680 @Wiki内検索 / 「うつろわぬものの名」で検索した結果
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88題(構築中)
...わず語り 017:うつろわぬものの名? 018:ロックオン? 019:破壊衝動? 020:二律背反 021:音も起てずに? 022:風の唄声? 023:告白のジジョウ(事情・自浄・二乗) 024:高く叫べ? 025:シブロク(四割六割)? 026:巷(ちまた)の石ころ? 027:這いつくばっても? 028:宙(そら)に瞬? 029:背骨(バックボーン)? 030:睫毛の先 031:時雨? 032:タンデム 033:Get to go Real? 034:行けど戻れど? 035:福音 036:美味しい時間 037:余韻 038:顔をあげて? 039:体温 040:二死満塁 041:消える魔球? 042:恋路? 043:海辺? 044:助け舟? 045:宇宙の果て? 046:完全試合? 047:リボン? 0... -
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Cross over the Line 4 「何、頼み事って。」 伊達がそんな表情をしながら切り出すということは、非常に頼みにくくて、そして頼まれたくない事なのだろうと予想しながら栗原は聞き返した。 そこへ、伊達が後ろ手に持っていた物を栗原の膝の上に投げつける。 何だろう、と栗原がそれを手に取るよりも早く、 「コックピットに立て篭ってる奴に、エサ届けてやってくれねぇか?・・・・・・それ着てさ。」 と、そう伊達から話が切り出される。 手にしたものを確かめて、栗原の顔からは表情が消えていく。 「・・・なんだ、コレは・・・。伊達、てめぇ何考えてやがんだ。」 栗原の声は、押し殺されてはいたものの、十分に怒りの波動を漂わせていた。それもその筈で、伊達が投げて遣したものは、紅空の女性クルー、つまりスチュワーデス用の制服だったからだ。 栗原の怒りは他所に、神田は... -
朝が来るまで
朝が来るまで 「なぁ、そろそろ起きねぇか?」 傍らで寝ている男にそう声をかける。 飛行隊での飲み会の帰り、酔い潰れて前後不覚なのを見かねて仕方なく半ば担ぎこむようにして自分の部屋へと引っ張りこんだ。 それももう2時間近く前の話だ。 ちょっと寝させてくれ、とヒトの布団に倒れ込んで、そしてこの男は、神田鉄雄は目を覚ます気配もない。 そのまま朝まで、どうせ帰る手段もない田舎のことだ、別にいて貰うのは構わないが、朝までそのままってわけにはいかないだろう。 制服だって脱がせてしまわないとシワになってしまうし、それに布団だって一組しかないのだ。 そんなに中央に大の字になって寝られてしまっては、俺の眠る余地がないじゃないか。 「おい、起きろ。」 耳元で、声を荒げてみる。 「ん・・・。」 すると、眉間がピクリとほんのわずかだけ動いたものの、相変わらず起きる気... -
睫毛の先
88title/no.30 睫毛の先 ビューラーで根元から毛先へカールさせる。 繊維入りの下地をつける。 マスカラを「だま」にならないようつける。 マスカラ液が乾く前にコームで梳き、もう一度重ねづけする。 乾いた上からさらに透明マスカラをつけると、クマにならない。 阿呆みたいに口をポカンと開けたまま、神田が俺を見ていた。 俺の手順を魔法か何かでも見るみたいに。 「栗、キレー」 言葉までガキに戻ってやがる。俺は笑って、赤い口紅を引いた。 あ、クソ。ちょっと歪んだ。ティッシュで拭き取ってもう一回。 金髪のカツラを付けて、ブラシで整えて、 「どうだ?美人だろ」 振り返ってあだっぽく笑みを作ってやると、神田の顔がだらしなく垂れ下がる。 「うん。栗すんげー綺麗!!」 そうか、そうか。素直な返事だ。うんうん。俺は色白だから金髪も不自然じゃないし。 俺以... -
Love the Island...
Love the Island... 「神さ~ん、百里降りれないってよ。どうするよ?」 眼下に見えるのは巨大な台風の目だ。しかも首都圏を中心に三陸沖、日本海側まですっぽり覆い隠してしまう程の巨大な台風。台風の中を飛ぶ事はなんとかできるにしても、滑走路付近の風速が50ノットを超えていては、着陸はとても不可能だ。 「あん?オルタネートはどこよ?」 「最初のフライトプランのは全滅よ。三沢、松島、小松全部ダメ。成田ももちろん。」 アラートで上がったはいいものの、ペアで上がった320号機を先に帰してエスコートを引き受けたのがますかった。いつものウラジオストック発のベトナム行き定期便だ。調子に乗って帰る燃料ギリギリ、東シナ海付近まで送っていったのも災いした。 「神さんが調子に乗るから。」 「んな事言ってないで、オルタネート探してくれよ、栗。このままじゃ墜落しちまう・・・。... -
His Phantom
His Phantom 「ったく、なんて世話のやけるガキんちょなんだ。」 一方的に切れた電話の受話器を手に、伊達は公衆電話コーナーの隅でそう呟いた。 「しゃあねぇ、会って話してくっか。」 そこは羽田空港の出発ロビー前だ。伊達はそのまま、羽田空港内の紅空のカウンターに向かった。そこで社員証を見せて言う。 「なぁ、千歳まで行きたいんだけど、クルー席どっか空いてねぇか?」 受付の女の子に軽くウィンクしてそう尋ねると、 「・・・社用で移動されるのでしょうか?客席をご用意できますが?」 「まぁ、社用っちゃ社用だな。」 と、適当な事を言う伊達だったが、受付係はそれを疑うこともなく、淡々と業務を進めている。冬の平日、しかも雪祭りでも何でもない時期の千歳便だ、それ程込み合っているわけでもなく、座席はすんなりととれそうだった。 予約表と座席表を見比べていた受付係は、よう... -
The Begining Place
