680 @Wiki内検索 / 「アパート」で検索した結果
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瞳を閉じて
... 基地を出て、近くのアパートまで歩く。いつもの道のり。 そこへ最近、基地からアパートまでのその間に楽しみが加わった。 近所のガキどもの目隠し鬼からヒントを得たものだった。 子供の遊びはいつも変化する。 でも、変化しない遊びもある。 目隠し鬼。 それもその一つ。 最初はじゃんけんで負けた奴が目隠しをして、他の逃げた奴らの声だけを頼りに捕まえる。そして捕まってしまった奴が次の鬼になるのだ。 閉鎖的空間ならそれも楽しい。 とにかく「見えない不安」から脱出できるのだから、それだけでも自分とは違う人間を捕まえるのは安心する。 子供たちが楽しそうに遊んでいるのを見かけた。公民館の中できゃあきゃあ楽しそうな悲鳴をあげて逃げ回る子供たち。 それを見ながら栗原がボソッと言った。 「俺、そういやあんな遊びしなかったなあ・・・」 「栗さんしたことないの?」 神... -
そこにあった運命
...っていうからさ。外にアパートでも探すつもりでいるんだが、なかなか思うような物件がなくてさ。」 「アパートねぇ・・・。」 と俺がどうでも良さそうに答えると、栗原はパタンと手にしていたファイルを閉じて、 「神田、悪いんだけど俺荷物運ばなきゃならんから、先に抜けるわ。」 とそう言うから、 「あ、じゃあ手伝ってやるよ。」 と俺はそう答えた。 だけど、 「いや、大した荷物はないから。」 と拒まれる。 拒否されると、なんとなく意地になってしまうものだ。 「ない、って言ってもダンボールの一つ二つじゃ済まんだろう。いいから、俺にまかせろって、力だけならお前には負けんさ。」 腕に力こぶまで作って見せてそう言ってやると、 「・・・じゃあ手伝ってもらうかな。」 と仕方なさそうに栗原はそう言って立ち上がった。 「ホントに荷物なんてほとんどないんだけ... -
栗
...しも傾きかけた時刻、アパートに戻った栗原を出迎えたのは コタツの上にこんもりと盛られた栗と、その前で思案顔の神田だった。 「神さん、何それ」 「栗」 「んな事みれば分かるって。どうしたの?」 「貰った」 「誰に」 「大家のおばさん」 そういえば数日前、外れかけた雨戸を直す手伝いをしたのを思い出した。 そのお礼という事なのだろう。 「そいで、どうしてそんな顔をしているんですか?」 「う、うーん・・・どうやって食べようかなって」 深刻な顔とは裏腹の単純な答えに、栗原は小さく笑った。 「イガと皮を取って、あく抜きをして、それからでないと食べられないよ」 「ええ?そんなにめんどいの?」 肩を落とす。 「俺、小さい頃、生で食ってたぜ。裏山に野生の栗の木が生えててさあ」 「ゴリラなら生でも大丈夫でしょ」 「て、てめ」 ... -
88題(構築中)
...:着地? 010:アパート? 011:花束? 012:意味? 013:新聞配達? 014:憧れ? 015:滑走路? 016:問わず語り 017:うつろわぬものの名? 018:ロックオン? 019:破壊衝動? 020:二律背反 021:音も起てずに? 022:風の唄声? 023:告白のジジョウ(事情・自浄・二乗) 024:高く叫べ? 025:シブロク(四割六割)? 026:巷(ちまた)の石ころ? 027:這いつくばっても? 028:宙(そら)に瞬? 029:背骨(バックボーン)? 030:睫毛の先 031:時雨? 032:タンデム 033:Get to go Real? 034:行けど戻れど? 035:福音 036:美味しい時間 037:余韻 038:顔をあげて? 039:体温 040:二死満塁 0... -
美味しい時間
「ふわー」 「あー疲れたぁ」 アパートに戻って、神田がまずする事といえば 窮屈な制服を脱いでゆったりとした普段着に着替える事だ。 その間栗原はというと、制服の上着を脱いでネクタイを解き ワイシャツの袖をまくって流しに向かう。 手早く米を研いで炊飯器にセット、スイッチを入れる。 「神さん、今日は天気がイマイチだったから、厚手のスウェットなんかは 乾いてないと思うんだ。だから鴨居に掛けておいて」 「あいよー」 一足先に普段着に着替え終えた神田は洗濯物を取り入れる。 最初は抵抗があったが慣れてしまえば簡単なことだ。 その間栗原は冷蔵庫の中を覗き込み、野菜や肉を素早く選び出す。 と同時に鍋を取り出して水をいれ、煮干を入れて火をつける。 その動きはてきぱきと無駄が無い。 洗濯物を畳み終えた神田はその姿をじっと見詰めている。 ... -
They Say "All's fair in love and war."
