680 @Wiki内検索 / 「赤ちゃん」で検索した結果
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88題(構築中)
...自転車? 060:赤ちゃん? 061:納豆? 062:巣篭もり? 063:野生の矢? 064:のりしろ? 065:無条件降伏? 066:Gift? 067:領空侵犯? 068:はらから(同胞)? 069:WEY OF ESCAPE(脱出経路)? 070:自分勝手 071:怪談? 072:青? 073:栗 074:別れ? 075:空白 076:cry? 077:米? 078:反射熱? 079:瞳を閉じて 080:幼き日? 081:熱? 082:春夏秋冬? 083:たぬきうどん? 084:群雲? 085:卒業? 086:果物? 087:嵐? 088:A88? -
瞳を閉じて
88title/no.79 瞳を閉じて 基地を出て、近くのアパートまで歩く。いつもの道のり。 そこへ最近、基地からアパートまでのその間に楽しみが加わった。 近所のガキどもの目隠し鬼からヒントを得たものだった。 子供の遊びはいつも変化する。 でも、変化しない遊びもある。 目隠し鬼。 それもその一つ。 最初はじゃんけんで負けた奴が目隠しをして、他の逃げた奴らの声だけを頼りに捕まえる。そして捕まってしまった奴が次の鬼になるのだ。 閉鎖的空間ならそれも楽しい。 とにかく「見えない不安」から脱出できるのだから、それだけでも自分とは違う人間を捕まえるのは安心する。 子供たちが楽しそうに遊んでいるのを見かけた。公民館の中できゃあきゃあ楽しそうな悲鳴をあげて逃げ回る子供たち。 それを見ながら栗原がボソッと言った。 「俺、そういやあんな遊びしなかったなあ・・・」... -
桜の花の咲く頃に・・・2
桜の花の咲く頃に・・・2 「いやー、毎年この時期になると思い出すんだよな。」 「はぁ、何をですか?」 百里基地のゲートを抜けて基地の中へとすすむ並木道、そこを歩きながら会話しているのは伊達と高田だった。空は快晴、道から見えるグラウンドは桜の花が満開だ。 そこを歩いているのは二人だけではなくて、多くの家族連れが同じようにゲートから連れ立って歩いてきている。 その日は年に一回、花見の為と称して基地が一般に開放される日で、ついでに飛行隊もそこで宴会をしていたりしていて、丁度仕事が休みだった伊達と高田もそこに招かれていた。 「そりゃ、あれだべよ。美しい恋の物語って奴よ。」 「あぁ、それもう100回くらい聞きました。聞き飽きました。ねぇ、三星ちゃん。」 とそう言って高田が、伊達に肩車されているその愛娘に笑いかける。 そう言われた三星は、わかっているのかいないのか... -
指輪
88title/no.49 指輪 「指輪って、邪魔だよな~~~。」 昼下がりのアラート。 ボヤキのように聞こえたきた声にちょうど通りかかった水沢が答える。 「そうですか?良いじゃないですか、幸せのし・る・しですよ。」 「あ~もー良いよ、水沢は。」 そう言って、言った相手に追っ払われた。 「何やってんだ?水沢。」 そこに通り掛った神田が声を掛ける。 「指輪ですよ、指輪。ま、神田二尉には関係ないですけどね。」 あっさりと視線を外し、背後からやって来た西川を見つけると一気に走り寄って行く。 妻帯者は妻帯者。独身者には関係が無い話しらしい。 「西川さ~~~ん。相沢さんたら酷いんですよ、指輪が邪魔なんて言うんですよ~~。」 走っていった先に続いたのは、不似合いな大声で。 「あ~~~~!!西川さんに指輪が無い~~~~!!」 その声に立ち去る気だった、神田にオマケで... -
サングラス2
88title/no.51 サングラス2 「俺に触るな、かばうな、近づくなって言ってたの誰だよ、おい」 伊達のひざの上、栗原はやわらかい寝息で、細い指がズボンの裾を弄っている。 わしわしっとその髪をかき回すと余計にすり寄ってくる。 このままおっぽり出して帰ってやろうかと思ってももう遅い。 宴もたけなわ、一升瓶が転がり、理性を放り出した連中が裸で走り回っている。 何で自分だけ、こんな隅っこで一人冷静に観察してるんだ。 「俺だって、あっちの住人よ?栗原ちゃん?」 騒ぎに後ろ髪ひかれながらも置いてあった上着を手に取った。 広げて栗原の体にかけると、ますますアレらと同じ生き物には見えなくなってきた。 栗原の白い横顔は濃い紺色に映える。 口元は微妙に笑みの形をしていて困る。 「やだわ、栗原ちゃんてば罪作り」 一人おねえ言葉でおちゃらけてみた。... -
Take a Look at Me Now
Take a Look at Me Now その日の朝早く、千歳基地を後にした栗原は、午前中の早い時間帯に百里に帰り着いていた。 ターミナルからそのまま飛行隊に顔を出して、その日の課業を坦々とこなしていく。 栗原は、神田の居ないこの3日間の間に、溜まっていた仕事を片付けたり、職場や家の整理整頓をしようとしていた。神田が居ると、その相手をするのに追われてなかなか自分のやりたい事ができないからだ。 けれど、千歳行きという多少のハプニングはあったものの、そんな安息の日もとうとう終りに近づいていて、明日には神田が帰ってきてしまう。 結局その日、栗原が仕事を全部終えたのはもう夜も遅くなってからで、着替えてショップの出勤札を反しに来た時には当直しか残っていない。 そんな時、丁度栗原の近くで電話が鳴った。 時間外の電話を取るのは当直の仕事だったが、栗原がその方向を振り返ると... -
冬物語
冬物語 「なんか気分乗らねぇなぁ・・・。」 「そうですね。この面子ですからね。」 「しょうがないだろう。こうやってのんびり羽を伸ばせるだけでもありがたいと思えよ。」 神田のボヤキに西川が迎合して、それに栗原が異論を唱える。そんな様子をキョロキョロしながら水沢が見ていて、けれど意外に利口な彼は生半可には口を挟まずに成り行きを見守っている。 「何に不満があるってんだ。スキーだってしたし、温泉だって入っただろ?それで酒と上手い料理があって、その上何が不満なんだ。」 そう言って栗原は、めずらしくも飲みモードで、手にしていたグラスから冷酒を口に運ぶ。いつものメンバーという気安さと、例え神田が酔いつぶれても運ぶ必要がない状況が彼をそうさせていた。 4人が居るのは山間の温泉旅館で、温泉そのものはそれほどウリにはしていないのか簡素なものだったが、料理が上手く、日本酒も地酒のい... -
勝手にしやがれ