The Begining Place 「神さん、メシ食い終わったか?」 「おぅ。」 「着替え終わった?ハンカチ持った?テレビとコタツのスイッチ切った?」 「おう。」 「んじゃ、俺はゴミ出してくるから、車のエンジンお願いね。」 ・・・というのが、神田・栗原のいつもの朝の光景だ。 いや、これに至るまでにはもっとある。 例えば、栗原の朝は早い。 目覚まし時計を一応セットしているものの、大抵はその5分くらい前に目をさましてしまう。そして、隣で寝ている神田を起こさないように起き出して、そして目覚ましのアラームのセッティングを止めてしまう。もちろん神田がそれで起きてしまわなくていいようにと気遣って、だ。 それから、炊飯器のスイッチを入れて身支度をして、朝食の用意をしてから神田を起こすのだ。それが栗原の朝の日課だった。 一緒に住み始めた当初は、それを交代でや... -
Fragile Eternal
Fragile Eternal 「神さん、8時だぜ。」 「あ?…あぁ。」 「どしたい、ぼーっとして。待機終了だ、お疲れさん。」 睡眠不足なのか疲れからなのか呆けている神田の肩を、栗原はそう言いながら軽くたたいた。 と、その時二人の居る部屋の扉が開いて、Gスーツに救装品をつけてヘルメットを小脇に抱えた一団が入ってくる。 そこはアラートハンガーで、丁度アラート待機の上下番のタイミングだった。 そう、二人はアラート明けなのだ。 それも、本日二回目のアラート待機だった。 この所日本国の領空には彼我不明機の往来が激しかった。日本が同盟国と共に推し進めている新防衛大綱に基づく防衛施策が気に入らないのだろう。 それに抗議するかのように連日連夜、領空侵犯スレスレの航行機が出現する。 そのほとんどは冷やかし、というよりも国家間での揺さぶり行為の一つな... -
二律背反
88title/no.20 二律背反 汗ばんだ肌が乾いていく感触と、体の奥の鈍い痛みとが、彼をして 浅い眠りから醒めさせた。 思いがけず長い時間を浪費してしまった事に舌打ちをして、彼は身を起こした。 既に部屋に差し込む影は長くなっていて、夕刻近い事は時計を見ずとも明らかだった。 床に散らばる服の中から適当にシャツを引っ張り出し、肩に羽織ながら 隣でだらしない顔をして眠っている男の髪を引っ張った。 「神さん、神さん、もう起きないと」 「ん・・・・・?ああ・・・後、10分・・」 「10分じゃないよ、まったく。今日中に各務原に戻らないといけないんでしょ、 いい加減に起きてください」 「お前、送ってくれよ・・・明日は非番だろ・・・・?頼むよ・・・栗ィ・・」 「俺はタクシーじゃないぞ、自力で帰れ。それともまた始末書を書くか?」 答えは無かった。 ... -
携帯電話
携帯電話 「神さん、ごはんできたよ~。」 栗原がエプロン姿のままで配膳しながら、奥の部屋に向かってそう叫ぶ。 しかし応えはない。 「神さ~~~んっ。」 奥の部屋からは不自然な電子音が響いている。 「・・・野郎、またゲームしてやがんな。」 この所、神田はPS2のエースコンバットに夢中であった。仕事から帰ってくると、食事と風呂に入る以外はずっとテレビの画面に向かってピコピコやっている。それがどれくらい夢中なのかというと、ゲームにより臨場感を持たせるためにプラズマテレビを買おうなんて言い出す始末だ。 そしてそれはたいてい夜中まで続くのである。 それを栗原が容認しているのは、夜中までゲームに夢中になってくれていた方が彼にとっては都合のいい事もあるからだ。 ここ1週間程の栗原のご機嫌はそれほど悪くない。たまには神田の相手をせずに一人で眠ることは、多少の欲求不満は... -
勝手にしやがれ
勝手にしやがれ 「いやー、なんか半年ぶりだっていうのにキツイ気がして。」 「いやいや、まだお前なんかいいほうだよ。整備主任なんか見ろよ、去年より確実に3センチは腹が前に出てんな。」 「それより、俺なんか黄ばみがひどくってさー。」 「あー、そりゃひでぇや。今年あたり被服更新してもらえよ。」 「補給係の奴なまけてやがってさー。」 と、朝礼前の飛行隊では隊員が集まって口々にそんな会話がかわされていた。今日は6月1日、全国一斉に衣替えの日である。 朝イチのフライトにあたっている隊員がやむおえず飛行服や整備服でいるのを覗けば、服装点検があるため隊員はほとんど夏制服で朝礼場に並んでいた。 当然、西川と水沢の姿もそこにある。 二人は飛行服姿だ。けれども出勤時は当然夏制服で、お互いに体型が崩れていっているのを嘆きあっている。 「飛行服に着替えてほっとしましたよ、僕... -
モーニング・ムーン
モーニング・ムーン それは、夏の始まり頃の事だった。千歳の夏は始まりが遅く、そして終わるのは早い。人々はほんの少しの夏気分を味わおうと躍起になる。 それはここ、千歳の航空隊でも同じことで、夏になればやれ花火大会だ、やれ水泳訓練だ、と精一杯の行事をこなす。 そんな花火大会の日のことだった。 基地をあげての花火大会で、そこには基地司令以下名だたるVIPが顔をそろえ、そして基地隊員は勤務に支障をきたす人員を除いて全員参加が達せられていた。 「いつまでもブウブウ言ってんじゃないの。」 と伊達は隣に居た栗原の頭を軽く小突いた。 グラウンドでバーベキュー、しかも大した花火でもない、そんな飲み会に出なきゃならないくらいなら、部屋で寝てた方がマシと言い張っていた栗原だった。 それを今回は隊長から厳しく咎められて、伊達には「必ず連れて来い」との厳命が下っていて、なだめすかし... -
昔語り
昔語り 「なぁ、なんで民航に行ったんだ?」 と、目の前の男が無邪気にそう尋ねる。 ここは、航空基地からそう遠くない街のスナックだ。目の前の自衛隊の制服を着た男は、かなり酔っ払ってるらしく、普通なら「奴ら」が話題しない事を俺に聞いてくる。 俺は民航のパイロットだ。かつて空自にいたことがある。だから、普通のパイロットにそんな事きかれても、俺も金だ女だ外国だ、とそれらしい台詞で逃げるところだ。本当の事なんてわざわざ明かす必要ないだろう。 けど、今俺の目の前に居る男はまさしく俺がかつて目指していた「戦闘機乗り」だった。それも一人前の腕を持ったファントム乗りだ。俺が望んで得られなかったポジションにこいつは居るのだ。 「さぁな、つまらん話さ。」 「栗と組んでたんだろ?」 「千歳でな。」 そう、遠い昔に栗原と組んでいたのはこの俺だった筈だ。 千歳で。 遠い街で... -