...田と栗原が住んでいるアパートは防衛庁の借り上げだ。全部の部屋が同業者で埋め尽くされていて、そして基地からの専用線と非常サイレンが設置されている。 そのサイレンが赤い回転灯とともに鳴り響いているのだ。 そして、 ジリジリジリジリジリ 非常を告げる警報とともに部屋の電話が鳴る。 「はいっ、神田ですっ。」 飛び起きて受話器を先にとったのは神田だった。 「・・・・・・・・・了解!」 と受話器を置いて栗原のほうを振り返る。 「栗、百里基地訓練非常呼集!0400iタイム、デフコン3!」 と、栗原のほうはもうすでに起きて制服に着替え始めているところだった。そして 「あいよっ。」 と、神田の方に制服を投げてよこす。 「先に出てるぞ。」 と着替え終わった栗原は車の鍵を持って飛び出していく。アパートの駐車場に停まっている車のうち、出て行った車はまだ... -
運命と呼ぶには
...、そして俺はそのままアパートまで10キロの道のりを走って帰ったんだった。 ・・・小雨の降る中をだ。 気持ちよく汗をかいて、それで寝たはいいけど、どうやら思い切り風邪を引いたらしい。 せっかくの週末に、この分じゃ寝込んで過ごすことになりそうだ・・・。 とりあえず、布団をかぶりながらなんとか起き上がって、電話口まで這っていく。 飛行隊に電話をかけて、今日は休ませてくれ、と連絡をいれた。 昨日、せっかく栗原に睨まれながらたてた訓練計画だったが、もう今日は這って出勤したところで飛べる体調じゃない。 電話を切って、また這うように布団にもどり、そのまま目を閉じた。 それから目を覚ますと、日がもう随分高く上っていて、時計を見ると昼過ぎだった。 頭痛と、熱からくる気分の悪さで食欲なんかはなかったが、それでも早く治すのには何か食わなきゃ、と思ってヨロヨロと台所に向か... -
イニシアティブの居場所2
... 二人の住んでいるアパートのドアが勢い良く開けられて、そして揃って帰宅した神田、栗原がその敷居を跨いだ。 先に玄関から部屋に上がった神田は、よほど疲れているのか、そのまま畳みの上にへたり込んで動かなくなってしまう。 「神さん、靴くらい揃えてから部屋に入れって、いつもいってるでしょうが。」 と、神田の行儀の悪さをいつも見咎める栗原も、今日は相当疲れているのか、それ以上小言を言うのも煩わしいとばかり、自ら神田の分も靴をそろえて、投げ出されている制帽を拾い上げて玄関の所定の場所に置いてから、神田に続いて部屋に上がった。 「おや、相当お疲れのようで。何か飲む?」 「ビ・・・ビール・・・。」 「はいはい、一昨日のうちに冷蔵庫に入れておいて良かったね。」 その前日の朝は訓練非常呼集で朝早くから呼び出され、そのまま日中の課業を終えて更にアラートについた後、またそのまま... -
Lock on, Fire!
...の秋口、1DKの古いアパートは室温調節がなかなか上手くいかない。朝晩は随分と冷え込むようになったけれでも、コタツやストーブにはまだまだ早すぎる。百里の冬は寒いのだ。 「いや、たいした事はないでしょ。明日にゃ治ってるよ。」 「そだな~、明日はフライトだかんな。」 神田と栗原が同居を始めてからそろそろ1ヶ月が過ぎようとしていた。 引越しが終わったばかりの雑然とした感じがようやくなくなり、必要最低限の家財道具があるだけのシンプルな構成の部屋になっている。「どうせ、帰って寝るだけ」の部屋だからと二人して何も持ち込まなかったからだ。 「神田、そっち片付けておけよ。そろそろ客が来るぞ。」 さっきまで神田が寝転んでいたあたりに散乱している週刊誌や灰皿を指差して栗原が言う。そう言っておいて栗原は玄関周りの掃除を始めた。台所周りはさっき洗い物をした時にとっくに済ませている。家事... -
運命の予感
...の日は丁度借りていたアパートが断水で、いつもはいかない隊員浴場で風呂だけでも入って帰ろうと、そこに出かけたのだった。 普通は営内居住が義務付けられている若い下っ端の隊員しか居ないのだが、丁度入っていくといつも俺の機の整備をしてくれている士長が居て、俺に声をかけてきてくれた。 「神田2尉、めずらしいですね。」 「おぅ、部屋の風呂が断水でさ。でもたまにはいいな、ココ。広いしさ、サウナ付きでさ。」 「幹部浴場のほうがゆっくり出来るんじゃないですか?」 「いやー、ホラだってあそこ、狭いし汚いし、たまに司令とか入ってるし。」 と、そんな事を言ってると、 「神田じゃねぇか。」 と、後ろの方でそう呼ぶ声がして振り返ると、 「おぅ、お前も居たのか?」 声をかけてきたのは偵察飛行隊に配属になっている航空学生時代の同期だった。 「なんでぇ、BOQ組もこっちに入... -
体温
...神田を詰め込み自分のアパートまで帰って来たのだった。 「いいや?別に。」 わざわざ言ってやる気も無いので、取り敢えずは笑いを引っ込めて真面目な顔を作ってやる栗原の顔をいぶかしむ様に見上げてくる神田。 「ホント?」 「ホント、ホント。 ああ、そう言えば裸踊りしようとしたぞお前。」 「ああ~~~~~~~っっ!!」 言われた台詞に神田は頭を抱え込んだ。 「いつもあんなのなのか?お前って?」 「いや・・・人が言うには、物凄くテンションが高い時にやっちまうらしい・・・。」 妙に納得している栗原の顔を見ながら、ふと腕に入ったままの腕時計に目が留まった。 「何時なんだ?」 「ん?もう10時前だな・・・起きるか?」 今日は一日休みだから別に時間は気にしなくて良い。 それに合わせて飲みに出るのが常識だからだ。 「・・・あ・・・そう言えばココ、栗原んち?」 「他、何処へ... -
Pinup Girlのアヤマチ
...たようだった。 アパートの駐車場から車のエンジン音が聞こえて、そしてそれはすぐに発進していく。けれど、ものの数十分程で、またそのエンジン音が駐車場に戻ってきた。 それから外階段をドタドタと駆け上がってくる音がしたと思ったら、扉が開いて神田が部屋に駆け込んでくる。 「栗っ、大丈夫だっ。もうポスターなんざ一枚もねぇから。」 「え?」 布団の上でウトウトとしていた栗原は神田の言いたい事を一度には理解できずにもう一度聞き返す。 「だからー。もう街中どこにも栗の写ったポスターはないよって。」 「ほんとか?」 「そうそう、んで別のポスターになってた。普通にオッサンが写ってる奴。」 「よ、良かった…。」 と栗原は安堵の表情を浮かべる。そうなれば現金なもので、 「買い物にでも行くか。晩メシ用の買出しもしなきゃなんねぇしな。神さん、何食いたい?」 と表情... -
衝動 -The Winter Moment-
...すら酔っ払って自分のアパートの扉を開いた。畳の部屋に突っ伏すようにしてそうつぶやくと、どこからか、水で満たされたコップが差し出される。 とりたてて疑問も持たずにそれを受け取ると、伊達はそれを一気に飲み干した。 「おかわりは?要る?!」 その瞬間に、語気の強い声が聞こえていて、伊達ははっと我に帰った。 「・・・栗原っ?」 そこには相棒の栗原が居た。 仕方なさそうな顔をして、水で満たされた別のグラスを手にしている。 「くれ。」 そう言って伊達はそれを奪うように手にして口をつけると、これもまた一気に飲み干してしまう。 「飲みすぎだ、伊達。いくら最後だからって・・・。」 そう、その日は伊達が退官していく少し前で、最後の記念飲み会だから、と伊達は仲間達から散々に飲まされてそして潰された。 正確には潰されかけたのを何とか泥酔だけはしないように持ちこたえ... -
