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タイトル未定 酷評ヨロ

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匿名ユーザー

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 朝食のときだった。柳二はふと、妹の袖の下に青い影がちらついたのが目に入った。妹はここ2,3日ほど、普段着も寝間着も、長袖を着ている。この真夏の、暑い中にだ。
――ダイエットならサウナスーツでも着てろよ
昨日は熱帯夜というやつであまりよく寝られなかった。そんなときに長袖なんて格好されると、余計に不快感が増してくる。
「何、見てんの? 」
柳二の視線に気がついたのか、妹は昨日の残りの冬瓜煮を箸で割く手を止めた。両親は出かけていて、家には二人だけだった。だから、突っ込んだことを話しても、怒られない。
「市子さ」
「だから、何」
「タトゥー趣味とか、あったの?」
市子の顔が凍りついた。意外な反応だった。もっとヒステリックに叫んでくるか、とか思っていたのだが。
「ま、学校始まるまでには消しとけよ」
「やめてよ」
市子は右手首を押さえつけた。ホントに入れてたのか。恥ずかしいなら隠すみたいなセコいことしなくてもいいのに。そんなことを心の中で毒づきながら市子の顔を見ると、眉間に皺が入っていた。まるで、痛みを我慢するような感じだった。
「もういい、ごちそうさまでした」
柳二の探るような目に我慢できなくなったのか、市子は朝食を半分残して自分の部屋に戻ってしまった。

 夕方、昼寝をしていた柳二は階下からの父親の叫び声で目を覚ました。何があったんだ、と柳二は階段を下りていった。歩きながら、なんだか不吉だ、と感じていた。怒られて怒鳴られるときとは違う声だったような気がしたからだ。
「どうかした? 」
「どうかした、じゃない! 」
父親は苛立っているようだった。怒鳴り声に心臓がはねあがったのを、情けないと思いながら柳二は視線を父親の方向に向けた。ソファに市子が寝かせられていた。長袖ではなくタンクトップに着替えさせられている。右腕に、青いイレズミが刻まれていた。いや、淡く点滅するイレズミなんてあっただろうか。
「何だよ、これ……」
自分の右腕をさすりながら、柳二は市子に近づいた。市子の顔全体に、脂汗が浮かんでいる。父親の横では、母親が啜り泣きをしていた。父親の苛立った顔と、母親の諦めたような泣き顔を見比べていると、なんだか不吉な感じが自分の中でもはっきりと形づいてくるようだった。流石に「それ」を単語にしたくはなかった。
「薬、買ってくる」
思わず口をついて出てしまった。病気ではないというのは柳二にもわかっていた。が、家に居続けるのが嫌だった。父親が柳二を呼んだ様な気がしたが、振り切るように柳二は家を出た。