One Night Stand
One Night Stand 栗原の予想外の行動に一瞬呆然となった神田と伊達だったが、ふと我にかえって階段を駆け下り、栗原を追いかける。 「ちょっと待てってば。」 神田より一足先に栗原に追いついた伊達が、その肩を掴んで栗原を立ち止まらせた。 「何?それよりも、そもそもなんで伊達がここに居るのさ?」 人通りの多い地下通路で、大声を出すわけにもいかずに、栗原はしぶしぶ二人の方を振り向いた。そこへ神田が追いついて二人して栗原を取り囲んだ。 「そ・・・それはだな・・・。」 状況を説明するには昨夜の電話の話からしないと説明がつかない。それを話してしまえば、神田からも栗原からも責められるのは目に見えている。 「電話したら神田がヒマそうだったから遊んでやろうかと・・・。」 「嘘つけ。そんな事でわざわざ千歳まで来るのか?本当のこと言えよ。」 「本当だって。それよ... -
キミの居る場所
キミの居る場所 「何でお前、こんな所に居るんだ?」 と、寝室に足を踏み入れた瞬間に、伊達は驚いてそう言った。 そこは空港に程近い成田市内のマンションの一室で、フライト前にゆっくり出来るようにと、生活に余裕が出てきた頃に購入した物件だ。 だからそこに予想外の人物が寝そべって本なんて読んでいたとしたら、驚くのも無理はない。カーテンは開けられたままだったが、夕刻を過ぎた部屋はもうとっくに薄暗くて、ベッドサイドの明かりだけが、その人物の手元と俯いた横顔を照らしているだけだったが、伊達にはその相手が誰かがすぐにわかった。 「何だ、帰ってきたのか。・・・じゃあ、出て行こうかな。」 物憂げな顔を上げたその相手は、その視線上に伊達の顔を捉えるなり、そう答える。 「いいさ、ゆっくりしてろよ。いつから居たんだ?お前。」 そして、伊達からそう尋ねられて、その相手・・・ベッドの上... -
BBS
BBS(試験設置中) 名前 小説の方で出てると聞いて読んでたのですが、アニメの方を今頃見つけたので張っときます。ここの2 00頃んとこ! www.youtube.com/watch?time_continue=121 v=67RpQFOjchw - hig (2019-04-11 10 02 5... -
コメント/BBS
小説の方で出てると聞いて読んでたのですが、アニメの方を今頃見つけたので張っときます。ここの2 00頃んとこ! www.youtube.com/watch?time_continue=121 v=67RpQFOjchw - hig (2019-04-11 10 02 58) 新谷先生がクリスティ・ロンドン マッシブ終了後、2017年4月26日休筆されるとツイートされました。長いこと凄い作品を見せてくださってありがとうございました。お疲れさまです…が66歳で「新しいことに」という言葉に見習わないとなぁと思うと共に新しいことって何かしらと期待してしまいます、ファンは。対談とかでも嬉しいなー。 - hig@お久しぶりです 2017-06-01 08 14 00 twitter.com/ganso_sonodaya/status/867323459138863104/photo/1 新谷かおる先... -
冬物語
冬物語 「なんか気分乗らねぇなぁ・・・。」 「そうですね。この面子ですからね。」 「しょうがないだろう。こうやってのんびり羽を伸ばせるだけでもありがたいと思えよ。」 神田のボヤキに西川が迎合して、それに栗原が異論を唱える。そんな様子をキョロキョロしながら水沢が見ていて、けれど意外に利口な彼は生半可には口を挟まずに成り行きを見守っている。 「何に不満があるってんだ。スキーだってしたし、温泉だって入っただろ?それで酒と上手い料理があって、その上何が不満なんだ。」 そう言って栗原は、めずらしくも飲みモードで、手にしていたグラスから冷酒を口に運ぶ。いつものメンバーという気安さと、例え神田が酔いつぶれても運ぶ必要がない状況が彼をそうさせていた。 4人が居るのは山間の温泉旅館で、温泉そのものはそれほどウリにはしていないのか簡素なものだったが、料理が上手く、日本酒も地酒のい... -
10 Years
10 YEARS 「くっ、栗ぃ~っ、白手貸してくれっ。」 と朝っぱらから栗原に泣きついているのは言うに及ばない神田だった。 白手とは言うまでもなく、白い手袋の事である。自衛官が通常礼装をする時に欠かせないものだ。 ここはいつもの飛行隊のロッカールーム。いつもなら着いてすぐに飛行服に着替える筈が、神田はさっきからロッカーの中をかき回して何かを探していたのだった。 そしてとうとう探し物がそこにはないと判断して、栗原に助けを求めた次第である。 だが、突然白手を貸せと言われても理由がわからない。 「・・・なんで?」 「だーかーらー、今日は司令のトコ行って賞詞もらわんといかんのだ。」 「・・・6級賞詞か?」 「あほぅ、俺は何も悪いこたしとらん。」 6級賞詞は賞罰の「罰」のことだ。賞も罰も貰うときの服装が同じ事から皮肉った造語である。 「じゃあ何かほめ... -
3
Cross over the Line 3 「・・・なんか聞こえないか?前の方から。」 さっきのアナウンスがあってから5分くらいが経過しようとしていた。 二人が座っているのは先頭の席なので、その前はトイレがあって、更にカーテン一枚を隔てた先がコックピットになっている。 通常コックピット内の物音は、防音設備が良いため客席側に聞こえないようになっているのだが、二人には妙な感の冴えがあって、何となく普通と違うざわついた様子が感じられるのだ。 機内アナウンスも、その後は何も言って来ない。 「だな。何か揉めてるみたいだけど・・・。やっぱり思った通りか・・・?」 「ん?誰か出てきたみたいよ、神さん。」 前方のコックピット部の扉が開いた事を示すように、客室との間の目隠しになっているカーテンがわずかに揺れて動いている。 「・・・どうか嫌な予感が的中しませんように。」 ... -