勝手にしやがれ 「いやー、なんか半年ぶりだっていうのにキツイ気がして。」 「いやいや、まだお前なんかいいほうだよ。整備主任なんか見ろよ、去年より確実に3センチは腹が前に出てんな。」 「それより、俺なんか黄ばみがひどくってさー。」 「あー、そりゃひでぇや。今年あたり被服更新してもらえよ。」 「補給係の奴なまけてやがってさー。」 と、朝礼前の飛行隊では隊員が集まって口々にそんな会話がかわされていた。今日は6月1日、全国一斉に衣替えの日である。 朝イチのフライトにあたっている隊員がやむおえず飛行服や整備服でいるのを覗けば、服装点検があるため隊員はほとんど夏制服で朝礼場に並んでいた。 当然、西川と水沢の姿もそこにある。 二人は飛行服姿だ。けれども出勤時は当然夏制服で、お互いに体型が崩れていっているのを嘆きあっている。 「飛行服に着替えてほっとしましたよ、僕... -
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Cross over the Line 1 「おぅ、ちょっと栗の印鑑借りるぜ。」 と、めずらしく飛行隊の事務室の方に現れた神田は、事務処理用に飛行隊全員分の印鑑が集められて収められているケースの中から栗原の印鑑を取り出した。 「あー、ちょっ、ダメですよ神田2尉。」 「るせーな、ちょっと栗の代わりにハンコ押すだけだからよ。」 「そんな勝手に・・・、また怒られても知らないっすよ?」 「るせぇ、借りてくぞ。すぐ返すからよ。」 と、強引に自分のと栗原のと2つの印鑑を手に入れて、神田はそこを立ち去る。 そして、ものの10分もたたないうちにまたそこに戻って来て、 「ほら、返すぞ。」 と言いながら、再び印鑑ケースのフタを開ける。 「神田2尉、ちゃんと元あった場所に戻して下さいね。後で整理すんの大変なんすから。」 「わーってらい。あ、俺が栗の印鑑借りてった... -
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Cross over the Line 1 「おぅ、ちょっと栗の印鑑借りるぜ。」 と、めずらしく飛行隊の事務室の方に現れた神田は、事務処理用に飛行隊全員分の印鑑が集められて収められているケースの中から栗原の印鑑を取り出した。 「あー、ちょっ、ダメですよ神田2尉。」 「るせーな、ちょっと栗の代わりにハンコ押すだけだからよ。」 「そんな勝手に・・・、また怒られても知らないっすよ?」 「るせぇ、借りてくぞ。すぐ返すからよ。」 と、強引に自分のと栗原のと2つの印鑑を手に入れて、神田はそこを立ち去る。 そして、ものの10分もたたないうちにまたそこに戻って来て、 「ほら、返すぞ。」 と言いながら、再び印鑑ケースのフタを開ける。 「神田2尉、ちゃんと元あった場所に戻して下さいね。後で整理すんの大変なんすから。」 「わーってらい。あ、俺が栗の印鑑借りてった... -
体温
88title/no.39 体温 ぼんやりと明けている空を感じながら、目を開けるのが嫌でまぶしさを避けるようにして布団の影に潜り込む。 モソモソと頭を埋めるとじんわりとした温みを感じてその温さに身体を摺り寄せていった。 「ぷっ。」 ぷ? 頭の上で発せられた自分ではない声を知覚して、その擦り寄って行った場所が小刻みに揺れている事を自覚してやっとその場所がいつもの自分の寝床でないことに気付いた神田だった。 「おはよう、神田二尉。」 「・・・え?へ・・・?」 バカの様な声が口から出たまま、しばし呆然とその状態のまま神田は固まっていた。 目の前にはパジャマの胸、肘を付いて頭を支えた形でサングラスを外した栗原が俺の顔を見たまま笑っていた。 瞬時に忘れていたハズの夕べの記憶が一気に戻って来て青くなる。 確か1件目は着任祝いだからと嫌がる栗原を無理矢理連れ出し、メシ喰いな... -
One Night Celebration
One Night Celebration 「あれっ、栗原さん早退ですか?めずらしい。」 「そうそう、じゃあ水沢、後よろしくな。」 朝イチのフライトを終えて、その後のブリーフィングを終えた栗原はそのままロッカー室に消えて、そしてすっかり帰り支度をしてそこから出てくる。 それを見咎めて西川と水沢の320号コンビが声をかけてくる。 「あれ、神田さんは一緒じゃないんですか?」 「神さんにはたまってる報告書を仕上げて貰わないといけないからね。」 「神田2尉がおとなしく書き物なんてしてると思えませんけど。」 「いや、大丈夫だろ今日は。時間がなくなるから、とにかく俺は帰る。そうだ、西川、水沢、神田には報告書全部仕上げるまで帰ってくるなって言ってあるんだ、ちゃんと見張っててくれ。」 と、言うなり廊下を走って出口に向かう栗原だった。余程急いでいるらしい。 その背中... -
再会 ~A Hundred Miles~
再会 ~A Hundred Miles~ 「俺がここに来たのは、二つやらなきゃならん事があるからだ。」 神田を前にして栗原がそう切り出す。 そんな台詞が出るのははもう何度目かだ。大抵、神田が馬鹿なことをやらかした時に栗原はそれを言うことが多い。 「一つはこの基地を日本一精強にする事。もう一つは何だと思う?神田2佐」 「・・・わからん・・・いや、思いつきません、司令。」 そう訊ねられた時、神田は必ずそうごまかすようにしていた。 テーブルを挟んだソファに腰かけたまま神田を見つめる栗原の目が鋭く光った。 「それはな・・・、お前をまっとうな社会人に教育しなおす事だ。」 それは栗原が基地への初登庁の途中だった。 いや、正確には「基地司令」として赴任して、最初の出勤の日の事である。 その栗原を乗せたVIP用の官用車、所謂その黒塗りをゲートの直前... -
夏の日
夏の日 それは、心地よい初夏の日差しの中でのこと。 「てめぇ、何サボってやがる。」 場所は飛行隊横のグラウンド。やたらに広いこの基地には芝生の敷き詰められた原っぱがたくさんある。 けれど、そこは草が伸び放題に野放しにされていて良いわけでは当然なくて、当然ながら隊員たちの手によって定期的にキレイに刈り込まれているのが通常であった。 飛行隊総出での草刈の日。当然ながら普段は華麗に戦闘機を駆るパイロット達も例外ではなくて、キレイに雑草を刈る日なのである。 そんな中に、神田と栗原の姿もあった。 しゃがみこんで何やらゴソゴソとしていた神田が視線を上に向けると、そこには草刈鎌を片手に、何やら物騒な雰囲気の栗原が居た。 「げっ、なっ、なんだよぅ。何もサボってねぇぞ。」 「嘘ついてんじゃねぇよ、手が止まってるぞ、手が。」 右手に鎌を持つ栗原の背中には大きな麻の袋が... -
おすすめ新谷作品について語る!