キミの居る場所
...昨日の夕方からだよ。アパートの断水が復旧しなくってさ。風呂にも入れないし、どこに行こうかと思ってたら、貰ったキーホルダーにここの鍵がついてたから。」 と、そう言われて、伊達は先日栗原に贈ったキーホルダーの事を思い出した。 その時は神田も一緒で、栗原と三人で飲んでいた時の事だ。 栗原が財布を出そうとして、その瞬間に金属音が響いてそのポケットから鍵が数個床に散らばった。 「あー、これバカになってるよ。」 と、そう言ってその時使っていたキーホルダーを栗原がポケットから取り出すと、確かにその鍵の止め具の部分がグラグラになっている。 またそこに鍵を戻しても、どうせすぐに外れてしまうだろうからと、伊達はその時たまたま持っていたこのセカンドハウス専用のキーホルダーを栗原に渡したのだった。 その時、この部屋の鍵は、マンションを購入した時に付いていた鍵が二つとも付けられたま... -
DRASTIC BETTER HALF
...いつもと同じく一緒にアパートまで帰りついた。 そして栗原が風呂をわかして食事の支度をしている間に、神田がお膳のある部屋の片付けだとか、奥の部屋に布団を敷いたりだとか、細々とした役割分担をしていて、それもいつもと同じ光景だった。 「神さん、風呂沸いたよ。先入っていいよ。」 と風呂の様子を見てきた栗原が台所からそう声を掛けると、 「んー、わかった。」 と畳みの上に座り込んで手持ち無沙汰に夕刊をめくっていた神田は、それを置いて立ち上がった。 しばらくして神田が体から湯気を立てながら風呂から戻ってくると、そのタイミングを見計らっていたのか、食卓の上には冷えたビールとグラス、それに軽くビールに合いそうな常備菜と箸が沿えられていて、 「じゃあ俺も風呂入ってくるから、それで先にやってて。」 と、栗原が手を拭きながら台所から現れた。 しかし、行儀悪くトランクス一枚... -
One Night Celebration
...だいまー。」 とアパートの扉がいきおいよく開けられて神田が帰ってくる。 「お帰り、神さん。」 その声に、栗原はエプロン姿のままで玄関まで行って神田を出迎えた。もちろん、それは神田を喜ばせるためではなかったのだが、 だが、神田の方はそうやって出迎えてくれた事がうれしかったらしく、得意満面で、 「ちゃんと全部やってきたぞ。」 と聞かれる前に自分から仕事の成果を伝えた。 「当たり前だ、そんなの。」 そんな神田にちょっと憮然とした態度でそう言った栗原だったが、やがてニッコリと笑うと、 「良かったよ、ここで叩き出さずに済んで。」 とそう言いながら神田から鞄を受け取った。 もちろん、神田の報告書書きが終わってなかった場合、玄関から一歩も中に入れるつもりのなかった栗原だったが・・・。 「もう用意できてるよ。どしたの?」 なかなか玄関から動こうとし... -
二律背反
...うだった。 アパートの階段を下りていく足音がする。 聞きなれた音が途絶え、その瞬間に栗原は足から崩れ落ちた。 頬を涙が伝っている。あまりの衝撃に対し、人間は何も反応できなくなるのだと痴呆の様に考えた。 「神さん、神田、神田・・・・」 狂ったようにドアを叩きながら、栗原は神田の名を呼び続けた。 失った物のあまりの大きさを今身をもって思い知らされた。 各務原に行かなかったのは、栗原としては遠慮をしているつもりだった。 ただでさえ百里基地内では興味本位の噂が飛び交っているのを知らない彼ではない。 神田はあのとおり能天気だから、平気で人前で栗原を抱きしめたり「愛してる」と口走ったり していたが、その影響についてまでは考えていなかった事だろう。 百里基地、302飛行隊680号機のパイロットとナビゲータの不思議な関係は 興味本位であれなん... -
イニシアティブの居場所
イニシアティブの居場所 「なぁ、神田。念のため一つ確認したいんだが・・・。」 と、上空1万フィートで栗原がそう切り出した。 もちろんそこはファントムのコクピット内で、会話はマイクロフォン越しだ。 「何だ?」 と、神田が返す。 「・・・ルートはこれで合ってるんだろうな?」 キャノピー越しに見える景色は丸い水平線だ。上は空、下は海、地上からは随分と離れてしまっている。 訓練項目の関係で、めずらしく栗原が前席に居て、後席には神田が入って航法を担当している。 「お前は俺が信用できんのか。そっちからでも方位計を見ろ、方位計を。」 「方位計もレーダーも全部確認してるさ。でもなぁ・・・なんかルート選択がイマイチ・・・。」 「るせぇ、栗。ごちゃごちゃ言ってないで、言われた通り飛べばいいんだ。それに勝手に高度下げてんじゃねーよ。」 「だって、ほら。今朝のウ... -
Secret Base
Secret Base 「今日は風がきついな。」 それは二人して基地の外周をジョギングしていた時の事だった。 丁度ランウェイのエンド付近を通り過ぎる場所で、周囲はだだっぴろく開けていて、その強い風を遮るものは何もなかった。 その先には大きな窪地があって、それを避けるように外周道は大きく基地の外柵の方向へ曲がっていく。 「うわっ…と、やべ。」 それまで栗原の体一つ分くらい前を走っていた神田が、そう言って大きく外周道を反れて窪地の方向へと下っていった。 見ればその先に白い細長いものが風に煽られて、地面から浮いたり転がったりしながら神田の2~3メートル先を舞っていた。 どうやら神田が首から掛けていたタオルが風に煽られて、吹き飛ばされたらしい。 仕方がないので、栗原も足を止めて神田がそれを無事に捕獲して戻ってくるのを待つ事にした。 神田はなかなか戻って来な... -
Fragile Eternal
Fragile Eternal 「神さん、8時だぜ。」 「あ?…あぁ。」 「どしたい、ぼーっとして。待機終了だ、お疲れさん。」 睡眠不足なのか疲れからなのか呆けている神田の肩を、栗原はそう言いながら軽くたたいた。 と、その時二人の居る部屋の扉が開いて、Gスーツに救装品をつけてヘルメットを小脇に抱えた一団が入ってくる。 そこはアラートハンガーで、丁度アラート待機の上下番のタイミングだった。 そう、二人はアラート明けなのだ。 それも、本日二回目のアラート待機だった。 この所日本国の領空には彼我不明機の往来が激しかった。日本が同盟国と共に推し進めている新防衛大綱に基づく防衛施策が気に入らないのだろう。 それに抗議するかのように連日連夜、領空侵犯スレスレの航行機が出現する。 そのほとんどは冷やかし、というよりも国家間での揺さぶり行為の一つな... -
Love the Island...
