜けていないんだろう。――本当に僕は、"まだまだ"なんだ。
「ごめん、悪かった」
「あっ、いや、えと、冗談ですよ?」
 サイドブレーキを引いて、博也の方を向く。
「だけど、参ったね。まぁ、すぐにどけるだろうけど」
「それが、そうでもないんですよ……」
「え?」
 ひなたはエンジンを切り、シートベルトを外す。
「いっつも、すご~く時間がかかるんです」
「そうなの?」
「ええ。わたし、ちょっと様子見てきますね」
 そう言うと、ひなたはドアを開けて、トラックの方へ歩いていった。
 ひなたがトラックの死角に入って数十秒後、また船を漕ぎ出した博也を、ディーゼルエンジンの轟音が揺り起こす。
「ん――?」
 ほんの数メートル前に移動したところで、トラックは再び停車した。エンジンが切られ、ひなたが走って戻ってくる。羽織ったカーディ

ガンの袖を掴んだ、見るからに女の子な走り方で。
「さぁ、じゃあ行きましょうか」
 息を切らして、車に乗り込む。遠くからでは死角になっていて分からなかったが、トラックがどいた場所に、生垣の切れ目があった。
「ここです、よっ……と。ほっ、ん」
 ひなたがハンドルを切るたびに、二の腕に押し付けられた大きな胸が揺れる。先刻の駆け足の影響か、はたまたハンドルが重いのか、声

を漏らしながら一生懸命に揺れる胸――もとい、ハンドルを切るひなた。
(何を考えてるんだ、僕は)
 生垣の内側は、手入れの行き届いた日本庭園だった。タイヤが石を噛む感触が伝わってくる。
「は~……。とうちゃく~、です」
 ドアを開け、博也は背伸びをする。腰の骨が、盛大に音を立てる。車の中で寝るというのは、意外と疲れるものなのだろう。と、玄関の

戸がカラカラと軽い音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ」
 家の中からは、メイドさんが出てきた。博也は目が点になる。
(メイドさんって秋葉原にしかいないんじゃなかったっけ?)
 点になった目に視線を合わせて、メイドさんは深々とお辞儀をした。
「沢越さん、こちらの方は?」
「あ、紹介しますですよ~」
 そう言いながら、ひなたは車のリアハッチを開け、診察道具の入ったカバンを運び出す。
「こちら、研修医の相川博也先生です」
「研修医……ですか?」
「え? ああ、まあそんなようなものです」
(話しかけられた……本物だ)
「それで、こちらが――」
「塚原の身の回りの世話をしております、豊平あゆむと申します。豊かな平野と書いて、とよひらと読みます」
 再び、メイドさん――豊平あゆむは頭を下げた。先ほどよりいくらか軽く。
(ああ、確かに平野だな)
 ついつい胸に目が行ってしまう。
(――って)
 初対面でいきなり胸の評価なんて、どこの変態だ。博也は顔を赤くした。
「何でございましょう? あゆむ、は平仮名でございますが」
 首をかしげる。ひなたに負けず劣らず天然のようだ。
「塚原さーん!」
 後ろから、元気のいい男の声が響く。振り返ると、先ほどのトラックの運転手らしき男が、紙切れを握った手を振っている。
「これで、荷物全部ですか?」
「あ、えーと……はい。これで全部です」
 慣れた手つきで、あゆむは伝票にサインする。
「それじゃ、引き取らせていただきますね」
 男は、帽子のつばを軽くつまんで会釈すると、トラックに乗って帰っていった。
「荷物って?」
「おじい様……ええと、塚原の集めた美術品を、展覧会に貸し出すんです」