私のおすすめ新谷作品 ファントム無頼 ってな感じでずらずら思いの丈を語っていただけるといいんじゃないかと。 編集構文わからなくても、誰か心優しい方がてきとーに成型してくれると思います。 で、最後に横線いれときゃ、そこで区切りって事で。 すんまそ、私の分(文)はまた近いうちにちゃんといれておきますんで、とりあえず形だけ。 (春日あきら) パスカル・シティ 好きですね~~~2巻で見事にまとまってるあの完成度。子供の無茶もいい加減にしなさいと思いつつ、それがご都合主義と言われようが父親助けて帰って来るんですよ!! 今にバスのように、定期運行されるのよ宇宙船が!あれ読んでるとそういう夢見れます。 エラン 全3巻です。今は無き徳間のキャプテンコミックス。 商業ベースの話って読むの大好きで、海老の話とか、ワインの話とか薀蓄増えます。素敵... -
自分勝手
88title/no.70 自分勝手 「好きだ」 「は?」 神田が栗原の顔をうかがうように小さく言った。 意味もわからずぼけた声が出ると、神田が嬉しそうに言い放った。 「俺は栗原が好きだ」 それはもうハレルヤーってな満面のすっきりした笑顔で言った。 ここはどこだ、第○格納庫前だ。その上、ランニングしている、 いかついジャージ男が目の前を走る公の場だ。神田言った言葉はここにそぐわない。 「神田、寝言か?」 「ちゃんと起きてるし、俺は…」 「そういうことは普通体育館裏とかで言うことだろっ」 なんてこったコンピュータを狂わせられている体育館裏じゃない、放課後で教室だ(違 「忘れないうちに言うべきだろ」 「そんなこと忘れるかっアホっ」 「じゃ、覚えててくれ、じゃっ」 さわやかに言って赤い顔で逃げ出した神田の服の裾を思いっきり引っ張った。 どこか千切れる音が... -
今も昔も・・・
今も昔も・・・ 「あー、ちくしょうっ切りやがった。」 ツーツーと無機的な非通信音を出す受話器を憮然とした様子で伊達は見つめていた。 そこは紅空の待機パイロット用の控え室で、時間は夜の10時を少し回った所だ。 待機は明朝の6時までで、その時間なれば代わりのクルーがそこに入る。 伊達がそこに居るということは、当然相棒の副操縦士もそこに居る訳で、 「・・・機長、いい加減にしないと本気で嫌われますよ?」 伊達の電話の相手が女房子供でない事は、高田もとっくに気がついていた。 「ヒマなんだよ。」 不服そうな表情を浮かべながら、伊達は高田が座っているテレビの前のソファの端に腰掛けた。 「だからって、他人の時間を犠牲にさせるいいものかと・・・。」 「高田ちゃんも遊んでくんねぇし。」 伊達がヒマを持て余しているのには高田にも原因がある。つい今の今まで延長にな... -
Secret Base
Secret Base 「今日は風がきついな。」 それは二人して基地の外周をジョギングしていた時の事だった。 丁度ランウェイのエンド付近を通り過ぎる場所で、周囲はだだっぴろく開けていて、その強い風を遮るものは何もなかった。 その先には大きな窪地があって、それを避けるように外周道は大きく基地の外柵の方向へ曲がっていく。 「うわっ…と、やべ。」 それまで栗原の体一つ分くらい前を走っていた神田が、そう言って大きく外周道を反れて窪地の方向へと下っていった。 見ればその先に白い細長いものが風に煽られて、地面から浮いたり転がったりしながら神田の2~3メートル先を舞っていた。 どうやら神田が首から掛けていたタオルが風に煽られて、吹き飛ばされたらしい。 仕方がないので、栗原も足を止めて神田がそれを無事に捕獲して戻ってくるのを待つ事にした。 神田はなかなか戻って来な... -
運命の予感
運命の予感 「てめっ、この野郎優しくしてりゃいい気になりやがってっ。」 「・・・分不相応な期待はするもんじゃないって事だな。そっちこそいい気になるんじゃないよ。」 「なんだと・・・。」 と、誰も居ない筈のブリーフィングルームからそんな声が聞こえてきて、それから激しく何か重量のあるものが床に叩きつけられる音がした。 「ってぇな・・・。上等じゃねぇか・・・。」 それは多分、人間の身体が叩きつけられた音で、でもそれからすぐに、何かアルミのパイプの様なものが、いくつも音を立てて散乱する音が聞こえた。どうやら、パイプ椅子がいくつも倒れたらしい。 「ちっくしょうっ。」 と、そんな声がしたかと思うと・・・、 ブリーフィングルームの扉が開いて、1期上のパイロットが左腕を押さえながらそこから出てくる。顔をしかめているのを見るとどうやらそこに怪我でもしているらしい、顔もど... -
CROSSROAD