Love the Island... 「神さ~ん、百里降りれないってよ。どうするよ?」 眼下に見えるのは巨大な台風の目だ。しかも首都圏を中心に三陸沖、日本海側まですっぽり覆い隠してしまう程の巨大な台風。台風の中を飛ぶ事はなんとかできるにしても、滑走路付近の風速が50ノットを超えていては、着陸はとても不可能だ。 「あん?オルタネートはどこよ?」 「最初のフライトプランのは全滅よ。三沢、松島、小松全部ダメ。成田ももちろん。」 アラートで上がったはいいものの、ペアで上がった320号機を先に帰してエスコートを引き受けたのがますかった。いつものウラジオストック発のベトナム行き定期便だ。調子に乗って帰る燃料ギリギリ、東シナ海付近まで送っていったのも災いした。 「神さんが調子に乗るから。」 「んな事言ってないで、オルタネート探してくれよ、栗。このままじゃ墜落しちまう・・・。... -
You are my destiny.
You are my destiny. それから結局丸一日は事後処理やら始末書の続きやらで、寝るヒマもないほどに忙しくて、それから栗原を見舞ってやれたのは二日後の事だった。 病室に入ると、栗原はベッドの上で上半身を起こして本を読んでいるところで、俺を見つけると軽く腕を上げて招く仕草をする。 「起きてて大丈夫なのかよ。」 また無茶をしてんじゃないか、と少し心配になりながら近づくと、 「傷のくっつきがいいからって、起きてる分にはいいんだってさ。多少腹筋に力いれてるほうがリハビリにもなるって言うし。」 と栗原は得意げにそんな事を言う。 「無理すんなよ。」 言いながら俺は周囲から預かった見舞い品を渡した。そして、 「何か居るものあるか?午後休み取ったから、何かあったら買ってくるし。」 とそう言ってやると、栗原は顔だけで笑いながら 「あー、別にいいや。ど... -
CROSSROAD
CROSSROAD いつだって、出会いが突然なら別れだって突然訪れるものなのだろう。 別れは、決して悲しくはなく、けれど切ない一瞬に違いなかった。 少なくとも、彼らにとっては。 ただ一人だけ、互いに命を預けることのできる相手だからこそ、そして誰よりも愛しいと感じた相手だからこそ。 別れは新しい旅立ちなのだと、誰が言った言葉だっただろうか・・・。 それは百里基地で日米共同訓練が行われている最中の出来事だった。 USAF対JASDFで模擬戦を行われていて、神田栗原コンビの駆るファントムが一番機、西川水沢の機が二番機として参戦し、そして見事に勝利を収めていて、その相手のUSAF機もまたファントムだった。 その日は司令も上機嫌で、その夜になって行われた日米の親睦会でも神田栗原の飛行センスと戦闘行動の素晴らしさを米軍のパイロット達は褒め称えてくれていた。... -
SECRET WING(春日あきら様)
SECRET WING 「ファントム無頼」を題材にしたショートショートの羅列です。 ほぼ女性向けの内容となります。 あと、あらゆる描写及び表現はフィクションです。念のため。 丁度書いていたのは2004年末から2007年初頭にかけて。楽しかったなぁ。 賛否両論あるかとは思いますが、神×栗←伊達 な嗜好の方には楽しんでもらえるかと思います。色々倫理上ダメそうなのは省いた(念のため)。 自衛隊マニアには楽しめませんよ(念のため)。 二世問題 Lock on, Fire! Winter Comes Around...? Because I Love You...... I d Start a Fire Love the Island... THE RECON FRIGHT They Say All s fair in love and war. T... -
LAST FLIGHT
LAST FLIGHT 「とうとうこれで最後だな。」 おそらくは飛行服に袖を通すのもGスーツに体をしめつけられるのも、そして、戦闘機の操縦桿を握るのも今日が最後になる。 明日が彼の定年退官の日。 そして今日はその彼が人生最後のフライトを行う日なのだ。 「隊長、準備が整いました。ハンガーの方に移動願います。」 そう言って、まだ若いパイロットが彼を向かえに来る。 「あぁ、すぐ行く。」 (30年か・・・。長いようで短かったな。) パイロットとして一人前になってからの年月を彼は振り返る。何度も死線を潜り抜け、時に褒められ、時には上官からこっぴどく怒られ。 いつからか編隊長として部下を従えて飛ぶようになり、一時は戦闘航空団を離れて、テストパイロットとして何種類もの航空機に搭乗したりもした。操縦課程や機種転換課程の指導教官もやった。 そして、再び思い出深い... -
空白
「神さん、これ」 不意に茶封筒を差し出された。 唐突な栗原の行動に戸惑いの表情を浮かべる神田に 栗原は少し苛立った口調で言った。 「戸籍謄本。パスポートの申請用」 「あ、そかそか、こりゃすまん」 神田はその薄い封筒を受け取り懐に入れた。 数日後、代休を取ってパスポートの更新に行く事にしていた。 まだ数ヶ月の期限は残っていたが、こういうものは余裕を持って 処理すべきだというのが栗原の絶対的な主張で 神田はそれに対して何ら反論する術を持たない。 折角の代休を他の事に使いたかった神田はふてくされて見せるが 栗原にそのような子供っぽい行為は効果が無い。 逆に仕事を押し付けられてしまう始末である。 「書類は神さん作ってね」 「うげっ、俺がやるの?」 「こんなもん見本見ながら書けば良いじゃん。子供でも出来らぁ」 「うえーめんどくせ... -