 外に出ると、空が暗い赤色になっていて、あらゆる建物から明かりが消えていた。
――今、何時だったっけ
腕時計の明かりをつけようとしたが、つかない。じゃあ携帯だ、と画面を開いたが、真っ黒だった。電源を入れようとしても、何も反応がない。
――昨日充電したばっかなんだけどな
鼻で息をしながら柳二は辺りの景色を見回した。重苦しい暗い赤色の空に、真っ黒な建物のシルエットが迫ってくるようだ。柳二は目眩を覚えた。
「柳二君」
後ろから声がかかった。女の声だった。いきなりだったので、裏声で悲鳴を上げてしまった。本当に、情けないなと思った。
「何だよお前、おどかすなよ」
「私のことはどうでもいいんじゃないの? 」
笑われないで良かった、と安心する前に、こいつ、何だ?と柳二は思った。髪が白く、瞳が赤く怪しく発光している。染めたのやカラコンとも違う。ホラー映画のモンスターに、居そうだ。
「柳二君、妹さん、助けるほうが大事でしょ」
「お前、何で」
まさかこいつが仕組んだのか。化け物なら、あのくらいのことは出来て当然だもんな。
「後でゆっくり考えたら?それより、私についてきた方がいいと思うんだけどな」
「ゆっくり」の部分を強調しながら女は言った。女は柳二を品定めするように上目遣いで見ると、突然気が変わったように踵を返した。柳二はしばらく呆然としながら女を見送っていた。が、女との距離が大きくなっていくにつれ、段々と不安が高ぶってきた。赤い目の女の影が景色に溶けてしまうかしまわないか、のところで柳二は駆け足で後を追った。
 女を追いかけていくうちに、段々と建物の影が溶けていくように見えた。女の背中に追いついた今では、赤いキャンバスに黒い絵の具で適当に描きなぐったような景色になっている。追いつくまで、まっすぐな短距離走のコースを走っているようだった。何かにぶつかるとかこけるといったことも、なかった。なんだか、一本道で「どこか」に繋がっているように。
「ここよ」
 不意に、女が立ち止まった。女が手で仰ぐと、景色が変わった。いつの間にか、森の中の池のほとりに来ていた。今までの不気味な景色は、これを塗りつぶして隠す為だったのか。柳二は瞬きをしながら、しばらく立ち尽くしていた。色々なことが一辺に起きて、正直面食らっていた。
「ここの水を、飲ませて」
 そう言うと、赤い目の女はペットボトルの空き瓶を突き出した。化け物でもペットボトルで飲んだりするんだ、と思うと意外な感じがした。ペットボトルを受け取り、水面に沈める。水の色も泡の色も、ごく普通の無色透明だった。ふと、おかしいな、と思った。泡の数が多すぎる。顔を上げると、水面から巨大な影が浮かび上がっていた。柳二が驚くよりも前に、巨大な影は柳二に向かって倒れこんできた。
――つぶれる

 次の瞬間、柳二は自宅の玄関の前に立っていた。手に何か持っている。あのとき貰った、ペットボトルだった。水も入っていた。
「ただいま」
今何時くらいかな、と思いながら柳二は家に入った。
「……早かったな」
父親は柳二を見ずに言った。へえ、早かったんだ、と意外に感じた。夢中になっていたから、もっと早く時間が経っていると思っていたのに。両親の様子は、家を出る前と変わっていない。いや、時間が経った分少し酷くなっていたか。
「悪い。でも、もう大丈夫だから」
柳二は父親を押しのけて市子の口に水を含ませた。すると、巻き戻しでも見ているかのように、青い痣が消えていった。柳二には、「効かなかったらどうしよう」といった不安はなかった。虫刺されの痕に薬を塗るのくらいに当たり前だという確信があった。
「柳二、それ」
「ああ、しまっといてくれる?」
父親の声を遮って、柳二はペットボトルを突き出した。質問されると面倒だ。というより、柳二にも赤い目の女のことや、池から出てきた巨大な影のことはわからない。
 呆気にとられている両親を尻目に、柳二は部屋に戻った。ドアの閉まる音がすると同時に、猛烈に自己嫌悪にも似た憂鬱な気持ちが沸き上がって来た。日が沈んで、薄暗くなっていたが、電気をつけようという気にはなれなかった。さっきまでは落ち着いていたのが嘘のように、何が嫌で何が憂鬱なのか、頭が混乱して考えるどころではない。
――あー、もう、ムカつくな
柳二は壁を殴った。殴った壁がわずかに凹んだ感触がした。
――うわ、俺相当イラついてるよ
凹ますほど力を入れただろうか、と柳二は電気をつけた。凹んだだけでなく、ヒビまで広がっていた。どうしよう。壁まで壊したなんて知られたら、最近流行の「キレる若者」に遂になってしまった、なんて思われるんじゃなかろうか。さっきだって親に対して乱暴な態度とったばかりなのに。どうする、と思いながらヘコみをこすると、今度は何事もなかったかのように綺麗に元に戻った。
――どうなったんだ、

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