CROSSROAD いつだって、出会いが突然なら別れだって突然訪れるものなのだろう。 別れは、決して悲しくはなく、けれど切ない一瞬に違いなかった。 少なくとも、彼らにとっては。 ただ一人だけ、互いに命を預けることのできる相手だからこそ、そして誰よりも愛しいと感じた相手だからこそ。 別れは新しい旅立ちなのだと、誰が言った言葉だっただろうか・・・。 それは百里基地で日米共同訓練が行われている最中の出来事だった。 USAF対JASDFで模擬戦を行われていて、神田栗原コンビの駆るファントムが一番機、西川水沢の機が二番機として参戦し、そして見事に勝利を収めていて、その相手のUSAF機もまたファントムだった。 その日は司令も上機嫌で、その夜になって行われた日米の親睦会でも神田栗原の飛行センスと戦闘行動の素晴らしさを米軍のパイロット達は褒め称えてくれていた。... -
Winding Road
Winding Road 「栗原・・・、お前今何キロで走ってるかわかってっか?」 と、助手席の伊達が尋ねる。 「プラス24キロぴったり。」 「俺が急いでるって知ってるよな?」 「無理言いなさんな。俺は公務員なわけよ。罰金と反則金のギリギリラインで走ってんだ、これ以上は無理よ。」 「この道でこの時間に取り締まりやってっか?」 「やってたらどうするんだ。年末だぞ?」 「やってねーだろう。」 そんな会話がかわされているのは国道355号線、丁度霞ヶ浦を千葉方面に回り込む道路だ。運転席は栗原、助手席に伊達、めずらしい組み合わせで乗用車は一路成田空港を目指していた。 神田の姿は後席にあって、うつぶせにリアシートに体を投げ出したまま動かない。かなりぐったりしているようだ。 車は中途半端なスピードで千葉方面に向かっている。 明け方のまだ薄暗い時間。海の方向... -
Pinup Girlのアヤマチ
Pinup Girlのアヤマチ 「行かないと言ったら行かない!何度言わせるんだ、」 それはある日曜の事だった。昼メシを街に出て食べよう、と主張する神田に、栗原は断固として反対の構えだ。 「えー、いいじゃんかよぅ。たまには外食くらいしたって。給料も出た事だしさー。」 「行きたきゃ一人で行けばいいだろ。」 「栗と行きたいんだよぅ。」 「…神田、俺が外に出たくねぇ理由を忘れたとは言わさねぇぞ?」 「あ。あはははは…。」 「笑ってごまかすんじゃねぇっ!!」 そう、この日栗原には街に出かけられない大変な事情があったのだった。 それは半年程前の出来事だった。 「お、なんでぇ、盗撮航空隊じゃねぇか。」 昼食から戻ってきた神田は、ショップの中に不審な人物が居る事に気が付いた。 と言っても、内輪の人間には違いないのだが、神田の所属する飛行隊... -
DISTANCE~百里~
DISTANCE~百里~ 「あー、やっと終わった~。」 あちこちでそんな声が聞こえる課業後の1700、ラッパの吹奏音が終わるや否や、バタバタと帰り支度を始める隊員達の姿が見える。 「栗原2尉、まだ帰んないですか?」 そんな中、数冊の書類の束を抱えてブリーフィング用のテーブルの席に着いた栗原に、隊員から声がかかった。 「あぁ、神田が居ない間にデスクワークを片付けちまおうと思ってさ。」 言いながら、ページを開き、せっせとそこに文字を埋めて報告書を作りあげていく。まるで頭の中にその完成形が出来上がっているかのように、それはスラスラと進んでいく。 「まーた、神田さんの分まで書いてるんですか。甘やかすの良くないですよ。」 とそう言うのは水沢だった。 「神田が居ないんだからしょうがないだろ。」 甘やかして、の部分に反応して、栗原はちょっとムっとしたように水沢の... -
愛のカタチ
愛のカタチ その日、栗原と伊達の二人は都内の一等地にあるそこそこお洒落なダイニングで夕食をとっていた。 二人ともスーツ姿で、特に何の変哲もない服装だったのだが、長身で体格の良い伊達と、どこからどう見ても見栄えの点では申し分のない栗原との組み合わせなので、それなりに人目を引く。 「お前なぁ、いい加減に俺にタカルのはやめろよ。」 二人の前には小洒落た料理が並べられていて、グラスには高級そうなワインが注がれていた。 「なんで?いいじゃん、別に。たまには美味しいもの食べないとね。」 言いながら、栗原は非常に穏やかな表情をしている。 「旦那はどうしたんだよ、旦那は。」 電話があったのは今日の昼の事だ。突然に今晩ヒマ?と栗原から誘いをかけてきたものだから、伊達は二つ返事でその誘いに乗った。ほとんどの場合、伊達の方から声をかけることが多くて、そして栗原が誘いに乗ったとし... -
POWER BALANCE
POWER BALANCE 近頃じゃ、毎日のフライトが憂鬱だ。 訓練が嫌いなわけじゃない。操縦にもちったぁ自信はある。けど、ここの所は不調でもないのに後席からのダメ出しをくらうのだ。 けど、それは俺にはどうしようもない機体の性能上の問題だったり、どう考えても人間の身体にとっては無茶なオーダーの連続で、飛行後のブリーフィングのまたその後で、いつだって言い争いになるし、そして今みたいな取っ組み合いの喧嘩だって、もう何度目の事になるだろう。 ブリーフィングルームもその前の廊下も、喧嘩をするには目立ちすぎる。俺がそう思って先に立って格納庫の隅へと歩いていくと、相手も後ろから無言で付いてくる。 俺が振り返った途端に、向こうは何も言わずに掴みかかろうとしてきたので、俺は思わずその頬を拳で殴り返して牽制する。 もちろん小僧相手に本気で殴る蹴るなんてしやしねぇが、相手は結構本気ら... -