桜の花の咲く頃に・・・2
桜の花の咲く頃に・・・2 「いやー、毎年この時期になると思い出すんだよな。」 「はぁ、何をですか?」 百里基地のゲートを抜けて基地の中へとすすむ並木道、そこを歩きながら会話しているのは伊達と高田だった。空は快晴、道から見えるグラウンドは桜の花が満開だ。 そこを歩いているのは二人だけではなくて、多くの家族連れが同じようにゲートから連れ立って歩いてきている。 その日は年に一回、花見の為と称して基地が一般に開放される日で、ついでに飛行隊もそこで宴会をしていたりしていて、丁度仕事が休みだった伊達と高田もそこに招かれていた。 「そりゃ、あれだべよ。美しい恋の物語って奴よ。」 「あぁ、それもう100回くらい聞きました。聞き飽きました。ねぇ、三星ちゃん。」 とそう言って高田が、伊達に肩車されているその愛娘に笑いかける。 そう言われた三星は、わかっているのかいないのか... -
One Night Stand
One Night Stand 栗原の予想外の行動に一瞬呆然となった神田と伊達だったが、ふと我にかえって階段を駆け下り、栗原を追いかける。 「ちょっと待てってば。」 神田より一足先に栗原に追いついた伊達が、その肩を掴んで栗原を立ち止まらせた。 「何?それよりも、そもそもなんで伊達がここに居るのさ?」 人通りの多い地下通路で、大声を出すわけにもいかずに、栗原はしぶしぶ二人の方を振り向いた。そこへ神田が追いついて二人して栗原を取り囲んだ。 「そ・・・それはだな・・・。」 状況を説明するには昨夜の電話の話からしないと説明がつかない。それを話してしまえば、神田からも栗原からも責められるのは目に見えている。 「電話したら神田がヒマそうだったから遊んでやろうかと・・・。」 「嘘つけ。そんな事でわざわざ千歳まで来るのか?本当のこと言えよ。」 「本当だって。それよ... -
タンデム
88title/no.32 タンデム 栗原が単車を買った。 彼が単車買った、と普通に言うものだから、神田はてっきり50ccバイクだと思っていたら、何だか自分の体重の五倍くらいありそうなバイクが栗原の傍らに鎮座ましましていた。しかもシートの形状を見る限り二人乗りだ。 「……単車じゃないじゃん!」 「広辞苑じゃオートバイ・スクーター等、発動機付き二輪車の事は全部単車って言ってるぞ」 「ナナハンじゃん!」 「いいじゃないか、これ前から狙っていたんだし。普通の軽自動車乗るよりいいかもしんないぜ?」 「誰と乗るんだよ?」 そう言った時いつもはポーカーフェイスの栗原が、サングラス越しでもよく分かる程動揺したような顔をした。 「前まで、最初は清美を乗せようって思ってた。けど、結婚しちまったしさ、それに、もう時代はイーグルだしさ……」 そう言って何だか口ごもっている様子... -
Winding Road
Winding Road 「栗原・・・、お前今何キロで走ってるかわかってっか?」 と、助手席の伊達が尋ねる。 「プラス24キロぴったり。」 「俺が急いでるって知ってるよな?」 「無理言いなさんな。俺は公務員なわけよ。罰金と反則金のギリギリラインで走ってんだ、これ以上は無理よ。」 「この道でこの時間に取り締まりやってっか?」 「やってたらどうするんだ。年末だぞ?」 「やってねーだろう。」 そんな会話がかわされているのは国道355号線、丁度霞ヶ浦を千葉方面に回り込む道路だ。運転席は栗原、助手席に伊達、めずらしい組み合わせで乗用車は一路成田空港を目指していた。 神田の姿は後席にあって、うつぶせにリアシートに体を投げ出したまま動かない。かなりぐったりしているようだ。 車は中途半端なスピードで千葉方面に向かっている。 明け方のまだ薄暗い時間。海の方向... -
爪
88title/no.55 爪 帰宅して、スーツの代わりにいつもの部屋着のスウェットに着換えようとしたら奇妙に指先が裏の布地のボアの部分に引っ掛かった。 無理に引っ張ったら着れることは着れたが、よく見てみると人差し指の爪が斜めに裂けてぶら下がっていた。 「栗~、『爪切り』・・・知らないか?」 ストーブで幾分暖まった部屋に、明日の分の食糧を買い込んで来た為に自分より遅く帰って来た栗原に向かって、勇気を出して聞いてみる事にした。 自分はと言えば台所に立ったまま、食事の用意をしながらドアの方を振り返ることも出来ずに声を掛ける、へたれ振りで。 「はぁ?、いつもの所に在る・・・だろう・・・。」 いつものように玄関先に荷物を放り出している事が音で分かる。 普通に返って来た言葉が末尾に行く程、不安を滲ませて語尾が濁る。 「お前また失くしたな!!」 多分、睨まれているだ... -
モーニング・ムーン
モーニング・ムーン それは、夏の始まり頃の事だった。千歳の夏は始まりが遅く、そして終わるのは早い。人々はほんの少しの夏気分を味わおうと躍起になる。 それはここ、千歳の航空隊でも同じことで、夏になればやれ花火大会だ、やれ水泳訓練だ、と精一杯の行事をこなす。 そんな花火大会の日のことだった。 基地をあげての花火大会で、そこには基地司令以下名だたるVIPが顔をそろえ、そして基地隊員は勤務に支障をきたす人員を除いて全員参加が達せられていた。 「いつまでもブウブウ言ってんじゃないの。」 と伊達は隣に居た栗原の頭を軽く小突いた。 グラウンドでバーベキュー、しかも大した花火でもない、そんな飲み会に出なきゃならないくらいなら、部屋で寝てた方がマシと言い張っていた栗原だった。 それを今回は隊長から厳しく咎められて、伊達には「必ず連れて来い」との厳命が下っていて、なだめすかし... -