IF YOU WISH
IF YOU WISH 「失礼します。VIPの年次飛行に関する合議を頂きに参りました。」 と、飛行隊長の部屋に入ってきたのは、普段飛行隊では見かけない司令部の人間だった。手にはA4の用紙数枚が閉じられたバインダーを持っている。 その一枚目の紙には信じられないくらいの四角形が書かれていて、一番下から順に10個程のハンコが連なっていた。 飛行隊長の所にたどり着いたのがようやく昼過ぎだったから、彼はまだまだこれから半日かけてハンコを貰いに回る旅が続くに違いなかった。 こんな時、飛行隊長である神田2佐はいつも思うのだ。大変だな、と。 そしてなるべく穏便にハンコだけ押して、次の場所へコマを進めてやりたいと思っている。 だから、いつもならどんなスタンプラリーが来ても快くハンコだけ押して、内容に対しては突っ込みをいれたりはしないようにしているのだ。 だが、今回は少し違っ... -
爪
88title/no.55 爪 帰宅して、スーツの代わりにいつもの部屋着のスウェットに着換えようとしたら奇妙に指先が裏の布地のボアの部分に引っ掛かった。 無理に引っ張ったら着れることは着れたが、よく見てみると人差し指の爪が斜めに裂けてぶら下がっていた。 「栗~、『爪切り』・・・知らないか?」 ストーブで幾分暖まった部屋に、明日の分の食糧を買い込んで来た為に自分より遅く帰って来た栗原に向かって、勇気を出して聞いてみる事にした。 自分はと言えば台所に立ったまま、食事の用意をしながらドアの方を振り返ることも出来ずに声を掛ける、へたれ振りで。 「はぁ?、いつもの所に在る・・・だろう・・・。」 いつものように玄関先に荷物を放り出している事が音で分かる。 普通に返って来た言葉が末尾に行く程、不安を滲ませて語尾が濁る。 「お前また失くしたな!!」 多分、睨まれているだ... -
夏の日
夏の日 それは、心地よい初夏の日差しの中でのこと。 「てめぇ、何サボってやがる。」 場所は飛行隊横のグラウンド。やたらに広いこの基地には芝生の敷き詰められた原っぱがたくさんある。 けれど、そこは草が伸び放題に野放しにされていて良いわけでは当然なくて、当然ながら隊員たちの手によって定期的にキレイに刈り込まれているのが通常であった。 飛行隊総出での草刈の日。当然ながら普段は華麗に戦闘機を駆るパイロット達も例外ではなくて、キレイに雑草を刈る日なのである。 そんな中に、神田と栗原の姿もあった。 しゃがみこんで何やらゴソゴソとしていた神田が視線を上に向けると、そこには草刈鎌を片手に、何やら物騒な雰囲気の栗原が居た。 「げっ、なっ、なんだよぅ。何もサボってねぇぞ。」 「嘘ついてんじゃねぇよ、手が止まってるぞ、手が。」 右手に鎌を持つ栗原の背中には大きな麻の袋が... -
愛のカタチ
愛のカタチ その日、栗原と伊達の二人は都内の一等地にあるそこそこお洒落なダイニングで夕食をとっていた。 二人ともスーツ姿で、特に何の変哲もない服装だったのだが、長身で体格の良い伊達と、どこからどう見ても見栄えの点では申し分のない栗原との組み合わせなので、それなりに人目を引く。 「お前なぁ、いい加減に俺にタカルのはやめろよ。」 二人の前には小洒落た料理が並べられていて、グラスには高級そうなワインが注がれていた。 「なんで?いいじゃん、別に。たまには美味しいもの食べないとね。」 言いながら、栗原は非常に穏やかな表情をしている。 「旦那はどうしたんだよ、旦那は。」 電話があったのは今日の昼の事だ。突然に今晩ヒマ?と栗原から誘いをかけてきたものだから、伊達は二つ返事でその誘いに乗った。ほとんどの場合、伊達の方から声をかけることが多くて、そして栗原が誘いに乗ったとし... -
Pinup Girlのアヤマチ
Pinup Girlのアヤマチ 「行かないと言ったら行かない!何度言わせるんだ、」 それはある日曜の事だった。昼メシを街に出て食べよう、と主張する神田に、栗原は断固として反対の構えだ。 「えー、いいじゃんかよぅ。たまには外食くらいしたって。給料も出た事だしさー。」 「行きたきゃ一人で行けばいいだろ。」 「栗と行きたいんだよぅ。」 「…神田、俺が外に出たくねぇ理由を忘れたとは言わさねぇぞ?」 「あ。あはははは…。」 「笑ってごまかすんじゃねぇっ!!」 そう、この日栗原には街に出かけられない大変な事情があったのだった。 それは半年程前の出来事だった。 「お、なんでぇ、盗撮航空隊じゃねぇか。」 昼食から戻ってきた神田は、ショップの中に不審な人物が居る事に気が付いた。 と言っても、内輪の人間には違いないのだが、神田の所属する飛行隊... -
再会 ~A Hundred Miles~
再会 ~A Hundred Miles~ 「俺がここに来たのは、二つやらなきゃならん事があるからだ。」 神田を前にして栗原がそう切り出す。 そんな台詞が出るのははもう何度目かだ。大抵、神田が馬鹿なことをやらかした時に栗原はそれを言うことが多い。 「一つはこの基地を日本一精強にする事。もう一つは何だと思う?神田2佐」 「・・・わからん・・・いや、思いつきません、司令。」 そう訊ねられた時、神田は必ずそうごまかすようにしていた。 テーブルを挟んだソファに腰かけたまま神田を見つめる栗原の目が鋭く光った。 「それはな・・・、お前をまっとうな社会人に教育しなおす事だ。」 それは栗原が基地への初登庁の途中だった。 いや、正確には「基地司令」として赴任して、最初の出勤の日の事である。 その栗原を乗せたVIP用の官用車、所謂その黒塗りをゲートの直前... -
You are my destiny.