LAST FLIGHT
LAST FLIGHT 「とうとうこれで最後だな。」 おそらくは飛行服に袖を通すのもGスーツに体をしめつけられるのも、そして、戦闘機の操縦桿を握るのも今日が最後になる。 明日が彼の定年退官の日。 そして今日はその彼が人生最後のフライトを行う日なのだ。 「隊長、準備が整いました。ハンガーの方に移動願います。」 そう言って、まだ若いパイロットが彼を向かえに来る。 「あぁ、すぐ行く。」 (30年か・・・。長いようで短かったな。) パイロットとして一人前になってからの年月を彼は振り返る。何度も死線を潜り抜け、時に褒められ、時には上官からこっぴどく怒られ。 いつからか編隊長として部下を従えて飛ぶようになり、一時は戦闘航空団を離れて、テストパイロットとして何種類もの航空機に搭乗したりもした。操縦課程や機種転換課程の指導教官もやった。 そして、再び思い出深い... -
モーニング・ムーン
モーニング・ムーン それは、夏の始まり頃の事だった。千歳の夏は始まりが遅く、そして終わるのは早い。人々はほんの少しの夏気分を味わおうと躍起になる。 それはここ、千歳の航空隊でも同じことで、夏になればやれ花火大会だ、やれ水泳訓練だ、と精一杯の行事をこなす。 そんな花火大会の日のことだった。 基地をあげての花火大会で、そこには基地司令以下名だたるVIPが顔をそろえ、そして基地隊員は勤務に支障をきたす人員を除いて全員参加が達せられていた。 「いつまでもブウブウ言ってんじゃないの。」 と伊達は隣に居た栗原の頭を軽く小突いた。 グラウンドでバーベキュー、しかも大した花火でもない、そんな飲み会に出なきゃならないくらいなら、部屋で寝てた方がマシと言い張っていた栗原だった。 それを今回は隊長から厳しく咎められて、伊達には「必ず連れて来い」との厳命が下っていて、なだめすかし... -
空の王様
空の王様 「成績が良くないな・・・。」 「あ?何が?」 ぼそっと栗原がそう言うのに、神田は出されたお茶をすすりながらそう聞き返す。 ここは某基地の基地司令室。その隅っこの革張りのソファの上で神田は勝手知ったるとばかりにくつろいでいる。 「戦競だ、戦競。お前ちゃんと訓練させてんのか?」 めずらしく栗原の機嫌がよろしくない。 来週に本番を控えた航空団対抗の戦技競技会に向けた予行演習での結果が芳しくないのだ。飛行隊を2つにわけた紅白戦でそれぞれ撃墜に要する時間とそれに至るまでの機動飛行の腕前を競うのだが、司令である栗原のもとに届けられた資料を見る限り、とてもトップに立てるとは思えないのだ。 「なんだよー、栗。お前そんな事言うのに俺を呼んだのかよ。」 「ったり前だ!俺が茶飲み友達を探すのに、わざわざお前を呼ぶとでも思ってるのか?」 「いつもはそうじゃん・・... -
平行回路
平行回路 「なー、伊達。さっきの写真くれよ。」 「アホ、あれは俺んだ。誰がお前なんかにくれてやるかよ。」 「えー、ケチ。いいじゃん、写真の一枚や二枚・・・。」 と、「すすきの」までは程近い札幌市内の飲み屋で、まだ夜も暮れないうちから飲みモードに入りつつおおはしゃぎしているのは、言うまでもなく神田と伊達の二人だった。 「くれたら、俺の秘蔵の『栗ちゃんお着替えシーン』の写真をやる。」 と、どこかで話題にされている当人が聞いていたら、激しい制裁をくらいそうな会話をかわしながら、次第に酒の量も増えていき、日も暮れて周囲は仕事帰りのサラリーマンで一杯になってきている。 「混んできたな。」 「そろそろ出るか。」 「次はどこ行くんだー?」 と、そうなるともう神田は遊びモードに入っていて、伊達に次の店の選定を求める。 「そーだな、ひと汗流すのはもうちょっと後に... -
携帯電話
携帯電話 「神さん、ごはんできたよ~。」 栗原がエプロン姿のままで配膳しながら、奥の部屋に向かってそう叫ぶ。 しかし応えはない。 「神さ~~~んっ。」 奥の部屋からは不自然な電子音が響いている。 「・・・野郎、またゲームしてやがんな。」 この所、神田はPS2のエースコンバットに夢中であった。仕事から帰ってくると、食事と風呂に入る以外はずっとテレビの画面に向かってピコピコやっている。それがどれくらい夢中なのかというと、ゲームにより臨場感を持たせるためにプラズマテレビを買おうなんて言い出す始末だ。 そしてそれはたいてい夜中まで続くのである。 それを栗原が容認しているのは、夜中までゲームに夢中になってくれていた方が彼にとっては都合のいい事もあるからだ。 ここ1週間程の栗原のご機嫌はそれほど悪くない。たまには神田の相手をせずに一人で眠ることは、多少の欲求不満は... -
You are my destiny.