今も昔も・・・
今も昔も・・・ 「あー、ちくしょうっ切りやがった。」 ツーツーと無機的な非通信音を出す受話器を憮然とした様子で伊達は見つめていた。 そこは紅空の待機パイロット用の控え室で、時間は夜の10時を少し回った所だ。 待機は明朝の6時までで、その時間なれば代わりのクルーがそこに入る。 伊達がそこに居るということは、当然相棒の副操縦士もそこに居る訳で、 「・・・機長、いい加減にしないと本気で嫌われますよ?」 伊達の電話の相手が女房子供でない事は、高田もとっくに気がついていた。 「ヒマなんだよ。」 不服そうな表情を浮かべながら、伊達は高田が座っているテレビの前のソファの端に腰掛けた。 「だからって、他人の時間を犠牲にさせるいいものかと・・・。」 「高田ちゃんも遊んでくんねぇし。」 伊達がヒマを持て余しているのには高田にも原因がある。つい今の今まで延長にな... -
平行回路
平行回路 「なー、伊達。さっきの写真くれよ。」 「アホ、あれは俺んだ。誰がお前なんかにくれてやるかよ。」 「えー、ケチ。いいじゃん、写真の一枚や二枚・・・。」 と、「すすきの」までは程近い札幌市内の飲み屋で、まだ夜も暮れないうちから飲みモードに入りつつおおはしゃぎしているのは、言うまでもなく神田と伊達の二人だった。 「くれたら、俺の秘蔵の『栗ちゃんお着替えシーン』の写真をやる。」 と、どこかで話題にされている当人が聞いていたら、激しい制裁をくらいそうな会話をかわしながら、次第に酒の量も増えていき、日も暮れて周囲は仕事帰りのサラリーマンで一杯になってきている。 「混んできたな。」 「そろそろ出るか。」 「次はどこ行くんだー?」 と、そうなるともう神田は遊びモードに入っていて、伊達に次の店の選定を求める。 「そーだな、ひと汗流すのはもうちょっと後に... -
再会 ~A Hundred Miles~
再会 ~A Hundred Miles~ 「俺がここに来たのは、二つやらなきゃならん事があるからだ。」 神田を前にして栗原がそう切り出す。 そんな台詞が出るのははもう何度目かだ。大抵、神田が馬鹿なことをやらかした時に栗原はそれを言うことが多い。 「一つはこの基地を日本一精強にする事。もう一つは何だと思う?神田2佐」 「・・・わからん・・・いや、思いつきません、司令。」 そう訊ねられた時、神田は必ずそうごまかすようにしていた。 テーブルを挟んだソファに腰かけたまま神田を見つめる栗原の目が鋭く光った。 「それはな・・・、お前をまっとうな社会人に教育しなおす事だ。」 それは栗原が基地への初登庁の途中だった。 いや、正確には「基地司令」として赴任して、最初の出勤の日の事である。 その栗原を乗せたVIP用の官用車、所謂その黒塗りをゲートの直前... -
FIRST CONTACT
FIRST CONTACT 相棒と喧嘩した。 相棒といっても、ついこないだフライトコースを出てきたばかりの新人で、俺と一緒にこの千歳基地でファントムに乗っている奴だ。 初めて会った時から生意気というか横柄な奴で、事あるごとに誰彼構わず突っかかっていくような奴だった。 それでいてフライト中は酷く冷静だ。 頭もいいし、操縦センスも悪くない。 けど、性格が災いしてか、色んな奴が持て余した挙句、俺みたいな奴が教育係を仰せつかったというわけだ。 喧嘩の理由は何だったっけ。 確か俺の反応速度が鈍いとかヌカしやがったから俺がカチンときたんだった。 どうやら俺の後ろのナビゲーターはパイロットが自分の計算通りの速度で動かないと機嫌が悪くないらしい。 俺の旋回タイミングが遅れたせいで、敵を撃墜するまでの時間が奴の計算よりもコンマ何秒か狂ったのが気に入らなかったんだと。... -
DISTANCE~百里2~
DISTANCE~百里2~ 「なぁ、俺と賭けしねぇか?」 「賭け?」 閉店間際の居酒屋の中、カウンター席の片隅に陣取った伊達と栗原の二人はそんな会話を交わしている。 めずらしく神田がそこに居ないのは、神田が単独で千歳基地に出張中だからだ。 偶然にもその店で出くわした二人は、なんだかんだで共に飲み始めて、思い出話に花を咲かせていた。 「そ、その外線直通さ。掛けてみて神田がそこに居ればお前の勝ち、居なかったら俺の勝ち。どうだ?」 時刻は11時30分、そろそろ千歳基地のゲートクローズの時間だ。たとえ神田がそこから飲みに出ていたとしても、何事もなければ外来の幹部隊舎に戻っている筈である。 どこか居心地の良い場所で、一夜を過ごしていたりしなければ、の話だ。 伊達の読みでは、神田は繰り出したすすき野で、かなりイイ思いをしている筈だ。 「それは・・・、俺にとって... -
BBS
BBS(試験設置中) 名前 小説の方で出てると聞いて読んでたのですが、アニメの方を今頃見つけたので張っときます。ここの2 00頃んとこ! www.youtube.com/watch?time_continue=121 v=67RpQFOjchw - hig (2019-04-11 10 02 5... -
コメント/BBS