You are my destiny. それから結局丸一日は事後処理やら始末書の続きやらで、寝るヒマもないほどに忙しくて、それから栗原を見舞ってやれたのは二日後の事だった。 病室に入ると、栗原はベッドの上で上半身を起こして本を読んでいるところで、俺を見つけると軽く腕を上げて招く仕草をする。 「起きてて大丈夫なのかよ。」 また無茶をしてんじゃないか、と少し心配になりながら近づくと、 「傷のくっつきがいいからって、起きてる分にはいいんだってさ。多少腹筋に力いれてるほうがリハビリにもなるって言うし。」 と栗原は得意げにそんな事を言う。 「無理すんなよ。」 言いながら俺は周囲から預かった見舞い品を渡した。そして、 「何か居るものあるか?午後休み取ったから、何かあったら買ってくるし。」 とそう言ってやると、栗原は顔だけで笑いながら 「あー、別にいいや。ど... -
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Cross over the Line 1 「おぅ、ちょっと栗の印鑑借りるぜ。」 と、めずらしく飛行隊の事務室の方に現れた神田は、事務処理用に飛行隊全員分の印鑑が集められて収められているケースの中から栗原の印鑑を取り出した。 「あー、ちょっ、ダメですよ神田2尉。」 「るせーな、ちょっと栗の代わりにハンコ押すだけだからよ。」 「そんな勝手に・・・、また怒られても知らないっすよ?」 「るせぇ、借りてくぞ。すぐ返すからよ。」 と、強引に自分のと栗原のと2つの印鑑を手に入れて、神田はそこを立ち去る。 そして、ものの10分もたたないうちにまたそこに戻って来て、 「ほら、返すぞ。」 と言いながら、再び印鑑ケースのフタを開ける。 「神田2尉、ちゃんと元あった場所に戻して下さいね。後で整理すんの大変なんすから。」 「わーってらい。あ、俺が栗の印鑑借りてった... -
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Cross over the Line 1 「おぅ、ちょっと栗の印鑑借りるぜ。」 と、めずらしく飛行隊の事務室の方に現れた神田は、事務処理用に飛行隊全員分の印鑑が集められて収められているケースの中から栗原の印鑑を取り出した。 「あー、ちょっ、ダメですよ神田2尉。」 「るせーな、ちょっと栗の代わりにハンコ押すだけだからよ。」 「そんな勝手に・・・、また怒られても知らないっすよ?」 「るせぇ、借りてくぞ。すぐ返すからよ。」 と、強引に自分のと栗原のと2つの印鑑を手に入れて、神田はそこを立ち去る。 そして、ものの10分もたたないうちにまたそこに戻って来て、 「ほら、返すぞ。」 と言いながら、再び印鑑ケースのフタを開ける。 「神田2尉、ちゃんと元あった場所に戻して下さいね。後で整理すんの大変なんすから。」 「わーってらい。あ、俺が栗の印鑑借りてった... -
運命と呼ぶには
運命と呼ぶには 不覚だ・・・。 と、朝布団の中でそう後悔してももう遅い。 頭がガンガンと割れるように痛く、体は気だるさで動くこともできない。 何よりも寒くてガタガタ震えが来て、布団から出ることもできなかった。 昨日の帰りだ。 「神田、顔色悪いぞ?大丈夫か?」 と、俺の顔を覗き込んでそう言う飛行隊の先輩。 「いや、大丈夫っすよ。ちょっと今日の訓練でヤられたもんで。」 と適当に返して、そして俺はそのままアパートまで10キロの道のりを走って帰ったんだった。 ・・・小雨の降る中をだ。 気持ちよく汗をかいて、それで寝たはいいけど、どうやら思い切り風邪を引いたらしい。 せっかくの週末に、この分じゃ寝込んで過ごすことになりそうだ・・・。 とりあえず、布団をかぶりながらなんとか起き上がって、電話口まで這っていく。 飛行隊に電話をかけて、今日は休ませ... -
Take a Look at Me Now
Take a Look at Me Now その日の朝早く、千歳基地を後にした栗原は、午前中の早い時間帯に百里に帰り着いていた。 ターミナルからそのまま飛行隊に顔を出して、その日の課業を坦々とこなしていく。 栗原は、神田の居ないこの3日間の間に、溜まっていた仕事を片付けたり、職場や家の整理整頓をしようとしていた。神田が居ると、その相手をするのに追われてなかなか自分のやりたい事ができないからだ。 けれど、千歳行きという多少のハプニングはあったものの、そんな安息の日もとうとう終りに近づいていて、明日には神田が帰ってきてしまう。 結局その日、栗原が仕事を全部終えたのはもう夜も遅くなってからで、着替えてショップの出勤札を反しに来た時には当直しか残っていない。 そんな時、丁度栗原の近くで電話が鳴った。 時間外の電話を取るのは当直の仕事だったが、栗原がその方向を振り返ると... -
空の王様