You are my destiny. それから結局丸一日は事後処理やら始末書の続きやらで、寝るヒマもないほどに忙しくて、それから栗原を見舞ってやれたのは二日後の事だった。 病室に入ると、栗原はベッドの上で上半身を起こして本を読んでいるところで、俺を見つけると軽く腕を上げて招く仕草をする。 「起きてて大丈夫なのかよ。」 また無茶をしてんじゃないか、と少し心配になりながら近づくと、 「傷のくっつきがいいからって、起きてる分にはいいんだってさ。多少腹筋に力いれてるほうがリハビリにもなるって言うし。」 と栗原は得意げにそんな事を言う。 「無理すんなよ。」 言いながら俺は周囲から預かった見舞い品を渡した。そして、 「何か居るものあるか?午後休み取ったから、何かあったら買ってくるし。」 とそう言ってやると、栗原は顔だけで笑いながら 「あー、別にいいや。ど... -
DRASTIC BETTER HALF
DRASTIC BETTER HALF 「暑いなぁ。」 「暑いですねー。」 夏の盛りも近づいたある日の事、飛行隊のロッカー室では訓練を終えて、シャワーを使い終えたパイロット達が口々にそんな会話を交わしている。 皆一様にダラダラとした格好をしている。シャワーの後でも当然課業中なのだから、本来なら制服に着替えるか、洗い換えの飛行服を着ているべきなのだが、誰も空調設備のないロッカー室の中、そんな格好をしているものは居ない。 Tシャツ姿だったり、果ては上半身裸のままで下は短パン姿といった格好の隊員までいる始末だ。 そこへ、 「よ、西川、水沢、お疲れ。ちくしょう、暑いなー。」 とシャワー室から出てきた神田がそう声をかける。 普段どちらかと言うとキッチリしている方の西川、水沢コンビだったが、さすがに暑さに耐え切れないのか、飛行服の上半分を脱いで腰でしばった状態で、... -
桜花思惟
桜花思惟 「神さん、起きて。」 神田の髪と顔にかかった桜の花びらをそっと払いのけて、俺は軽くその頬を叩いた。 閉じられていた瞼がわずかに動いて、そしてゆっくりと開けられる。 「もうみんな帰ったよ?」 「ん・・・?あれ?」 昼過ぎから始まった花見の宴は終盤を迎えていて、もう残っているのは片付けに駆りだされている隊員だけだ。神田があまりにも気持ち良さそうに俺の膝の上で寝ていたので、日暮れまでこのままにしておいてやろうかとも思ったが、とうとうブルシートの片付けがはじまって、それは出来なくなった。 神田はまだ酔いから醒めてはいないみたいで、なかなか起き上がろうとはしなかった。 「今日は酔いつぶれる程は飲まない、とか言ってたクセにさ。ほら、シート片付けるんだから、膝からのきなさいって。」 「んー、もうちょっとここがいいな。」 「バカ、片付けの邪魔になるだろ。... -
THE RECON FRIGHT
THE RECON FRIGHT 「神さん・・・何してんだ??」 そこはいつものロッカールーム。ロッカールームは2階の一番隅にあって、中には個人用のロッカーがいくつも並んで迷路のような通路を作っていて、そして壁一面にもぐるりと取り囲むようにロッカーが並んでいるだけの殺風景な部屋だ。 明かりをつけなければ、昼間でもかなり薄暗い。 窓は天井近くに明り取りの横に細長いのが外に面した壁についているだけだ。 風も通らず、空調設備も行き届かないこのロッカールームは梅雨の季節でなくてもカビの温床となって、隊員達を悩ませている。 栗原が驚いた声を出したのも仕方のないことで、神田はそんな唯一僅かながらも、風通しと日光とをもたらしてくれる窓を分厚い暗幕で塞ごうとしているのだ。 「お、栗か。見てないで手伝え。」 「気でも狂ったか??なんで暗幕なんか・・・。」 栗原は呆れ顔で... -
One Night Stand
One Night Stand 栗原の予想外の行動に一瞬呆然となった神田と伊達だったが、ふと我にかえって階段を駆け下り、栗原を追いかける。 「ちょっと待てってば。」 神田より一足先に栗原に追いついた伊達が、その肩を掴んで栗原を立ち止まらせた。 「何?それよりも、そもそもなんで伊達がここに居るのさ?」 人通りの多い地下通路で、大声を出すわけにもいかずに、栗原はしぶしぶ二人の方を振り向いた。そこへ神田が追いついて二人して栗原を取り囲んだ。 「そ・・・それはだな・・・。」 状況を説明するには昨夜の電話の話からしないと説明がつかない。それを話してしまえば、神田からも栗原からも責められるのは目に見えている。 「電話したら神田がヒマそうだったから遊んでやろうかと・・・。」 「嘘つけ。そんな事でわざわざ千歳まで来るのか?本当のこと言えよ。」 「本当だって。それよ... -
運命と呼ぶには
運命と呼ぶには 不覚だ・・・。 と、朝布団の中でそう後悔してももう遅い。 頭がガンガンと割れるように痛く、体は気だるさで動くこともできない。 何よりも寒くてガタガタ震えが来て、布団から出ることもできなかった。 昨日の帰りだ。 「神田、顔色悪いぞ?大丈夫か?」 と、俺の顔を覗き込んでそう言う飛行隊の先輩。 「いや、大丈夫っすよ。ちょっと今日の訓練でヤられたもんで。」 と適当に返して、そして俺はそのままアパートまで10キロの道のりを走って帰ったんだった。 ・・・小雨の降る中をだ。 気持ちよく汗をかいて、それで寝たはいいけど、どうやら思い切り風邪を引いたらしい。 せっかくの週末に、この分じゃ寝込んで過ごすことになりそうだ・・・。 とりあえず、布団をかぶりながらなんとか起き上がって、電話口まで這っていく。 飛行隊に電話をかけて、今日は休ませ... -
10 Years
10 YEARS 「くっ、栗ぃ~っ、白手貸してくれっ。」 と朝っぱらから栗原に泣きついているのは言うに及ばない神田だった。 白手とは言うまでもなく、白い手袋の事である。自衛官が通常礼装をする時に欠かせないものだ。 ここはいつもの飛行隊のロッカールーム。いつもなら着いてすぐに飛行服に着替える筈が、神田はさっきからロッカーの中をかき回して何かを探していたのだった。 そしてとうとう探し物がそこにはないと判断して、栗原に助けを求めた次第である。 だが、突然白手を貸せと言われても理由がわからない。 「・・・なんで?」 「だーかーらー、今日は司令のトコ行って賞詞もらわんといかんのだ。」 「・・・6級賞詞か?」 「あほぅ、俺は何も悪いこたしとらん。」 6級賞詞は賞罰の「罰」のことだ。賞も罰も貰うときの服装が同じ事から皮肉った造語である。 「じゃあ何かほめ... -