小説の方で出てると聞いて読んでたのですが、アニメの方を今頃見つけたので張っときます。ここの2 00頃んとこ! www.youtube.com/watch?time_continue=121 v=67RpQFOjchw - hig (2019-04-11 10 02 58) 新谷先生がクリスティ・ロンドン マッシブ終了後、2017年4月26日休筆されるとツイートされました。長いこと凄い作品を見せてくださってありがとうございました。お疲れさまです…が66歳で「新しいことに」という言葉に見習わないとなぁと思うと共に新しいことって何かしらと期待してしまいます、ファンは。対談とかでも嬉しいなー。 - hig@お久しぶりです 2017-06-01 08 14 00 twitter.com/ganso_sonodaya/status/867323459138863104/photo/1 新谷かおる先... -
桜花思惟
桜花思惟 「神さん、起きて。」 神田の髪と顔にかかった桜の花びらをそっと払いのけて、俺は軽くその頬を叩いた。 閉じられていた瞼がわずかに動いて、そしてゆっくりと開けられる。 「もうみんな帰ったよ?」 「ん・・・?あれ?」 昼過ぎから始まった花見の宴は終盤を迎えていて、もう残っているのは片付けに駆りだされている隊員だけだ。神田があまりにも気持ち良さそうに俺の膝の上で寝ていたので、日暮れまでこのままにしておいてやろうかとも思ったが、とうとうブルシートの片付けがはじまって、それは出来なくなった。 神田はまだ酔いから醒めてはいないみたいで、なかなか起き上がろうとはしなかった。 「今日は酔いつぶれる程は飲まない、とか言ってたクセにさ。ほら、シート片付けるんだから、膝からのきなさいって。」 「んー、もうちょっとここがいいな。」 「バカ、片付けの邪魔になるだろ。... -
指輪
88title/no.49 指輪 「指輪って、邪魔だよな~~~。」 昼下がりのアラート。 ボヤキのように聞こえたきた声にちょうど通りかかった水沢が答える。 「そうですか?良いじゃないですか、幸せのし・る・しですよ。」 「あ~もー良いよ、水沢は。」 そう言って、言った相手に追っ払われた。 「何やってんだ?水沢。」 そこに通り掛った神田が声を掛ける。 「指輪ですよ、指輪。ま、神田二尉には関係ないですけどね。」 あっさりと視線を外し、背後からやって来た西川を見つけると一気に走り寄って行く。 妻帯者は妻帯者。独身者には関係が無い話しらしい。 「西川さ~~~ん。相沢さんたら酷いんですよ、指輪が邪魔なんて言うんですよ~~。」 走っていった先に続いたのは、不似合いな大声で。 「あ~~~~!!西川さんに指輪が無い~~~~!!」 その声に立ち去る気だった、神田にオマケで... -
THE RECON FRIGHT
THE RECON FRIGHT 「神さん・・・何してんだ??」 そこはいつものロッカールーム。ロッカールームは2階の一番隅にあって、中には個人用のロッカーがいくつも並んで迷路のような通路を作っていて、そして壁一面にもぐるりと取り囲むようにロッカーが並んでいるだけの殺風景な部屋だ。 明かりをつけなければ、昼間でもかなり薄暗い。 窓は天井近くに明り取りの横に細長いのが外に面した壁についているだけだ。 風も通らず、空調設備も行き届かないこのロッカールームは梅雨の季節でなくてもカビの温床となって、隊員達を悩ませている。 栗原が驚いた声を出したのも仕方のないことで、神田はそんな唯一僅かながらも、風通しと日光とをもたらしてくれる窓を分厚い暗幕で塞ごうとしているのだ。 「お、栗か。見てないで手伝え。」 「気でも狂ったか??なんで暗幕なんか・・・。」 栗原は呆れ顔で... -
冬物語
冬物語 「なんか気分乗らねぇなぁ・・・。」 「そうですね。この面子ですからね。」 「しょうがないだろう。こうやってのんびり羽を伸ばせるだけでもありがたいと思えよ。」 神田のボヤキに西川が迎合して、それに栗原が異論を唱える。そんな様子をキョロキョロしながら水沢が見ていて、けれど意外に利口な彼は生半可には口を挟まずに成り行きを見守っている。 「何に不満があるってんだ。スキーだってしたし、温泉だって入っただろ?それで酒と上手い料理があって、その上何が不満なんだ。」 そう言って栗原は、めずらしくも飲みモードで、手にしていたグラスから冷酒を口に運ぶ。いつものメンバーという気安さと、例え神田が酔いつぶれても運ぶ必要がない状況が彼をそうさせていた。 4人が居るのは山間の温泉旅館で、温泉そのものはそれほどウリにはしていないのか簡素なものだったが、料理が上手く、日本酒も地酒のい... -
DISTANCE~千歳~2
DISTANCE~千歳2~ 「くそっ、お前に言われなくたって、んな事たぁわかってんだよっ。」 ガチャンっ、と公衆電話の受話器をたたきつけて神田はそう言った。 そこは千歳基地の幹部外来のある隊舎の一階に設置された公衆電話だった。 もう日もも変わろうかという深夜、常夜灯の光の下、その受話器の音と神田の声だけが廊下に響いていた。 結局、その日の神田は昼の栗原からの電話の後、すっかりまた眠り込んでしまって、目覚めたのは日もとっくに暮れかけた頃だった。 基地の食堂の喫食時間はとうに過ぎていたので、けれど外に飲みに行こうとして、神田はそれを諦めた。 寒いのだ。 北海道の冬は寒い。夜はましてだ。 飛行服はさすがに目立つだろう、と神田は制服に着替えていた。その制服も、替えの下着や洗面具なんかの日用品もとりあえず栗原が用意してくれていて、何の不自由もなかった... -
夏の日