空の王様 「成績が良くないな・・・。」 「あ?何が?」 ぼそっと栗原がそう言うのに、神田は出されたお茶をすすりながらそう聞き返す。 ここは某基地の基地司令室。その隅っこの革張りのソファの上で神田は勝手知ったるとばかりにくつろいでいる。 「戦競だ、戦競。お前ちゃんと訓練させてんのか?」 めずらしく栗原の機嫌がよろしくない。 来週に本番を控えた航空団対抗の戦技競技会に向けた予行演習での結果が芳しくないのだ。飛行隊を2つにわけた紅白戦でそれぞれ撃墜に要する時間とそれに至るまでの機動飛行の腕前を競うのだが、司令である栗原のもとに届けられた資料を見る限り、とてもトップに立てるとは思えないのだ。 「なんだよー、栗。お前そんな事言うのに俺を呼んだのかよ。」 「ったり前だ!俺が茶飲み友達を探すのに、わざわざお前を呼ぶとでも思ってるのか?」 「いつもはそうじゃん・・... -
二世問題
二世問題 「な、栗。大丈夫だ、お前に不可能はない筈だ!」 「馬鹿言ってんじゃねぇ!あっちいけこのボケがっ!!」 根拠のない説得をしつつジリジリと迫ってくる相棒から、栗原は必死で逃げ回っている。 二人が居る場所は、課業終了から幾分時間の過ぎた誰もいないブリーフィングルーム。部屋の中央にある10人は座れるくらいの大きな会議机の周りで、二人はくるくると右に左に追いかけあいっこをしている。 そもそもの始まりは夕日がラッパがなる直前のこの部屋での飛行隊のメンバーとの他愛のない会話から・・・・。 「男が生まれたら、将来は戦闘機乗りだな。」 「あ~、その頃にはイーグルだな。」 「いや、更に最新鋭のものごっついのが配備されてるかもしれねーぞ。」 来月に新妻が臨月を迎える隊員を囲んで、みんな好き勝手にものを言っていた。 話題に火をつけたのは神田2尉の心な... -
体温
88title/no.39 体温 ぼんやりと明けている空を感じながら、目を開けるのが嫌でまぶしさを避けるようにして布団の影に潜り込む。 モソモソと頭を埋めるとじんわりとした温みを感じてその温さに身体を摺り寄せていった。 「ぷっ。」 ぷ? 頭の上で発せられた自分ではない声を知覚して、その擦り寄って行った場所が小刻みに揺れている事を自覚してやっとその場所がいつもの自分の寝床でないことに気付いた神田だった。 「おはよう、神田二尉。」 「・・・え?へ・・・?」 バカの様な声が口から出たまま、しばし呆然とその状態のまま神田は固まっていた。 目の前にはパジャマの胸、肘を付いて頭を支えた形でサングラスを外した栗原が俺の顔を見たまま笑っていた。 瞬時に忘れていたハズの夕べの記憶が一気に戻って来て青くなる。 確か1件目は着任祝いだからと嫌がる栗原を無理矢理連れ出し、メシ喰いな... -
THE RECON FRIGHT
THE RECON FRIGHT 「神さん・・・何してんだ??」 そこはいつものロッカールーム。ロッカールームは2階の一番隅にあって、中には個人用のロッカーがいくつも並んで迷路のような通路を作っていて、そして壁一面にもぐるりと取り囲むようにロッカーが並んでいるだけの殺風景な部屋だ。 明かりをつけなければ、昼間でもかなり薄暗い。 窓は天井近くに明り取りの横に細長いのが外に面した壁についているだけだ。 風も通らず、空調設備も行き届かないこのロッカールームは梅雨の季節でなくてもカビの温床となって、隊員達を悩ませている。 栗原が驚いた声を出したのも仕方のないことで、神田はそんな唯一僅かながらも、風通しと日光とをもたらしてくれる窓を分厚い暗幕で塞ごうとしているのだ。 「お、栗か。見てないで手伝え。」 「気でも狂ったか??なんで暗幕なんか・・・。」 栗原は呆れ顔で... -
問わず語り
88title/no.16 問わず語り 「いちいちうるさいんだよ!大体よお、お前は俺の何だっつーんだよ!」 きっかけは何だったのか、もう思い出せない。 ふとした相手の言い草に気が立って、言い返した台詞は 自分でも言うつもりの無かった言葉。 普段なら笑って許せるのに、その時だけは 許せなかったのは、お互い気持ちに余裕が無いからだろうか? 激しい感情の発露の後、神田は髪をくしゃくしゃと掻き毟って言った。 「栗よお、・・・俺が重荷になってるってんなら、もうほっといてくれよ」 「重荷だなんて言ってない。少しは自立して欲しいだけだ」 「自立しろだと?じゃあ、もう俺にはかまうなよ。元々一人で やれてたんだからよ」 「・・・何も其処までしろって言ってるんじゃない。出来る範囲で良いからって・・」 「その見下すような言い方は止めろよ」 神田... -
運命の糸車
運命の糸車 「お、無事復活してきたな。」 結局週末一杯を寝て過ごして、ようやく調子が戻って職場に顔を出した俺を見つけて最初にそう言ってきたのは栗原だった。 「あぁ、お蔭さんでな。助かったぜ。」 せっかくの週末を半分程俺の為に潰してくれた栗原だ。一応の礼は言っておく。 すると、 「別にお前の為にしたわけじゃねぇよ。もう来週は戦競だしな。風邪治ったんなら、気合入れていくぞ!」 俺から礼を言われた事に照れたのか、それをごまかすようにそう言った栗原だったが、俺はまだその時栗原の様子がいつもと違うことに気づいていなかった。 それに気づいたのはその日のフライトが終わった後のことで。 訓練後のデブリーフィングをしながら、次第に栗原の顔が青ざめていくのに気づいた俺は、それでもちょっと疲れがたまっているくらいだろうと安易に考えて、 「ん?どった?調子悪そうだな、栗。... -