Fragile Eternal
Fragile Eternal 「神さん、8時だぜ。」 「あ?…あぁ。」 「どしたい、ぼーっとして。待機終了だ、お疲れさん。」 睡眠不足なのか疲れからなのか呆けている神田の肩を、栗原はそう言いながら軽くたたいた。 と、その時二人の居る部屋の扉が開いて、Gスーツに救装品をつけてヘルメットを小脇に抱えた一団が入ってくる。 そこはアラートハンガーで、丁度アラート待機の上下番のタイミングだった。 そう、二人はアラート明けなのだ。 それも、本日二回目のアラート待機だった。 この所日本国の領空には彼我不明機の往来が激しかった。日本が同盟国と共に推し進めている新防衛大綱に基づく防衛施策が気に入らないのだろう。 それに抗議するかのように連日連夜、領空侵犯スレスレの航行機が出現する。 そのほとんどは冷やかし、というよりも国家間での揺さぶり行為の一つな... -
衝動 -The Winter Moment-
衝動 -The Winter Moment- 「あーあ、また潰れてるよコイツ。」 「しょうがない、ピッチが早かったからね、随分。」 やれやれ、といった感じで伊達と栗原は神田をはさんでそんな会話をしていた。そこは札幌市内の深夜までやっているバーのカウンター席で、神田を挟んで左に伊達、右に栗原が座っていた。 栗原は苦笑しながら、外套をとってカウンターに突っ伏している神田の肩にそれを着せ掛けた。それから、自分のグラスを手にすると、伊達の左隣の空いている席へと移動する。 スツールに腰かけると、ほとんど空になっていたグラスの残りを飲み干して、2杯目をオーダーする。 「お、めずらしく飲むねぇ。どしたの?栗ちゃん。」 と、伊達がからかうのに、 「俺だってたまには酔いたい。伊達が居るなら平気かなって思って。」 と栗原が牽制する。 「バカ言うなよ、俺が一番あぶねぇぜ... -
Misty Night
Misty Night 「よーし、ボーナスも出たことだし、どっか繰り出すか!」 「いいねぇ、土浦あたりまで出るか。」 「あー、俺いい店知ってるっすよ。」 と、すっかり休日モードの隊員が口々に話し合っている。 神田と栗原は、そんな飛行隊オフィスの隅で今日のフライトの反省会をしていた。地道な努力が明日の実を結ぶ、意外に真面目なのだ。 と、そんな二人に。 「神田2尉、栗原2尉、どうですか?一緒に。」 飲み会の算段をしていた隊員が二人に声をかける。 「どうする?神さん。」 「どうするって、誘われたら行くっきゃないだろ?」 「・・・んー、俺はパスだな。昨日から風邪っぽくてさ。神さんひとりで行ってきなよ。」 「んー・・・。」 「何悩んでんだ。たまにゃ、俺の居ないところで羽伸ばしてこい。」 「じゃあ、そうさせて貰うかな・・・。」 そして神田一... -
Love the Island...
Love the Island... 「神さ~ん、百里降りれないってよ。どうするよ?」 眼下に見えるのは巨大な台風の目だ。しかも首都圏を中心に三陸沖、日本海側まですっぽり覆い隠してしまう程の巨大な台風。台風の中を飛ぶ事はなんとかできるにしても、滑走路付近の風速が50ノットを超えていては、着陸はとても不可能だ。 「あん?オルタネートはどこよ?」 「最初のフライトプランのは全滅よ。三沢、松島、小松全部ダメ。成田ももちろん。」 アラートで上がったはいいものの、ペアで上がった320号機を先に帰してエスコートを引き受けたのがますかった。いつものウラジオストック発のベトナム行き定期便だ。調子に乗って帰る燃料ギリギリ、東シナ海付近まで送っていったのも災いした。 「神さんが調子に乗るから。」 「んな事言ってないで、オルタネート探してくれよ、栗。このままじゃ墜落しちまう・・・。... -
二律背反
88title/no.20 二律背反 汗ばんだ肌が乾いていく感触と、体の奥の鈍い痛みとが、彼をして 浅い眠りから醒めさせた。 思いがけず長い時間を浪費してしまった事に舌打ちをして、彼は身を起こした。 既に部屋に差し込む影は長くなっていて、夕刻近い事は時計を見ずとも明らかだった。 床に散らばる服の中から適当にシャツを引っ張り出し、肩に羽織ながら 隣でだらしない顔をして眠っている男の髪を引っ張った。 「神さん、神さん、もう起きないと」 「ん・・・・・?ああ・・・後、10分・・」 「10分じゃないよ、まったく。今日中に各務原に戻らないといけないんでしょ、 いい加減に起きてください」 「お前、送ってくれよ・・・明日は非番だろ・・・・?頼むよ・・・栗ィ・・」 「俺はタクシーじゃないぞ、自力で帰れ。それともまた始末書を書くか?」 答えは無かった。 ... -
3
Cross over the Line 3 「・・・なんか聞こえないか?前の方から。」 さっきのアナウンスがあってから5分くらいが経過しようとしていた。 二人が座っているのは先頭の席なので、その前はトイレがあって、更にカーテン一枚を隔てた先がコックピットになっている。 通常コックピット内の物音は、防音設備が良いため客席側に聞こえないようになっているのだが、二人には妙な感の冴えがあって、何となく普通と違うざわついた様子が感じられるのだ。 機内アナウンスも、その後は何も言って来ない。 「だな。何か揉めてるみたいだけど・・・。やっぱり思った通りか・・・?」 「ん?誰か出てきたみたいよ、神さん。」 前方のコックピット部の扉が開いた事を示すように、客室との間の目隠しになっているカーテンがわずかに揺れて動いている。 「・・・どうか嫌な予感が的中しませんように。」 ... -
DISTANCE~百里2~