夏の日 それは、心地よい初夏の日差しの中でのこと。 「てめぇ、何サボってやがる。」 場所は飛行隊横のグラウンド。やたらに広いこの基地には芝生の敷き詰められた原っぱがたくさんある。 けれど、そこは草が伸び放題に野放しにされていて良いわけでは当然なくて、当然ながら隊員たちの手によって定期的にキレイに刈り込まれているのが通常であった。 飛行隊総出での草刈の日。当然ながら普段は華麗に戦闘機を駆るパイロット達も例外ではなくて、キレイに雑草を刈る日なのである。 そんな中に、神田と栗原の姿もあった。 しゃがみこんで何やらゴソゴソとしていた神田が視線を上に向けると、そこには草刈鎌を片手に、何やら物騒な雰囲気の栗原が居た。 「げっ、なっ、なんだよぅ。何もサボってねぇぞ。」 「嘘ついてんじゃねぇよ、手が止まってるぞ、手が。」 右手に鎌を持つ栗原の背中には大きな麻の袋が... -
3
Cross over the Line 3 「・・・なんか聞こえないか?前の方から。」 さっきのアナウンスがあってから5分くらいが経過しようとしていた。 二人が座っているのは先頭の席なので、その前はトイレがあって、更にカーテン一枚を隔てた先がコックピットになっている。 通常コックピット内の物音は、防音設備が良いため客席側に聞こえないようになっているのだが、二人には妙な感の冴えがあって、何となく普通と違うざわついた様子が感じられるのだ。 機内アナウンスも、その後は何も言って来ない。 「だな。何か揉めてるみたいだけど・・・。やっぱり思った通りか・・・?」 「ん?誰か出てきたみたいよ、神さん。」 前方のコックピット部の扉が開いた事を示すように、客室との間の目隠しになっているカーテンがわずかに揺れて動いている。 「・・・どうか嫌な予感が的中しませんように。」 ... -
1
Cross over the Line 1 「おぅ、ちょっと栗の印鑑借りるぜ。」 と、めずらしく飛行隊の事務室の方に現れた神田は、事務処理用に飛行隊全員分の印鑑が集められて収められているケースの中から栗原の印鑑を取り出した。 「あー、ちょっ、ダメですよ神田2尉。」 「るせーな、ちょっと栗の代わりにハンコ押すだけだからよ。」 「そんな勝手に・・・、また怒られても知らないっすよ?」 「るせぇ、借りてくぞ。すぐ返すからよ。」 と、強引に自分のと栗原のと2つの印鑑を手に入れて、神田はそこを立ち去る。 そして、ものの10分もたたないうちにまたそこに戻って来て、 「ほら、返すぞ。」 と言いながら、再び印鑑ケースのフタを開ける。 「神田2尉、ちゃんと元あった場所に戻して下さいね。後で整理すんの大変なんすから。」 「わーってらい。あ、俺が栗の印鑑借りてった... -
2
Cross over the Line 1 「おぅ、ちょっと栗の印鑑借りるぜ。」 と、めずらしく飛行隊の事務室の方に現れた神田は、事務処理用に飛行隊全員分の印鑑が集められて収められているケースの中から栗原の印鑑を取り出した。 「あー、ちょっ、ダメですよ神田2尉。」 「るせーな、ちょっと栗の代わりにハンコ押すだけだからよ。」 「そんな勝手に・・・、また怒られても知らないっすよ?」 「るせぇ、借りてくぞ。すぐ返すからよ。」 と、強引に自分のと栗原のと2つの印鑑を手に入れて、神田はそこを立ち去る。 そして、ものの10分もたたないうちにまたそこに戻って来て、 「ほら、返すぞ。」 と言いながら、再び印鑑ケースのフタを開ける。 「神田2尉、ちゃんと元あった場所に戻して下さいね。後で整理すんの大変なんすから。」 「わーってらい。あ、俺が栗の印鑑借りてった... -
4
Cross over the Line 4 「何、頼み事って。」 伊達がそんな表情をしながら切り出すということは、非常に頼みにくくて、そして頼まれたくない事なのだろうと予想しながら栗原は聞き返した。 そこへ、伊達が後ろ手に持っていた物を栗原の膝の上に投げつける。 何だろう、と栗原がそれを手に取るよりも早く、 「コックピットに立て篭ってる奴に、エサ届けてやってくれねぇか?・・・・・・それ着てさ。」 と、そう伊達から話が切り出される。 手にしたものを確かめて、栗原の顔からは表情が消えていく。 「・・・なんだ、コレは・・・。伊達、てめぇ何考えてやがんだ。」 栗原の声は、押し殺されてはいたものの、十分に怒りの波動を漂わせていた。それもその筈で、伊達が投げて遣したものは、紅空の女性クルー、つまりスチュワーデス用の制服だったからだ。 栗原の怒りは他所に、神田は... -
空の王様
空の王様 「成績が良くないな・・・。」 「あ?何が?」 ぼそっと栗原がそう言うのに、神田は出されたお茶をすすりながらそう聞き返す。 ここは某基地の基地司令室。その隅っこの革張りのソファの上で神田は勝手知ったるとばかりにくつろいでいる。 「戦競だ、戦競。お前ちゃんと訓練させてんのか?」 めずらしく栗原の機嫌がよろしくない。 来週に本番を控えた航空団対抗の戦技競技会に向けた予行演習での結果が芳しくないのだ。飛行隊を2つにわけた紅白戦でそれぞれ撃墜に要する時間とそれに至るまでの機動飛行の腕前を競うのだが、司令である栗原のもとに届けられた資料を見る限り、とてもトップに立てるとは思えないのだ。 「なんだよー、栗。お前そんな事言うのに俺を呼んだのかよ。」 「ったり前だ!俺が茶飲み友達を探すのに、わざわざお前を呼ぶとでも思ってるのか?」 「いつもはそうじゃん・・... - @wiki全体から「アパート」で調べる