平行回路
平行回路 「なー、伊達。さっきの写真くれよ。」 「アホ、あれは俺んだ。誰がお前なんかにくれてやるかよ。」 「えー、ケチ。いいじゃん、写真の一枚や二枚・・・。」 と、「すすきの」までは程近い札幌市内の飲み屋で、まだ夜も暮れないうちから飲みモードに入りつつおおはしゃぎしているのは、言うまでもなく神田と伊達の二人だった。 「くれたら、俺の秘蔵の『栗ちゃんお着替えシーン』の写真をやる。」 と、どこかで話題にされている当人が聞いていたら、激しい制裁をくらいそうな会話をかわしながら、次第に酒の量も増えていき、日も暮れて周囲は仕事帰りのサラリーマンで一杯になってきている。 「混んできたな。」 「そろそろ出るか。」 「次はどこ行くんだー?」 と、そうなるともう神田は遊びモードに入っていて、伊達に次の店の選定を求める。 「そーだな、ひと汗流すのはもうちょっと後に... -
LAST FLIGHT
LAST FLIGHT 「とうとうこれで最後だな。」 おそらくは飛行服に袖を通すのもGスーツに体をしめつけられるのも、そして、戦闘機の操縦桿を握るのも今日が最後になる。 明日が彼の定年退官の日。 そして今日はその彼が人生最後のフライトを行う日なのだ。 「隊長、準備が整いました。ハンガーの方に移動願います。」 そう言って、まだ若いパイロットが彼を向かえに来る。 「あぁ、すぐ行く。」 (30年か・・・。長いようで短かったな。) パイロットとして一人前になってからの年月を彼は振り返る。何度も死線を潜り抜け、時に褒められ、時には上官からこっぴどく怒られ。 いつからか編隊長として部下を従えて飛ぶようになり、一時は戦闘航空団を離れて、テストパイロットとして何種類もの航空機に搭乗したりもした。操縦課程や機種転換課程の指導教官もやった。 そして、再び思い出深い... -
Secret Base
Secret Base 「今日は風がきついな。」 それは二人して基地の外周をジョギングしていた時の事だった。 丁度ランウェイのエンド付近を通り過ぎる場所で、周囲はだだっぴろく開けていて、その強い風を遮るものは何もなかった。 その先には大きな窪地があって、それを避けるように外周道は大きく基地の外柵の方向へ曲がっていく。 「うわっ…と、やべ。」 それまで栗原の体一つ分くらい前を走っていた神田が、そう言って大きく外周道を反れて窪地の方向へと下っていった。 見ればその先に白い細長いものが風に煽られて、地面から浮いたり転がったりしながら神田の2~3メートル先を舞っていた。 どうやら神田が首から掛けていたタオルが風に煽られて、吹き飛ばされたらしい。 仕方がないので、栗原も足を止めて神田がそれを無事に捕獲して戻ってくるのを待つ事にした。 神田はなかなか戻って来な... -
桜の花の咲く頃に・・・
桜の花の咲く頃に・・・ 春の日差しが心地よい休日の朝、千歳航空隊のエースパイロットを自認する伊達五郎は人肌の温もりの中で目を覚ました。 「んー、いい朝だ。っと・・・。」 だが辺りを見渡すと見慣れたような見慣れない部屋の風景で、絶対に普通ではありえないラクダ色の毛布にくるまっていた。 どこだ?基地の中だ。営内の一室には間違いない。伊達はとっさに考える。 だが、昨夜の記憶があいまいだ。千歳は桜の咲くのが遅い。散り際の最後の桜を楽しもうと、飛行隊をあげての花見でさんざん飲んだくれたあげく、飲み足りないからと言って残った酒を手に幹部隊舎に住んでいるパイロットの部屋に押しかけ、あがりこんで、ほんとはやっちゃいけない部屋内の酒盛りをはじめた・・・ところまでは記憶があった。 こうやってベッドに寝ているということは、誰かが気を利かせてあいてるベッドに自分を運んでくれたんだろう、と... -
告白のジジョウ(事情・自浄・二乗)
88title/no.23 告白の二乗 この場所を見つけた事は偶然だった。 春の春とは思えない程の暑さに怯みつつ、照り返しも厳しい昼下がり書類を届けに行った帰りに飛び込んだ日陰。 どこからやってくる風かなのか、頬を撫でられて人心地付く。 そのまま誘われるように歩いていると、ぽっかりと空いた空間に出た。 それが貯水タンクの影になる場所だと気付いたのは、ずいぶん経ってから。 そしてそこが秘密の告白スポットだと知ったのは、更に数週経ってから・・・。 めっきりその場所を自分の昼下がりの特等席と、勝手に決めてからだった。 やって来る人影に慌てて、タンクと併設されている建物に付いている足掛かりを登ってその屋根に張り付いていたら・・・更に人影がやってきて動けなくなり。 「付き合って欲しい。」 そう下にいる人物が喋った時には何を聞いたのか分からなくて、しばらく考えた程... -
Because I Love You......