DISTANCE~百里2~ 「なぁ、俺と賭けしねぇか?」 「賭け?」 閉店間際の居酒屋の中、カウンター席の片隅に陣取った伊達と栗原の二人はそんな会話を交わしている。 めずらしく神田がそこに居ないのは、神田が単独で千歳基地に出張中だからだ。 偶然にもその店で出くわした二人は、なんだかんだで共に飲み始めて、思い出話に花を咲かせていた。 「そ、その外線直通さ。掛けてみて神田がそこに居ればお前の勝ち、居なかったら俺の勝ち。どうだ?」 時刻は11時30分、そろそろ千歳基地のゲートクローズの時間だ。たとえ神田がそこから飲みに出ていたとしても、何事もなければ外来の幹部隊舎に戻っている筈である。 どこか居心地の良い場所で、一夜を過ごしていたりしなければ、の話だ。 伊達の読みでは、神田は繰り出したすすき野で、かなりイイ思いをしている筈だ。 「それは・・・、俺にとって... -
運命の糸車
運命の糸車 「お、無事復活してきたな。」 結局週末一杯を寝て過ごして、ようやく調子が戻って職場に顔を出した俺を見つけて最初にそう言ってきたのは栗原だった。 「あぁ、お蔭さんでな。助かったぜ。」 せっかくの週末を半分程俺の為に潰してくれた栗原だ。一応の礼は言っておく。 すると、 「別にお前の為にしたわけじゃねぇよ。もう来週は戦競だしな。風邪治ったんなら、気合入れていくぞ!」 俺から礼を言われた事に照れたのか、それをごまかすようにそう言った栗原だったが、俺はまだその時栗原の様子がいつもと違うことに気づいていなかった。 それに気づいたのはその日のフライトが終わった後のことで。 訓練後のデブリーフィングをしながら、次第に栗原の顔が青ざめていくのに気づいた俺は、それでもちょっと疲れがたまっているくらいだろうと安易に考えて、 「ん?どった?調子悪そうだな、栗。... -
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Cross over the Line 4 「何、頼み事って。」 伊達がそんな表情をしながら切り出すということは、非常に頼みにくくて、そして頼まれたくない事なのだろうと予想しながら栗原は聞き返した。 そこへ、伊達が後ろ手に持っていた物を栗原の膝の上に投げつける。 何だろう、と栗原がそれを手に取るよりも早く、 「コックピットに立て篭ってる奴に、エサ届けてやってくれねぇか?・・・・・・それ着てさ。」 と、そう伊達から話が切り出される。 手にしたものを確かめて、栗原の顔からは表情が消えていく。 「・・・なんだ、コレは・・・。伊達、てめぇ何考えてやがんだ。」 栗原の声は、押し殺されてはいたものの、十分に怒りの波動を漂わせていた。それもその筈で、伊達が投げて遣したものは、紅空の女性クルー、つまりスチュワーデス用の制服だったからだ。 栗原の怒りは他所に、神田は... -
Lock on, Fire!
Lock on, Fire! 「へっくしゅ!」 大きなくしゃみが狭い部屋に響き渡る。 「どうした?栗、風邪でもひいたか?」 季節の変わり目の秋口、1DKの古いアパートは室温調節がなかなか上手くいかない。朝晩は随分と冷え込むようになったけれでも、コタツやストーブにはまだまだ早すぎる。百里の冬は寒いのだ。 「いや、たいした事はないでしょ。明日にゃ治ってるよ。」 「そだな~、明日はフライトだかんな。」 神田と栗原が同居を始めてからそろそろ1ヶ月が過ぎようとしていた。 引越しが終わったばかりの雑然とした感じがようやくなくなり、必要最低限の家財道具があるだけのシンプルな構成の部屋になっている。「どうせ、帰って寝るだけ」の部屋だからと二人して何も持ち込まなかったからだ。 「神田、そっち片付けておけよ。そろそろ客が来るぞ。」 さっきまで神田が寝転んでいたあたりに... -
FIRST CONTACT
FIRST CONTACT 相棒と喧嘩した。 相棒といっても、ついこないだフライトコースを出てきたばかりの新人で、俺と一緒にこの千歳基地でファントムに乗っている奴だ。 初めて会った時から生意気というか横柄な奴で、事あるごとに誰彼構わず突っかかっていくような奴だった。 それでいてフライト中は酷く冷静だ。 頭もいいし、操縦センスも悪くない。 けど、性格が災いしてか、色んな奴が持て余した挙句、俺みたいな奴が教育係を仰せつかったというわけだ。 喧嘩の理由は何だったっけ。 確か俺の反応速度が鈍いとかヌカしやがったから俺がカチンときたんだった。 どうやら俺の後ろのナビゲーターはパイロットが自分の計算通りの速度で動かないと機嫌が悪くないらしい。 俺の旋回タイミングが遅れたせいで、敵を撃墜するまでの時間が奴の計算よりもコンマ何秒か狂ったのが気に入らなかったんだと。... -
タンデム
88title/no.32 タンデム 栗原が単車を買った。 彼が単車買った、と普通に言うものだから、神田はてっきり50ccバイクだと思っていたら、何だか自分の体重の五倍くらいありそうなバイクが栗原の傍らに鎮座ましましていた。しかもシートの形状を見る限り二人乗りだ。 「……単車じゃないじゃん!」 「広辞苑じゃオートバイ・スクーター等、発動機付き二輪車の事は全部単車って言ってるぞ」 「ナナハンじゃん!」 「いいじゃないか、これ前から狙っていたんだし。普通の軽自動車乗るよりいいかもしんないぜ?」 「誰と乗るんだよ?」 そう言った時いつもはポーカーフェイスの栗原が、サングラス越しでもよく分かる程動揺したような顔をした。 「前まで、最初は清美を乗せようって思ってた。けど、結婚しちまったしさ、それに、もう時代はイーグルだしさ……」 そう言って何だか口ごもっている様子... -
LAT43°N
LAT43°N ある日の事だ。 飛行後のブリーフィングを終えてダラダラしていた神田は、なんとなくその部屋の様子がおかしい事に気がついた。 視線を感じるのだ。 だが、それを感じているのはどうやら神田だけではないらしく、相棒である栗原も時折それが気になるのか、同僚との会話の合間に視線を宙に漂わせている。 だが、その視線が向けられるのは神田よりも栗原に対してのほうが圧倒的に多いようで、神田が栗原の動きを注意深く観察していると、その視線の主を簡単に発見することができた。 知らない顔だ、と神田は思った。 おそらく今期の操縦過程が終わって配属になったばかりの新人だろう。それが事あるごとに栗原の一挙手一投足を観察しているのだから気味が悪い。 (栗のやろう、また新人からかって恨み持たれたんじゃねーだろうな。) と神田は一人そんな事を考えたが、更に視線の主を観察している... - @wiki全体から「赤ちゃん」で調べる