Because, I love you...... 休日前のある日の夜の事、さっぱりと風呂から上がった栗原は畳の上に信じられない光景を見た。 それは、なぜか旅館よろしく二枚ぴったりとくっつけられた敷かれた布団である。 誰の仕業か、なんて事は考えるまでもない。そもそも、 「栗ー、布団敷いといてやるからなー。」 なとど珍しい事ののたまわったのは、ほかでもない神田であった。 「・・・神田・・・。何だ?コレは・・・。」 「何って、布団だろ?」 「んなこたぁ、わかってる。なんで二枚くっついてるんだ?」 声を荒げたい気持ちを抑えながら、栗原はゆっくりと確かめるようにそうたずねた。 「んーと・・・。一緒に寝ようぜ?」 神田からは栗原が予想したとおりの答えが返ってくる。 「・・・遠慮させてもらう。」 「えー、いいじゃん。俺は栗と寝たい。」 端から聞... -
衝動 -The Winter Moment-
衝動 -The Winter Moment- 「あーあ、また潰れてるよコイツ。」 「しょうがない、ピッチが早かったからね、随分。」 やれやれ、といった感じで伊達と栗原は神田をはさんでそんな会話をしていた。そこは札幌市内の深夜までやっているバーのカウンター席で、神田を挟んで左に伊達、右に栗原が座っていた。 栗原は苦笑しながら、外套をとってカウンターに突っ伏している神田の肩にそれを着せ掛けた。それから、自分のグラスを手にすると、伊達の左隣の空いている席へと移動する。 スツールに腰かけると、ほとんど空になっていたグラスの残りを飲み干して、2杯目をオーダーする。 「お、めずらしく飲むねぇ。どしたの?栗ちゃん。」 と、伊達がからかうのに、 「俺だってたまには酔いたい。伊達が居るなら平気かなって思って。」 と栗原が牽制する。 「バカ言うなよ、俺が一番あぶねぇぜ... -
運命の予感
運命の予感 「てめっ、この野郎優しくしてりゃいい気になりやがってっ。」 「・・・分不相応な期待はするもんじゃないって事だな。そっちこそいい気になるんじゃないよ。」 「なんだと・・・。」 と、誰も居ない筈のブリーフィングルームからそんな声が聞こえてきて、それから激しく何か重量のあるものが床に叩きつけられる音がした。 「ってぇな・・・。上等じゃねぇか・・・。」 それは多分、人間の身体が叩きつけられた音で、でもそれからすぐに、何かアルミのパイプの様なものが、いくつも音を立てて散乱する音が聞こえた。どうやら、パイプ椅子がいくつも倒れたらしい。 「ちっくしょうっ。」 と、そんな声がしたかと思うと・・・、 ブリーフィングルームの扉が開いて、1期上のパイロットが左腕を押さえながらそこから出てくる。顔をしかめているのを見るとどうやらそこに怪我でもしているらしい、顔もど... -
DISTANCE~百里~
DISTANCE~百里~ 「あー、やっと終わった~。」 あちこちでそんな声が聞こえる課業後の1700、ラッパの吹奏音が終わるや否や、バタバタと帰り支度を始める隊員達の姿が見える。 「栗原2尉、まだ帰んないですか?」 そんな中、数冊の書類の束を抱えてブリーフィング用のテーブルの席に着いた栗原に、隊員から声がかかった。 「あぁ、神田が居ない間にデスクワークを片付けちまおうと思ってさ。」 言いながら、ページを開き、せっせとそこに文字を埋めて報告書を作りあげていく。まるで頭の中にその完成形が出来上がっているかのように、それはスラスラと進んでいく。 「まーた、神田さんの分まで書いてるんですか。甘やかすの良くないですよ。」 とそう言うのは水沢だった。 「神田が居ないんだからしょうがないだろ。」 甘やかして、の部分に反応して、栗原はちょっとムっとしたように水沢の... -
Winding Road
Winding Road 「栗原・・・、お前今何キロで走ってるかわかってっか?」 と、助手席の伊達が尋ねる。 「プラス24キロぴったり。」 「俺が急いでるって知ってるよな?」 「無理言いなさんな。俺は公務員なわけよ。罰金と反則金のギリギリラインで走ってんだ、これ以上は無理よ。」 「この道でこの時間に取り締まりやってっか?」 「やってたらどうするんだ。年末だぞ?」 「やってねーだろう。」 そんな会話がかわされているのは国道355号線、丁度霞ヶ浦を千葉方面に回り込む道路だ。運転席は栗原、助手席に伊達、めずらしい組み合わせで乗用車は一路成田空港を目指していた。 神田の姿は後席にあって、うつぶせにリアシートに体を投げ出したまま動かない。かなりぐったりしているようだ。 車は中途半端なスピードで千葉方面に向かっている。 明け方のまだ薄暗い時間。海の方向... -
比翼
88title/no.02 比翼連理 もしも前世と言うものがあって もしも来世と言うものがあって そのときに一緒だったら そのときも一緒だったら なんて そんなことは今は言わないでいてください 決まっているじゃないですか いつまでもいつまでも どこまでもどこまでも ワタシはアナタと アナタはワタシと ずっと一緒の運命にあるんだって… 2004.07.11 ゆーば -
BBS-BBS/4
ちと滞り中。 -- あきら 2005-11-23 00 06 52 スマソ、会社がドンパチやってるもので、ちと身動きがとれん。 週末あたりに、各無頼サイト様(88題絡んでたあたり)にリンクのお願いに回る予定です。 回るまでもなくいいよーって方はご表明よろしこ。 88題の改造(見やすく)も同時期にて。 ご意見ご要望はここへ。 でも、基本的に改装~新規作成までご自由にドゾ BBSの書き込みを全部ずらずらと表示させる方法って無いですか? -- お (2005-11-25 07 26 04) すまそ、ないと思われ。・・・BBS様式そのものがオプションなので・・・。その分、Wikiに慣れていただければ、使いこなせるのではないかと・・・。(難しい事は放置、すまそ。) -- akr (2005-11-26 00 40 10) ... -
瞳を閉じて
88title/no.79 瞳を閉じて 基地を出て、近くのアパートまで歩く。いつもの道のり。 そこへ最近、基地からアパートまでのその間に楽しみが加わった。 近所のガキどもの目隠し鬼からヒントを得たものだった。 子供の遊びはいつも変化する。 でも、変化しない遊びもある。 目隠し鬼。 それもその一つ。 最初はじゃんけんで負けた奴が目隠しをして、他の逃げた奴らの声だけを頼りに捕まえる。そして捕まってしまった奴が次の鬼になるのだ。 閉鎖的空間ならそれも楽しい。 とにかく「見えない不安」から脱出できるのだから、それだけでも自分とは違う人間を捕まえるのは安心する。 子供たちが楽しそうに遊んでいるのを見かけた。公民館の中できゃあきゃあ楽しそうな悲鳴をあげて逃げ回る子供たち。 それを見ながら栗原がボソッと言った。 「俺、そういやあんな遊びしなかったなあ・・・」... - @wiki全体から「うつろわぬものの名」で調べる